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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
96 マッドサイエンティストの玩具箱で遊ぼう
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2

 真と熱次郎はとあるホテルのツインの部屋に泊まっていた。


『転烙魂命祭で販売される目玉商品第六弾! それがこちら!』


 転烙市のローカルテレビで、また新たなオーバーテクノロジー商品が発表されている。


『ゲームの宿屋並? 回復ベッド! 特殊な超音波を一晩浴び続けることで、体を蝕む疲労回復! 骨も筋も内臓も万全の状態に!』

「これ、うちにある奴だぞ。純子がくれたんだ」


 熱次郎が真に卍固めをかけた格好で、ホログラフィー・ディスプレイを見る。


「雪岡研究所にもあるよ。何度も世話になった」

 どことなく冷めた口振りで言う真。


『死にかけてても全快しますか?』

『それは買って試してみてからのお楽しみ!』

『でもお高いんでしょう?』

『それが何とか、お祭り特価でたったの六百万円!』

『わーお、健康のためと思えばお安いっ!』

「見てがっかりしている奴が多そうだ」


 値段を聞いて熱次郎が笑うと、真が熱次郎の技をふりほどいてバーチャフォンを取る。


「美香が来る。頼みがあると言っている」


 美香のメッセージを受信した真が報告する。


 十数分後、美香一人が訪れた。ツグミと伽耶と麻耶も部屋に呼び、頼みとやらを聞くことにする。

 訪れた美香の張り詰めた表情を見て、真以外は息を飲む。


「転烙市でクローン・パートナー販売がされることは知っているな!?」

「知ってるー。宣伝いっぱいしてるしね」

「うん。お小遣いはたいて、真のクローン作って養う予定」


 ツグミと麻耶が頷く。


「それは私も作りたいが諦めろ! 私はこのクローン・パートナー販売を潰すつもりでいる!」

「がーん……」


 美香の方針を聞いて、ショックで顔面崩壊して固まる麻耶。伽耶は満足げにうんうんと頷いている。


「しかし私とあいつらでは心許ない! 皆の力を借りたい! 頼む!」


 深々と頭を下げる美香。


「応じろ、真。いや、真が拒んでも俺は協力するぞ」


 脳だけのハーフクローンである熱次郎が、力と熱のこもった声で宣言する。


「断る理由は無いさ。それに、雪岡もきっとそれを望んでいるだろう」


 真が言った。


「私はもちろん協力するよ~。ギャラはツクナミカーズのサインね。ぐへへへ。私の友達の分もプリーズ」

「応! お安い御用だ!」


 下卑た笑みを広げて要求するツグミに、美香は笑顔で応じた。


(あるいは僕達の動きも、雪岡の計算通りかな)

 真は思う。


「ねね、真。現状のおさらいしない? PO対策機構からの報せだけじゃ不十分だし、現場組の情報を教えておこうよ」

「そうね」


 伽耶が提案し、麻耶が頷く。


「教えてくれると助かる!」

 美香が真を見る。


「じゃあここまででわかっていることを改めておさらいだ」

 真が語りだす。


「雪岡は四日後の転烙魂命祭で、転烙市のテクノロジーを利用した人間達を、エネルギー源にして、また世界中にアルラウネを拡散するつもりらしい。それは転烙市の住民の欲望を高めることで、その欲望を利用するとのことだ。欲望をエネルギー転換するという説も出ている。その際に、住民の生命力も同時に吸いだしてしまう」

「欲望を高めるために転烙市の文明を加速した面もある。祭りも欲望をさらに高めるために行うようだし」


 真の話に熱次郎が補足する。


「そしてこれは僕独自の推測で、PO対策機構にも報告していない事だが――究極運命操作術『悪魔の偽証罪』をフルブースト使用で上乗せして、本格的に世界を書き換えようとしている。あるいは――全てが運命操作術を成功させるための御膳立てとも言える」


 真が口にする理屈は、運命操作術の使い手である美香にはよくわかった。運命操作術は確実性が無いが、条件が整えばそれだけ確実性が増していく。


「祭りは運命操作術の下拵えなのか、あるいは祭りを成功させるためのダメ押しとして行うのか――」

「あるいはその両方かだな!」


 真の言葉に被せるように、美香が叫んだ。


「大規模な書き換えになるので、その反作用でとんでもないことが起きる可能性が有る。それは雪岡の身にも降りかかりかねない」


 だからこそ余計に、真は純子を止めたい。


「わからない部分も結構あるよねー。あの脳みそちゃんいっぱいとかさ」


 ツグミが言った。


「硝子人が隠していた脳とは、あれのことかな」


 区車亀三が今際の際に口にしていた台詞を思い出す真。


「私と麻耶とツグミを利用するとも宣言してた。実験台にはしないけどって言ってたけど、ちょっと怖い」


 と、伽耶。


「すでにもう何かしてるとも言ってた。余計に怖い」

 と、麻耶。


「真先輩、私達を囮としても利用するつもりで連れてきたっていうけど、もう何かされちゃってるなら、囮としては使えまっせーん」

「囮で使うつもりだったのか! 酷い奴だ!」


 ツグミがおどけた声で言うと、美香が真を睨む。


「安全だとは思ったし、万が一の時もちゃんと守るつもりでいた」

「身内をそんな風に利用するな! 護りきれる保証もないだろう!」


 弁解する真であったが、美香は余計に声を荒げた。


***


 市庁舎の会議室。純子、悶仁郎、霧崎、綾音、蟻広、柚の六名が顔を突き合わせている。


「転烙ガーディアンの強化プランはこんなものでよいかな。拙者の力をエネルギー転送装置に組み込む計画も進行中じゃ」

「エネルギー転送装置とは何ですか?」


 悶仁郎の言葉を聞いて訝る綾音。蟻広も同じような表情になって、悶仁郎と純子を見やる。


「悶仁郎さん、それはトップシークレットだよー」

「おっと、これはすまんかった」

「俺達にも秘密かよ。マイナス3と」


 純子に注意され、悶仁郎は頭を搔く。一方で蟻広が口をへの字にする。


「ネコミミー博士とミスター・マンジの共同研究が完成したようだよ。陰体を用いて作ったバイオニックソルジャーらしいな」

「あ、そうなんだ。後で見せてもらおう」


 霧崎の報告を聞き、純子が表情を輝かせる。


「蟻広と共にぱとろーる中に、巨大な結界を構築すると思われる、支柱となる陣を発見したよ」


 今度は柚が報告する。


「おそらくは転烙市のあちこちに仕掛けられているだろう」

「んー……結界を築くための結界みたいなものかなあ」


 そういった術を使う者に、純子は覚えがあった。


「貸切油田屋が参戦すると都市ごと爆破の可能性も考えられると、父上が危惧していましたが」


 綾音が発言した。


「それは私の前でも言ってたよ。まあ、それは無いと思うよ。この町には要人も多いし。ミサイルだったら迎撃できるから」

「反物質爆弾を都市内にこっそり持ち込み、爆破させるという手もあるぞ」


 霧崎が言う。


「ああ、それは確かに不味いねえ。でも貸切油田屋が実行するとは思えないなあ。国家元首の勇気君を始め、要人が多いし、テオドール君の友達もいるしさ」

「見知らぬ幾万のモブの命より、一人の友人の命の方が重い。ま、当たり前のことだな」


 純子の話を聞いて、蟻広が皮肉っぽく笑う。


 ノックがした。扉が開き、ミスター・マンジとネコミミー博士が現れる。


「ムッフッフッ、完成したよ。見てくれたまえ」


 ミスター・マンジが泥鰌髭を弄びながら得意満面に告げると、第三の人物が現れて部屋の中に入る。

 全身の肌が灰色の、霧崎と同じくらい痩せ細った男だった。目つきは虚ろで、口は半開きで、腰を折り曲げてふらついている。


「ほう……これがグラス・デューの根人の王――古王の陰体を用いて作った新生物か」


 痩せ細った灰色の男を興味深そうに見る霧崎。


「肌の色以外は、見た目は人と変わりないな。しかし……」

「おぞましい気で満ちているぞ」


 灰色の男を見て、蟻広と柚が唸る。


「大石さん、私がわかるー?」


 純子が笑顔で声をかけると、灰色の男は純子を見て微笑み、小さく頷いた。


「笑いよった」

 何故か憮然とした顔になって悶仁郎が呟く。


「ずっと無表情なキャラかと思った。プラス1やろう」

「それがプラスになるのですか?」


 蟻広の台詞を聞いて、綾音が小さく微笑む。


(雪岡君のマウスか。いや……ラットだな)


 大石と呼ばれた男の反応を見て、霧崎は即座に見抜いた。


「古王の気配をたっぷりと感じるわい。ま、陰体を素体にして作ったんじゃから、当たり前か。しかし……拙者は関わりたくないの……。見たくも無かったわい」


 不快を露わにして吐き捨てる悶仁郎。


「裏切った事に引け目を感じてるのー?」

「ふん。それは無いわ。むしろ古王が拙者を裏切ったようなもんじゃしの」


 純子が尋ねると、悶仁郎は忌々しげに吐き捨てた。

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