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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
95 祭りの前に遊ぼう
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30

 一夜が明けた。


 転烙市の情報は一晩のうちに拡散し、朝にはネット上の話題でもちきりになっていた。


 先進国の政府機関にも情報は送られている。


 これを受けて、東京に残っていたPO対策期間のトップが集結した。

 防衛省事務次官朱堂春道。殺人倶楽部の御目付け役壺丘三平。グリムペニスの最高幹部の宮国比呂。同じくグリムペニス最高幹部にして海底都市チィバーの市長シュシュ。裏通り中枢最高幹部悦楽の十三階段の沖田独楽之介。同じく悦楽の十三階段であり白狐家の当主白狐弦螺。

 エボニーだけは出席していなかった。


「ふぅむ……転烙市の情報が一切漏れない事に、このような仕掛けがあったとはね」

「そして信じがたい話だ。都市一つの文明をここまで急速発展させるとはな」


 壺丘が腕組みして唸り、朱堂が神妙な顔つきで言った。


「転烙市に入ったPO対策機構の人達はよく頑張ったでしゅ。しゅぐに援軍を差し向けましょー」


 シュシュが身振り手振りを交えて訴える。


「そうだな。可能な限りの戦力を転烙市に投入すべきだ。軍も動かしてほしい所だが」


 沖田が朱堂を見た。


「流石に軍隊は送れません。理由は私の口からは言わせないでください」

「そうか。そうだな……」


 言いづらそうに拒む朱堂に、沖田は察した。もし軍隊を差し向けて返り討ちにされようものなら、多くの問題が生じてしまう。特に権威の失墜が深刻だ。


「これまで通り、PO対策機構で問題解決を望むべきだよう」

「その方がよさそうですね」


 弦螺が主張し、宮国が同意した。


「わかないでしゅ。手段を選んで取り返しのつかないことになったらどうしゅるのでしゅ?」


 シュシュだけは理解できずに問いかける。


「軍隊を動員しても、通じない可能性があるということです。そして軍隊が敗れた場合、大変なことになります。国家の威信が崩れますし、国防の問題が出ます」


 海底人に理解させるのは難しそうだと思いつつも、朱堂は包み隠さず理由を述べる。


「威信より大事なものがあるでしょーに。今こそ国防に関わる時でしょーに」


 それでもシュシュは納得できない。


「転烙市に軍隊をいれなくてもいいから、せめてその前にはもってきてほしいよう。情報が外に漏れた時点で、転烙市に行こうとする人達が増えることも予想できるるる」


 弦螺が要求する。


「それはすでに対策済みだとさ。機動隊を動員して、交通規制敷いてる」

「西の警察を動かすこともできたんだ」


 壺丘の報告を聞いて、弦螺は意外そうに言った。


「貸切油田屋からだ」

 沖田が電話を取って報告した。


「今、PO対策機構で会議中だから、出席してみてはどうかと伝えた。繋げてもいいな?」


 沖田が伺う。誰も反対はしなかった。

 ホログラフィー・ディスプレイが投影され、壮年の白人男性が映し出される。


『はじめまして。貸切油田屋日本支部のラファエル・デーモンです』


 流暢な日本語で挨拶をして、深々と頭を垂れるラファエル。


『およそ八時間前、貸切油田屋に転烙市の情報が送られてきました。ヨブの報酬の壊滅と、指導者であるシスターの死も把握しております。そして貸切油田屋としては、転烙市の存在と雪岡純子の所業は見過ごせないと判断し、彼女が目指すフェスタを阻止する方針を決定しました。PO対策機構の立場と方針を聞かせて頂いたうえで、もし我々と同じスタンスであれば、同盟を結びたいと存じ、こうして御目通りさせて頂いた所存でございます』

「私としては断る理由は無いな。心強いことだ。皆は?」


 沖田が伺うが、反対する者はいなかった。


「転烙魂命祭とやらまでは、あと五日あります。もちろん予定が早まる可能性もありますが。この間に出来るだけの事をしたい」

「だったら軍隊動かすべきでしょーが。しょれは出来ることではないのでしゅかとー」


 朱堂が言うと、シュシュがなおも食いつく。


『軍隊を動かせない代わりに、動かせる力もあるのでしょう? それを動かせば問題無いはずです』

「むむむ……」


 ラファエルが口を出し、シュシュが唸る。


「転落魂命祭の阻止に、貸切油田屋はどう力を貸してくれるのですか?」

『貸切油田屋の精鋭を派遣する予定ではありますが、事前に阻止するのではなく、祭りが行われた際に、雪岡純子が何をしようとするか、それを見極めたうえで阻む方が良いというのが、我等の盟主テオドール・シオン・デーモンの判断です』


 宮国の問いに対し、ラファエルが答えた。


「我々はその前から動き、祭りの阻止をする予定だがな。そうなると、そちらの存在は、良い解釈をすれば保険のようなものだな」


 心なしか皮肉っぽい口調で、沖田が言った。


***


 転烙市内のとあるホテルのスイートルーム。勇気、鈴音、政馬、季里江、ジュデッカが向かい合う。


「ちょっとネット見てよ。転烙市のことがあちこちで話題になってるよ。PO対策機構が戦っている最中だってことも、純子の名前も出まくってる。それと転烙市内の住人達の反応も凄い。転烙市のことが外にバレたことや、あちこちで大量の脳みそが出現したことも話題になってる。ほら、写真撮った人も結構いてさ。ほら、これとか鮮明に映し出されてるし。植物になっていただけじゃなくて、空の川や階段の中にも――」

「ちょっと落ち着いて政馬」


 部屋中にホログラフィー・ディスプレイを投影しまくる政馬を見て、季里江が呆れる。


『転烙市の正体がついに判明』

『未来都市化したサイキック・オフェンダーの聖域』

『サイキック・オフェンダーとマッドサイエンティストが集った結果、一都市の文明が何十年分も進む』

『オーバーテクノロジーの結晶となった転烙市凄い。日本凄い。俺凄い』

『国家元首の葛鬼勇気自ら潜入捜査』

『さらなる世界変革の企てが転烙市で行われている!? 近々実行!? 世界が再び変わる!?』

『一都市の情報を完全に遮断するオーバーテクノロジー』


 転烙市を検索にかけただけで、すでに様々な見出しが躍り狂っている。


『正直信じられない。何の冗談だよ』

『一つの町がこっそり文明超進歩して、その情報が一切外に出ないとか、フィクションでも有り得なさすぎるアホ設定だよな』

『ま、実際転烙市に行ってみればわかるんじゃね?』

『俺のためにロリハーレム作れない程度のオーバーテクノロジーじゃ、行く価値無いわ』

『ぷにぷにっ』


「信じていない人間の方が多いようだね。無理もないね」

「俺が直に乗り込んでいるし、俺が認めているし、俺の声明も出しているっていうのに、信じない愚民の多いこと」

「お前が直接乗り込んだのは色々と問題あるだろ。その事自体、信じてない奴も多いぜ」


 政馬、勇気、ジュデッカがそれぞれ喋る。


「それにしてもあの糞親父……雪岡純子側につくとは思わなかったじゃん」


 季里江が顔を曇らせる。その報告を聞いたせいで、ショックで昨夜はよく眠れなかった。


「デビルって奴、これで諦めたと思うか?」

 ジュデッカが勇気の方を見て尋ねる。


「執着するタイプであり、同時に冷めやすくもあるタイプ――らしい。だが昨日のあれで懲りたり冷めたりしたかどうかは、俺には判断できない」


 まだ油断は出来ないと勇気は見ている。


「真から届いた情報も中々衝撃的だよね。純子から直に教えて貰ったそうだけど」


 と、鈴音。


「色々と明かしたが、肝心な情報は教えてないだろうさ。転烙市中に現れたという脳みそとやらも、謎のままだしな」


 勇気が神妙な面持ちで言う。


「外部からこちらに情報は入ってくるんだよね? PO対策機構の動きはわかる?」


 政馬が勇気に向かって尋ねた。


「貸切油田屋と手を組んだらしい」

「よりによってあそこか。ま、予想しなかったわけでもないけど」


 政馬が意味深な笑みを浮かべる。スノーフレーク・ソサエティーと貸切油田屋には、因縁があった。


***


 午前十時過ぎ。美香、七号、来夢、克彦、ツグミ、牛村姉妹で集まって、喫茶店でのんびりと会話を交わしている。

 PO対策機構からの指令はまだ無い。方針を決めあぐねているか、外部の動きに合わせる形だろうと推測される。


「ついに外部に情報を伝えたわけだが!」

「苦労したにゃー。皆まだおねむにゃー」

「うちもぜんまい切れ多数」


 一人だけテンションが高い美香であったが、七号はテーブルの上に突っ伏し、来夢も眠たそうな顔をしている。


「真は?」

 克彦が誰とはなしに尋ねる。


「真先輩はPO対策機構の偉い人達と話をしにしいったよー。偉い人達に混じれる、流石は真先輩」


 ツグミが答えた。今日は女の子モードだ。


「うむうむ、流石は真」

 満足げに頷く麻耶。


「箸が倒れても流石は真。真が呼吸しただけでくれーじーふぉーゆー」

「伽耶、ぶっ殺すよ?」


 伽耶の台詞を聞いて、麻耶が険に満ちた顔になって剣呑な言葉を発する。


「これからどうなるんだろう? 純子が昨日明かした話は報告したの?」

「私はしてない! 真がしているはずだ! 今、オフィス連中と会っているのだからな!」


 克彦が美香の方を尋ねると、美香が答えた。


「純子の行いが世界に発信された。世界が純子の行いを許すはずがない」


 詩を吟ずるかのような口調で、来夢が断言する。


「雪岡先生の行為を見過ごせるはずもないけどさー、雪岡先生が世界を敵に回して戦って、世界に殺されちゃう展開も嫌だよ」

『同感』

「まったくだにゃー」

「しかしそうなった時、私達に何ができると!? そもそも私達は純子に盾突く側だぞ!」


 ツグミの言葉に伽耶と麻耶と七号が頷くが、美香が若干険しい顔になって、現実を突きつける。


「そうなった時は、どうにかして純子を護るだろうね。真が」


 来夢が微笑みながらあっさりと告げた。


「純子をやっつけるのも真の役目だし、純子を護るのも真の役目。俺達も真に協力するためのぜんまいを巻いてもいい。そう思わない? どちらに対してもね」

「思う」「超思う」

「思う思う~っ。私は覚悟決めたっ。決まったっ」


 来夢の言葉を聞いて、姉妹とツグミが笑顔で同意する。


「来夢もそのつもりなら俺はもちろん付き合うさ」


 克彦が来夢の肩に手を回して軽く叩く。来夢は嬉しそうに微笑みながら、克彦の肩に頭を摺り寄せる。


「オリジナルがその気にゃら、私も付き合うにゃー」


 七号が美香の首に手を回して、首から顎、顎から頬にかけて手を這わせる。


「やめろ馬鹿!」

「うにゃーっ!」


 美香が怒って、七号の手を振り払い、頭を拳で軽く叩いた。

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