表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
95 祭りの前に遊ぼう
3240/3386

29

「じゃあ約束通り、御褒美に、私が何をしようとしているか、もう少し教えてあげるね。全部は教えないけど」


 真との約束を果たし、話そうとした純子であったが――


「全部教えろ! さもないとお前の恥ずかしい写真をバラまく!」

「えっ?」


 突如叫んだ二号に、純子はぎょっとする。

 その場にいる多くの者が、二号が叫んだとは思っていなかった。美香が叫んだと思っていた。叫ぶトーンが完全に美香のそれだったからだ。美香に注目が集まる。


 美香が二号の頭を思いっきり拳で殴りつける。


「私の真似をするな! おかしなことも言うな! 次やったらただじゃおかないぞ!」

「痛たた……今の力いれすぎだろ~……」


 凄い剣幕の美香を、涙目になった二号が恨めしげに見る。


「本当に美香が叫んだかと思った……」

「恥ずかしい写真の時点で違うとすぐにわかったよ」


 克彦と来夢が言った。


「前回は、千年近く前のアルラウネの骸の大木を、発射台として利用した。砲台に詰める弾も、充填するエネルギーも、あれやこれやと色々用意したけど、ま、パワーが足りなかったってわけ」


 気を取り直して語り始める純子。


「だからシンプルにさ、もっと大きな砲台? そしてもっと大きなエネルギー源を用意したんだ。ここまで言えば、それが何だか真君にはわかるよね?」

「大きなエネルギーって……原子力とか?」

「原子力大好きだからね、純子さんは」


 いつの間にか戦闘をやめていた熱次郎とネコミミー博士が、口を挟む。


「んー……原子力はパワーだし、それはそれでいいものだけど、違うんだなー」

「転烙市か?」


 純子が否定した直後、真が口にした言葉を聞いて、多くの者が驚いた。真が正解を口にしているのではないかと、即座に直感したからだ。現に純子も真を見て、嬉しそうに微笑んでいる。


「そう、エネルギーとなるのは、この転烙市だよ。私はここを未来都市のように作り替える一方で、もう一つのことも同時進行していたんだ。世界を作り変える砲弾を撃ちだすためのエネルギー源に作り変えたんだよ」

「転烙市という言い方は少し違うかな。転烙市の市民だろ」


 真がさらに指摘したが、純子の微笑は一瞬微苦笑に変わる。


「んー……それは当たっているような、外れているような。私の例えが悪かったかな。砲台として例えるなら、それはぽっくり市で苗床を使って培養した、あの改造型強化アルラウネ。その砲台から生ずる力が砲弾かな。純粋な人達が一心不乱に祈って願った力を蓄積した改造型強化アルラウネは、凄い力を宿している。それにさらに強い力を与えて、進化を促すアルラウネの力を全世界に拡散する。その力を撃ちだすためのエネルギーとして充填されるのが、転烙市民から発生する力だよー」


 楽しそうに真相を語る純子の前で、一同は固まってしまっている。


(素敵だ。そして流石)


 一人感心している者もいた。こっそり聞いていたデビルだ。


「市民全員の欲望の転化なんて、凄い規模に思えるんだけど、どうやってやるの?」


 来夢が冷静に尋ねる。


(欲望の転化ってのはちょっと違うんだけどねえ。欲望の学習が正解。ていうか……皆のこの引き具合、私が市民を殺してエネルギーにすると誤解しているのかなあ?)


 そう思った純子だが、その真実は黙っておく。誤解しているなら、誤解させたままでいい。


「人々の欲望を砲台に運ぶために作った、専用の硝子人がいるからね。暴走しないように自我を希薄にして、欲望を抑えた硝子人に、その制御をさせている。祭りの時にスイッチを押して一気にやる予定だけど、実は普段から少しずつやってるんだよねー。転烙市内で文明の発展を加速させ、次から次へと新商品をハイペースで出していき、人々を楽しませる一方で、欲望を満たし、欲望を増幅させていき、都市を欲で満たしていったから、この転烙市は普通の都市よりずっと、欲望で満ち溢れているんだ。過剰な欲望で溢れさせるために、文明を加速させているという一面もあるんだ。もちろんそれだけのために、こんな大掛かりな事をしたわけじゃないよー」


 純子の話を聞いて、思い当たる者もいた。転烙市の住民は、転烙市に次々と新しい物が出来ていくことを楽しむ一方で、刺激に飢えていき、より新しいものを求める傾向にあった。


(養分にされると言っていたが、当たっていたな)


 区車亀三の言葉を思いだす真。


「で、それに究極運命操作術、悪魔の偽証罪もフルパワーで上乗せすると」

「そうなるね」


 真の指摘に頷く純子。悪魔の偽証罪を用いる事は、半年前の純子には無かった発想だ。実は政馬に言われた、運命操作術を用いて、世界中の人間を不幸にして、その分、スノーフレーク・ソサエティーの者だけを幸福にしたいという発想をヒントにした。


「嘘……でしょ……。雪岡先生、そんなことする人だったの? いや、冗談だよねー。私達を驚かせようとしているだけだよねー?」


 ツグミが血の気の引いた顔で問いかける。


「すまんこ。ツグミちゃん。冗談じゃなくて、私、これ本気なんだ」


 申し訳なさそうにツグミを見て、言い切る純子。


(でも皆勘違いして、私のこと化け物見るみたいな目で見てるね。うん。このまま勘違いさせておこーかな)


 一同の視線を気にしながらも、面白いので否定は控えておく純子だった。


「純子って……そんなにワルだったの?」

「いつも優しくて親切で……私、私達、性根の腐った下衆ならわかる。純子がそんなウンコだと思えない」


 伽耶と麻耶が言う。


「うん。純子からそんな外道な気配、感じない」

「今こうして向かい合っていても、そんな悪い奴と思えない。ひょっとして嘘ついてない? 露悪趣味全開にしてない?」


 主に麻耶の指摘を聞いて、純子は返答に困った。少し当たっている。


「信じられん……! いや、私は信じたくない! 純子! 君がそんなことをするなんて……!」

「そんなことをする奴だよ。僕はずっと知っていた」


 美香が叫ぶと、真がいつも以上に冷ややかな口調で告げた。


「こいつは義理堅くて、親切で、優しくて、他人のこともよく気にかけてくれるし、凄くいい奴だよ。友達思いだし、家族思いだし、それは間違いない。でも、それでもこいつはマッドサイエンティストなんだよ。自分の知らない他人の命をどんなに踏みにじっても、何もとも思わないし、それが出来る奴なんだ。僕はずっとそれがわかっていた」


 真の指摘を聞いて、純子は胸にじんわりと温かいものが広がっていく感触を覚える。


「真君、嬉しいよ。私のこと一番わかってくれていたんだね。今の台詞聞いてさあ、もう私……嬉しくて胸が蕩けちゃいそう」

「私は……胸がムカムカしまくりだ!」


 純子が感動する一方で、美香が激昂する。


「魔が差すなんてレベルじゃない。純子は魔そのものだ」


 来夢が特に怒りも呆れもせずに言った。


(素晴らしいな。こんなにぞくぞくするのは久しぶりだ)


 デビルは感動に打ち震えている。純子のプランがとても魅力的と映るし、純子そのものにも強く惹かれる。


「雪岡先生……そのために人をいっぱい殺しても、何とも思わないの?」

「うん。思わない。真君が言った通りだよ。はっきり言うね。私の千年の想いの前では、例え百億の死が重なろうと、私の心は少しも揺るがない。私の望みが叶うんならさ、百億の命を摘み取ってでも、私は叶えるよ。何とも思わないよ」


 ツグミが悲しげに問いかけると、純子はいつもの笑顔のまま、さらりと答える。


「見ず知らずの人の命は、私にとってただの数字だしねえ。死んだところで、命はまた生まれてくる。人はいつか死ぬ。魂は滅びない。また生まれ変わる。知り合いが死ぬのは私も嫌だけど、知り合いじゃない人が死ぬのは、どうでもいいかなあ。ただの数字の上下。でもそれって私だけ? 大抵の人がそうなんじゃない?」

(こいつは前に言っていたな。死刑制度に賛成するけど、それは自分が知らない人間限定の話だと。自分と親しい者は、何をやっても許していいと。こいつはそういう奴なんだ)


 純子の本性を真は見抜いていた。長年生きて、人の死を見過ぎて、そうなってしまったのだろうと。

 そして純子の言い分がわからないわけでもない。真もその点に関しては、純子と似ている。目の前で困っている人がいれば助けるが、知らない所で困っている人間までも助けたいとは思わない。


(でも雪岡は……わりと寄付とかもしている。善行も悪行も等しくする。今は皆の反応を面白がって、過剰に悪ぶっている感もあるな)


 そこまで真は見抜いていた。この場にいる誰よりも、純子のことを理解していた。


 不意に純子が笑みを消す。ツグミも、美香も、伽耶と麻耶も、熱次郎も、皆して自分を見る顔が悲しげであったりして、少しいたたまれなくなった。


(やっぱり誤解させたままじゃなくて、正直に言っておこう……。何か皆ドン引きしているっていうか、ショックが大きいみたいだし……)


 友人達を悲しませたままにしておくことに、胸がちくちくと痛んだ純子は、真実を伝えて、安心させてやることにする。


「あのね……皆誤解しているみたいだから言っておくけど、市民全員を犠牲にして殺しちゃうわけじゃないよ。そんなことしたら、何のためにこの町をここまで発展させたのって話になっちゃうでしょ」


 ここまでの話を聞いた一同が、転烙市民全ての命を犠牲にしようとしているかのように錯覚しているので、純子はそれを否定した。


「まあ、衰弱しまくったり、昏睡状態になる人も出るかもしれないし、最悪死ぬ可能性もあるって程度だよ。どのくらいの生命力が奪われるかは、私にも未知数なんだ。小規模範囲でテストした結果では、それほど多くの死人は出してないし、必ず生命力を根こそぎ奪うって話でもないから」

「テストもしたのか!? しかも死人も出してるのか!」


 安心させるつもりで言った純子であったが、美香は激昂した。


「テストで死人は出てないよ。本人の体質とか体力とかも関係するかも」

(何だ……つまらない)


 市民全員生贄にして皆殺しという、素敵で愉快な展開だと思っていたのに、そうではなかったと知り、デビルは落胆する。


「市民全員死ぬわけではなくても、死人を出す可能性もある時点で、それは駄目ですよー」


 怜奈が言った。他の面々も同じ思いだ。


「とは言っても、転烙市だけに限定したから、犠牲だって少なくて済むんだよ? 祭りのため、取り敢えずは転烙市だけ、限定して文明を底上げしたけど、いずれは世界に広めるつもりでいる。それはアルラウネで世界を変えた後ね。科学の発展に犠牲はつきものだし、現代に生きる人達も皆、犠牲となった屍の上で文明を享受しているんだしさあ」

「つまりは、転烙市を実験台にしているわけだ」


 熱次郎が言った。それに関しては、あまり反対しきれない熱次郎である。熱次郎は自覚がある。自分だって世間から見ればマッドサイエンティストであるし、それを認めている。純子寄りの考えを持っている。


「あの脳みそは何だ?」

「それは秘密。ここで全部は教えないよ。サプライズは取っておきたいし」


 真が尋ねたが、純子は人差し指を口元に立て、答えなかった。


「酷い真相だったな」

「真君、私なんかよりも、君の方がずっと酷いし、残酷だと思うんだけどねえ」


 吐き捨てる真に、純子が屈託の無い笑みを張り付かせたまま告げる。


「前世の記憶を見たなら、知ってるはずでしょ? 私の孤独な千年は、君に作られたんだよ? それなのに君は、私のこの千年を否定してくる。私の千年を台無しにしようとしている。凄く残酷だよねえ?」

「お前が堕ちる所は見たくない。世界の破壊者にはさせない」


 純子の指摘に答えずに、一方的に言いたいことだけを口にする真。


「んー……私のことが大事なら、一緒に堕ちてくれてもいいんじゃない? そんな気持ちにはなれない?」


 純子はそう口走ってから、はっとした。一同を見渡す。来夢は呆れた目で自分を見ている。美香は憮然としている。伽耶は苦笑いを浮かべ、麻耶はジト目になっている。


「う、うわぁ……今私、すっごい恥ずかしいこと言った……あうううう……」


 大勢の前だったという事を意識して、赤面して頭を抱える純子。


「はっきりさせよう」


 そんな純子の反応を無視し、真が熱と力を強く帯びた声を発した。真のこんな声を聞くことを初めてだった者も何人かいた。


「僕がお前の計画を止めたら、マッドサイエンティストは廃業だ。約束しろ」

「いいよ。その代わり、真君が私を止めらなかったら――私が勝ったら、私と一緒に堕ちてもらうよ。私のすることに反対せず、とことん付き合ってもらうからね」


 真の要求に、純子が嬉しそうな笑顔で応じつつ、真にも要求し返す。


「わかった。約束する」

 一瞬だけ微笑を零し、真も応じた。


「良いぜんまいの巻き方だ。いや、締め方かな?」


 両者のやり取りを見て、来夢が面白そうに微笑みながら言った。


「二人だけの世界二人だけの二人だけの世界……」

「どうどう」


 麻耶が感情的になって全身までわなわなと震わせるが、伽耶が左手で麻耶の頭を撫でると、震えが止まる。


(面白いな。これは見物。どちからかと言えば、純子に味方したい気分。いや、真のためにも、絶対その方がいい。でも……)


 純子と真のやり取りを快く受け止める一方で、デビルは少し躊躇いがあった。


(真はどうして執拗に純子に盾突くんだ? それがわからない。それも知っておきたい)


 その疑問を解消したうえで決断しようと、デビルは心に決める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ