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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
95 祭りの前に遊ぼう
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28

 空の道はアルコール反応があると使用許可が下りない。故に酒を飲んだ者は、徒歩か電車で帰宅する事になる。


 その酔っ払いリーマン二人ははしごを終え、居酒屋を出て徒歩で駅へと向かう途中に、それを目撃した。

 街路樹――寒色の植物の枝に、まるで実がなるようにして、脳がぶら下がっている。低木の街路樹はまるで花が咲くように、脊髄つきの脳が葉の間から生えている。


「お、おい……あれ見ろよ。脳みそがいっぱいあるぞ」


 酔っ払いリーマンの一人が、ツレに声をかける。


「あー、俺にも見えます。同じもの」


 ツレが街路樹を見て呆然とする。通りにある全ての寒色植物に、大量の脳みそが確認できた。


 しばらくの間二人は呆然と脳みそを見ていたが、やがて、植物の合間にあった全ての脳みそが消失する。二人は正確な時間を計ってはいなかったが、その間、約三十秒だった。


「幻覚う? 飲み過ぎたんかなー」

「それにしても二人して同じ幻覚見るっておかしくね?」


 二人の酔っ払いリーマンは、不思議そうに顔を見合わせた。


***


(お、赤猫システム破壊したんだね)


 真の精神を通じて、赤猫電波発信管理塔班からの報告を真が受けた瞬間、みどりはその事実を知った。

 そして次の瞬間、その事は綺麗に頭から吹っ飛ぶ。とんでもない光景を目の当たりにしたのだ。


「何じゃこりゃあああっ!?」


 空中カフェでそれを目撃したみどりは、仰天して叫んだ。

 累もそれを目撃して一瞬目を丸くしたが、みどりほど驚いてはいない。


(赤猫の電波が途絶えたのですか。PO対策機構に破壊されたということですね)


 空中カフェの側を流れる空の川を見て、累は察した。


 空を流れる川の中に、大量の脳が流れている。脊髄がついたままの脳が。


「どんぶらこー……どんぶらこー……」


 川の中のあちこちに見受けられる夥しい数の脳を見て、みどりは目を点にして口ずさむ。大きさからして、おそらくは人間の脳と思われる。


 大量の脳みそが現れたのは、空を流れる川の中だけではなかった。空中に浮かぶ透明の階段の中にも、脳が並んで詰められている。


「ふぇ……こっちも……?」

 みどりが累の方を向く。累は平然とした顔だ。


「御先祖様? あんまり驚いてないね? これ知ってるの?」


 みどりが累に問いかけている間に、累は転移して姿を消す。


「あ、逃げた……」

 累が座っていた席を見て、みどりは呟いた。


***


 彼の趣味は覗きだった。

 彼は転烙市在住のごく普通の男である。半年前の覚醒記念日から数週間後に、彼は趣味にあった能力を覚醒させた。視界そのものを飛ばす遠視能力。ただし、いきなり遠方を見ることが出来るわけではなく、走る程度の速度で、視界が移動するという代物だ。


「おーいらーはピーピングトムー」


 その日の午前零時。彼は自作ソングを歌いながら御機嫌で、覗きの対象となる者を探す。飛ばす視界は壁も透過する。性交現場そのものを発見し、覗き見しながら自慰を行うことが、彼の目的だ。その探す過程というものも、彼にとっては非常に大事だ。発見の喜びに繋がり、快楽の激しさへと繋がる。


 しかしその日、彼はとんでもないものを目にしてしまう。


「は……? 脳……みそ?」


 転烙市のあちこちにそびえ立つ、頂上が見えない巨大なオレンジの塔。その表面の壁のくぼみに、大量の脳みそが並んでいる。敷き詰められている。


 ふと、視界を変える。塔の側に流れる空の川にも、脊髄付きの脳みそが流れている。


 透明の階段の中にも確認した直後に、脳みそは一斉に姿を消した。


(俺……覗き見しすぎて頭おかしくなった? いや、違うっ。これはきっと、それとも覗かれていることを察知した能力者が、俺に幻覚攻撃をしてきたんだ!)


 彼はそう結論付けて怖くなり、今日に限って覗きは控えておくことにした。


***


 バイパー、ミルク、つくし、桜も、寒色植物の中に現れた脳みそを目撃した。


「何なのこれ……気持ち悪い……」

「ひょっとして、転烙市の全ての植物にこれがあるのか?」


 桜とバイパーが呻いた直後、脳が一斉に消えた。


「消えた? いや、見えなくなったのか?」


 バイパーが呟く中、つくしが寒色植物に近付き、手をかざす。


「触覚による確認もできません。認識できなくなる仕掛けであります。赤猫中枢シテスムの破壊のタイミングから見て、赤猫電波との関係性がある可能性濃厚」


 脳があった場所を撫でる仕草をしながら、つくしが述べる。


「何で脳みそがそこら中にあるの……。キモいから見えないようにするのはわかるけどさ……」

『脳ってのは優秀な記憶装置だ。優秀な計算装置でもある。そして超常の力の発生装置でもある』


 桜が疑問を口にすると、ミルクが神妙な口振りで言った。


『何となく……わかったですよ。純子……何をするつもりかまでは……具体的にはわからねーけど』


 これらの脳が力の発生装置として用意されている事は、何となく見当がつく。しかしどのような作用をもたらすのかまでは、ミルクにもわからない。


***


 オレンジの塔の麓近くを移動していたデビルも、塔の外壁のくぼみにずらっと脳が並んでいる光景を目撃し、驚いていた。

 脳はすぐに見えなくなる。


(隠してあるものが、一瞬だが見えてしまった。脳……人の脳か? 一体何を意味するものか。どういう作用があるものなのか)


 考えてもわからないが、底知れぬおぞましさを感じる。何百? 何千? 何万? どれだけあるかわからないが、大量の脳が、おそらくは生きている状態で壁に設置されていた。ただその事実だけで戦慄する。そしてデビルからすると、それが楽しい。


(純子は何をしようとしているのか? すぐにわかるかも)


 何故すぐにわかるのか? 何故ならデビルは、真と純子が交戦している場所に向かって移動中だからだ。純子の口から真相が聞けるかもしれないという期待が、デビルにはあった。


***


 真、伽耶、麻耶、ツグミ、熱次郎、美香、クローンズ、来夢、克彦、マリエ、エンジェル、怜奈は、赤猫電波発信管理塔の中枢システム破壊の報を受け、安堵するでも喜ぶでもなく、呆気に取られていた。

 寒色植物の中に埋まるようにして、大量の脳みそがあった。その光景に心を奪われていた。


「赤猫電波発信管理塔の赤猫電波が無効化されたみたいだねえ。おめでとさままま、真君達の勝ちだよ」


 驚愕しているPO対策機構の面々の様子を見て、純子は賛辞を送りながら、おかしそうにくすくすと笑う。


「消えた……」

「あ、見えなくなっちゃったにゃー」


 脳みそが一斉に見えなくなり、熱次郎が呻き、七号が何故か残念そうな声をあげる。


「赤猫電波が再び発信されたね。およそ三十秒だけ、電波が止まっていたみたいだよ」

「うん。つまりサブシステムが動作して、赤猫システムが復旧したってこと。メインシステムのダウン後に、三十秒で切り替わるからね」


 ネコミミー博士と純子が言う。


「今のは何だ!?」

 美香が純子に向かって叫ぶ。


「赤猫電波発信管理塔も用いたうえで、硝子人が特定の物を秘匿する能力を仕掛けていたんだよ。赤猫システムが破壊されちゃったから、その機能も失われて、これらが見えるようになったんだ」

「その特定の物が、脳みそ?」

「何なんだい、今のは……?」


 来夢が訝しげに純子を見て、マリエも問いかける。


(空の道を操作する台座――この町では、人間の脳がブレイン・マシン・インターフェイスを務めていると言っていたが、それと関係があるのか?)


 みどりの言葉を思い出す真。


「今の脳みそが何であるかも気になるが、約束を果たせ」


 真が純子に向かって、有無を言わせぬ口調で言い放つ。


「約束!?」

 美香が真を見る。


「僕が雪岡に一杯食わせたら、こいつが何をしようとしているのかを喋ってもらう約束だった。人類全員、生まれつき超常の能力を備えさせるという目的達成のための、その方法が聞きたい。今この転烙市で何をしようとしているのかをな」

「そうなのか!? じゃあさっさとゲロしろ!」

「オリジナルは本当ゲロが好きだなー」


 真の言葉を聞いて、美香が純子に向かって叫び、二号はけらけらと笑う。


 その時、丁度デビルが到着したが、気付く者はいなかった。

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