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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
95 祭りの前に遊ぼう
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27

 真が人工魔眼で解析を行う。純子の掌が力を帯びていると感じたからだ。


(分子運動減速。ようするに冷却系の攻撃をしてくるわけか)


 今現在何をしているのかはわかったが、具体的にこれから何をしてくるかまではわからない。


「黒蜜蝋」


 真の双眸から黒いタールのようなものが溢れて、地面へと落ちていく。これは前世の力ではない。みどりが編み出した術を、みどりから習った。


「ちょっとキモい」「キモい術使う真もいい」

「ちょっと麻耶……」


 真の目から黒いタールが滴り落ちる光景を見て、伽耶が引き、麻耶が瞳を輝かせる。


 漆黒の影が地面を滑るようにして、純子へと向かっていく。


「おっと」


 純子が黒蜜蝋に気付き、かがんで地面に掌をつける。最初は攻撃の目的で用いるつもりだった分子運動の減速化を、地面に向かって放って防御に回した。

 接近してきた黒い影が凍りついた。


 純子がかがむタイミングに合わせて、真が銃を撃つ。かがんで冷却化を地面に使用するよう、純子の行動を誘導したのは他ならぬ真だ。


 二発撃たれた銃弾は、二発共純子に当たることは無かった。純子はかわしもしない。


 真は撃った直後に動いていた。カウンターで何かしてくる気配を、撃つ間際に空間が歪む気配を感じたのだ。


 真がいた空間を、二発の銃弾が横切る。亜空間トンネルを作り、銃弾を真に返してきたのだ。同じようなことは、過去に空間使いに何度かやられたことがあるので、大体読み取れる。


(こいつ、以前は亜空間トンネル作るのは苦手だと言っていたけど、瞬時にして正確な亜空間トンネルを作っている。しかも別の能力を使いながら同時に)


 純子を見据え、内心舌を巻く真。


 回避直後、さらに銃撃を行おうとした真だが、凄まじい寒気を感じた。総毛立った。致命的な攻撃が繰り出される気配を感じ取り、恐怖した。

 動きを止めずに、続けて回避を行う。攻撃はしない。回避のみに徹する。大急ぎでもう一度跳ぶ。


 亜空間トンネルは開いたままだった。そのトンネルを通じて、純子が衝撃波を放ってきたのだ。

 爆発が起こる。地面が大きくえぐられる。真の体が大きく吹き飛ばされ、空中で一回転半して地面に転がる。


 真は動かない。意識はあるが、ダメージのショックが大きすぎて、まともに体を動かせられない。


「やりすぎだろ……。本気で殺す気かよ」


 ネコミミー博士と戦っていた熱次郎が、ネコミミー博士から視線を外して、倒れた真を見て呆れる。どう見ても危険なレベルでの攻撃だ。一歩間違えれば真は死んでいたように思われるし、倒れた真は、戦闘不能のダメージを負っているかのように感じられた。


 純子の手から光るルーン文字が無数に現れ、規則的な動きで舞い始める。


「まだやる気か。彼女は彼女の天使を本当に天使にする気かな?」

「おっさん、それ上手いこと言ったつもりなの?」


 エンジェルの台詞を聞いて、二号が突っ込む。


 光るルーン文字が一際つく光った直後、太い火線へと変化し、真めがけて飛んだ。


「やめろ!」


 あまりにも純子が容赦の無い攻撃をするので、美香が居ても立っても居られずに叫ぶが、叫んだところでどうにもならない。攻撃はすでに放たれている。


 真の体が横に動く。真が動かしたのではない。真の腕と足に巻き付いたものが、引っ張って動かした。


「何あれ?」


 真の体に巻き付いている物を見て、十一号が青い顔になる。それは巨大なミミズだった。しかしただ大きいだけではなく、ヒーローが被るようなヘルメットを被り、マントを纏っている。


「哀愁を背負う戦士ミミズマンだねえ」


 純子が微笑み、真を助けた巨大ミミズの名を口にする。純子のお気に入りだった。


「真先輩、悪いけどもう見てられないよ」


 怪異を呼び出して真を救ったツグミが、純子に視線を向けて凜然たる口調で告げた。


「ツグミの言う通りだね。真の意思を尊重するのもここまでだ」


 来夢が四枚の翼を生やして空中に浮かび上がり、ツグミの横へと移動する。


(いや……あいつの力の程を探りたくて無理してるんだし、お前達に出てきてほしくはないんだけどな)


 自分をかばって純子と戦う姿勢を示したツグミと来夢を見て、真は複雑な心境になる。余計な行為とは思いつつも、助けて貰わなければより酷いことになっていたのも事実だ。


「愛情いっぱい癒ビタドリーン君」「治れ治れ。何で癒しの力てって、手かざすアクションが多いのかわかんないけどとっとと治れー」


 伽耶と麻耶が真の側に寄って両手をかざし、傷を治す。


 不意に純子が姿勢を崩し、倒れそうになる。


 前かがみの姿勢のまま、純子は来夢の存在を意識した。体に凄まじい重みが加わっている。来夢がこっそりと重力弾を飛ばしたのは明白だ。

 しかし威力は弱い。弱く小さな重力弾で、気付かれにくくしての不意打ちだということはわかった。


(次に何をしてくるかも予想はつくねえ)


 動きを一瞬でも封じたうえで、連携攻撃を行うと純子は見た。


 純子の予想通り、重力弾を受けて姿勢を崩した純子めがけて、エンジェルが銃を撃つ。


 純子は手を動かして銃弾をキャッチする。弱い重力弾故に、手は動かせた。


 銃弾をキャッチしたその瞬間、純子と同じ容姿の石像が出現し、フライングヘッドバットを見舞ってくる。マリエの仕業だ。


 純子の目から力が放たれ、石像の姿が消えた。いや、足の膝から下だけは残っている。それ以外の部位は突然消滅した。


(あれは……まさか……優の消滅視線か!?)


 多くの者が石像の消滅を見て呆気に取られていたが、最も早く脳がその答えに行き着いたのは美香だった。他の面々も少し遅れてその発想に至る。


 ここまで、重力弾を受けてから二秒の出来事だ。


 来夢が続けて複数の重力弾を純子に降らせる。今度は小さくも弱めでもない。通常サイズで、本気の攻撃だ。


 しかし全ての重力弾が、純子に届く前に打ち消された。純子の体にのしかかっていた重力弾も消える。


 来夢の目が驚きに見開かれる。純子が何をしたのか、即座に理解したからだ。


「君が出来ることは私も出来るんだよねえ」


 純子が来夢の方を向いて微笑んだ直後、飛んでいた来夢が地面に叩きつけられるようにして落下した。


「来夢っ! マリエさんっ! エンジェルさん!」


 怜奈が叫ぶ。来夢だけでなく、マリエとエンジェルも激しく転倒し、三人揃ってうつ伏せで地面に押し付けられている。


「これって……来夢の力を……純子も……?」


 マリエが倒れたまま視線だけ動かし、同様に倒れている来夢を見る。


「そういうことみたい……。能力の模倣とか芸が無いけど……それでやられるって屈辱だよ」


 憮然とした表情で顔を少し上げ、純子を睨む来夢。


「ようするに……純子さんは自分が改造したマウスの能力全部使えるということですか?」

「全部じゃないよー。得手不得手はあるしさ。ま、マウスに限らず、相性いい能力は見ればすぐに使えるようになるってだけの話。来夢君の言う通り、バトル漫画じゃありがちだけどー」


 十三号が恐る恐る問いかけると、純子は微笑みを張り付かせたまま答える。


「オリジナルの運命操作術も使えちゃうとか?」

「使えちゃうどころではない! 純子は私より多くの運命操作術を使える! 私は純子に改造されたうえで、純子から運命操作術を習ったのだからな!」


 二号が恐る恐る問いかけると、美香が純子を見据えたまま動こうとせずに答える。


 一瞬、静寂が支配したが、雰囲気に屈することなく動いた者がいた。

 ツグミがスケッチブックを取り出し、純子の方に向けて開く。開いたスケッチブックには、シンクと調理台とガスコンロ、三角木馬にガロットにユダの揺籠等が置かれた、厨房と拷問部屋がミックスされたような部屋が描かれていた。返り血まみれのエプロン姿のオークが、右手に包丁、左手に苦悩の梨と呼ばれる拷問器具を持ち、嬉しそうにこにこと笑っている。


 純子の周囲の風景が一変した。絵の中の光景が現実に現れる。拷問部屋と厨房のミックス部屋が現れ、純子は拷問椅子に座らされて拘束された状態となった。


「な、何よアレ何よあレ」

「純子ちゃんがオークに拷問解体調理されちゃいそうだにゃー」

「面白い。解体と調理は嫌だけど、純子に苦悩の梨をぶちこむ所は見たい」


 二号と七号が慄く。来夢は表情を輝かせている。


 ツグミが絵の中の世界を被せる力を使用した結果だが、その光景は外からも見える。まるで映画の1セットが街中に突如出現したかのようなシュールな絵図だ。


「いやあ、凄いねえ。これは。ツグミちゃんのこの力、本当凄いよ」


 拘束された状態で屈託の無い笑みを広げ、ツグミの力を称賛する純子。


「想像を現実にする力という点では、累君よりもずっと才があるよ。累君も言ってたけど」

「余裕ぶるのはいいけど、降参して撤退しなければ、もっとおぞましい構図になるよ。僕にそんなことさせないでほしいな」


 ツグミが冷然と告げ、スケッチブックのページをめくらんとする。


「ぜんまい巻いて。もっとおぞましい絵見せて」

「ちょっと来夢ねえ……」

「真も見ているのにそれは無いだろ」


 鼻息を荒くする来夢に、マリエと克彦が呆れる。


「凄いけど、力が足りないかな」


 純子が言った直後、被せられた絵の世界の周囲に、七色の電光の柱が出現した。柱は七色のスパークの渦に変化し、拷問厨房の周囲を渦巻きだす。


 現実世界に被せられた絵の領域が消える。純子の拘束も解ける。


「これは私のオリジナルの能力じゃないけど、空間操作の力を打ち消す作用があるんだよ。ツグミちゃんのこの絵を被せる能力は、イメージの実体化であると同時に、空間操作の力も働いたうえでこうなっている。元々絵の世界を亜空間に作って、それを空間操作でこちらに被せてきている。だから空間を元に戻してしまえば、能力も打ち消されちゃうわけだよね」

「当たり……。ふう……参ったね。僕の切り札なのに、雪岡先生はあっさりと能力の仕組みも見抜いて、無力化してしまった」


 純子の解説を聞いて、ツグミは苦笑いを浮かべた。


「ちなみにこの電撃に触れれば、再生能力があっても延々と再生を焼き続けるし、中々エグい力なんだよね」


 純子が解説した直後、七色の電光の渦が消える。


「次は誰が来るー? もう一度真君? それとも全員一斉に来る?」


 いつもの屈託の無い笑顔で問いかける純子に、何人かは同時に同じことを考えてしまった。ここにいる全員で一斉に仕掛けても、勝てないのではないかと。


***


 赤猫電波発信管理塔内。システムルーム。


「ぐぴゅぴゅ。このシステム中枢を破壊しても、すぐにサブシステムが起動するらしいけどね」


 史愉が言う。


「送信アンテナを破壊するんじゃダメだったのか?」

「アンテナは高さ30メートル以上もあるし、破壊するには一苦労ですよ。で、破壊した破片が落ちて、近隣に被害が出る可能性があるので、却下となりました」


 疑問を口にする鋭一に、澤村が答えた。


「破壊したらその旨をすぐに伝えます。高田義久さんが転烙市に関する情報をまとめあげてくれているらしいので」


 と、澤村。


「サブシステムがどれだけ早く作動するかわからんからのー。最悪、一秒もかからずに作動するかもしれんぞ」


 チロンが懸念を口にする。


「そうなるとあたし達のこの大掛かりな作戦も全部パーだけど、あの純子のことだ。ぬかりなくそれくらいの備えもしている可能性、十分にあるッス」


 史愉の言葉を聞いて、覚悟と緊張の眼差しで、目の前の機械を見た。直方体の巨大なボックスだ。


「いきまあす」


 優が宣言すると、消滅視線でボックスを消し去った。


「凄い力ですね~。問答無用って感じです。これこそチート級能力と呼ぶに相応しいですよ~」


 男治が感心する。


「やったかな?」

 現実感のない表情で岸夫が呟く。


「報告完了しましたよ」

 澤村が報告した。


「これで……終わり……?」


 冴子が優の顔を見て声をかける。最後はとても呆気なく感じられた。


「そうなりますかねえ? 上手くいけばいいですけど……」

 優が小さく息を吐いて答える。


「好きな言葉じゃないけど、人事を尽くして天命を待つ、だぞー」

「本当に史愉らしくない台詞じゃのー」


 史愉の台詞を聞いて、チロンがくすりと笑う。


 塔の中にいる彼等は、その時点で一人として気付いていなかった。赤猫電波が途絶えた事によって発生した、驚愕の変化を。


***


 赤猫電波発信管理塔より、システム中枢破壊の報告を聞くなリ、待機していた義久は大急ぎで情報を発信した。


「出来るっ!」


 思わず力を込めて叫ぶ義久。これまでは、外に情報を発信しようとした瞬間、頭の中に赤猫の映像が現れて、その行為を実行できなかった。それでも無理矢理やろうとしたら昏倒した。しかし今は、赤猫も出ることなく、次々とデータを転送できる。

 各国政府機関に、裏通り中枢大幹部悦楽の十三階段に、グリムペニスのトップ陣に、貸切油田屋に、情報を送った。そして義久のブログにもあげた。


「やった……全部アップロードしたし、送信も出来た。任務……遂行……」


 大きく息を吐く義久。


「よくやった」

 新居が不敵な笑みを浮かべて労う。


「さて、これでどうなるか……これからどうなるか、とくと御覧じろって奴だな」


 犬飼がいつものにやけ笑いを称えて言った。


 彼等も屋内にいたが故に、誰一人として気付いていなかった。転烙市全体に、とんでもない変化が生じていた事を。

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