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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
95 祭りの前に遊ぼう
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21

「突入命令が来たぞー」


 史愉が報告を伝える。一気にテンションが高まる赤猫電波発信管理塔急襲班。


「行きましょう」


 一人テンションとは無縁の優が、のんびりとした声で促した。一応殺人倶楽部のリーダーという事になっているし、澤村、史愉と並んで、この班の指揮官役である。


 塀を破壊し、澤村を先頭にして、管理塔の敷地内に一気に雪崩れ込む。


 深夜であるが、警備はいた。しかしたった二名だ。


「うわあああっ!? 何だ!?」


 いきなり大人数で攻め入ってくる光景を見て、守衛の中年男が狼狽しながら叫びつつも、能力を発動させる。

 黄緑の長く伸びた楕円形の光輪が無数に現れ、急襲班めがけて飛んできた。光輪は二つセットの一組となって絡まった状態で、ゆっくりと回転している。


(どういう攻撃かわかりませんけど、かなりの数ですねえ。それなりに強い能力者を配置しているわけですかあ)


 闇夜に煌めきながら飛来する、大量の楕円形の光輪を見て、優は思う。


「気合いキャンセル!」


 しかし澤村が一声叫ぶと、光輪が尽く消し飛ぶ。


 残った光輪はわずかであったが、卓磨他の能力者によって無効化された。


 卓磨は左足を踏んで、力を急襲して蓄積する。そして右足を踏むことで、力を解放して爆発へと変える。


「ぎゃふんっ!」

「ほんげーっ!」


 守衛二人が吹き飛んで倒れる。爆発した場所は二人から少し離れていたが、それでもそれなりの威力があった。


「いいいい命ばかりはお助けをーっ!」


 倒れた守衛の中年男が命乞いをする。もう一人は昏倒していた。


 守衛二人を縛り上げておき、急襲班は奥へと進む。


 管理塔の入口の扉を開ける。目指す先は決まっている。幽体離脱が出来る能力者を派遣して、予め調査をしておいた。これは敵に察知される可能性が高い、かなりリスキーな調査であった。この管理塔も、霊体や精神体の侵入に対するガードがかなり厚く、監視の目をすり抜けるのは大変な行為であったが、調査した能力者は何とか、システム中枢と思われる場所を見つけた。

 調査した者曰く、管理塔内の構造全てを把握したわけではないが、構造自体はシンプルであり、システム中枢と思しき場所――十五階までは、ほぼ一直線とのことだ。


「エレベーター使うか?」

「まさかでしょ……。一網打尽にされるっての」

「この人数が乗れると思えませんしねえ」


 政府のお抱えの能力者の一人が伺うと、冴子が呆れ声で否定し、優がもっともなことを口にする。

 非常階段を上がろうとして、非常口のドアを開けた所で、マシンガンによる射撃が行われる。


「階段の上に何人か陣取ってるぞ。しかも機関銃の数が物凄いわ」


 チロンが精神分裂投射して、階段の様子を見た。


「今時機関銃とかいう呼び方、一周して新鮮ですねー」

 と、竜二郎。


「階段におるのは硝子人じゃが、ただの硝子人ではないのー。機械と融合しておるよ。迂闊に出れば蜂の巣じゃな。しかしまごまごしている時間も無い」

「機械と融合って、硝子人は元々機械だろー」


 チロンが報告すると、史愉が突っ込んだ。


「そうかもしれんが、メカメカしい感じはせんじゃろ。あすこにいるのは、硝子人の体にメカメカしいパーツがくっついとるんじゃ」

「あすこってどこの方言?」

「江戸時代にはよく聞いてましたね~。地方の方言ではないですよ」


 チロンが心なしか苛立たしげに言うと、卓磨が質問し、チロンではなく男治が答えた。


「私が行きましょう。弱者盾パワー委員会の会長的には、こういう場面で最前線に出る役割を担うのは当然のこと」


 澤村が申し出て、進み出る。


「ぐぴゅ。勝手にやるといいぞ。骨は拾ってやるぞ」

「お手並み拝見じゃな」


 史愉がせせら笑い、チロンが不敵に笑って拳で澤村の腕を軽く叩いて鼓舞し、それぞれ道を開ける。


「気合い爆弾っ!」


 扉を開いて非常階段に飛び込むなり、澤村は能力を発動させた。爆風が吹き荒れるが、通路には流れ込んでこない。


「気合いバリアー! 気合い爆弾!」


 マシンガンの掃射が行われたが、澤村は全て防ぐ。そしてもう一度爆撃を上に向かってお見舞いする。


 銃声が止む。埃が充満する中、澤村は階段を上っていく。


「済みました。警戒しながら登ってきてください」


 澤村に声をかけられ、一同は非常階段へと入り、昇っていく。


 階段を上った先には、澤村が待っていた。その足元には、無数の硝子人の残骸が転がっている。チロンの報告通り、硝子ボディと機械と兵器が融合したような姿の硝子人


「えっとですねえ、こんなメカ硝子人がいるって報告は無かったですよね~?」

「幽体離脱して調査した人も、全てを調べられたわけじゃなかったみたいですねえ」


 男治と優が硝子人の残骸を見下ろして言う。


「ここですね」


 しばらく階段を上った先で、先頭を駆けていた澤村が立ち止まって口を開く。


「皆さんは少し下がって」


 澤村が断りを入れると、非常扉を開け、勢いよく単身通路に突っ込んだ。


 中にはまた硝子人達の姿がある。横三列に並んでいる。腕の先が鈍器や刀剣や槍の穂先になっている。近接タイプの者がほとんどだ。


「流石に重要施設だけあって、ガードが厚いな」

 澤村の後ろで、鋭一がぼやく。


「一気に蹴散らすぞー。そのためにこっちも精鋭を投入しているんだぞー」

「心得ていますっ」

「は~い」


 史愉が命じると、澤村が気合いの入った声で、男治はだらけた声で返答した。


 鋭一が透明つぶてで、冴子がゆっくりカッターで、岸夫が空気を操って、男治が様々な怪しい術で、澤村が気功を操る能力を用いて、次々とメカ兵器硝子人を破壊していく。

 チロンと史愉は遠距離攻撃を行わず、近接戦闘を挑んだ。チロンは妖力をこめた尻尾を巨大化して振り回し、史愉は両腕をシャコの前肢にしてパンチを放っていく。


 硝子人達がどんどん減っていく。


「何者かが来よるぞ」


 もう硝子人の残りが二体ほどになった時点で、チロンが隣で戦っている史愉に警戒を促した。


 何らかの楽器の音色が響く。それによって警戒は全員に伝播した。


 通路の先――曲がり角から、一人の老婆と、小豚、犬、鶏、羊、ガチョウ、山羊等といった動物達が現れ、PO対策機構の面々がいる方向に歩いてくる。

 老婆はドレッドヘアーで肌は日焼けしており、へらへらと笑いながら、アコーディオンを弾いている。よく見ると、老婆の片腕と片脚はサイボーグ化していた。


「ウエ~ヘッヘッヘッ、強者が揃ってにぎやかなことで。こいつは丁重におもてなししてやろうかね~。覚悟しなよ」


 強者達を前にして、老婆は立ち止まって余裕たっぷりに笑う。台詞からして、敵であることは明白だ。


「あれあれ~? 阿部日葵あべひまりさんじゃないですか~」


 男治が意外そうな声をあげた。


「知り合いか? ぐぴゅ」

「有名な術師ですよ。御久麗の森に隠居したと聞いていましたが」


 尋ねる史愉に、男治が答える。


「隠居してたさ。あそこは最高に居心地がいいしね。しかしあたしの手足を治してくれた恩人の頼みとあっちゃ断れないし、面白いことをしていると思って、興味も抱いてねえ。ウィ~ヒッヒッヒッ」

「恩人? 雪岡純子さんですか?」


 日葵の言葉を聞いて、男治が尋ねる。


「違うよ。サイボーグ工学の権威さね。そこのマッドサイエンティスト風味の眼鏡の子は知ってるんじゃないかい?」

「まさか……そんな……」


 日葵の言葉を聞いて、史愉は顔色を変えた。サイボーグ工学の権威と言われて、真っ先に思いつく男は一人だ。しかしその人物が純子サイドについたという事が、信じられない。


「おや、おでましのようじゃぞ。イ~ヒヒヒヒ」


 日葵が振り返る。曲がり角から、一人の男が現れた。


 予想していた通りの人物の姿を見て、史愉は大きく目を見開く。青白い顔。異様にくぼんだ目と、その下の大きなクマ。こけた頬。燕尾服姿の針金のような細い体。一度見たら忘れようがない、特徴的な容姿の男だ。


「霧崎……いつから純子に与してたの……?」

 衝撃のあまり、素の口調が出てしまう史愉。


「半年前からこっそりと加担していたよ。あくまでこっそりとだがね」


 マッドサイエンティスト三狂の一人である霧崎剣は、自分の足で歩きながら言った。


「あたしは……霧崎はそっちにつかないと思っていたぞ。ぐぴゅう。どう考えても霧崎の思想と、純子の思想は相容れないっスし」

「雪岡君の目的が成就すれば、私が取り組んでいるサイボーグ研究も、全て無意味になるからな。そう思うのも無理はない」


 霧崎が口にした台詞の意味は、この場にいる者の中では、史愉にしか理解できなかった。


「純子さんの目的によって無意味になるのに、純子に肩入れするの?」


 不思議そうな声をあげる岸夫。確かに矛盾していると他の者達も思う。


「音木君は知っているだろうが、私は障害者の補助のためにサイボーグ工学を研究し続けていたのだ。しかし雪岡君の目的が叶えば、その研究は不要になる代わりに、多くの障害者も救われる。それでよいのだよ」


 にやりと笑う霧崎。


「何より、雪岡君の目的には夢と浪漫がたっぷり詰まっているだろう。人類を新たなステージに連れて行ってくれる。そうなれば私の最終目的にも大きく近づく。音木君、君もこちらに来たまえ。そうだ。草露ミルクはここには……いないか? 彼女もこちらに来るべきだ」


 霧崎が優雅な仕草で片手をかざし、史愉に呼び掛ける。


「わーっはっはっはっはっ、あたしはこの台詞が大好きなので、今言えるのが嬉しいぞ。寝言は寝て言えっス。断じてお断りだぞー」


 突然高笑いを始めたかと思うと、思いっきり意地悪い口調で拒む史愉。


「ふむ。残念だな。同じ研究者として失望したよ、音木君。我々はこの半年で人類の文明を何十年分――あるいは百年以上は押し上げた。これからさらに昇っていく。君もこの、実りも名誉もある役割に就ける良い機会だというのに、それを棒に振るというのかね?」

「あたしは断じて純子なんかの下にはつかないんだぞー。あたしこそ見損なったぞ、霧崎教授。散々純子のライバルを自称しておいて、その体たらくかっ。いや、もう僭称と言った方がいいぞ。全くもって堕ちたもんだぞー」


 冷ややかに問いかける霧崎であったが、史愉はそれ以上に冷淡に、そして嘲りたっぷりに罵った。


「おやおや、勧誘は失敗のようだね~。イェ~ヘッヘッヘッヘ」

「そのようだ。彼女には才がある。しかし彼女は愚かで、その才を活かす気が無いようだ。雪岡君への対抗心だけで、大局を見失うとはね」


 日葵が笑うと、霧崎は深い溜息をついた。


「わーっはははははっ! 言ってろバーカ! 純子の足の裏舐めた奴が何をほざこーが滑稽なだけだぞーっ」


 そんな霧崎を、史愉はさらに笑い飛ばす。


「いくら噂に名高い霧崎教授でも、この豪華メンツ相手に一人でかなうものですかねえ~。あ、これって自画自賛になっちゃいますかあ? えへへへ」

「ふむ。高名と言えば男治遊蔵、君の方が余程高名ではないかね」


 男治に声をかけられ、霧崎の視線が男治の方に向けられる。


「人数では有利だが、用心しろッス。あいつの力は半端ねーぞ」


 散々笑っていた史愉が、急に神妙な面持ちになって霧崎を睨み、警戒を促した。

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