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真、ツグミ、牛村姉妹、熱次郎は、予め準備をしていた。夜の繁華街で、こっそりと店舗や看板やオブジェに、プラスチック爆弾を仕掛けていた。
新居からのメッセージを確認するなり、プラスチック爆弾を起爆させる。一斉に爆発が起こる。
「火がついた。消化してくれ」
爆発によってプロパンガスが引火し、幾つかの燃え上がる店舗を見て、真が沙耶と伽耶に告げる。火事をもたらすようなことは厳禁だと、釘を刺されている。それでもあえて真が爆弾を用いたのは、すぐに消せるからだ。
「らじゃー」「がってん」
「火の回りから酸素消えろー」「水ぅ、水をくれぇ。ひゃっはーなときめきをくれぇ~」
姉妹が魔術を用いると、たちどころに火が消え、その後水が大量に降り注いだ。
「私のスマートな術があったから、麻耶の術いらなかった。それにふざけすぎ」
「うぐぐ……このままで済むと思うなよぉ~……」
伽耶が溜息混じりに言い、麻耶は悔しげに呻く。
「テロリストになった気分だなあ」
「人生の中で、夜中にこっそりお祭り会場を爆破する時が来るなんて思ってもいなかったよ。あまり快い経験ではないね」
「せっかく作ったのに」「作った人は可哀想」
熱次郎、ツグミ、伽耶、麻耶がぼやく。
「火はすぐ消したけど、放火は駄目だって言われてたんだろう? 後で叱られないか?」
「しかし爆破を先にしたのは、我ながら正解だったと思うんだ。敵も野次馬も迂闊に近づけない。近付けばまた爆破が起こるかもしれないと、警戒する。そうすれば無駄に殺さずに済ませられる」
熱次郎が危ぶむが、真は堂々と正当化する。
「真先輩もなるべく殺しはしたくないんだ?」
「当たり前だろ」
ツグミが微笑みながら尋ねると、真は即答した。
「あんなに殺気放ってるのに?」「ちょっと意外」
「それは殺し合いする時はそうなるさ」
伽耶と麻耶の言葉に、真は答えながら別の理由も頭の中に思い浮かべていた。
(それに僕は人を殺すと、性欲が爆発的に増すからな。ここで単独行動して女を買うのもどうかと思うし……)
***
美香とクローンズとプルトニウム・ダンディーの面々も、破壊活動を開始した。
「寒色植物の監視網に映るように、派手に暴れて」
「夜の街で物理的に暴れる天使達か。ロマンチックだな」
来夢が指示を出すと、エンジェルがうっとりした顔でそんなことを呟く。
「山車爆破したかったのにーっ。山車無いじゃんかよーっ」
「爆破は駄目だ! 火気厳禁!」
金属バットで店舗を破壊しながら喚き合う二号と美香。
「来夢の能力使えばスムーズに全て壊せるんですけどねー」
「それでは意味が無い。敵を引き寄せるために、時間をかけて適度に暴れて回らないと。それに、そんな余計なことして消耗したくない。この後、駆けつけた敵と戦闘もあるんだから」
怜奈がぼやくと、来夢が呆れ気味に言った。
赤猫電波発信管理塔の襲撃が始まった際、転落ガーディアン達の手が空いていれば、空の道ですぐに塔に集結してしまう。出来るだけ足止めしておかなければならない。
少し放たれ場所から、爆発音が響き、一同は作業を中断する。
「爆破音がしましたよ……」
「真の方だ」
「一発ではなく複数の爆発だね。同時に爆破された」
「今の爆発! 敵能力者から襲撃を受けたか!?」
十三号、克彦、来夢、美香がそれぞれ言う。
真達とはわりと近い場所を指定されている。場合によっては、もう片方の配置されている場所へ加勢に行ってもよいと、指示もされている。
「行ってみるかい?」
マリエが伺う。
「いや、ぜんまいを巻くタイミングじゃない。持ち場を離れるより確認が先。電話しても出ないなら、戦闘発生したと見なして、加勢に行こう」
来夢が冷静に述べ、美香の方を見る。
「戦闘発生にしては早過ぎる気もするがな!」
美香が叫びつつ、真に電話をかけた。
「人騒がせな! 爆発は真達の仕業だそうだ!」
すぐに電話を切って、美香が憮然とした顔で叫んだ。
「火器は用いちゃ駄目なんじゃなかったの?」
「すぐに消せるから使ったと言っていた!」
十一号が尋ねると、美香が憮然とした顔のまま叫ぶ。
***
純子、ネコミミー博士、ミスター・マンジの三名が、夜遅くまで市庁舎内のラボで研究作業に勤しんでいると、市内の繁華街複数個所が、一斉に襲撃されているという報告が入った。
「ちょっとおかしいよね。祭り当日に襲ってくるならともかく、前日に襲うっていうのはさー」
「ムッフッフッフッ、設営の妨害をした所で、また設営し直すだけというものだね」
「時間稼ぎのためなのかな?」
疑問を覚える三名。
「祭りを遅らせて欲しい時間稼ぎか、あるいは他に狙いがあっての陽動作戦かな」
ネコミミー博士が言った。
「蟻広君が主張してたんだよね。PO対策機構は赤猫電波発信管理塔を狙ってくるから、そっちに警備回せって」
「なるほどね。赤猫のシステムを破壊し、情報を外に送る作戦は実に有効だね」
純子の話を聞いて、ミスター・マンジは納得した。
「ま、私もその可能性は考えていたし、予め手は打ってあるんだ。あそこには心強い守護者がいるから、平気だとは思うんだけどねえ」
言葉とは裏腹に、正直それほど平気だとは思っていない純子である。敵のことを見くびっていない。強力な守護者はいるが、絶対はないし、突破されることも十分あり得ると見ている。
***
市庁舎内では繁華街襲撃の報が各人に知らされていた。寝ていた者も叩き起こされた。
寝る間際に報告を受けた硝子山悶仁郎市長は、自室を出た所で、蟻広と柚と出くわした。彼等は市庁舎に寝泊まりしている。
「夜襲だってよ」
「ふっ、夜襲か。懐かしいものよ。いや……仕掛けた事は幾度とあれど、仕掛けられた事は無いのー」
蟻広を見てにやにやと笑う悶仁郎。
「して蟻広、賭けは拙者の勝ちのようじゃぞ?」
「ちっ……あいつら思ったより馬鹿だった。それを読めなかった俺のポイントマイナス3して、あんたにはポント5つけておく」
唇を尖らせ、思いっきり渋々と負けを認める蟻広。
「そのぽいんととやらが溜まると、どのようなさあびすが受けられるんかの?」
「何もねーよ。ただ喜んでおけ」
問いかける悶仁郎に、蟻広はあっさりと答えた。
「さて、転烙ガーディアンの兵士達も動いているようじゃ。拙者がいちいち指示せんでも、下の者がてきぱき動いてくれるから、楽できるよ」
「私達も行った方がよいだろう」
柚が眠そうな顔で呼びかける。
「そーだな。爺さんは市長室でふんぞり返ってな。俺達はてきぱき動いてくるからな」
「ふっ、よしなに」
蟻広が冗談めかして告げると、悶仁郎は笑顔で見送った。
***
転烙市各地の祭り会場が襲撃されているとの報を受け、転落ガーディアンがそれぞれに派遣された。
原山勤一、山駄凡美、泡崎一華、浜谷湯吉とその他数名が、空の道を飛んで現場に向かう。
「夜使うと爽快だな」
空の階段に着地して、夜空を見上げて微笑む勤一。
「時間が時間だから街の明かりは控えめだけどね」
こちらは地上を見渡しながら凡美が言った。夜に空の道を使うのは、二人共初めてだ。
「あ……」
現地に到着して、そこにいる同じ顔の五人の少女を見て、勤一は固まった。
「よりにもよって……」
凡美がうんざりした顔になる。
「よりにもよってお前達か!」
空から降ってくる形で現れた勤一と凡美を見て、美香が闘志を剥き出しにして叫んだ。




