表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
95 祭りの前に遊ぼう
3225/3386

14

 勇気の元に、意外な人物が訪れた。

 一応その人物と面識はある。PO対策機構繋がりだ。勇気が表の王であるとすれば、彼は裏の王だ。表向きには、彼が裏通りのトップという事になっている。

 初めて互いに認識したのは、純子とヴァンダムの貸し物競争の際だ。犬飼は司会進行を務め、勇気はランナーとして参加していた。


「デビルの話は聞いたぜ」

「誰から聞いた?」


 犬飼の台詞を聞き、勇気は眉をひそめた。鈴音はいない。勇気の宿泊している部屋で、二人だけで向かい合っている。


「そいつは内緒だ。そいつのことは俺も何度か耳にしている。俺も昔、ちょくちょく雪岡研究所に足を運んでいたからな」


 にやにや笑いながら話す犬飼。


(胡散臭い。以前からどうにも感じの悪い男だな)

 そんな犬飼を見て、勇気の不快感が増していく。


「お前さんを狙ってるなら、逆に誘き出してカウンターも有りだと思って、スノーフレーク・ソサエティーと組ませて、戦力を厚くした。政馬にもその趣旨を伝えておいた方がいい」


 犬飼が促すと、勇気は無言でただじっと犬飼を見る。


「ん? 何? 俺の顔に何かついてる?」

「ああ、ついているな。魂の穢れが。臭ってくるな。嘘吐き特有の悪臭が」


 訝る犬飼に、勇気が吐き捨てる。


「えー? 俺のこと信用してないのか。そりゃ参った。で、俺はどんな嘘をついているんだ? いや……どの辺りで嘘吐きと思った?」

「わからない。ただ、自分の利になるように、俺を思い通りに動かしたい――という嘘とは、微妙に違うような気がする。いや、少しそれも含まれているようにも感じられる。とにかく俺はお前を信用しない」


 オーバーなほどおどけた口調で尋ねる犬飼に、勇気は冷然と言い放った。


(中々どうして鋭いもんだ。流石は支配者様だ)

 感心する犬飼。


「そんな忠告を面と向かってするために、わざわざ来たのか?」

「俺としてはとっておきの情報を伝えに来たつもりなんだけどなあ。そして俺にとって危ない橋渡りになる情報だ。しかし、どうやらお気に召さないようだし、話はこれまでにしておこっかな」

「意訳すると、思わせぶりなことを口にして、引き留めてもらいたいということか」


 犬飼の言動に対し、勇気はせせら笑う。


「とっとと帰っていいぞ。無駄な時間だったな。俺にとってな」

「そ、そうか……」


 あまりにもつっけんどんな態度を取られて、犬飼は鼻白みながら退散する。

 しかしやることはやっておいた。今の会話はこっそり録音してある。その録音した会話を、そのままデビルに送る。


 するとデビルの方から、電話がかかってきた。


「今送ったのは聞いたか?」

『聞いた。だから電話した』


 心無しか憮然とした様子のデビルの声が返ってくる。


『犬飼が僕のことを知っていることを勇気に伝えるのは、余計だったと思う。悪手だ』

「そ、そうか?」


 デビルに言われ、再度鼻白む犬飼。


『引き続き鈴音という子を狙う。勇気の見ている前で殺す。シンプルにいく』

「狙うのが二度目になるだろ。執着はやめた方がいいぜ。執着ってのは落とし穴に落ちやすくなるもんだ」

『落とし穴に落ちるとしたら、どんな穴か興味が湧いた。どうか試してみる』

「やめた方がいいと思うがねえ」


 犬飼は否定的だったが、デビルは聞く耳持たず、電話を切った。


***


 新居から部隊編成の連絡を受け、真、ツグミ、牛村姉妹、熱次郎、美香とクローンズとプルトニウム・ダンディーの面々で、作戦会議を行っていた。

 美香とクローンズとプルトニウム・ダンディーは陽動班1。真とツグミと伽耶と麻耶と熱次郎は、陽動班2だが、互いに近い場所を受け持つことになっている。


「つまりこれは、どちらかが苦戦したら助けに行くとかできそうだにゃー」

「陽動部隊だから、担当する場所を離れるのもどうかと思うぞ」


 七号が言うが、克彦は否定的な見解を示す。


「具体的に何するの? 祭りの設営している人を殺してまわる? そうなら楽しそうだね」

「準備しているのは一般人だぞ! 殺しは当然御法度だ!」


 来夢の発言を聞き、美香が叫ぶ。


「魔が差して冗談言っただけ」

 肩をすくめる来夢。


「それにしてもくだらん冗談だ!」

「全力のツッコミ役がいるから、来夢もからかい甲斐があるだろう」

「うん、そういうこと」

「ふざけるな!」


 真が言うと、来夢は悪戯っぽく微笑み、美香はむっとして怒鳴る。


「オリジナル情けないのー。会う度に来夢に振り回されてるし、定番のやり取りになっちまってやんの」

「黙れ!」


 二号がからかい、さらに怒りを増幅させる美香。


「そもそも深夜だから工事の人とかはいませんよ」

「堕天使も眠る丑三つ時だな」


 怜奈とエンジェルが言う。


「決行は零時、丑三つ時は午前二時から午前二時半までの間のことだし、決行は零時だから、全然時間が違うよ。あんた丑三つ時イコール夜中と錯覚してないかい?」

「天使長も筆の誤りという奴だ」


 マリエが突っ込むと、エンジェルは気取った口調で言ってのける。


「何でも天使つければいいと思ってるの? この人」

 エンジェルを見て、呆れる十一号。


「一つ確認しておきたいが、どういう落し所を考えているんだ? 純子を殺すわけではないよな? 今聞く事ではないけどさ」

「まさかな」


 熱次郎の確認に、真は否定した。


「何度も言ってるだろ。マッドサイエンティストを辞めさせると」

「そんなこと可能なの? 純子が空っぽになっちゃうヴィジョンが見えるよ」


 真の言葉を聞き、来夢が言った。


「普通の科学技術者になってくれればいいんだ。ただ、あいつはマッドが外れたら、サイエンティストも辞めてしまいそうな気配がある」

「ああ……」


 美香は知っていた。純子の夢を。なりたい職業があると。


「科学者も辞めたら何するの?」

「漫画家になりたいと言っていた!」

『漫画家!?』


 十一号の問いに美香が答え、一同が驚きの声をあげる。


「へえ、驚きだな。雪岡先生が漫画家の意味で雪岡先生になるのか」

「俺は知らなかった。意外すぎる」

「素敵なぜんまいだよ。純子はどんな漫画描くのかな?」


 おかしそうに言うツグミと、本当に意外そうに言う熱次郎と、興味を抱く来夢。


「僕はなってほしくない」

「そうだな!」


 真が珍しく嫌そうな表情を露わにし、美香も同意した。


「何で?」「どうして?」

「真と美香二人して否定的ってことは余程下手とか?」


 伽耶と麻耶が尋ね、克彦が推測する。


「目玉が腐れそうになるほど下手だし……こんなんだぞ」


 真がホログラフィー・ディスプレイを投影する。


『はああああっ! 踏まれても踏まれても真っすぐ伸びる麦がワシの中でえぇぇ!』

『ギギギ……そろそろあんちゃんの中にピカドンいくでーっ!』

『死ぬるな死ぬるなあああ!』

『ラララ……』


 ディスプレイの漫画を見て、何人かは笑い、何人かは顔をしかめていた。


「よりによってこの漫画のやおいとか……」

「何だいこれ? 劇画調BLかい?」

「やおい本みたいですねー? この文字、ラなんですか? ウなんですか?」

「女の子の方の僕が喜びそうだ……。そう言えば雪岡先生、原子力が好きだったね」

「絵が凄く下手なのが逆に救い」「絵は下手だけど味があっていい」

「なるほど、これは駄目だね。純子はマッドサイエンティストのままの方がいい」


 二号、マリエ、怜奈、ツグミ、伽耶、麻耶、来夢がそれぞれ感想を口にした。


***


 鈴音は政馬を訪ねて、スノーフレーク・ソサエティーの面々と共にいた。デビルにさらわれて戻ってきてからのやり取りのせいで、勇気が鈴音を完全に無視してしまい、居づらくなってしまったので、少し離れた方がいいと判断したからだ。

 スノーフレーク・ソサエティーにも、PO対策機構の赤猫電波発信管理塔襲撃計画の編成と時刻の決定は、常に通達されている。


「俺達は遊軍かよ。何かシラける」


 ソファーでふんぞり返っているカシムが、つまらなさそうに言う。


「政馬達がPO対策機構と少し距離を置いて接しているから、この扱いは仕方ない」


 と、ジュデッカ。


「そうではなくて、勇気が遊軍にしろと命じたらしいよ。大事なポイントを抑えることが出来る。取り返しのつかない事態にならないようにするための、重要なポジションを与えてくれたし、僕達のことを信頼していると考えよう」


 政馬が勇気から聞いたことをそのまま述べた。


「深夜か。霊を呼ぶには適した時間だ」

 雅紀が呟く。


「ねね、思ったんだけどさ。赤猫の電波の暗示で、転烙市の外に転烙市の情報を漏らせないようにする事が出来るのなら、純子がやろうとしている事の邪魔をできなくする暗示だって、かけられるんじゃない? その方が手っ取り早くない?」


 鈴音が疑問を口にした。


「それは理屈としてはそうだろうけど……出来るならとっくにやってるんじゃね?」


 季里江が言う。赤猫の暗示とやらも万能ではないから、情報


「純子の性格からすると、出来たとしてもやらなさそうだな。あいつは結果より過程を楽しむタイプだしよ」

「ああ、確かにね。そんな感じだね。僕もそう思うよ。言われてそう思えたよ」


 ジュデッカの言葉に、政馬だけが深く納得していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ