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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
95 祭りの前に遊ぼう
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13

 史愉と男治は、転烙市内で交戦して殺害したサイキック・オフェンダーの死体を、幾つか回収していた。


 回収した遺体を二人で解剖して回り、すぐに異変に気付いた。

 遺体の全ての、脊髄、リンパ管、心臓等に、非常に小さな刻印のようなものが刻まれている。大きさは顕微鏡で見てわかる程度だ。


「おやおや~、この刻印、微かではありますが確かに力を感じますねえ。そしてこれ、多分私達の体にも刻まれていますよ~」


 顕微鏡で刻印を見ながら、男治が言う。


「ぐっぴゅ。転烙市のテクノロジーを利用した者につけられるようだぞ。区車亀三は、市民が養分にされるとか言っていたし、ここから養分というか、生命力が吸い上げられるっスか?」

「いずれにしても私達につけられている刻印は、さっさと消した方がいいですね~」

「面倒だけど、PO対策機構の連中の体を全部チェックして、刻印を消しておくべきだぞー。チロンとミルクにも手伝わせるぞー」


 喋りながら、二人して自身の体内を解析アナライズし、解除ディスペルを行う。


「純子さん、とんでもないことしようとしている予感がしますよ~。この転烙市を作り変えた時点で、すでにもうとんでもないことですけどね~」

「ああ……悔しいけど、超悔しいけど、それは認めざるを得ないよ」


 男治の言葉を受け、史愉はいつもと違う口調で呻いた。


「史愉さんにしては珍しく殊勝で謙虚ですね~」


 確かにこの結果を前にしては認めざるを得ないと、男治も納得する。しかも純子はさらにその先に、世界を変革するほどの大きな野望を実現せんとしている。いや、すでに一度それは半年前に実行している。


「悔しくて仕方ないぞ。嫉妬で気が狂いそうだぞ」


 再度呻いてから、史愉はにやりと笑った。


「でもね……だからこそ燃える。あいつが何を企んでいるか知らないけど、それをあたしがぶっ壊してやったら……おじゃんにしてやったら、それで御破算なんだぞ。華麗なる大逆転勝利してやるんだぞ。純子の鼻を明かしてやるんだぞ。わーはっはっはっ」

「そうですか~」


 純子の邪魔をして、その計画を阻止できたらそれで勝利という、実に単純明快な論理で納得している史愉の精神構造を、男治は見くびることはなく感心していた。史愉はそれを拠り所にして、心折れることなく強大と認めた相手に立ち向かう意思を抱いているからだ。


***


 新居とシャルルと李磊。かつての傭兵学校十一期主席班のメンバー三名が会議室で向かい、雑談を交わしている。今はこの三人だけだが、時間が経てば、PO対策機構のメンバーが来て、話し合いをする予定だ。


「今日は動き無し?」

「今日も、だろ」


 シャルルが新居に向かって問うと、新居が答えるより前に、李磊が顎髭を撫でながら皮肉る。


「ああ、俺達が動くのはまだだな。調査している連中の報告待ちだからよ」

「痛えっ。何すんだよっ」


 新居が手を伸ばし、李磊の短い顎髭をつまんで引っ張る。


 やがて会議室に三人追加する。澤村と正美とオンドレイがやってくる。


「偵察任務は少数に任せているのですか?」

 澤村が尋ねる。


「少人数に任せたら、追い回されて救出騒ぎになった。今は幽体離脱出来る能力者一人だけに任せている」

「たった一人? それで平気なの? 私女だけどそれはどうかと思う。一人に任せているせいで遅々として進まないんじゃない? きっとそう」


 新居の答えを聞いて、正美が不機嫌そうに言う。


「一人の方が見つかりづらいという利点と、同様の能力者が少ないことではないか?」


 オンドレイが推察する。


「流石超常殺しの旦那はわかっているねえ。その通りだ。偵察の役割をしている奴にもそれを言われたよ。他の偵察の奴等は見つかって追い掛け回されちまっていたし、あれも邪魔だと言われて、そいつ一人に任すことにしたのさ」

「なるほど」

「そうだったんだ。私馬鹿だった。女だけど馬鹿だった。そしてやっぱりオンドレイさんは凄い。文武両道って感じ」


 新居の説明を受け、澤村と正美は納得した。


「俺みたいな筋肉ダルマタイプは、少し知的ぶると、それだけでギャップ感じられてウケるらしい。チョロいものよ」


 正美を見て笑いながらウインクしてみせるオンドレイ。


「えー、そんな計算働かしてたんだー。でもそれいいね。バラすのもいい。ますます尊敬しちゃう」


 正美がオンドレイに微笑み返す。


(相変わらずだねー、この二人は)


 かつて正美とオンドレイと仕事をしたことのあるシャルルが、二人を見て思う。


「あ……いいタイミングで来たぞ。件の幽体離脱偵察の奴からだ」


 新居がメールを見て報告した。


「PO対策機構のトップ連中、全部呼ぶか。いや、オンライン会議でいいか。とにかく早急に決めるぞ」

「決めるとは?」


 脈絡の無い新居の台詞に、澤村が問うた。


「赤猫電波発信管理塔襲撃計画を実行する日時だ。ま、俺はもう心の中で決めてあるけどな」

「つまり、電波塔の中枢システムとやらの場所がわかったわけだな」

「そういうことだろうなあ」


 新居の台詞を聞いて、オンドレイと李磊は察していた。


 ホログラフィー・ディスプレイを無数に投影し、オンライン会議が開始される。転烙市内に潜入しているPO対策機構のトップ陣が、それぞれの画像に映し出される。


「そんなわけで、ぶっ壊せば赤猫の電波を止めるであろうシステム中枢の場所が判明した。ま、電波を止められるのは一瞬だけで、すぐにシステム復旧しちまうがな。その一瞬の間に、ここの情報を外部に送るって寸法だ」


 新居が会議室にいる一同と、ディスプレイに移る面々を見渡して報告した。


 赤猫の暗示電波が解除されたら、すぐに義久が情報を外部に拡散する手筈になっている。そのための準備はしてある。転烙市の情報は全て、義久がまとめてある。


「今夜の午前零時に決行する。支度を急げ」

『もう時刻まで決めたのか。結構急だな』


 勇気が眼鏡に手話かけながら意外そうに言う。


「報告を受ける前から、報告のあった日の夜にすると、俺は決めていた。最良の時間だと判断する。事前に通達しなかったのは、情報漏洩を危惧してのことだ」

『なるほど』


 新居の言葉を聞いて勇気は納得した。


『はあ……夜襲ね。俺は寝てていい? どうせ役に立たないし』

「一生寝てろ」


 犬飼がおどけた口調で言うと、新居は冷たく吐き捨てる。


『ぐぴゅぴゅ、陽動作戦するって言ってたけど、部隊編成はもう決めてあるの?』

「ああ。もう部隊分けは出来ている」


 史愉に問われた新居が、部隊編成を書いたホワイトボードを運んできて、全員に見せる。


・陽動班1

 美香&ツクナミカーズ、プルトニウム・ダンディー


・陽動班2

 真、ツグミ、牛村姉妹、熱次郎


・陽動班3

 鳥山正美、オンドレイ、シャルル、李磊、他


・陽動班4

 バイパー、桜、つくし、ミルク


・赤猫電波発信管理塔班

 殺人倶楽部、澤村、史愉、男治、チロン


・遊軍

 勇気、鈴音、政馬、ジュデッカ、季里江、カシム、雅紀、他


 陽動班は全部で六つある。残り二つは、グリムペニス、政府関係、裏通りの者達でそれぞれ混合部隊となっている。


「やはり優がメイン担当か」


 オンドレイがにやりと笑い、ディスプレイに移っている優を見た。自分でもそうしただろうと、口の中で付け加える。優はオンドレイと目線を合わせて、気恥ずかしさを覚える。


「陽動班の2と4は四名だけなのね。遊軍が凄く豪華じゃない? 指導者の勇気君がいるし、これってスノーフレーク・ソサエティーの子達だよね? ここにいないけど」

『草露ミルクさんの名が書いてありますし、転烙市に来ているんですねえ』


 正美と優が言う。スノーフレーク・ソサエティーの面々はこの会議には参加していない。勇気が後で言伝をする予定になっている。


「さて、ちいとばかし待たせたが、お待ちかねのパーティーの時間だ。楽しんでくれ」


 その場にいる者とディプレイ越しの者達を再び見渡して、新居は不敵な笑みをたたえて告げた。


***


 半年前の覚醒記念日以降、純子によって数多くのマッドサイエンティストが転烙市に集められ、彼等のための施設も数多く作られた。

 転烙市某所にある研究施設の一つ。ネコミミー博士とミスター・マンジは、純子から授かったあるものを用いて、共同であるものを開発していた。


「むっふっふっ、実によく馴染むし、スムーズなものだね。予定より早く完成しそうだ」


 いつもとは異なる白衣姿のミスター・マンジは、血塗れの黒い肉塊に電極を指し込みながら、上機嫌な様子だった。手袋も白衣も血に塗れている。


「スムーズすぎて逆に怖いね。こういう時こそ、何か大きな見落としが無いか、チェックしておかないと」


 こちらも返り血塗れの白衣姿のネコミミー博士が、物憂げな表情で言う。


『ネコミミー博士の言う通りです。亡骸とはいえ、陰体は非常に危険な力を秘めています。くれぐれも御用心を。私個人としては、あまりそれをいじってほしくはないという気持ちもありますが』


 ミスター・マンジとネコミミー博士の頭に、直接声が響く。二人と共に研究開発に携わっている根人だ。


「チミの故郷の星で、チミ達根人とは因縁浅からぬ存在の亡骸を弄ぶことに、抵抗があるということかね? むふっ」

『そうですね。古王の遺骸とも言えるものを利用し、新たな生命を作る事には、どうしても抵抗を覚えてしまいます』


 からかうように言うミスター・マンジに、声だけで答える根人。


「でもこれから激しい抗争があるだろうし、戦力となる者は必要だよ」


 ネコミミー博士が寝台に寝かされている人型に目を落とす。


 痩せ細った体は、全身の肌がくすんだ灰色をしている。目は大きく見開いている。一応瞬きはしている。口は半開きだ。あばらの浮き出た胸が大きく動いている。腹部は大きくへこんだかと思うと、ゆっくりと大きく盛り上がる。腹式呼吸をしているようだ。


「さて、移植を開始しようかね」


 ミスター・マンジが肉塊を持ってくると、ネコミミー博士はメスを手に取り、男の腹部を切り裂いた。

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