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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
95 祭りの前に遊ぼう
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10

 速攻で間合いを詰めてくるバイパーに、デビルは衝撃波を放つ。


 カウンターで衝撃波を食らってしまい、バイパーの動きが止まる。

 デビルは目を見開く。吹き飛ばすつもりであったし、相当な威力があったにも関わらず、動きが止まった程度で留まった事に驚いていた。


 動きを止めたバイパーの横を、桜が大きく腰を落とした低い体勢で駆け抜け、デビルに迫る。腰には日本刀を鞘に入れたまま携えている。バスケットは玄関に置いてある。


 デビルにある程度接近した所で、桜は速度を速めて一気に踏み込み、居合を一閃する。


 回避に失敗したデビルの喉元が大きく切り裂かれ、血が噴き出た。


(動きが人間離れしている。肉体を純粋にパワーアップさせている能力か、あるいは人では無いのか)


 桜を見ながら、喉を手で押さえるデビル。その所作だけで、出血は収まった。


 デビルの背中から、肩から、上腕部から、何本もの枝が生えてくる。枝の葉が光りだし、桜とバイパーめがけて次々とビームが放たれる。


 二人は巧みにビームをかわしていくが、デビルとの距離が離れてしまう。


『ただ再生能力があるというだけではない。殺しても死なないらしいな。いや、すでに死んでいるのに、魂が無理矢理現世にしがみついているから、しがみつかれた命をいくら消して回っても、意味が無いってことです』


 ミルクが声を発する。デビルには、その古い機械音声じみた声が、どこから発せられているかわからなかった。


(僕の特性も知れ渡ってしまっているのか。忌々しい。知られているという事は、こんな限りなく不滅の存在である僕をも、滅ぼす目算も立っている?)


 そう考えるのが自然だと、デビルは判断するが、確証は無い。案外、自分を滅ぼすこと以前に、鈴音の救出優先で来た可能性もあるとも考える。


「うおっ!?」

「ちょっ!?」


 バイパーと桜、二人同時に声をあげ、揃って派手に転倒して尻もちをついた。さらに臀部も滑って、二人して床に這いつくばる格好となる。


「何これ……滑って立てないよ?」

 戸惑う桜の前で、デビルの葉が再び光る。


『摩擦を消したんだ。元に戻す』


 ミルクが言った直後、バイパーと桜がいる場所が滑らなくなった。


 二人が立ち上がり、かなり際どいタイミングでビームを避ける。


(誰だ? どこにいる?)

 声の主を探し、当たりを見回すデビル。


 そのデビルの視界に、高速で接近する者の姿が映った。スモッグ服姿の、空飛ぶ園児だ。


「カニバリズムブレイド」


 デビルの間近まで来た時点で、つくしが技名を口にして、短い右腕を振るう。するとその動きに合わせて、三本の黒い湾曲した刃が腕より伸びて、デビルに襲いかかった。

 デビルはこの刃を避けられず、肩口から胸にかけて切り裂かれ、さらには体に食い込んだ状態になる。


(え……これは……? 力が失われ……吸われていく……)


 突き刺さった刃から、体の力が吸われていく感触を実感しつつ、デビルは膝をついた。


(この体はもう駄目だ)


 体に全く力が入らない状態になったので、デビルは即座に霊魂をその体から離脱させた。


「マスター、命がほとんどないような状態でありました。おかげであっさりと無力化完了です」


 床に倒れたデビルの体を見下ろし、つくしが報告する。つくしの今の技は、切りつけた相手の体から、生命力を吸い取る効果がある。しかしその手応えがほとんど無かったし、ほとんど無いにも関わらず、乏しい量の生命力を吸い取っただけで、デビルは倒れて動けなくなった。


『それがある種の弱点と言えるか? 生ける屍故に、カロリーを消費して動いていようと、生命力そのものが乏しい。つまりは人間そのものの体でありながら、その身体構造は限りなくゾンビだ。いや、言い換えるなら、肉で出来たロボットが動いているようなものだな』


 つくしの報告を聞いて、ミルクが分析する。


「生命力で動いているのと、血と栄養で動いているのは違うのかよ?」

「生命力ってものが特別な理屈はわかるわ」


 バイパーが疑問を口にすると、桜が唸るように言った。


「命の力っていうのは、ただのガソリンじゃない。カロリーを指すわけじゃない。命は魂と繋がっている。重なっている。カロリーは命を動かす燃料でしかないもの」

『流石桜だな。よくわかっている』


 流石は命を吸い取る人外、吸血鬼のハーフというニュアンスで、ミルクは褒める。


「動かねえ体も気合い入れれば動くなんてこともあるしな。心と体は繋がっている。命はただの肉の塊とは違うってことか」


 何なとく納得するバイパー。


 ミルク達が喋っていると、二体のデビルが床から現れる。


「斃しても、予め分裂していた予備が、いくらでも湧くってわけか」

「しかしそれならもっと数を増やしてもよい理屈であります」

『限界はあるんだろうさ。一度に動かせる限界もな。限界の無い存在や不可侵の存在など無い。命と魂が密接できず、ただのカロリーで動く肉の塊を動かすだけの存在。それは命と呼べない。その辺に弱点がありそうだな』


 二体のデビルを見て、バイパー、つくし、ミルクが言った。


(鬱陶しい連中だ。人のことをああだこうだと)


 苛立ちを覚えた直後、デビルの意識が途絶えた。凄まじい圧力で不可視の力が二体のデビルを押し潰したのだ。集会場の室内も滅茶苦茶になる。


『鈴音に当たらなくてよかった』


 念動力猫パンチをデビルに食らわせたミルクが、肉球と肉球の合間にいる鈴音を見て肝を冷やした。攻撃してからその存在を思いだした。


(もう面倒臭い。何体も潰しすぎだ)


 まだデビルの他の体が近くに潜んでいたが、これ以上交戦したらこの体も破壊されそうな気がしたので、ミルク達の前には出ず、逃げる事にする。そして声だけしかしないミルクの存在に、不気味さと危険さを感じていた。自分をも殺し得る相手ではないかと、恐れと警戒の念が芽生えたのである。


「気配消えたね」

 桜が日本刀を鞘に収める。


『逃げたな。冥界に飛ぶはずの魂が、延々と留まり続けているうえに、自分の肉体を分裂させられるわけだから、普通にやっても殺せない。何かしら方法を検討しないとな。気に食わないが、史愉や男治にも報告しよう。特に男治なら、その方法を思いつくかしもれねーですし』


 ミルクが言った。彼女は結局、バスケットの中から出る事は無かった。


(あれは僕の手には余る子だったかな)


 集会所から離れながら、デビルは鈴音のことを思う。


(欲張り過ぎたとも言える)


 そして少し自身のやり方に反省する。勇気への嫌がらせというコンセプトに執着しすぎていた気もする。


(薬でどの程度壊れたのか、治るのか治らないのか。よくわからない。勇気がどのくらいショックを受けるかもわからない。もう面倒だし、次はさっさと殺そう。勇気の見ている前で、あの子を惨たらしく殺そう。シンプルにその方がいい)


 しかし結局の所、勇気への嫌がらせに執着し続けているデビルであった。


***


 純子はついさきほど、政馬から鈴音捜索の依頼を受け、あっさりと引き受けていた。

 そして今、転烙市のあちこちに生えている寒色の植物――根人のネットワークをチェックして、鈴音の安否を確かめる事が出来た。


「政馬君、鈴音ちゃんが助けられたみたいだよー。私は何もしてないけど」

『そうか。でもありがとう。純子。それをいち早く知れただけでも良かったし、敵なのに協力してくれてありがとう』


 純子が報告すると、政馬はいつになく心のこもった口調で感謝した。


「デビルにも困ったものだねえ」

 電話を切ってから、純子が呟く。


(手懐けるというのも有りかな? いや、向こうにその気が有るならともかく、無いなら、下手にちょっかい出さない方がいいかー)


 向こうから接近してこない限り、あるいは真剣に自分の障害にならない限り、自分からはデビルには触れない方針を検討する純子であった。


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