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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
95 祭りの前に遊ぼう
3218/3386

7

 夕方。とあるホテルの一室。


「前哨戦が起こってしまったな。襲撃当日になる前に、同じようなことが起きるかもしれない」


 偵察部隊の救助において発生した戦闘の報告を受け、真が言った。同室には、伽耶、麻耶、ツグミ、熱次郎がいる。


「こちらが襲撃するのは何時なの?」

 伽耶が尋ねる


「それすらまだ決まってない。計画を煮詰めている最中だ」

 と、真。


「祭り前にしないと意味無いのに」


 決定が遅いように感じられ、麻耶が息を吐く。真と熱次郎も同じことを思っている。


「赤猫電波発信管理塔の調査にも手間取っているらしい。システムダウンを引き起こして、赤猫の暗示を解くためにはどこを攻撃したらいいか、調査中だそうだ。幽体離脱能力者を使っているが、ガードが厳しくて調査が捗らないらしい」


 聞いた限りの話を報告をする真。


「私や伽耶さんや麻耶さんの能力で調査した方が、確実性あるんじゃないかな?」

「やめておけ」


 ツグミが申し出たが、真は却下した。


「以前にも言ったけど、雪岡はツグミを狙っている。雪岡が望む力と被る。いや、ツグミだけじゃない。伽耶と麻耶もだ。お前達に強い興味を示していた。お前達が迂闊にちょっかいをかけるのはよろしくない」

「今更な気がするけど~」

「ていうか、それをわかっていて私達を連れてきた?」

「むしろだからこそ連れてきた?」


 真の台詞を聞いて、ツグミが微苦笑をこぼし、伽耶が不審げな面持ちになり、麻耶は真顔で確認する。


「危険を承知で、狙っていることを承知で連れてきた。それを逆手に取るためにな」


 純子がツグミを狙っていることは、真も見抜いたうえで餌にしようとしている。ツグミには予め知らせてある、ツグミがもし捕まり、力を使わせようとした時に仕掛けるつもりでいる。


「私達を囮に使うんだよねー? 私は承知済みだし覚悟済みだよー。真先輩を信じる。ばっちこーい」

「逆手に取るとは言ったけど、囮に使う気は無い。それにさ、雪岡がお前達を狙っているなら、僕の近くにいる方が安全だし、護れると思って連れ回している部分もある」


 うそぶくツグミに、真が淡々と告げる。


「その割には別行動多くないか?」

 突っ込んだのは熱次郎だった。


「まあずっとべったりというのもどうかと思うし」

「私はずっとべったりでいい」

「浮かれた意味でのべったり」


 真が言うと、麻耶が主張し、伽耶は嫌そうな顔になる。


 ノックがした。そして鍵が外から外され、扉が開かれる。


「ヘーイ、皆元気~?」

 現れたのはみどりだった。


「お、風車のヤシーチだ」

「ふわあ~、あたしそんな認識なの?」

「だからそれ何だよ」


 ツグミが言うと、みどりが苦笑し、熱次郎が尋ねた。


「ねね、このCM見たあ?」


 みどりがホログラフィー・ディスプレイを投影する。


『転烙魂命祭で販売される目玉商品第四弾! それがこちら!』


 テレビのローカル局で、また転烙魂命祭の新商品のコマーシャルが流れていた。


『理想の恋人? 理想の守護者? 理想の友人? 理想の愛玩奴隷? 理想の親? 理想の子供?』

「愛玩奴隷……」


 その言葉に反応してにやけるツグミ。


『クローン・パートナー、ついに解禁!』


 アニメーションで、培養カプセルの中から笑顔の美少女が飛び出す映像が流れる。


『ただのクローンではありません。クローンをベースとして、見た目、性格、性質、年齢、何もかも自由にデザイン変更可能。貴方の理想のパートナーとして、貴方に仕えます!』

『でもお高いんでしょう?』

『いいえ、ド底辺でもちょっと頑張って貯金すれば手が届くお値段。何と一体20万円ぽっきり!』

『でも食費とかかかるんでしょう?』

『それはもちろんかかります。責任もって養いましょう』


 CMが終わる。


「世界的に禁止されているクローン販売を、ここまで派手に……」

「雪岡先生、やりたい放題だねー……」

「これは……見境無さ過ぎだ」

「真のクローン作っていい? 伽耶を質に預けてでも買いたい」


 熱次郎、ツグミ、真が呆れる一方で、麻耶が目を輝かせて、真の顔を覗き込んで伺う。伽耶は死んだ魚の目になっている。


「昔、芸能人をクローン化して販売して問題になっていたけど、今度は市の公認の元に販売されて出回るわけか」


 美香のクローンが作られていた事件を思い出す真。


「純姉、以前はこれに凄く反対していたのに、何で今になってやりだしてるんだよォ~。美香姉とか、知り合いがクローンになっているのを嫌がっていたのにさァ」


 みどりが渋い表情で言う。


「美学の問題で賛同できないと言っていたのに、あれは嘘だったのか、それとも気変わりしたのか……。さもなければ雪岡以外の奴の仕業かだな」


 真も頭の中で、みどりと同じような表情の自分を思い描く。純子はマッドサイエンティストでありながら、様々なポリシーが有り、自身にルールも課している。しかし一方で気まぐれであり、わりといい加減に変節する面もあるので、あまり深く考えても仕方ないような気もした。


「命を作り変えて弄ぶのは好きだけど、最初から弄ばれる前提で命が作られるのは受け付けないとか、そんなこと言ってたのにね~。これってさ、本当に純姉の意思なん?」


 いつだったか純子が口にしていた台詞を思い出すみどり。


「これは雪岡のポリシーに反する行為だよ。あいつのそもそもの行動原理は、生れながらの不幸を否定することで、全ての人間に、その不幸をはねのける機会を与えることだ。今もそのために動いて、世界を変えようとしている。そのために全ての人間が、超常の力を生まれつき備えるようにしている。でもこれは、それに真っ向から反しているじゃないか」


 矛盾にも程があると真は感じる。


(あるいは、僕に対するあてつけのために、やれることを全てやり尽くすつもりか? それも考えられる)


 いずれにしても、これだけでは終わらないと真は見ている。もっとろくでもないことを次から次にやってきそうな、そんな予感がしていた。


***


「美香、遊びに来たよ」


 美香が滞在しているホテルの部屋に、来夢と克彦が訪れる。来夢達も同じホテルに泊まっている。


「ふざけるなあーっ!」


 扉越しに美香の怒号を聞いて、克彦は身をすくめる。来夢はきょとんとしたが、やがてにやりと笑った。


「何か面白いことが起こったらしいね」

「面白くは無さそうだが……」


 期待を込めて言う来夢に、克彦は苦笑する。


「ど、どうぞにゃー……」


 七号が恐々と扉を開け、二人を迎え入れた。来夢達を恐れているのではなく、室内で荒れている美香を恐れているようだ。


「どうしたの? 美香」

「ちょっと……ただでさえオリジナルが荒れてるのに、天敵の来夢が来たら余計にバーサークしちまうって」


 来夢が室内に入って声をかけると、二号が寄ってきて、手でしっしっと出ていくように促す。しかし来夢も克彦も従わない。


「これだ!」


 憤怒の形相でホログラフィー・ディスプレイを反転させる美香。


「クローン・パートナー? 美香はもういっぱい持ってるのに何で怒るの?」

「馬鹿……来夢、そういうことじゃない」


 きょとんとした顔で尋ねる来夢に、克彦が顔をしかめる。


「美香は自分のクローンいっぱい作られてさ、その子達を回収して助けているんだから。純子はそれを知っていながら、こんな商売始めたんだ。それで怒ってるんだよ」

「その通りだ!」


 克彦の説明を聞き、美香が憤慨しながら頷く。


「ああ……そういうことか……。頭が回らなかった。ごめんね、美香」

「素直に謝るのは君のいい所だな! 来夢!」


 頭を下げる来夢に、美香は気をよくして褒める。


「別に謝らなくてもいいだろ~。そこまでうちの偏屈なオリジナルに気遣わなくていいって~。性格面倒すぎぎぎぎ」


 二号が揶揄している途中に、美香が二号の後ろに回ってスリーパーホールドをかけた。


「純子はいよいよ見境なくなったのかな?」

 十一号が言う。


「電話して直接聞いてみるにゃー」

「それは抵抗があるし躊躇いもある!」


 七号が促すと、美香は苦しげな表情で拒んだ。


「もし最悪の答えが返ってきたら、私は純子を許せなくなりそうだ!」

「美香ならはっきりさせたい性格かと思ったら、意外だな。もやもやしているよりはいいと思うよ」


 美香の言葉を聞き、来夢が意見した。


「俺は事情がありそうな気もするんだよな。何の根拠も無いけどさ。何もかも純子の思い通りってわけでもないだろうし」


 克彦が私見を述べる。


「そうか……そうだな……」


 声のトーンを落としてうなだれ、少しの間思案すると、美香は純子にメールを送って確認した。


『すまんこ……。私もこれには反対なんだけど……。事情があってね。全てが私だけの思い通りってわけにもいかなくてさ。美香ちゃんが怒るのもわかっていたし、止められるものなら止めたいから、やるならこっそり協力するよー』


 謝罪絵文字付きの返信を見て、美香は胸を撫でおろした。


「ちゃんと聞いておいてよかったですね」

 十一号が声をかける。


「うむ!」

 打って変わって明るい表情になって、美香が頷いた。


***


 市庁舎ビルの市長室に、市長の悶仁郎、純子、累、綾音、ネコミミー博士が集まり、件のクローン販売のCMを見ていた。全員浮かない顔だ。


「正直こいつは気色悪すぎるわい。接者はこの件についてはのーこめんととしておきたいのー」


 渋面で否定的な言葉を口にする悶仁郎。


「命を作り変えて遊ぶのは好きだよー? でも生まれた時点で弄ばれる前提な運命とか、そんなの嫌じゃない? 私だって生まれた時から色々ハンデあったし、そういうの嫌なんだよねー」

「そんな風に否定するなら、どうして踏み切ったんです?」


 純子の言葉を聞いて、綾音が不思議そうに尋ねる。


「フォルクハルト・ワグナー教授の要望なんだ。ドイツで最高最悪と言われるマッドサイエンティストの」


 答えたのはネコミミー博士だった。


「色んな人がここに集まっているしね。ネコミミー博士やミスター・マンジといった、マッドサイエンティストもかき集めたし。屋上のリオちゃんにも来てほしかったんだけどなー。ま、集めた人の分だけ、希望や野心がある。転烙市の文明の発展という名目の元に、それぞれが自分の研究を推し進めようとしている。これもその一つ。全て私が作ったわけでも無いんだ。」

「その中には、純子としては反対するような研究も含まれている、というわけですね。しかしそれを止めようとはしないのですか?」


 純子の話を聞いて、今度は累が不思議そうに尋ねる。


「ワグナー教授にはお世話になっているからね。彼の技術提供も十分に受けたから、私は真っ向から反対しなかった。それにしてもワグナー教授のこれは、私の目的と正反対で、生れてくる命を完全に縛り上げてしまうものだから、私としてはやめさせたいと思ってるよ? でもそれは、私がやるんじゃなくて、別の人達に任せたいんだよねえ」

「だっはっはっはっ、ようするに、願いを叶えさせる協力をして、いい所取りして、その後はポイというわけか。しかもその役目をPO対策機構に押し付けるつもりじゃな。其処許もワルよのう」


 悶仁郎がかんらかんらと笑う。


「ま、それだけじゃないんだよねえ。私的には反対だけど、色々思う所が有るんだ」


 純子がさらに持論を述べる。


「可能性。未知の領域への期待。変化。世界を変えるのなら、とことんやってみた方が楽しそうだなーとも思うんだ。ワグナー教授のクローン製作を私が嫌がってるのは確かだよ。でも、私一人のカラーで染めて、何もかも私の方針一つにまとめてしまうってのも、それはまたそれで違う気がするんだよねえ。抵抗を排して押し通してみた先は、案外悪い世界じゃないかもしれないよ? 実は面白いことになるかもしれない」

(僕と同じだ)


 こっそりと側で二次元化して聞いていたデビルが、純子の考えを聞いて共感を覚えた。平面化しているだけではなく、保護色で周囲の風景に溶け込んでいる。


(僕も最初は、この子が世界を作り変えようとすることは嫌だった。でも、今のこの世界は悪いものでもない。やる前に駄目だと、嫌だと思っていたことが、いざ実際にやってみて、そうでもなかったという事はある。停滞させずに、変化に挑戦する意義はある)


 かつてのデビルは純子の考え方に否定的であったが、今は非常に魅力的と受け取っている。


「それにさ、色々なプランを出して、期待させて盛り上げていくのも大事だしね。飛びっきりの本命は、祭り当日に発表する予定だよー」

(楽しみだ。さて……彼等の話は興味深いけど、僕もそろそろ動かないと)


 デビルは市長室を出て、電話をかける。


「犬飼、勇気は今どこに?」

『ははは、お前等トモダチになったって言ってたくせに、直接連絡も取らないのかよ。ちょっと待ってな。えーっと、今は宿泊先のホテルにいるぜ』


 犬飼から情報を聞き、デビルは移動を開始した。

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