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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
95 祭りの前に遊ぼう
3217/3386

6

 追っ手のPO対策機構の中で、来夢だけが知っていた。カワセミという色鮮やかな鳥が、実はかなり獰猛で、同種族同士で殺し合いになるまでの喧嘩を行うこともあること。そして優秀なハンターでもあることを。

 カワセミのことをよく知らない者達でも、その長く鋭い嘴を持った鳥が、明らかに敵意を孕んで飛来してくる姿を見て、危険であると察知する。


 正美が銃を撃つ。三羽を狙って三発撃ち、二羽を撃ち抜いたが、一羽はあろうことか、正美の銃撃を明らかに避けた。


 来夢が重力弾を落とし、さらに三羽のカワセミを落とす。地面に落下して、押し潰されてぺちゃんこにされる。


「ふん!」


 残った二羽のうち、一羽はオンドレイが手刀で両断したが――


「うぎゃーっ!」


 悲鳴があがる。最後に残った一羽が、PO対策機構の兵士の一人の喉めがけて突っ込んだ。嘴が根本まで刺さっている。


 克彦が影手を伸ばしてカワセミを掴もうとしたが、カワセミはそのまま兵士の体内へと潜り込む。兵士の喉から大量の血が噴水のように噴き上がる。まだ息はあるが、どう見ても致命傷だ。


「こいつはイメージ体ではないな。実体だ」


 自分が手刀で切断したカワセミの死体を一瞥して、オンドレイが味方に聞こえる声で言った。


 そのオンドレイの前に、青黒怪人化した勤一が迫る。


 勤一が連続で拳を振るうが、オンドレイはその巨体で軽やかにかわしていく。あげく、勤一の手首を掴んでしまう。


「せいっ!」


 かけ声と共にオンドレイが一本背負いで勤一を投げ飛ばし、アスファルトに頭から叩きつけた。その落とし方は明らかに、頭部と脛骨の双方に多大なダメージを与えるよう狙っていた。


 常人より遥かに強靭な肉体を持つ勤一には、そのどちらにも大したダメージは負うことはなかった。そのうえ強い再生能力も備えているので、オンドレイの攻撃は、勤一の動きを僅かの時間、止めたにすぎなかった。


 すぐさま立ち上がった勤一が、オンドレイに向かって反撃を行う。しかし当たらない。


(肉体が強化されていても、格闘技術で全く及ばないから当たらない……。当たる気がしない。おまけにこのおっさん、デカいのに異様に速い)


 近接戦闘では自信があった勤一であったが、自分を遥かに凌駕する力の持ち主と相対し、その自信が戦慄へと変わっていた。


 先にオンドレイの一撃をもらう。勤一の顎に、オンドレイのアッパーがクリーンヒットして、勤一は膝から崩れ落ちる。勤一の強靭な肉体をも突き抜ける衝撃が、脳にまで響いた。


 動きが止まった勤一に、オンドレイが渾身の蹴りを繰り出す。大きくのけぞった格好で吹き飛ばされる勤一。

 勤一のダメージはそれほどでもない。そしてすぐに回復する。ダメージ面では心配もしていない。だが、勝機も見えない。


(このおっさん、俺のように再生能力や肉体強化がなされているかどうか、わからないが、もしそれらが無い生身なら……いい所に一発でも当てられれば、それで俺の勝ちだ。しかし……その一発が遠い。持久戦に持ち込むか? だがこのおっさんも切り札があるかもしれないし、一対一の戦いをずっと続けられるわけでもない)


 ダメージがある風を装いながら、勤一はゆっくりと身を起こす。その間に、高速で頭を働かせる。


(いちかばちかだ)


 オンドレイ一人との戦いを長引かせるわけにはいかないと思い、勤一は勝負に出ることにした。


「さよならパーンチ!」


 勤一がイメージの巨大な拳をオンドレイめがけて放つ。


(何とも酷いネーミングの技だな……)

 苦笑しかけるオンドレイ。


「ふんっ!」


 オンドレイは避けることもせず、口をへの字に曲げて一声発すると、片手をかざす。巨大な拳がオンドレイの前で霧散する。


 呆然とする勤一。気功を用いてイメージの拳を打ち消したオンドレイが、そんな勤一の顔を見て、にたりと笑う。


「勤一君!」


 恐怖に固まりかけた勤一であったが、凡美の声によって気を取り戻した。


 間合いを詰めたオンドレイが、拳を放つが、勤一は路地裏の壁にへばりつくように体を横にして避けた。オンドレイの一撃を避けたというより、後方から飛んでくる攻撃を避けた。


 凡美が飛ばした棘付き鉄球が、人の頭よりも大きいサイズに巨大化し、オンドレイに迫る。


「むんっ!」


 あろうことか、オンドレイは両手の人差し指と中指で棘を挟んで、棘付き鉄球をキャッチしてしまう。これには凡美も一瞬呆れたが、すぐに気を取り直す。


「ん……? あちちちちっ!」


 棘付き鉄球が急激に熱され、炎に包まれたので、流石のオンドレイもたまらずに、悲鳴をあげて鉄球を放した。


 PO対策機構、転烙ガーディアンの他の兵士達も、遠隔攻撃系の能力を多少は飛ばし合っているが、通路が狭いため、攻撃できる人数は限られている。そして最前線でやりあっているオンドレイと勤一が、それらの攻撃を受ける事になるが、二人にはほとんど通じていない。

 転烙ガーディアンが追い詰めていたPO対策機構の偵察部隊は、遠巻きに様子を伺うだけで、手出しをしようとはしない。彼等は戦力的に心許なかった。


「ちょっ……何これ……」


 一方、オンドレイの後方では、正美が目の前で起こった現象を見て、顔を青くしていた。


 カワセミに攻撃されて果てたPO対策機構の兵士の屍の中から、大量のカワセミが次々と生えてきたのだ。そして血肉のこびりついた翼を広げ、羽ばたき、血飛沫を撒き散らしながら舞い上がる。


 エンジェルと正美が銃を撃ち、次々と撃ち落としていくが、数十匹にまで増えたカワセミには、焼石の水の様相を呈していた。


「多分、殺した相手の肉を利用して増殖する。あるいは殺さなくても、カワセミに触れられたら、肉がカワセミ化するのかも」


 来夢が憶測を述べる。


「もしそうなら脅威ですよ! 触られただけでもおしまいじゃないですか!」


 ブルーハシビロ子となった怜奈が叫ぶ。


「だよね。だから怜奈があのカワセミを必死に食い止めて。怜奈の体は肉じゃないし」

「わ、わかりました……」


 来夢に促され、若干鼻白みながらも応じる怜奈。


「カワセミの群れvsハシビロコウ! 夢の対決! 参ります!」

「別に全然ドリームマッチじゃないし」


 増殖殺人カワセミの群れの前に出て、威勢よく叫んでポーズをつける怜奈に、来夢が冷めた声で否定した。


 怜奈がカワセミめがけて手刀を切り、刃と化したバイザーで切り裂こうとするが、カワセミ達には全く当たらない。逆にカワセミ達が怜奈めがけて突進して、嘴を突き刺していく。


「うぎゃっ!」


 何匹ものカワセミにたかられた状態の怜奈が、カワセミ達と共に地面に押し潰された。来夢がまとめて重力で攻撃したのだ。


「怜奈、引き付け役御苦労様」

「ひ、ひど……い……」

「本当酷いよ。いくら怜奈の体が人形だからって、仲間を何だと思ってるんだい」


 にっこりと笑う来夢を、怜奈が恨めしげに睨み、マリエも溜息をついていた。


「俺は悪だから酷いのは仕方ないよ。でもこれが最も効率的。いや、これこそが最適解だから、これは悪とも言えないかな」

「いいえ……私にとっては間違いなく悪です」


 来夢が上機嫌に喋ると、怜奈が地面に突っ伏したまま恨めしげに呻く。


「ねね、私が撃ち落としたカワセミも再生して復活してるんですけどー。信じらんない。こんなのあり? 駄目だよね? 絶対やめてほしい」


 正美の台詞を聞き、来夢達は撃たれて落下しているカワセミの一匹に目を落とした。頭を撃ち抜かれたカワセミが蠢き、肉が盛り上がって傷が塞がり、また飛び立つ光景を目の当たりにする。


「肉さえあれば、増殖も再生も可能みたいだね」


 マリエが呟き、カワセミを操る能力者である一華に視線を送る。


「カワセミは無視して、能力者を仕留めることが最善だと、天使が囁いている。しかし確実に仕留めるためには、二人がかりがいい。マリエ、先に一体だけ早めに出して。あいつのね」


 エンジェルがマリエの方を向いて告げる。

 マリエは小さく頷き、一華を見つめたまま身構える。


 エンジェルが一華めがけて銃を撃つ。


 次の瞬間、一華の額の中心に穴が開いた――かに見えた。

 一華の額から肉が盛り上がり、胴体に穴が開いたカワセミが現れたかと思うと、地面に落ちる。一華の額の穴は無くなっている。一華は自分を撃ったエンジェルに視線を向け、へらへらと笑っている。


「天使の身代わりか」


 エンジェルが銃を片手で構えたまま、空いた手でサングラスを押し上げながら呟く。自分の体からもカワセミを生み出し、あげく受けたダメージを肩代わりさせることも可能であることを示した。


「え?」


 不穏な気配に気づき、一華の顔から笑みが消える。


 振り返り、さらに上を見上げる一華。その表情が引きつる。


「うげっ!」


 上から降ってきたものに両足を押し潰されて、一華は悲鳴を上げて倒れた。避けようとしたが避けきれなかった。そして攻撃してきたものの質量が大きすぎて、ダメージを食らう範囲も大きすぎて、カワセミにダメージの肩代わりさせることも出来なかった。

 一華の両足を押し潰しているのは、一華と同じ姿の石像だった。エンジェルに気を取られている隙に、マリエが一華の側に出現させて、背後から攻撃したのだ。


「一華!」


 凡美が叫び、棘付き鉄球をさらに巨大化させて、一華を潰している石像めがけて繰り出す。石像が粉々に吹き飛ぶ。


「へっ……へへへっ、やってくれたねえ。面白いじゃない。でも仕留められなかったのは抜けてるね」


 倒れたまま、全身から脂汗を噴き出しながらも、一華は不敵に笑う。両脚は見るも無残に潰されている。粉砕骨折により、骨があちこちから飛び出している有様だ。


「そろそろいけるよ。一斉にね」

 マリエが告げる。


(狭い路地裏が幸いしている。戦闘している人数は限られている。それがこちらにとって有利に働いているな。そしてマリエの能力が本格的に発動すれば、一気にこっちペースだ)


 亜空間トンネルの中から様子を見ながら、克彦が思う。


「キャーッ!」

「キャンキャンキャンキャン!」


 突然、転烙ガーディアンが陣取っている後方から、女の悲鳴とけたたましい犬の鳴き声があがる。

 犬と犬を散歩している中年女性が、カワセミに襲われている。犬も中年女性もすぐに殺された。


「補充、補充」


 脚を潰されて倒れたままの一華が嬉しそうな声をあげる。潰れた脚は、少しずつ再生している。


 通行人と犬の肉がカワセミへと変化し、また大量のカワセミが飛び立った。


 正美とエンジェルが銃で、来夢が重力弾で、克彦が影手で、必死にカワセミの群れを迎撃する。一匹でも通して、一人でも殺されたら、そこからまた大量にカワセミが増えてしまう。


 四人で必死にカワセミの来襲を防いでいる、その時だった。


 狭い路地裏の地面から、何体もの石像が生えてくる。それらは全て、転烙ガーディアンの兵士達の姿を模っている。


 石像達が跳びはね、転烙ガーディアンに襲いかかる。大勢の兵士が石像に押し潰される。大怪我を負った者もいれば、致命傷を負う者も、即死する者もいた。


「な……」


 自分に向かって落ちてきた自分の石像をあっさりと砕いた勤一は、後方の惨状を見て絶句した。


 石象の対処で大わらわになった所に、正美とエンジェルの銃撃が降り注ぎ、石像の攻撃を凌いだ者も、次から次へと倒されていく。


「逃げた方がいい!」


 巨大棘付き鉄球を振り回して石像を破壊しまくりながら、凡美が叫ぶ。


「撤退!」


 勤一が叫び、オンドレイに背を向けて走り出した。転烙ガーディアンの面々も一斉に逃げ出す。

 PO対策機構の偵察部隊は道を開ける。一切手出しをしようとはしない。そして転烙ガーディアンの面々も、彼等に手出しをせずに、横を素通りしていく。


「ここは孫氏の教えに従っておくか」


 オンドレイが口髭をいじりながら呟く。余計な追撃をすれば敵も死に物狂いになって反撃するので、見逃した。


「あー、楽しかった」

 勤一に拾われて抱えられた一華が、笑顔でのたまう。


「怒りで世界を燃やせばより楽しい、か」


 一華の台詞を聞き、勤一はふとデビルの台詞を思い出し、呟いていた。


「無関係の通行人に犠牲出しちゃったよ。あいつら酷いよね。私は酷いと思います。あいつら市民を犠牲にするのに、ガーディアン名乗るとかおかしくない? おかしいよね。頭にきちゃう。もう本当ぷんぷんだよ」


 カワセミに襲われた中年女の血痕と服を見て正美が憤慨する。亡骸はほとんど残っていない。全てカワセミになった。


「関係者の救助が出来たから上々な結果だよ。無家計な人も死なせたくは無かったけど、積極的に殺したのはあいつらだ。俺達に罪は無い」


 心なしかせせら笑うように、来夢が言い捨てた。

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