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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
95 祭りの前に遊ぼう
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5

 転烙市某所にて、真、勇気、鈴音、犬飼、新居、チロン、史愉、男治、優によってミーティングが行われていた。転烙市に潜入したPO対策機構のトップ会議といったところだ。


「今、市内で祭りの準備をしている場所複数を特定し、偵察している最中だ。どの程度の規模か、警備はどのくらいかも、それぞれ把握を急がせている」


 新居が状況を伝える。


「んで、祭りの準備をしている場所を襲う陽動部隊の割り振り――編成案を模索中だ。本命である赤猫電波発信管理塔の急襲部隊はすでに考えてある」

「バックアップに急行できる遊軍も手配しておいてくれ」


 新居に向かって、真が要求した。


「こいつは許せねーなー。それはお前に言われるまでもなく手配するつもりでいた。真のくせに余計な口挟むな」


 新居が真を睨むが、真は無視した。


「その遊軍は俺達とスノーフレーク・ソサエティーを担当にしろ」


 勇気が尊大な口調で要求する。いや、要求というより命令だ。


「意外だな。てっきり赤猫電波発信管理塔の襲撃部隊にしろと、要求してくるかと思った」

「俺のこと何だと思っているんだ」


 新居の言葉を聞いて、勇気はむっとする。


「いつも自分がこの世の中心にいなくちゃ気が済まないような、そんな発言ばかりしているわりに、謙虚だなと思った。喜べ。褒めてやっているんだ」

「どんな役割をこなそうと、サポートやバックアップを務めようと、俺が主役であることに変わりは無いんだ。だから役割にこだわらなくてもいい」


 煽りと嘲りたっぷりの口調で告げる新居に、勇気は傲然と言い返す。


「私は陽動部隊がいいですね~。出来るだけ激戦地の。そうすればサンプル回収もできますし。あ、敵を実験台として確保はオッケーでしたよね~? えっへっへっへっ」

「相手による。要職にいる奴を捕まえたら、そいつには手出しをしない方がいい。交渉や情報収集など、色々使い道があるからな」


 男治が確認すると、新居が釘を刺した。


「とほほ~。ではそういう相手じゃない人を捕まえるよう努力します~。そういう人は、殺しちゃってもいいですよね~」

「そういう問題じゃないと思いますう」


 肩を落とす男治に、優が突っ込む。


「はん、ここにはろくな奴がいないぞー。ぐぴゅう」

「お主が言うか」


 史愉がせせら笑うと、チロンが突っ込む。突っ込んでから、以前も同じ台詞で突っ込んだ気がした。


「偵察部隊の一つが襲われているという報告が入ったぜ」


 犬飼が報告する。


「追い詰められているみてーだぜ。救援要請出してるわ」

「間抜けは見殺しにしとくといいぞー。救援なんて差し向けたら、余計に被害広がる可能性あるぞー」


 史愉がへらへら笑いながら憎まれ口を叩くが、全員黙殺する。


「少数精鋭で助けを向かわせる。使いで来たオンドレイ・マサリクと鳥山正美、それにプルトニウム・ダンディーを助っ人に向かわせろ」

「何でお前が出しゃばって命令するんだ。それは俺の役目だ。でも真の言う通りにしろ」


 真が命じると、新居が不機嫌そうな口調で言った。


 ふと、真は勇気に視線を向けた。


(どうも変だな。普通に喋っているけど、喋っている時以外は、心が離れているような。それに……いつもはもっと存在感あるのに、今は小さく見える。何かあったのか?)


 勇気の様子がどこかおかしいことに、真は気にかけていた。


「どうかしたのか?」


 ミーティングが終わり、解散した所で、真が勇気に声をかけた。


「何でもないと言ってるだろ」


 うるさそうに返した勇気の言葉を聞いて、真はますます不審がる。


(僕は初めて声かけたのに、その言い方はおかしいだろ。他の誰かにも同じことを言われていて、しかも僕と他の誰かと一緒くたにしてしまっている)


 かなり精神的にきていると、真は見なした。


「そうは見えない。随分と深刻な問題があったと見える。話せよ」

「強引な奴だな」


 引こうとしない真に、辟易とする勇気。


「勇気とはまた少し違う強引さだよね」

「鈴音のくせに生意気なこと言うな。罰だ」


 鈴音の言葉にかちんと来て、勇気が鈴音に手を伸ばしたが、鈴音は珍しく勇気の手を避けた。


「勇気、真には話した方がいいと思うんだよね。政馬にもだけど。真は信じていいし、力になってくれそう」

「そうか」


 鈴音の意見を勇気は聞き入れることにした。


 それから勇気は、美咲のこととデビルのことを真に話す。


「俺に喧嘩を売るためだけにあんな真似をした。俺は絶対あいつを許さない」

「事情はわかったが、お前がそんな精神状態になることを見越して、そういう真似をしたんだ。まんまと乗せられているぞ」

「わかっている。気を付ける」


 真に諭され、勇気は真っすぐ真を見返して静かに認める。


「ありがとうね。真。勇気に声かけてくれて」

 鈴音が勇気に代わって、微笑みながら礼を述べる。


「お前はいちいち余計なこと言い過ぎだ。罰だ」

「痛い、痛いって勇気」


 勇気に瞼を引っ張って捻じられ、鈴音し悶えた。


(なるほど、御褒美なのか)

 その光景を見て、真は理解した。


***


 転烙ガーディアンの能力者達は、PO対策機構の偵察部隊を追跡していた。


 それは勤一と凡美と一華にとっての、転烙市に入っての初仕事となった。敵の数は少数で、逃げの一手を打っているが、油断はしない。


「完全に逃げ切ろうとはしていない動きだ」


 裏路地を逃げる数人の集団を走って追い回しながら、勤一が一緒に走っている転烙ガーディアンに向かって声をかける。


「そうだな。援軍待ちで、カウンターを仕掛けるつもりだろう」


 転烙ガーディアンの一人が言う。


「んで、味方はわりと近くに来てるんだと思うわあ」

 最後尾を走り、後方をチェックしながら一華が言ったその時、一華の視界内に、大勢の人間が曲がり角を曲がってこちらに向かって走ってくる姿が映った。


「はいはい、来たよ来たよ~」


 一華が弾んだ声をあげ、懐の中に片手を突っ込む。転烙ガーディアンの面々も後方を振り返る。


 逃走していたPO対策機構の偵察部隊が足を止めた。追跡している転烙ガーディアンも停止する。そして後方に現れた者達も足を止めた。後方に現れた者は明らかに勤一や凡美達に敵意を向けている。彼等がPO対策機構の援軍であることは疑いようがない。


「挟み撃ちにされちゃう格好になったわね」


 凡美が不敵な笑みをたたえる。危機感はあまり無い。それどころかこの状況を楽しんでいる。


「ヤバい奴が何人かいるぞ……」


 元裏通りの住人である転烙ガーディアンの一員が、後方から現れた追っ手を見て呻いた。


「あれが転烙ガーディアンとやらか。中々いい面構えをしている。それなりに精鋭を揃えているようだな」


 追っ手の中で最も目立つ白人男性が口を開く。何しろ2メートルを超える身長の上に、胸もブ厚く肩幅も広い。縦にも横にも奥にも大きい、まさに巨漢という言葉がぴったりと来る男だ。そのうえ顔つきも厳つい。


「あの男には特に気を付けた方がいい。オンドレイ・マサリク・『超常殺し』という呼び名で呼ばれている、世界的に有名な殺し屋で、その名の通り、超常の力を持つ者を専門に――」

「もう殺し屋はやめたっ。今では始末屋だっ」


 解説する転烙ガーディアンの声が聞こえていたオンドレイが、声をあげて訂正する。


「はっはー、どんだけ耳いいんだよ、あのおっさん」


 一華が笑う。解説していた男の声はどう考えても、仲間の転烙ガーディアンのいる場所程度にしか届かない音量だった。


「あの子何で裸……。しかも飛んでいるし」


 背中から板と布のような翼をそれぞれ一対ずつ生やして、全裸で浮いている子供――来夢を見て、転烙ガーディアンの一人が唸る。


「あいつら、ここまで来たのか……」


 来夢達プルトニウム・ダンディーの面々を見て、勤一の顔が怒りに歪む。西に逃げる際にやり合った事を思い出す。


「狭い通路で追い込んだ状況なら、マリエの能力が活きそうだ」

「いや……逆だよ。あたしの石像は地面から生やすもんだけど、生やすスペースの間隔をある程度確保出来ていないと、同時に生やすことはできないんだ。それに地面がアスファルトだから、少し時間かかっちまう」


 空に浮いたまま来夢が言うと、来夢の下にいるマリエは、渋い表情でかぶりを振った。


「単体ならすぐに生やせるし、沢山の石像を生やしたら、狭さが活きるとは思うけどね」

「つまり天使が降臨する時間を稼げばいいという事だな」


 マリエが付け加えると、エンジェルがにやりと笑う。


「鳥山正美もいる」

「それにプルトニウム・ダンディーの連中も。あの組織は全員能力者だと聞いた」


 裏通りに通じている転烙ガーディアンの兵士達が囁き合う。


「狭い中で大人数での戦闘とか面倒。戦える人数は限られちゃうからね。そして最初に前に出た人から犠牲になる率高い。私女だけどこういう場所での戦闘は好ましくない。むしろ頭にきちゃう」

「えー? 女云々関係あるんでしょうか?」

「彼女にそれは突っ込まないのが天使のお約束だ」


 正美が文句を口にすると、怜奈が突っ込み、エンジェルが電子煙草を取り出して咥えながら言った。


「俺はこっちを担当する。援護してくれ」


 勤一が手強そうな援軍達の前に進み出て、変身する。


「ほう」


 全身青黒い肌へと変わり、筋骨隆々の体になって、鬼のような形相になった勤一を見て、オンドレイが面白そうな声をあげた。


「援護ぉ? ま、それでもいいけど、あたしが全部食っちゃうのもアリだよね」


 一華が言いつつ、懐に突っ込んだ手を抜いた。一華の手から何かが放たれ、飛翔する。

 放たれた時点では一つだったそれが、空中で分裂し、七つ――いや、七羽へと変わる。


「カワセミ?」


 飛んでくる七匹のカワセミを見て、亜空間トンネルの中に潜んでいる克彦が呟いた。

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