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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
95 祭りの前に遊ぼう
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2

 熱次郎、ツグミ、伽耶と麻耶の四名は、白昼堂々と転烙市の市街地を歩いていた。根人の監視網である寒色植物も気にしていない。伽耶と麻耶が見つからないように魔術を施している。


「真先輩がいないとちょっと不安だなー。女子ばかりで敵地にいると超不安。エロいことされるフラグとしか思えない」


 ツグミが歩きながらそんなことを口走る。


「その脳みそどうにかした方がいい」

「エロ小説読みすぎ」

「俺は男なんだが」


 伽耶、麻耶、熱次郎が続け様に突っ込む。


「いや、読んでいるだけじゃなくて書いてもいるもんっ」

『余計悪いアピール』


 ツグミが主張すると、姉妹が同じ台詞を口にする。


「ただ、真がいないと心細いのは確か。精神的支柱感はある」

「私は別に」


 麻耶が寂しそうに言うと、伽耶がシラけた顔で言った。


「俺だって相当戦闘力あるし、真がいなくても……」

 不満げな表情で熱次郎。


「おっ、熱次郎君が妬いてる~」

「熱次郎は可愛い弟枠」

「少し生意気なマスコット」


 それを見てツグミが冷やかし、伽耶は温かい目でフォローし、麻耶は思ったことをそのまま口にした。


「可愛い……か。この見た目は、純子に作られたものなんだぞ」


 熱次郎が表情を曇らせて打ち明ける。容姿についてあれこれ言われると、例え肯定的なことでもあまりいい気がしない。かつての自分を思い起こしてしまう。


「俺は元々は酷い姿だった。とんでもなく醜かったんだ。色んな薬品を投与されて、実験台にされて、酷い仕打ちをいっぱい受けたせいで、体の骨が大きく歪んで、イボだらけになって、肌はたるんで……」

「熱次郎君……」


 喋っている間に次第に声を震わせる熱次郎のことを、ツグミが横から抱きしめる。


「似た者同士で集まってる感」

「強い負を抱えし者達」


 揃ってしみじみと言う伽耶と麻耶。


「あー、ちょっとちょっといいかなー? いいよねー?」


 そんなしんみりムードの四人に、空気を読まない何者かが声をかけた。声のかけ方からして、相手の都合など全く斟酌しない強引さだ。


「君達、能力者だよね。しかもかなり強い。ああ、君はぶち抜き転烙アリーナで硝子山悶仁郎市長と戦った子じゃない。あの戦い、すごかったね。PO対策機構の子だっていう話だけど」


 早口でまくしたてるその壮年の男は、やたら顔がでかく、少し脂ぎっていた。目は大きく見開かれてギラついており、口元には笑みが張り付いているが、どこか歪な笑みだ。


「私は転烙ガーディアンの浜谷湯吉という者だ。昨日から組織された転烙ガーディアンは、転烙市を護る能力者組織だ。もう知っているかな?」


 一方的に話しかけてくるその男に、四人共引いてしまう。


「押しが強い。圧かけまくり」

「こっちが何人いてもお構いなくぐいぐい来る。目キマってるし」

「特に熱次郎君が狙われてない?」

「え? どうしてそう思うんだ?」


 伽耶、麻耶、ツグミがそれぞれ言い、熱次郎は未だ自分を抱きしめたままのツグミの台詞に対し、疑問を口にした。


「目がキマってるは流石に傷つきますね……」


 麻耶の台詞に反応して、苦笑いを浮かべる浜谷。


「実際喋っている時の目つきがヤバいって」

「この手の人種の特徴の一つ。腰痛屁でもよく見る。腰痛バーにも多い」


 伽耶が麻耶に同意し、麻耶はかなり偏見の入った私見を述べる。


「人聞き悪いなあ。いや、確かに昔セールスマンしていたから、その時の癖出てたかなー。あはは」

「それでまた同じことしてるのか……」


 浜谷の言葉を聞き、熱次郎は納得した。


「天職だと思っていますね。で、どうかな? ね? 考えてみてくださいよ」


 さらに浜谷がぐいぐいと押してくる。


「私達が市長と戦ったことも承知のうえで勧誘するの?」

「PO対策機構側とわかっていながら勧誘。どんだけ節操無いのって話」


 麻耶と伽耶が呆れる。


「まずお伺いしてみよー」

 ツグミが言い、真に電話をかけた。


「先輩、私達四人、転烙ガーディアンに勧誘されたから、ちょっくら入ってみたーい」

『伽耶と麻耶もいるんだろう? あの二人は硝子山との戦いで、ここでは有名になってしまっているから、知っているだろうに』


 ツグミの確認に対し、真がもっともなことを告げる。


「それも織り込み済みで勧誘された」「マジで節操の無い勧誘」


 姉妹がツグミに顔を寄せて、電話の向こうの真に話しかける。


『ぽっくり市のノリで敵の内情を探るつもりかもしれないけど、その勧誘が罠という可能性もあるぞ』

「だーいじょぶだってー。私と伽耶さんと麻耶さんのトリオプラスアルファだよ? 大抵の相手には負けやしないってー」

「俺はプラスアルファか……」


 ツグミの台詞を聞いて、ツグミに抱かれたまま肩を落とす熱次郎。


「この前は皆して負けたけど」「皆で仲良く捕まったのもう忘れてる?」


 麻耶と伽耶が同時に突っ込む。


『わかった。僕も後で合流する』

 了承する真。


「ああ、そだ。気になっていたんだけど、みどりちゃんはどしたのー? 全然顔見ないし、裸淫でも反応無いし。ちょっと心配」

『心配しなくていい。あいつには単独で動いてもらう方針にした。僕達がピンチになったら、風車のヤシーチのように助けに馳せ参じる役目だと思っていればいい』


 ツグミの質問に真が答えたが、風車云々に関しては誰も知らなかった。


***


 数分前。真の前には新居、犬飼、義久がいる。

 四人は赤猫電波発信管理塔襲撃プランについて話している最中だ。


「戦力を集中して、短期間で防衛網を突破して、管理塔を制圧。できれば破壊したい」

「電撃戦か」


 新居が言うと、真が一言呟く。


「何もかも手探りで、上手くいく保障が無い。最も不安な部分は、管理システムの中枢破壊――もしくはシステムダウンを、どうやって行うかだ。爆弾仕掛けて吹っ飛ばして済むかと言われても、わからないとしか言いようが無いしな。そしてあれこれ試すには時間が足りない」

「それでもあれこれ試す必要はありそうなもんだがね。システム中枢の破壊を、一発でスムーズにいける保障は無いだろ?」


 新居の話を聞き、犬飼が意見する。しかし現時点で犬飼は、システム中枢破壊に適任と思われる人物が思い浮かんでいた。ゆるふわ毛のあの少女のことを。


「こちらの能力者で、こと破壊に関して最大限に力を発揮できる奴を起用したいな」


 と、新居。


(僕の前世の力はそれなりに有効だな。でも人前で出したくはない)


 そう思う一方で、真は一人の少女が真っ先に思い浮かんだ。


「優の消滅視線は?」

「有力候補の一つだな。ただし、消滅させられる範囲ってもんがあるから、システム中枢まで辿り着かないと駄目だな」


 自分と同じ人物の名を真っ先に挙げてきた真に、犬飼は嬉しい気分になりながら念押しする。


「消滅視線とか名前聞いただけで恐ろしげな能力だとわかるな」


 しかもわかりやすいと、義久は思う。


 真に電話がかかってくる。断りを入れずに取る真。相手はツグミだった。


「風車のヤシーチのように助けに馳せ参じる役目だと思っていればいい」


 ツグミの要求を了承したうえで、最後にそう告げて電話を切る。


「僕の仲間が転烙ガーディアンに勧誘されたから、入りたいとのことだ。許可した。僕も中に入って探ってくる」

「おいおい……」

「そいつはいいな」


 真の報告を聞いて、義久は苦笑し、犬飼は面白そうに微笑んだ。


「どう見ても罠臭くないか? 罠でなかったら、敵である君等を受け入れるわけがないだろ」


 と、義久。


「俺もそう思うけど、そんな選択を息を吸って吐くようにするのも面白いな。若さの勢いって奴かねえ」


 と、犬飼。


「罠なら罠で、罠を仕掛けてきたことを逆に利用してやる」

「という、真の性格を見込んだうえで仕掛けてきた罠とも考えられる」


 真が言うと、無表情に聞いていた新居が釘を刺すかのように言った。


「僕というよりあついらが決めたことだぞ」

「まあいいんじゃないか。最初からお前はそういうノリでここまでやってきたんだ。常に最前線――どころか敵陣の中に真っ先に入っていくスタイルだ。それがまた続くだけだろ」


 真が言うと、新居は相好を崩した。


***


 勇気と鈴音は転落幻獣パークを訪れた。

 二人はある人物と出会い、伝えたいことがあった。目当ての人物は、いつも転烙幻獣パークにいるという事だけは知っている。


 目当ての人物――真っ白な魔女の服を着た少女は、すぐに見つかった。白禍ホツミである。


「嘘……でしょ?」


 勇気から伝えられた言葉を聞き、ホツミは目を大きく見開き、固まっていた。


「本当だ。美咲が殺された理由は、ただの当てつけ――いや、挑発だ。デビルという奴が、俺を敵視して、そのためだけに殺した」


 硬質な声で淡々と告げる勇気。


 鈴音は勇気の横で唇を噛みながら、勇気の腕を掴み、強く握りしめていた。勇気はそんな鈴音の所作を咎める事も無い。


「連絡できるようにしてくれ。何かあったらすぐ報せる。どう動くかは任せる」


 バーチャフォンを取り出して要求する勇気だったが、ホツミは細かく震えながら泣きそうな顔になったまま、応じようとはしない。


「勇気……」

「わかった」


 鈴音に声をかけられ、勇気は小さく息を吐き、ホツミが少し落ち着くのを待った。


「ありがとう。教えてくれて。それに色々と気遣ってもくれて……」

「ああ」


 ホツミがショックから少し回復して声をかけると、勇気は無表情に頷く。


「あのね、勇気君は悪くないよ。そんなの勇気君が悪いわけない。気に病んじゃダメだよ」


 勇気も相当落ち込んでいると見て、ホツミが柔らかい声で訴える。


「そんな慰めはいらない。お前も俺の立場なら、自責の念に駆られるはずだ」


 つっけんどんともとれる口振りで言い捨て、勇気はホツミに背を向けて歩き出した。


「ごめん、ホツミちゃん。勇気、あんな言い方してるけど……」

「わかってるー。大丈夫だよ」


 鈴音が申し訳なさそうに言うと、ホツミは力なく微笑んでみせた。

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