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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
95 祭りの前に遊ぼう
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 巨大黒マリモ騒動から三日が経った。


 PO対策機構は赤猫電波発信管理塔破壊計画を煮詰めていた。グリムペニス、裏通り、政府関係のトップがそれぞれ集い、連日ミーティングを行っている。


「東京から援軍もそこそこ来てくれたが、あれじゃ戦力的には心許ないぞー」

「少数精鋭だぜ。名も知れて、実績もある連中が来てくれた」


 文句を垂れる史愉に、新居が告げる。


「もう三日も経つけど、動かないんですかあ?」


 政府関係の代表としてミーティングに初出席した優が、疑問をぶつける。


「動けない、が正しい。赤猫電波発信管理塔の攻略は確かに当面の目的だが、それだけやっているわけでもねーし」


 犬飼が苦笑気味に答えた。


「赤猫電波発信管理塔の調査も終わってはいない。幽体離脱できる能力者に探らせているが、ガードがキツくて難儀してんだとさ。それ以外にも、奴等が企てている祭りとやらに関しても探らせている。そして祭りに関して探っていると、やっこさんらにそれとなくわからせようとしている。ようするに――こっちは赤猫電波発信管理塔の破壊を計画しているが、そっちから目を逸らさせるための工作をしている最中だ。祭りの調査と妨害を企てていると見せかけて、注意を惹いている最中に、赤猫電波発信管理塔を急襲する陽動作戦だ」

「なるほどぉ。今はその下準備をしているわけですかあ」


 新居に解説され、優も納得した。


「こちらの動きを悟られないように、細心の注意は払っている。しかしこの陽動作戦に簡単に引っかかってくれるかどうか、怪しいけどな。何しろ相手はあの純子だ」

「ぐぴゅ。気に入らないけどその通りだぞー」


 新居の言葉を聞いて仏頂面になる史愉。

 史愉は純子とは何度もやりあった間柄なので、その厄介さは熟知しているつもりだ。一方で新居や優からすれば、純子は師にあたるので、一筋縄ではいかない相手だという事も重々承知している。


「ちょっとニュースつけますね~」


 男治が断りを入れ、ホログラフィー・ディスプレイを特大サイズで投影した。


『夕方の転烙市ニュースです。本日は硝子山悶仁郎市長にお越しいただきました。硝子山市長より、重大な発表があるそうです。硝子山市長、よろしくお願いします』

『転烙市に住まう皆の衆、息災かな? 本日は嬉しき報せを聞かせてしんぜよう。一週間後に転烙市は、とてもとてもだぃなみっくでふあんたすてぃっくではっぴいでぐれぇとないべんとを執り行う。人の世のひすとりーに名を残す、一大すぺくたくるとするつもりじゃ』


 悶仁郎がニコニコ顔で喋る。


「無理して横文字使っている感が凄いのう」

「横文字の時点でイントネーションが絶妙に歪になりますねえ」


 画面を視て、チロンと優が言った。


『この祭りは、転烙市の新たな門出を祝うものじゃ。そして転烙市が世界の最先端であることを高らかに宣言する。まだ超常の力を得ていない者には、新たな力を授ける。すでに力を得ている者は、さらに力を強めるちゃんすともなろう。さらに、転烙市は新たなてくのろじぃを提供し、ここでの生活はより素晴らしいものになる。さらに……おっと、今はまだ言えぬことがあるな。まあ、さぷらいずを楽しみにしておれ。祭りの名は転烙魂命祭。日時は一週間後じゃ』

「とうとう公表したか」


 犬飼がにやにやと笑う。


『なお、現在転烙市にはPO対策機構が大量に入り込んでおる。彼奴等は転烙市に仇なす者共。彼奴等を掃滅するため、そして一週間後の転烙魂命祭をつつがなく執り行うために、我々は転烙ガーディアンという組織を作った。転烙市を護るために戦いたいという有志は、集うがよいぞ』


 悶仁郎が不敵な笑みをたたえて告げると、映像がアナウンサーに切り替った。


「祭りの妨害工作をフェイクとして、本命は赤猫電波発信管理塔の破壊とは言いますけど、実際この祭りも防がないと駄目ですよねえ?」

「そりゃそうだ。市民を養分にするだの生贄にするだの、区車亀三が何かヤバそうなことを口にしていたからな」


 優が確認すると、新居が神妙な面持ちで言う。


「区車亀三の情報を鵜呑みにするわけじゃないが、硝子人を操る力を用いて、硝子人から得た情報であるなら、信憑性は高いと見ていい。ま、全て区車亀三の妄想だったっていうオチも考えられなくもねーけど」


 例え振り回される形であっても、そんなオチであった方がありがたいと、喋りながら新居は思う。


「希望的観測じゃろ。ワシの見立てでは、区車亀三の言葉は真実じゃ。大抵悪い方が当たるもんじゃしの」

「あるいはさらに斜め下の展開になるかだな」


 チロンが真顔で言い、犬飼がにやけ笑いを浮かべたまま付け加えた。


***


 原山勤一と山駄凡美が転烙市に入ったのは、つい昨日のことだ。

 昨日は情報収集で半日潰した。PO対策機構と転烙市が激しくやりあった事も知った。


 二人が転烙市を訪れるのに時間がかかった理由は、道中でサイキック・オフェンダー同士の争いに巻き込まれたからだ。勤一と凡美はその一方に加担していた。


「先に転烙市に入った一華ちゃんから、色々と情報送られてくるのはありがたいけど……」


 転烙市内の人気のない歩道を歩きながら、裸淫のメッセージに目を通す凡美。

 一華とは、ここに来る前に二人が関わったサイキック・オフェンダーだ。二人はその人物に味方していた。そして一華の方が一日早く、転烙市へと入っていた。


「転烙ガーディアンに入らないかって勧誘されてる。どうする?」

「さっき市長の放送でも口にしていた、PO対策機構と戦う組織だろ? 俺は別に入っても構わないと思うが、凡美さん的には何か問題あるの?」

「ぽっくり市でもそうだったけど、大きな組織に身を寄せた方がいいのは確かよ。でも……私個人としては、フリーな方がいいかなあ」


 凡美はかつてパワハラが横行するブラックな職場で働いていた。子育てのためにずっと耐えていた。あの時のトラウマがあるため、組織に属する事にはいささか抵抗がある。

 ぽっくり市において、オキアミの反逆に身を寄せていた時は、非常に待遇が良かったが、その時も凡美は抵抗を覚えていた。


「凡美さんがそう望むなら、やめておこう」

「いいえ。私は現実もわかっているから。フリーでいても仕方ないわ。東で半年間ずっとやっていたように、ここでも強盗を繰り返すのも不毛でしょう?」


 勤一の気遣いを受け、何故か凡美は気恥ずかしさを覚えながら言った。


「じゃあこの組織に入るのか?」

「その方がいいわ。それに……PO対策機構とも戦えるし、ぽっくり市にしても転烙市にしても、私達と同じ側だと思うのよね」

「それはどうかな?」


 凡美の言葉に疑問を呈したのは、勤一ではなかった。別の者の声だった。


 びっくりして振り返る凡美。突然現れたその人物に、勤一も目を丸くした。


「デビル」

「決めつけてかからない方がいい。油断しない方がいい」


 現れた真っ黒な少年を見て、勤一がその名を呼ぶと、デビルは心なしか物憂げな口調で話しだす。


「正直僕も転烙市を――雪岡純子を計りかねているから、断定はできないけど」

「雪岡純子を?」


 怪訝な声をあげる勤一。純子はぽっくり市で見たことがある。そもそも勤一と凡美が転烙市に来ることになったきっかけになったのは、純子の発言をたまたま立ち聞きしたからだ。彼女はぽっくり市のサイキック・オフェンダーを、転烙市に向かわせるよう、オキアミの反逆のボスである渦畑陽菜に促していた。


「転烙市は雪岡純子の箱庭と呼んでいい。あるいは純子が目指す世界のプロトタイプか? 縮図? いずれにしてもここは彼女の支配域。雪岡純子の玩具箱」


 デビルの言い草からして、ここに来てから色々あった事が伺えた。純子の事も直接知っているように聞こえた。


「世界をこんな風に変えた張本人の拠点てわけね」

 凡美が言う。


「雪岡純子がどうとか、俺はどうでもいい。俺はPO対策機構の糞共を、一人でも多く殺せればいいんだ」

「短絡的にならない方がいい」


 勤一の主張を聞いて、デビルが制する。


「ふーん……。お前、随分とおせっかいだったんだな……」


 意外そうにデビルを見る勤一。


「君達は危なっかしいから、おせっかいも仕方ない。特に勤一」

「むっ……」


 デビルの台詞を聞いて、勤一は憮然とし、凡美はおかしそうに微笑んだ。


「とにかく俺達は転烙ガーディアンに入ってみる」

「止めたいわけではない。ただ気を付けるようにと忠告」


 デビルの体が地面に沈んでいく。足から体を二次元化していっているのだ。

 そのまま完全に消えはせず、喉元の地点で止まり、顔を上げる。


「君達はずっと、尽きることの怒り、悲しみ、憎しみを楽しんでいる。浸っている。弄んでいる。踊っている」


 そう告げて、デビルは頭部も二次元化した。


「怒りで世界を燃やせば、より楽しくなる」


 二次元化した状態で言い残し、今度こそデビルは消える。


 勤一と凡美は顔を見合わせた。デビルの言葉を受け、二人して胸に火が宿っていた。

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