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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
94 ヒーローになるために遊ぼう
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 勇気と鈴音は、PO対策機構の兵士達とのミーティングを終えた後、スノーフレーク・ソサエティーのメンバーがいる場所へと向かった。彼等は堂々とホテルに泊まっている。


「何で会議に来なかったの?」

「あのね、それはね、PO対策機構と馴れ合う気はないからだよ」


 鈴音が横目で勇気の顔色を伺いながら尋ねると、政馬はにっこりと笑って答えた。


「俺はお前にも来るように言ったぞ。俺はお前の望み通り、スノーフレーク・ソサエティーの長にもなったはずだが? そして命令したはずだが? 堂々と背いてくれたな。それともお前は俺をただの飾りにして、それで満足したかったのか?」


 不満たっぷりに問い詰める勇気。


「勇気の命令でもね。聞けないことはあるよ。それにお飾りにしたつもりはないけど、まだスノーフレーク・ソサエティーの皆は、勇気をトップと認めがたい部分がある。その理屈はわかるよね?」


 政馬の言葉を聞き、勇気は息を吐いた。政馬の立場も考慮すれば、この言い分もわからなくはない。


「でも僕、勇気には感謝してるよ。ヨブの報酬への襲撃に目を瞑ってくれたんだからさ」

「ヨブの報酬はこちら陣営だった。復讐のための奇襲の許可は出したが、それも俺からしてみれば最大限の譲歩だ。拒否すればお前は何をしでかすかわからないという危惧も、念頭に置いてな」


 勇気自身の私怨も絡んでいたので、そういう面でも断りづらかった部分もあるが、それは流石の勇気も口にはしづらい。


「今後はどうするんだ? つかず離れずでの支援を続けるのか? それとも何か企みがあるのか?」

「謀ならもちろんあるよ」


 ストレートに問う勇気に、政馬は笑顔でさらりと答える。


「俺は知っておく義務も権利もある。正直に教えろ。謀ったり拒んだりしたら、お前との関係はここまでにする」

「えっとね、そんなに大したことじゃないよ。純子の技術を出来るだけ頂くっていうだけだし」


 政馬らしい答えだと、勇気も鈴音も思う一方で、果たしてそれだけだろうかとも疑う。


***


「祭りの名前を決めたぞ」


 市庁舎内の一室。ミスター・マンジと柚と蟻広の前に現れた硝子山悶仁郎が、にこにこ顔で告げた。


「転烙魂命祭じゃ。どうじゃ? ええ名じゃろ?」

「うむ。悪くない」

「いや、悪いぞ。ダサいぞ。ポイントマイナス3だ」


 悶仁郎のネーミングに、柚は無表情に受け入れ、蟻広は渋面になって否定的な反応を示す。


「言葉には意味が無くてはならん。祭りの意味をそのまま体現した名であるぞ」

「むっふっふっ、祭りの名前としては、わかりやすさと覚えやすさを取って、このくらいで良いと思うがね、チミ」

「ふん、俺だけ仲間外れかよ」


 ミスター・マンジも悶仁郎の肩を持ったので、蟻広は拗ねる。


「それにしてもPO対策機構、雲隠れしてしまったね。転烙市からは出ていないようだが」

「彼奴等にも隠れることに特化した能力者があるのじゃろうな。おかげであらゆる能力で捜索を試みるも、尻尾が掴めんでおるとのことじゃ」

「次は何を狙って動く?」


 ミスター・マンジと悶仁郎の言葉を聞き、柚が疑問を口にする。


「俺の読みでは赤猫システムの中枢――ヨブの報酬が攻めてしくじった、赤猫電波発信管理塔だな。あの場所が赤猫電波の司令塔になってるってバレたのは痛いな」


 蟻広が予想を述べる。


「拙者の考えは違うのー」


 脇の下をぼりぼりと掻きながら、悶仁郎が異を唱えた。


「これより転烙市では祭りの準備が執り行われる。彼奴等も祭りの存在そのものはすでに知っていると見た。故に、そちらの妨害に注力してくる方に張るぞ」

「爺さんよ、あいつらだって馬鹿じゃねーんだ。順番を考えれば、先に赤猫だろ。外と連絡つくようになれば、増援も呼び放題なんだぜ。赤猫システムが機能している限り、あいつらは外に出ても情報を漏らすことができねーんだし」

「ふむふむ。それでは賭けてみるか?」


 いささかむきになって主張する蟻広を見て、おかしそうににやにやと笑って提案する悶仁郎。


「いいぜ。いくら出す?」

「柚を賭けるというのはどうじゃ?」

「はあっ!? ふざけんなっ!」


 悶仁郎の提案に、思わず大声をあげる蟻広。


「何故そこで私が賭けられるのか」

 柚がきょとんとした顔で冷静に突っ込む。


「くくく、冗談じゃよ。血相を変えよって」

「ぐぬぬ……」

「何で蟻広は怒ってるの?」


 蟻広の反応を見てにやにや笑う悶仁郎と、憮然として唸る蟻広を見て、柚は不思議そうに尋ねた。


***


 ネロは転烙市の外まで移動していた。


 例え転烙市の外に出ようと、赤猫の暗示からは逃れられない。転烙市の情報は外部に伝えられない。いや、そのようなことはすでにネロにとって、ほとんど意味をなさない。千年以上続く秘密結社ヨブの報酬は、最早壊滅したも同然だ。


 ホテルの一室で、ネロは待っていた。半日前、連絡が入った。ネロはその相手に、ヨブの報酬の壊滅と、シスターとブラウンの死も告げたうえで、落ち合うことになった。


 夕方になって、その相手は訪れた。

 部屋の扉が開き、ネロがよく知る二人の男女が姿を現す。


「ヤコブナックル、到着しました」


 先に入ってきた背の高い男が、己の胸に片手を当てて、抑揚に欠けた声で告げる。


 男の人種はいまいちはっきりとしない。のっぺりとした起伏の乏しい顔はコーカソイドでは無いように見えるが、モンゴロイドにしては肌の色が異様に白いうえに、瞳は青い。混血か、あるいは東欧系か、ロシアの少数民族かもしれない。顔が縦に長く、目は細く、鼻は潰れたように低く、唇は薄い。お世辞にも美男子とは言い難い。


 男が部屋の中に入ると、小柄な白人女性が入ってきた。かなりスレた顔つきをしている。斜視も入っている。


「ライ、モニカ、よく来てくれた」

「シスター、ブラウン、そして多くの同胞が失われたこと、胸が痛むことしきりです」


 ネロが労うと、男がおそろしく冷淡な口調で、事務的に口上を述べる。


「再生能力を備えていた我々二名だけがどうにか生き延びました。もう一人再生能力持ちがいましたが、海原を泳ぎきることが出来ず、体力が尽きて沈みました」


 淡々と報告するその男は、ヨブの報酬の精鋭部隊『ヤコブナックル』のリーダー、ライ・アジモフという。


「船に拾われたおかげで、助かったわ。んで、助けられてから速攻でここまで来たってわけよ。電車の中で寝ていたかったけど、たまたま後ろの席にうるせー餓鬼共がいて、寝ることもできなかったわ」


 小柄な女性がフランクな口調で喋る。彼女はヤコブナックルのナンバー3とされていた。名はモニカ・イグレシアス。今や二人しかいないヤコブナックルでは、序列二位だ。


「んでー、このたった三人でまだ戦うっての? それともヨブの報酬の再建目指して頑張るの?」


 斜視の入った片方の目だけぐるぐると動かして、モニカが皮肉げな口調で尋ねる。


「両方だ」

 ネロは力を込めて言い切った。


***


 転烙市内に電車が入るなり、窓の外の風景が一変した。


「こいつはたまげたな。別の世界に迷い込んだかのようだ」


 身長2メートルを超し、肩幅も広く胸板も厚い、縦にも横にも大きな巨漢の白人男性が、口髭をいじりながら唸る。


「あの川見たことなくない? 覚えてない? 前にニュースでやってたよね? 海の上の空を流れる川。千葉の沖合だったかな? あれと同じように見えない? 私は見えます」


 黒いレザージャケットとスボンを着たピンク髪の女性が、電車の窓から空を見て話す。


「下も見ろ! あの青や紫の植物はグラス・デューでよく見たあれと同じだぞ!」

「オリジナル、電車の中で興奮して大声出すなっての……」

「正体がばれちゃうにゃー」


 帽子を被った少女が叫び、似たような格好の少女二人が注意する。


「でも唾を飛ばさない分、美香は成長したよ」

「あんた、そんな所まであの子のこと観察しているのかい?」


 小学生高学年ほどと思われる美少年が言い、隣にいる切りっぱなしロングヘアの女性が突っ込む。


「何? マリエは妬いているの? いいね。俺はどんどん浮気しようと思っているから、その度に妬いて。傷ついて。俺は悪だから、一人の女に縛られないし、浮気されて傷つくマリエが見たいし、そんな傷ついたマリエを体で慰めてあげたい」

「はいはい……」


 少年が嬉しそうに笑うが、女性は切れて取り合わない。


 電車の中で、彼等は転烙市の光景を見て驚いていた。しかし――


「乗客は驚いていない。天界の風景を人が見れば驚くが、天使が見ても驚かない。この都市の住人にとってはそういうことか」


 サングラスをかけたスーツ姿の男が言う。


「街がこんな風になっているのに、その情報が一切人に出ないのもおかしい話だよ」

「それそれ、私もそれ思いましたっ。どういう仕掛けがあるのでしょうかっ」


 十代半ばの少年が言い、十代後半のセミロングの少女が同意した。


 少女が口にした仕掛けを、彼等はすぐに思い知ることになる。頭の中に現れた赤い猫に、何名かは覚えがあった。

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