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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
94 ヒーローになるために遊ぼう
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 殺人倶楽部、裏通り組、バイパーやミルク達も、市庁舎前に到着した。ほぼ全てのPO対策機構が、市庁舎前に集結した格好だ。

 そして周囲の建造物よりも高さのある巨大黒マリモが暴れる様を見て、来た者の多くが呆然として立ちすくむ。


「こいつと戦ってるのか?」

「こんなデカいのどうしろってのよ……」


 バイパーと桜が黒マリモ亀三を見て、呆気に取られる。黒マリモの周囲には、邪悪な笑みを浮かべた地蔵が大量に飛び交い、口からワカメを吐いて黒マリモに浴びせている。


 突然、黒マリモの体が大きくひしゃげた。凄まじい力が加わった。何者かによる攻撃であることはわかるが、それが誰のどのような攻撃かは、多くの者にはわからなかった。

 さらに何度も不可視の力が黒マリモを打ち付ける。その度に黒マリモの巨体がひしゃげる。


「うわ~、凄いですね~。これ、誰がやってるんでしょ」


 男治が感心の声をあげる。


「念動力による攻撃のようじゃが、この力の規模はただ事ではないぞ」


 チロンが呻く。


 やがて謎の攻撃が収まる。黒マリモの動きは停止した。しかし死んだわけではない。ひしゃげた体もすぐに元に戻る。


『疲れた。何つー頑丈さだ』


 つくしが持つバスケットの中から、ミルクの呆れ声が発せられる。攻撃していたのはミルクだった。


「あんなマリモボディじゃあ、打撃系の攻撃はいまいちなんじゃないか? スポンジをハンマーで殴ってるみたいなもんだろ」

『うるさい。バイパーの癖に生意気だぞ。文句言うならお前がどーにかしてみろですよ。はい、出来ない。はい、私の勝ち』


 バイパーが意見すると、ミルクは苛立ちを込めた声で早口で告げる。


「小学生なの?」

「幼稚園だろ」


 呆れる桜とバイパー。


「お父さん! 目を覚まして! お父さん!」


 黒マリモの動きが止まったタイミングを見計らい、美咲が叫ぶ。


「お父さん?」

「あれがあの女の子の父親なのか」


 美咲の姿を確認した岸夫と澤村が訝る。


「お父さん! 私がわからないの!? 美咲よ!」


 美咲が大声で呼びかけるが、黒マリモは全く反応が無い。


 動きが止まった黒マリモに対し、市庁舎側から火線や光球や衝撃波や酸のシャワーなどで、一斉に攻撃がされた。転烙市の兵士達によるものだった。


「一時休戦だ! まずあの見境い無い化け物を斃そう!」


 転烙市の兵士の一人が、PO対策機構側に向かって呼びかける。


「はーい、了解しました~」

「その方がよいのー。わかったー」


 男治とチロンが応じる。


「ていうか参戦遅いぞ。転烙市の連中こそ、あれと戦わんと駄目だろ。転烙市の市庁舎の職員を無差別に殺して回ってたんだろ? このままじゃ市民も殺しまくっていただろうし」

「いやいや、最初は転烙市の兵士達が戦っていたんだけど、ほぼ全滅したんじゃよ。今来た者達は追加の兵じゃ」


 文句を口にする新居に、チロンが経緯を語る。


 黒マリモが再び動き出す。丁度攻撃してきた転烙市の兵士達を認識し、茨触手を繰り出す。最も近くにいたのも彼等だった。


 必死に逃げる転烙市の兵士達であったが、何人かに触手が迫る。


「助け……! え?」


 殺されると思った兵士の一人が悲鳴をあげかけたが、悲鳴は戸惑いの声に変わった。巨大な手が現れたかと思うと、その兵士をつまみあげて空中を移動させて、触手の攻撃から救ったのである。


「手間かけさせるくらいなら、余計なちょっかい出すなと」


 市庁舎の中から転烙市の兵士を救った勇気が、面倒くさそうに吐き捨てる。


「ばりあー」「しーるどー」


 伽耶と麻耶も他の転烙市の兵士達をガードする。


 顔が二つある土偶が宙を舞い、回転しながら茨触手に突っ込む。触手が土偶に巻き取られ、ひきちぎられる。ツグミが呼び出した怪異、土偶ママだ。


 勇気に電話がかかってきた。政馬からだ。


『富夜はどう?』

「助けたぞ。感謝しろ。意識は失ったままだがな」

『勇気ももう疲れているのに、ごめんね』

「大丈夫だ。回復してもらったおかげでまだ戦える。忙しいから切るぞ」

『勇気の疲れを癒せる力の持ち主なんているんだ』


 驚く政馬。勇気はそこで電話を切った。


(勇気。こいつはひょっとしなくても……)


 勇気と政馬との会話を聞き、デビルは不快感を覚える。


 その時、勇気の視線がデビルの潜んでいる方へと向いた。


「誰か近くに潜んでいるな。アルラウネ所持者の反応だ」


 デビルが潜む影に視線を注ぎ、勇気が声をかける。他の面々の視線も、勇気と同じ方へと向く。


(ああ、まただ。気を緩めてしまったせいで、気取られてしまった)


 平面化したまま溜息をつくデビル。


「出てこいよ。この魂が腐れた臭いは、覚えがあるぞ」

(隠れていると攻撃される可能性もある)


 呼びかけられて、仕方なくデビルは平面化を解いて、姿を現す。


「デビル?」

 真が訝しげな声を発する。


「影男現る」「孕聖村にいた悪魔君」

「おおう、まっくろくろすけべー?」


 伽耶、麻耶、ツグミが、デビルを見てそれぞれ言う。


「お前、何の用でここに?」

「見物」


 真が問うと、デビルは短く答えた。


「外から見物ならわかる。でも市庁舎の中から見物という点が引っかかるな。何か用があって市庁舎の中にいたんじゃないのか?」

「その用事も見物。ここでは色々ある。色々とイベントが起こる。中心地だ。真が捕まって閉じ込められた事と、救出された事も含めて」


 真がさらに問うと、デビルは思っている事を正直に述べた。


「ただ見物しているだけか?」


 今度は勇気が尋ねる。不信感たっぷりな視線をデビルに向けている。


「今は」


 少し間を置いてから、デビルも嫌悪感と不快感に満ちた視線を勇気に向けて答えた。


 デビルは真に対しては悪い感情を持たない。それどころか、睦月や純子の想い人ということで、ある種の好感や経緯すら抱いている。不思議と嫉妬という感情は抱かない。

 しかし勇気に対しては違う。デビルは薄々感じていた。勇気は自分が最も嫌うタイプだと。


***


 純子は市庁舎内から、黒マリモとPO対策機構と転烙市の兵士達の戦いを見物していた。


「真達が救出されてしまいましたが、放っておいてよいのですか?」


 累が純子に問いかける。市庁舎内ラボには、累と純子と綾音とネコミミー博士がいる。


「追いかけ回す意味も無いかなあ」


 どことなく虚しげな声で、純子が答える。


「あのまま捕まえたままにしていても、面白くは無いよ。祭りの時もずっと閉じ込めたままでいても仕方ないし。かと言って、あのまま脱出も出来なかったら、それはそれで失望するかな。別に、手加減してるとか舐めプしてるとかじゃないよ。負けてあげるつもりもないし」

「そうですか」


 いつもと明らかに様子がおかしい純子に、累はそれ以上追及しようとはしなかった。


「ちょっとお客さん来たんで、会ってくるね」


 純子がそう言い残し、ラボを出た。


 お客さんからは来る前に連絡を受けていた。外で黒マリモとの戦闘が行われている最中で、出入りは困難であろうにも関わらず、その来客は難無くすり抜けて、市庁舎内に入ったようだ。


 応接室の扉を開き、中で待っていた来客を見て、純子は自然と笑みが零れる。相手も純子の顔を見て、嬉しそうに微笑む。


「ヘーイ、純姉どしたー? 元気無さそうじゃん。失恋でもした?」


 ソファーにふんぞり返って座ったみどりが、純子の顔を見上げて悪戯っぽく微笑みながらからかった。

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