表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
94 ヒーローになるために遊ぼう
3202/3386

23

 超常能力覚醒施設前の戦闘は膠着状態に陥っていた。


「真を救出できた事はハッピーな話題だが、ヨブの報酬はやられるわ、スノーフレーク・ソサエティーは参戦するわ、怪獣は出るわ、色々忙しいな」


 真からの連絡を受け、新居が皮肉げに言う。


「スノーフレーク・ソサエティーはグリムペニスと和解したのに、何でこっち陣営のヨブの報酬を襲ったんだ……?」


 義久が呆然とした顔で疑問を口にする。真からスノーフレーク・ソサエティーに関する報告は受けていない。しかし応戦していたヨブの報酬から、すでに連絡を受けて知っているし、知れ渡るのは時間の問題と思われる。


「元々敵だったからか? 見過ごせない……と言いたい所だが、ヨブの報酬との連絡が取れない所を見ると、赤猫電波発信管理塔前にいた連中は、全滅したかもな」


 と、新居。


「市庁舎前に変な怪物が現れたとよ」


 犬飼が報告し、ホログラフィー・ディスプレイを巨大サイズで投影する。


「このデカくて丸いの、どこかで見たことあるような」

「あれだろ。十年前に東京湾に行った怪獣。あれに似てるわ。サイモンと一緒に見物しに行ったぜ」


 バイパーと新居が言う。


「あちこちで色んなこと起こり過ぎ」

 苦笑気味に桜が呟く。


「マイマスター、報告します。戦況は拮抗しております」

『見ればわかる。いちいち報告することじゃない』


 つくが報告すると、ミルクが苛立たしげな声話発する。


「超常能力の覚醒者が使い捨てのような状態で投入され、自らの死も省みず特攻してくる有様よ。酷いことするわ……」

「俺達が攻めているから、その酷いことをしてくるわけだがな」


 桜が眉をひそめて溜息をつくと、バイパーが笑いながら皮肉った。

 施設の入口に、ミスター・マンジが美咲を伴って現れる。美咲は車椅子ではない。立って歩いている。


「むふふ、これは困ったね。これでは出られないではないか」


 激しい戦場と化している施設前を見て、ミスター・マンジは全く困った風ではない笑顔で、泥鰌髭をいじる。


「お父さんを助けにいかないとなのに……あの、どうにかできませんか?」

「難しいね。この有様では」


 不安げな顔で伺う美咲に、ミスター・マンジはあっさりと答える。


「お願いしてみて解決できないでしょうか?」

「一般人が外に出たいからといって、攻撃の手を止めてくれるような甘い連中ではないと思うよ。ムッフッフッ。ま、試してみるかな」


 どうでもよさそうな口振りとは裏腹に、ミスター・マンジは堂々と入口に向かって歩いていった。


『あれはミスター・マンジか』

 ミルクがバスケットの隙間からその姿を確認する。


「知り合いか?」

 バイパーがミルクの方を見る。


『ああ。マッドサイエンティスト界隈で、数年前から少しずつ名の知れてきた男だ。以前は純子のアンチだったが、いつしか純子に隷属するようになりやがったですよ』


 ミルクが忌々しげに解説した直後、ミスター・マンジは小さな白旗を取り出して、にこにこ笑いながら顔の前で振り出した。


「おい、変な格好の奴が白旗振ってるぞ」

 李磊がミスター・マンジを指す。


「特にあちらが不利という感じでもなかったのにな。何か戦闘継続できなくなる事情が生じたのかねー」


 新居が訝りながらも、味方に攻撃中断を命じた。敵側の攻撃も止まっていた。


「マンジさん、本当によろしかったのでしょうか? 私のために……」


 美咲が心配そうに尋ねる。


「こちらが不利になったわけでもないのですよ。まだ戦える状態で戦闘放棄したなどと言ったら、咎められませんか?」


 施設の所員の一人も、驚いて問い詰める。


「ムッフッフッ、いいのだよ。無益な争いを続けて互いに犠牲を出す方がよろしくない。美咲君を出汁にして降伏させてもらったということだよ。事情を雪岡嬢に話せば、ここを引き渡した事も納得してもらえるだろうさ」


 ミスター・マンジは薄笑いを張りつかせて泥鰌髭をいじり続けながら、平然と言ってのける。


「では行きたまえ、美咲君」

「は、はい。何から何までありがとうございます。マンジさん」

「ミスター・マンジと呼んで欲しいと何度も言っているのに、チミも中々頑固だね」


 深々と頭を下げる美咲に、ミスター・マンジは苦笑していた。


 美咲が空の道へと飛び上がっていく。


「見たか? 施設から出てきた女の子が一人、空の道に上がっていったぞ」


 犬飼が新居に声をかける。


「見逃した。俺等の手に渡したくない、特に重要な奴を逃がしたとか、そんなんかもな」


 いずれにせよここでの戦闘は終わったので、それでよしとしておこうと思う新居であった。


***


 何の前触れも無く突然巨大黒マリモと化した区車亀三は、意識朦朧としていた。

 少しずつ意識を取り戻す。夢見心地だが、脳内麻薬が出続けているせいもあって、気分はとても良い。


(こいつらは……敵だよな。転烙市の……硝子山悶仁郎や雪岡純子の手下の兵隊だよな……)


 市庁舎側にいる者達を見下ろし、亀三は思う。


(つまりこいつらを殺せばいいんだ。今の俺ならこの数相手でも余裕だ……)


 黒マリモを取り巻いて回転していた茨がほどけた。無数の茨が真っすぐ伸び、転烙市の兵士に襲いかかる。


 迫りくる茨に、能力で対抗する者もいたが、猛スピードで伸びる茨を防ぐことは出来なかった。攻撃しても傷もつかない。


 茨の先端が転烙市の兵士の体を突き刺していく。首や胴に巻き付かれて締め上げられて後、体を両断された者もいる。回避を試みるも、茨は動きに合わせて上手くカーブする。直前で避けた者もいたが、次の瞬間、別の茨によって串刺しにされたり、巻き付かれたりして殺される。

 一方的な殺戮の宴が展開される。PO対策機構の兵士達は、遠巻きにして呆然とそれを眺めている。


「都合よく敵を弱体化してくれているぞ。あたしらは被害出ないように退避だぞ」


 史愉が指示する。黒マリモ亀三の暴れっぷりを見て、史愉は不穏な予感を覚えていた。PO対策機構にも見境なく攻撃してくる可能性が、脳裏をよぎったのだ。


 市庁舎の中にいる勇気達から、連絡が入る。


『俺達はあの黒マリモを人に戻す。支援しろ』

「そんな余計なことしなくていいぞー。せっかく転烙市の兵士を殺してくれているのに」


 勇気の命令を聞いて呆れる史愉。


「たは~、人に戻すとか言ってるのはつまり、殺さないように手加減しろという、ややこしい要求をしているって事ですよね~?」

「ぐっぴゅ。あの怪物は純子の部下を何人も殺してるのに、殺さず救おうっていうんスか? 大した偽善者っぷりっス。あの怪物にそんなに想い入れがあるの?」


 男治も呆れ、史愉は一応問いただす。


『そうだな……。殺さず救うというのはもう無理かもしれないな。それに史愉の言うことももっともだ』

「ぐぴゅぴゅうっ。珍しく勇気があたしの言葉を聞き入れる構え?」


 勇気の意外な台詞を聞いて、史愉は驚いた。


『方針変更。加減は考えなくていい。ただし、上手いこと戦闘不能に出来たら。とどめは控えろ』

「勇気はどうするつもりなんじゃ?」


 チロンが尋ねる。


『俺達はまだやることがある』

 勇気はそう答えて電話を切った。


***


 空の道で市庁舎の近くに移動した美咲は、人を殺しまくっている巨大黒マリモを見て立ちすくんでしまう。


「お待ちしていました。歩けるようになったのですね。喜ばしいことです」


 美咲に声をかけてくる者がいた。美咲の世話をしている硝子人のKATAだ。


「KATA、私がここに来るとわかっていたんですか?」

「はい。どうせ移動するのですから、研究所前までお迎えに行くより、こちらでお迎えした方がよろしいと思いまして」

「あれは……まさか……お父さん?」


 複数の茨を振り回す黒マリモを見上げ、美咲は震える声で問う。直感的にそうではないかと思ってしまった。


「はい。亀三さんです。生体情報が一致しています」


 KATAが答えると、美咲は巨大黒マリモに視線が釘付けになって震えていた。

 その震えは、恐怖によるものではないと、美咲自身わかっていた。美咲の状態をチェックしたKATAにもわかっていた。その震えは――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ