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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
94 ヒーローになるために遊ぼう
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16

 市庁舎。純子が勇気に会いに行こうと応接間に向かっている途中、転烙市内の各施設が、同時に襲撃されている報告を受けた。


「PO対策機構とやらか。こちらが祭りを起こす前に、あちらが祭りを起こしてくれたようなものじゃの」


 純子の前に笑顔の悶仁郎が現れ、短い顎髭をぞりぞりと音を立ててこすりながら声をかける。


「別に予期しなかった事態でも無いし、大した支障は無いと思うよ。それにさ、イベントを温めるのに、前座だって必要でしょー」

「余興と思うて油断しておると、足元をすくわれるやもしんぞ」


 冗談で言っているのかうそぶいているのかわからない口振りの純子に、冗談めかした口調で釘を刺す悶仁郎。


「ああ、そうそう。其処許が興す祭りが終わったら、拙者はこの身分より退かせて貰うぞ」

「市長は合わないー?」


 悶仁郎の発言に、純子は別段意外とは感じなかった。確かに合っていないような気もする。


「うむ。領主の身など、拙者の性分に合わん。おべっかを使ってすり寄ってくる愚物共が特に気持ち悪かった。幾度、斬り捨てるのを堪えたかわからんわ。そういうのは褒められて容易く舞い上がる者にやれと」


 渋い表情で語る悶仁郎。


「んじゃ、そろそろ祭りの時刻を決めて、発表しちゃおうか。祭りの名前をどうするかは、未だに迷っているけどねー」

「下拵えは概ね整っておるしの」


 純子は悶仁郎と別れ、応接室に向かう。


 扉を開くと、応接間には一人しかいなかった。その一人を見て、純子はきょとんとした顔になる。勇気はいない。鈴音もいない。全く別の人物がいた。予想外の人物がいた。


「あれ? 勇気君は? ていうか、どうして君がいるの?」

「僕は勇気の代わりに留守番してるんだ。勇気に頼まれたからね。問題ある? 何か悪い? 別にいいよね? 勇気が戻ってくるまで僕が純子の話し相手を務める。それでいいよね? というかどうして僕がここにいるとか、純子も存外つまらない質問するよね。そのまますぎ。味気ない。月並み。ワンパ。もうちょっと変わった反応見せてほしかったから、とても残念」


 ソファーに腰掛けたまま、逢魔政馬は純子を見てにこにこ笑いながら早口でまくしたてる。


「政馬君、君一人?」

「どうかな? 誰か隠れているかもしれないよ? 僕に危害を加えようとしたら、あるいは僕を無視してこの部屋を出ようとしたら、その時に何十人も一斉に現れて襲いかかるんじゃないかな?」


 尋ねる純子に、政馬はとぼけた口調で言ってのけた。


***


 応接室を出た勇気と鈴音は、足早に市庁舎内を歩く。目的地はちゃんとある。


「政馬一人に任せて大丈夫なの?」

「一人じゃないかもな。一人に見せているだけで。政馬がその辺を考え無しに行動するとは思えない」


 案ずる鈴音に、勇気が答える。


「政馬の話が合っていれば、真達はこの階に囚われているらしい」

「こころって子の占いだよね」


 真の居場所を勇気に教えたのは政馬であるが、政馬は元悦楽の十三階段の占い師である魔宮院こころに、真の監禁場所を占ってもらったと言っていた。


「占いをあてにするのか。外れたとしても、所詮占いだからと言い訳するつもりなら、あとで政馬にも折檻だな」


 喋っている途中に、勇気は足を止めた。


「ここか」


 扉を前にして呟く。扉は生体認証式であったが、勇気は大鬼の指を呼び出し、一突きで扉を破壊する。


 果たして中には真がベッドに寝転がっていた。扉を壊して押し倒して現れた勇気を見上げる。


「よう」

「応」


 勇気が短く声をかけると、真も短く応じて身を起こす。


「お前は一体何回俺の手を煩わすんだ? お前に貸しばかり増えていくな」

「そのうちまとめて返す」


 勇気がからかうように言うと、真が真顔で返した。


「まだ何人か捕まっている。助けないと」

「わかっている」


 真の言葉に頷く勇気。


「状況も説明してほしい。PO対策機構はどうしている?」

「PO対策機構はぽっくり市から転烙市に移動し、転烙市の重要施設複数に一斉攻撃を開始した。その混乱に乗じて、こうしてお前達の救出に来た。もちろんお前のためだけに攻撃しているわけでもない。タイミングを合わせた方が都合が良かったからな」

「雪岡の目は誤魔化せているのか?」

「政馬に頼んで時間稼ぎをしてもらっている」

「政馬に?」


 意外な人物の名が出て、流石に真も驚いた。確かに勇気と政馬は和解したと聞いていたが、この局面で協力してくるとは思わなかった。何しろスノーフレーク・ソサエティーは半年前からずっと動きを潜めていた。何か企んでそうだと勘繰っていたし、動く時には陰謀を実行する時だと思っていたからだ。


「スノーフレーク・ソサエティーはわりと前にこの町に入り込んでいた。その割には、俺が転烙市に入っても、ろくに調査報告もせずだったがな。グラス・デュー産の寒色植物が、市内の監視装置になっていた事も、ついさっきになって教えてきた。多分、政馬達はこれに早い段階で気付いて、上手く避けて行動していたんだろうが、もっと早く教えろと」


 勇気が愚痴ると、真に部屋の外へ出るように手招きする。


「そんなに早くここに来ていたって事は、スノーフレーク・ソサエティーはこの都市に――雪岡に対して何か目論む所があるわけか」


 部屋の外に出て、勇気と鈴音と共に歩きながら、真が言う。


「政馬の目的の一つは知っている。それは俺も容認した。あいつの性格を考えると、俺に秘密で勝手に何かやらかしていても不思議じゃないが、基本的に、スノーフレーク・ソサエティーがここに来たのは、俺の命令によるものだ」

「命令……」


 勇気の話を聞いて、命令という言葉の意味を真が伺おうとしたその時、真達は足を止めた。真、勇気、鈴音の三人の前に、真がよく知る三人組が現れたからだ。


「純子と同盟関係を結んだと聞きましたが、こうも早く、大胆に裏切ってくるとは、君らしいとも言えますね」


 累が勇気と真をそれぞれ見て口を開く。言葉は勇気に向けて放ったものだ。


「それを承知したうえで、俺をここに招き入れたんだろう? 非難される謂れは無い」

「非難していませんし、する気もありませんよ。見逃す気もありませんけどね」


 傲然と言い放つ勇気に、累は不敵な笑みをたたえて闘志を滾らせる。


 累の隣には綾音もいる。そしてもう一人の少年に、真の視線は向けられている。


「探す手間が省けたな」


 少し後方で、うつむき加減で表情を曇らせている熱次郎を意識して、真が声をかけた。


***


 区車亀三は市庁舎前に移動し、そこで繰り広げられている激しい戦闘を見て呆然とした。


「何だ……? こいつらは何だ? 市庁舎の奴等と戦っているのは……」


 転烙市の能力者達と戦っているのは、主にグリムペニスの兵で構成されたPO対策機構だ。しかし亀三はそのようなことを知る由もない。


 取り敢えずネットを見て、情報の確認を行う亀三。市庁舎前の戦いに関して、転烙市民の中に何か知る者はいないか調べてみる。


「そうか。PO対策機構か……」


 転烙市市庁舎の能力者達と戦っている者の正体を知り、亀三は忌々しげに呻いた。


(俺からしてみりゃ敵の敵も邪魔臭い。俺が世界を救うヒーローにならなくちゃいけねーのに、こいつらがしゃしゃり出てきたら、台無しじゃねーか)


 亀三の怒りは、自分の活躍の場を邪魔するPO対策機構に強く沸き起こる。


(しかし両方敵に回すのはどう考えても馬鹿のすることだ)


 しかしその程度のことくらいは、亀三にも判断がついた。しばらく様子を伺うことにする。


「え……?」


 その時、亀三は自分の体の変化に気付いた。

 体がどんどん膨らんでいく。大きくなるだけではなく、形状も変化していく。手足が縮んでいく。全身が丸くなっていく。全身から短い黒い毛のような物が生えてきた。


(な、何だよこれは……)


 不安と戸惑いもあったが、それ以上に高揚感に支配される亀三。脳内麻薬が大量に溢れている。

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