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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
94 ヒーローになるために遊ぼう
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15

 勇気と鈴音は正面から堂々と市庁舎内に入った。

 純子と同盟関係を結んでいるので、そのことを職員に伝え、応接室へと案内される。


「順番は真救出を先にして、区車亀三――美咲の父親はその後にする」


 応接室でソファーに腰を下ろし、職員がいなくなった所で、勇気が言った。


「PO対策機構と転烙市の戦闘が始まれば、それに乗じて区車亀三も動くのは間違いない。あるいは美咲も駆けつけるかもしれないな。改造手術を受けて、すぐ動けるかどうか疑問だが」

「まだ手術の最中かもしれないよね」


 勇気の隣に寄り添うように腰掛けた鈴音が言った。


「真の捕まっている場所はわかったんだよね?」

「わかったからこそ、この作戦に踏み切った。あいつの情報を信じることにしよう」


 あいつと呼ぶ人物が調査して、教えてくれた。


「援軍も準備が整ったことだしな」

「PO対策機構に援軍のことは伝えなくていいの?」

「この状況こそ正に、敵を騙すにはまず味方から、だ。万が一にもバレる可能性を避けた方がいい。そして――いいサプライズになる」


 にやりと笑う勇気。


 扉がノックされたので、鈴音が開けに行く。


「来たか」

 現れた人物を見て、再度微笑む勇気。


「攻撃開始だ」

 PO対策機構に裸淫でメッセージを送る。


「純子が先に待っていなかったのは僥倖だな、ここに来る前に出るぞ」


 無表情で、挨拶もしない人物が応接室に入るのを見届けてから、入れ替わりで部屋を出る勇気と鈴音だった。


***


 市庁舎前にいる史愉、チロン、男治は、勇気と鈴音が市庁舎内に入っていく場面をしっかりと見送っていたし、何の目的で庁舎内に入ったかも承知している。


「あとは勇気の連絡待ちじゃな」

「退屈から解放される時よ、早く来るがいいぞー。ぐぴゅぐぴゅー」

「スムーズにいけばいいのですけどね~」

「勇気自身が乗り込んでいきよったことだし、自信はあるのじゃろうて」

「ぐぴゅう。勇気は肝心な作戦内容教えてくれないから、結構不安ッス」

「でも僕達のボスなのですから、信じて従うしかないですよ~」


 三人が話していると、勇気のメッセージが送られて来た。


『攻撃開始だ』


 短い命令を見て、チロンが不敵な微笑を浮かべ、史愉は邪悪な笑みを満面に広げた。


「いよいよじゃのー」

「わっはっはっはっ、この時を待っていたぞー」


 史愉が笑い声をあげながら、市庁舎周辺に潜んでいるグリムペニスの兵士達に、市庁舎への攻撃開始の合図を送った。


***


 超常能力覚醒施設前。新居、シャルル、李磊 犬飼、義久、バイパー、桜、つくし、ミルク等も、勇気からのメッセージを確認した。


「攻撃開始。超常能力覚醒施設に突入だ」


 新居が命令を送ると、周辺に潜む裏通りの精鋭達が次々と飛び出てきて、超常能力覚醒施設めがけて殺到する。

 バイパーと桜も先陣に加わる。つくしはバスケットを手にして、空から様子を伺う。


 施設の前にいた守衛二人は、突然湧いて出たPO対策機構の兵士達を目の当たりにして臆し、あっさりとその場にへたりこむと、両手を上げて降参のポーズを取る。彼等はれっきとした超常の能力者で、それなりに力も強かったが、敵の数の多さと勢いを見て、戦意など微塵も沸かなかった。


 守衛は殺されることなく拘束され、PO対策機構の兵士達は次々と施設の中へと入っていく。


 建物の入口に向かってロケット弾が撃ち込まれる。しかし――入口は傷一つついていない。入口手前の床が爆風で少々破壊された程度だ。


「おっと……これもこの施設内にいる能力者の仕業が」


 入口の中に人の気配を感じたバイパーが、落ちてきた前髪を後ろに撫でつけながら言うと、上空で空中制止しているつくしを見上げた。


「全員下がれっ!」


 バイパーが叫んで後退する。PO対策機構の兵士達もそれに倣って、後退した。


「メガトン・デイズ」

 つくしがクロスボウから光の奔流を放つ。


 光の奔流は入口を直撃すると、ロケット弾の爆風をも弾いた不可視の障壁を破壊し、建物の入口も滅茶苦茶に吹き飛ばした。


「おー、いきなり派手にやるもんだ」

 シャルルが嬉しそうな声をあげる。


(ここはあまり敵の戦力は高く無いような気がする。つまり制圧は楽だし、PO対策機構の裏通り組の犠牲も少なく済む。戦力の采配としてはいいものではないがな)


 施設の建物を見ながら、新居は思った。


(裏通り組はここだけではなく、空の道の交通管理局にも多少割り振ってあるが、そっちはどうなっているかな?)


 都市の重要度としては、超常能力覚醒施設よりも、空の道の交通管理局の方がはるかに上であろうし、そちらは警備も固いであろうと新居は見ている。


***


 空の道の交通管理局の周辺。ここには政府お抱えの組織や個人、殺人倶楽部の面々、そして裏通りの住人達も配属されていた。


 勇気からの攻撃指令を見て、彼等も動き出す。


 しかし新居が呼んでいた通り、空の道の交通管理局には多数の兵が配置されていた。それも戦闘力の高い能力者達が。何しろこの都市の重要な心臓部でもあるし、PO対策機構が攻め込んできた際に、ここが狙われることは予期されていたのだから。


「手強い。無理に攻めない方がいいな」


 施設前の道路に、無数の亡骸が転がっている様を見て、澤村聖人が言った。全て味方の死体だ。施設に突入しようとした所を返り討ちにされた。


 PO対策機構側は最初の突入が失敗し、それぞれ潜伏していた建物の中に隠れたままのおこもり状態になっている。


「遠距離攻撃の雨あられで、防御も間に合わなかった」

「味方の士気もいきなり下がっちゃってますよー」


 卓磨が顔をしかめ、竜二郎は危機感の無い声を発する。


「しかし向こうも施設の中から出ようとはしませんねえ。つまり攻撃が苛烈でも、向こうも防御にはさほど自信が無く、物陰の外に出て、攻撃されるリスクは避けたいということでしょう」


 優が冷静に述べる。


「こちらも敵を見習って、命を大事に作戦でいいと思いまあす」

「正直、命をかけるほどの価値も無いしな」


 優の言葉を受け、鋭一が皮肉げに同意した。


***


 ヨブの報酬は、赤猫電波発信管理塔の襲撃を担当する事となっている。

 ここは極めて重要な施設であるにも関わらず、担当する兵の数は最も少ない。ヨブの報酬のみであり、その数は十数名程度。


 赤猫電波発信管理塔は、市内のあちこちにあるオレンジの塔全てをコントロールしている司令施設である。

 天高くそびえるオレンジの塔こそが、赤猫の電波を放っている。その事実は、ヨブの報酬が独自の調査で解き明かし、PO対策機構にも報告してある。転烙市内のあちこちにあるこの塔こそが、赤猫の暗示作用をもたらすサブリミナル電波を発信しているのだ。超常の力の作用ともまた違うため、超常の力に対するような抵抗レジストが不能である。


「つまりこの施設を制圧すれば、赤猫の電波も無効化、外部に情報の発信が出来るようになるってことか」


 ブラウンが塔を睨み、獰猛な笑みを浮かべる。


「その通りでーす。ここが最重要ポイントでーす」

「て、敵の警護も厚い。簡単にはいかぬぞ。気を引き締めてかからねば」


 シスターとネロが言うと、ヨブの報酬の構成員達はより一層戦意を高める。


 彼等の組織は今大変なことになっているが、本部がある本国に戻るつもりもなかった。本部も各国支部も完全に音信不通になっている。戻った所で壊滅してしまっている可能性が高い。今は目の前に任務をこなすことが大事だと、シスターは判断した。


「幸子、ありったけの盲霊を投入してくださーい」

「わかりました」


 シスターに促され、幸子が呪文を唱えて、短期間で集めた盲霊を全て呼び出した。


 敵の数が多い際には、幸子の盲霊がおおいに効果を発揮する。そして敵が盲霊によって混乱気味になった所に、耐久性と殺傷力に優れたブラウンが飛び込み、かき混ぜるという戦法が非常に有効だ。これまでその連携で、数多の敵を屠ってきた。


 幸子が次々と盲霊を呼び出す光景を見ている最中、微かに感じた殺気を真っ先に察知したのはネロだった。


「気をつけろ!」

 ネロが叫び、その場から飛び退いた。


 少し遅れてシスターとブラウンもその場から反射的に移動する。


 他の構成員達はさらに遅れて回避行動を行ったが、彼等は狙われていなかった。

 呪文に集中していた幸子は、回避に移れなかった。殺気を感じた瞬間、そしてネロの叫び声を聞いた直後、幸子の意識は途切れた。


「幸子っ!」


 ブラウンが叫ぶ。敵は幸子を明確に狙っていた。盲霊師であることを知っていて、霊を呼んでいるタイミングを狙って不意打ちを行ってきた。


 後ろから強烈な一撃によって穿たれた幸子は、頭部の半分以上が粉々に吹き飛ばされ、口と顎だけが残っていた。

 頭部を失った幸子の体が前のめりに倒れる。


 幸子がいた場所から10数メートル後方には、槍を携えた褐色の肌の少年の姿があった。

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