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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
94 ヒーローになるために遊ぼう
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12

 鈴音と勇気は揃って倒れていた。爆発した巨大どんぐりの破片は、全てではないがかなりの量が障壁を突き抜けて、二人の身に直撃した。


「今のを防いだか。中々やる」

 鈴音の方を見て微笑み、称賛する柚。


「防ぎきってないんだけど……」


 倒れた鈴音が力を膨らませる。巨大どんぐりの欠片を受けた痛みを、力に変換している。同時に殺気も放つ。手加減して戦える相手ではないと判断して、本気の殺し合いモードに移行した。


 鈴音が凝縮した念動波を放つ。

 柚も同様の、小型だが力が凝縮された念動波を放ち、鈴音の念動波に当てる。


 空中で衝突した二つの不可視の強力な力が、衝撃波を撒き散らす。柚の体が大きく揺らぎ、近くにいた蟻広は吹き飛ばされた。二つの力は柚の近くで衝突したので、鈴音は柚達ほど強く衝撃波を受けていないが、それでもよろけてしまう。


 勇気が痛みに顔を歪めながらも上体を起こし、発光する鳥を三羽呼び出し、柚に向かわせる。


「私の力に似ているね」


 柚が微笑み、鏡が光る。

 光の中から光り輝く小鳥が五羽出現し、勇気が放った光る鳥三羽めがけて飛んでいく。


 鳥同士が触れる間際、三つの爆発が起こった。爆発は勇気が飛ばせた鳥が起こしたものだ。


「鉄栗」


 さらに仕掛ける勇気。鉄製の栗が大量に出現し、水平に飛んでいく。


「水子囃子……」


 蟻広が倒れたまま術を発動させる。ビニール状に広がる霊体が数体現れ、飛来する大量の鉄栗を受け止めようとしたが、鉄栗は霊体を突き抜ける。


 柚が片手を軽く払い、念動波を放つ。柚の前方で爆発が起こり、鉄栗が全て吹き飛ばされた。


「御父上殿、転生して弱くなるとは嘆かわしい」


 余裕たっぷりに柚が嘲笑する。


「この子かなり強いよ」

「ああ、今までやりあった敵の中でも、上から数えた方がいい順位の強さだ」


 柚を見て囁き合う鈴音と勇気。


「勇気……勝ち負けはともかくとして、ここでこれ以上消耗していいの? やることが二つもあるのにさ」

「鈴音、まさか俺に逃げろと言うつもりじゃないだろうな?」


 冷静に伺う鈴音に、勇気が険悪な声を発する


「言っても聞かないでしょ? それが必要だと判断した時は、勇気がそうするでしょうし。でもあとでどんなに仕置きされても、忠告はするよ。どんなにお仕置されてもね。どんなに折檻されてもね。どんなに罰を受けようともね」

「しつこい。まあ……まだいけるだろう……って……戦う理由無くなったぞ」

「え?」


 溜息をつく勇気。鈴音がふと振り返る。誰もいない。


「あ……怪物のおっさんがいなくなってるじゃねーか」

「私達の戦闘の最中に、隙を見て逃げたね」


 蟻広と柚もその事実に気付いた。


「おっさんの逃走に誰も気付かないとは間抜けすぎる」


 言いつつ、勇気が癒しの力を鈴音に向けて発動する。


「無理して戦う理由も無くなったが、まだやるか?」

「ふん、無理して戦う理由は無くなったってことにしてやるさ」


 勇気が問うと、蟻広は皮肉げに言い、新しいガムを口の中に入れて踵を返した。


「さらばだ御父上」

「その言い方やめろと何度言えばわかる」


 笑顔で別れを告げる柚に、勇気が不機嫌そうに言った。


「あの子、何か嬉しそうだったね」

「今の攻防、俺達が劣勢のまま終わったからな。憎らしい俺に対してマウント取った気なんだろう。こっちも本気を出したわけでもないのに、勝ったつもりでいるのは頭にくるな」

「それで、これからどうするの? 勇気」


 鈴音の質問に、勇気はすぐには答えずに思案する。


「あの男の目的は、純子がしようとしている何かを止めること。それはわかった。祭りと言っていたな。純子が大掛かりなろくでもないことを画策している事もわかった。それが祭りとやらだろう。グリムペニスの連中に報せる」


 そう言って勇気は裸淫でグリムペニスに、これまでの流れを報告した。


『色々と御苦労だったな。褒めてやる』

 そんなレスを返してきたのは、ミルクだった。


「グループにミルクがいるのに会話が出来るってことは、転烙市内に入ったのか」

『そういうことですよ』


 転烙市外と連絡がつかない――というか情報のやり取りが出来ないので、この情報が伝わった時点で、ミルクはすでに転烙市にいるということになる。


「これ、グループチャットの際に、転烙市内に相手がいるかどうかわからない認識で、会話できるのか? あるいは転烙市にいると思いこんでいるのに、実際には市外にいるのに、転烙市にまつわる情報を口に出せるのか?」

『試しようがないぞ。試そうとすると赤猫が出るに違いないぞ』


 勇気の疑問に対し、史愉が言った。


 さらに勇気は、とある人物からメールを受け取った。


「援軍の準備が整いつつある。真救出を先にした方がいいかもな」

「援軍?」

「あいつらだ」


 伺う鈴音に、勇気はにやりと笑った。


***


「卑怯者」


 真っ黒な少年――デビルが口走った台詞に、美咲はきょとんとした顔になる。


「え? 何ですか? 卑怯者って……それ、私のことですか?」

「卑怯者。卑怯者。卑怯者」


 問いかける美咲に、デビルは同じ単語を連呼する。


「自分でもわかっている。誰かに犠牲を強いて、誰かが犠牲になって、それを傍観しながら悲観する。これは卑怯者だよ」

「う……」


 デビルの言葉が何を示しているか、美咲は理解した。犠牲になっている者とは、父亀三のことだ。


「あなた……誰なんですか? 父さんの知り合い?」


 美咲が問いかけると、デビルは背を向け、少し歩いた所で止まってかがむ。そしてまた歩き出してかがむ。それを何度も繰り返す。


 デビルがかがむ度に、パーク内に放し飼いになっている小動物を拾っている。美咲はその光景を見ても、不安は感じなかった。

 小動物は全身がふさふさの綺麗な茶色毛で覆われて、細長い体をしている。地球上の動物で例えれば、胴体だけはイタチに似ているが、頭部は完全に毛に覆われて、一見すると耳も目も口も確認できない。鼻だけが出ている。


 やがて両手にいっぱい小動物を抱えたデビルが、美咲の前にやってきてかがむと、小動物を置き始めた。


「DEVIL? デビル?」


 文字の形に置かれた小動物を見て、美咲が怪訝な声をあげる。不思議なことに、置かれた小動物は文字を崩さずにじっとしている。

 デビルが一匹ずつ、文字にされた小動物の頭部を人差し指で指していく。すると動かなかった小動物は、不思議そうに首を振り、歩きだして文字を崩した。


「卑怯者」

「何なんですか……。さっきからそればっかり」


 また同じ台詞を口にしたデビルに、美咲はむっとして睨む。


「命は燃える。燃やすためにある。燃えない生ごみとして埋まったまま生きる?」


 デビルが告げた抽象的な言葉の意味を、美咲はまた理解した。


「私のこと知ってるの? 私の心を読めるの?」


 そういう能力があっても不思議ではないと、デビルを見て思う。何しろここは能力者だらけの都市だ。そしてデビルは見た目も言動も全て普通ではない。


「さっきの君は勇敢だった。卑怯ではなかった。怖がりながらも、果敢に立ち向かった。でも、逃げている事も確かにある。そちらの方は逃げたままでいいの?」


 デビルの問いかけに、美咲は押し黙ってうつむく。


「僕は君の背中を押しに来た。背中を押されて、その勢いに任せて前に進むか、抗って止まるか、それは君次第。僕は押したい背中を見かけると押す。押したい背中を見つけた」


 美咲はすでに自分が背中を押されたと実感していた。そしてデビルの言う通り、少し押されただけで、その先進むか留まるかは自分で決定することだ。


「押した先は崖かもしれない」


 そう言い残し、デビルの体は地面に吸い込まれるようにして消えた。


(卑怯……なのかな。いや、私も意識している。父さんは何かと戦っている。何かをしようとしている。命懸けの何か。それはきっと私にも関係あること)


 悩んでいると、ホツミが再びやってきた。


「美咲ちゃん、どうかしたのー?」


 美咲の様子が異なることに気付いて、訝るホツミ。


「あのさ……ホツミちゃん……。聞いて……いいですか?」

「何~? 何か……おかしいよ? 顔色悪い。何があったの?」

「私のお父さんが危険を承知で、死ぬかもしれないのに、何かのために……私のために戦っているのに、私がこうして平和に……ぬくぬく暮らしているのって、卑怯ですか?」

「え……それは……」


 脈絡のない内容であるが、意味は理解したホツミは、返答に困る。


「ホツミちゃんが私の立場だったらどうでしょう? 自分も戦います? それとも安全圏で祈ってます?」

「私には親はいないし……。純子ちゃんが保護者みたいなものだけど……うーん……。私は私、美咲ちゃんは美咲ちゃんだから……」

「教えてください。ホツミちゃんならどうしますか?」

「私だったら、黙ってなーい。一緒に戦うな」


 ホツミは美咲の目を見て、真顔で言い切った。


(私にもホツミちゃんみたいな力があれば……)


 先程と同じことをもう一度考える美咲。この時点で、彼女は決心した。

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