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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
94 ヒーローになるために遊ぼう
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10

 亀三がいる場所は市庁舎の近くだった。先程いた商店街ほど一通りは無い。空道のせいで、商店街等以外の場所は、人も車もほとんど通らなくなっている。

 殺戮衝動に捉われた亀三は、人がいなければ建物の中へと入って、中にいる人間を殺しにかかる。今回も同じで、側にある図書館に目をつけた。


「何? 特撮?」

「噂の化け物じゃねーの?」

「逃げた方が……ぎゃッ!」


 ワカメ触手が伸び、一人の女性に触れると、たちまち体液を吸い取って干からびさせる。


「襲ってきたぞっ!」

「ヤバいヤバいヤバい。こいつヤバいよ。逃げよう」」

「うわああぁあぁ! 俺のミーちゃんがミイラになったー!」

「図書館ではお静かに……ってナニコレー! 人死んでるーっ!」


 図書館にいた者達が大慌てで逃げ出すが、亀三とワカメ触手の動きの方が早かった。片っ端からワカメ触手で触れ、体液を吸い取っていく。


 出入り口から逃げようとする人達の行く手を、硝子人達が列をなして阻む。立ち止まった所に、触手が襲いかかる。


 その直後、並んでいた硝子人達が吹き飛ばされた。


「えっへっへっ、図書館では静かにしなくちゃ駄目ですよね~。騒々しくてすみません」


 男治がへらへら笑い、へこへこと頭を下げながら現れる。その後から、純子とネコミミー博士とチロンと史愉も現れた。


「これ、本当に十年前の大怪獣アルラウネと同じに見える……」


 解析アナライズしたネコミミー博士が呻く。


「ぽっくり市で作った改造型強化アルラウネの中で、力の足りていない未完成品を移植してみたらこうなったんだよー」


 純子が口にした情報は、嘘ではないが、全てでも無い。


(そもそも祭りのシステムも、十年前のあの怪獣化したアルラウネをベースにしているしね。祭りの準備を担当していた硝子人達は、それと似た能力を扱える。その硝子人に触れたことで、移植されたアルラウネが反応して、十年前の巨大アルラウネと、同じ状態になっちゃったって所かなあ)


 と、純子は推測している。


 無事な硝子人達が、五人に殺到する。


「硝子人の戦闘力がやけに高いッすね」


 両腕をシャコの前肢に変えて、襲ってくる硝子人を片っ端からパンチで粉砕しかながら、史愉が言った。


「硝子人に力を与える能力もあるんだよ」

「それに加えて、亀三さんと同じ特性を、硝子人にも与えたのかもねー」


 ネコミミー博士がルーン文字が刻まれた大根を振り回し、硝子人を叩き壊しながら言う。純子は戦おうとせず傍観していた。


「正気を失っている今が捕まえるチャンスだよー。正気を取り戻すと逃げちゃう可能性も出てくるし、一度逃げると追跡が――」


 純子が喋っている間に、亀三がワカメ触手を高速で振り回しながら突っ込んできた。


「悪因悪果大怨礼」

 チロンが黒いビームを放つ。


 太い黒ビームが亀三の胴体に直撃し、亀三の五体がばらばらになって吹き飛んだ。胴体部分は原型を留めぬほどばらばらになった。

 しかし一秒後には、亀三は元の姿に戻っていた。吹き飛んだ体の破片が、地面に落ちる前に時間の逆戻しのように一瞬にして集まり、再生を済ませた。


(睦月ちゃん並? いや、もしかしてそれ以上?)


 驚愕の再生力を目の当たりにし、純子は思う。


「河童になれーっ」


 ネコミミー博士が叫び、ルーン文字が刻まれたキュウリを亀三に投げつける。


「ぐぴゅ……トラウマが……」


 かつて河童にされたことを思い出し、顔をしかめる史愉。


 キュウリはワカメ触手によってキャッチされると、即座にしおしおに乾燥してしまう。


「そ、そんな……僕のキュウリが……ワカメに負けるなんて……」

「ザマーミロッス」


 悲しそうな顔になるネコミミー博士。嬉しそうな顔になる史愉。


 純子が掌から電撃を放つ。見た目は電撃そのものだが、実の所電撃でもなんでもない。力が電撃状に可視化されているだけだ。


 電撃のようなものが亀三に浴びせられたが、亀三には効いていない。


「駄目かー」


 多分効かないだろうと思いつつも試した純子は、落胆も驚愕もしていなかった。今のは霊体を電子空間へと送る攻撃だ。


「たは~、抵抗力も相当高いようですねえ。しかしワカメなら私も負けませんよ~。海没地蔵お出でませ~」


 男治が呪文を唱えると、図書館の床からも壁からも天井からも、口元に邪悪に歪んだ笑みが浮かんだ地蔵が、大量に生えてきた。


「ぐぴゅう……本当その能力好きなのね。使う頻度高いぞ」


 史愉が指摘する。昔史愉もこのワカメに拘束されたことがある。


 床、壁、天井を埋め尽くす地蔵が一斉に口を開き、口から大量のワカメを吐き出して、走る亀三に浴びせかける。

 亀三の動きが初めて止まった。ワカメまみれになって――いや、ワカメの塊に閉じ込める格好となって、中で藻掻く。


「ああ……これは不味いですね」


 男治が眉をひそめた。覆ったワカメは増殖しているが、それよりも、ワカメから水分が吸い取られる速度の方が早かった。


 ワカメが軒並み乾燥ワカメと化し、縮んだ乾燥ワカメの中から、亀三が現れる。


「無尽蔵に見えるよ。ワカメで力を吸い取っているのもあるけど、それ以外に、感情のエネルギー転換吸収能力のおかげだね」


 ネコミミー博士が言う。少なくともネコミミー博士には、どうやって倒したらいいか、その手段が一つしか思い浮かばない。


「十年前の怪獣化アルラウネを斃した方法を試してみない?」

「んー、それは準備が大変なんだよねえ。あるいは……あの子の力を借りればできなくもないけど、あの子が協力してくれるかどうか……」


 ネコミミー博士の意見に、純子が難色を示したその時――


「お、俺はまた……」

「あ、不味い」


 正気に戻った亀三を見て、純子ははっとした。


「雪岡純子っ!? くっ……!」


 正気に戻るなり、目の前に純子がいたので、亀三は仰天し、大慌てで反対方向に駆けていった。


 その亀三の追跡を阻むように、硝子人達が立ちはだかる。もちろんこれは無意味な行動だ。その気になれば彼等を飛び越え、転移すればいい。あるいは蹴散らせばいいだけの話だ。

 しかし純子は、逃走する亀三を追おうとはしなかった。


「後を追わんのか?」

「それが難しいんだよねえ。今までも何度か逃走中に追ったけど、足速いし、逃げ隠れすることに長けているっていうか、痕跡を残さず、遠視の力でもわからないようにする力も備えているようだし」


 チロンが問うと、純子が腕組みして答えた。


(隠れずに出てくる暴走状態が狙い所だし、戦力的にも充実した状態で遭遇した今が、絶好の機会だったのにねえ。それでもまた取り逃しちゃった。彼は明確な意図をもって、祭りを妨害してくるようだし、困ったなー)


 亀三がこれほどに厄介だとは思っていなかった純子である。戦闘力も高く、しぶとく、そして追跡も困難な相手が、生涯となって立ちはだかるのだ。


(あの子を――美咲ちゃんを使えば、わりと簡単に始末をつけられるんだけどねー)


 そう思いつつ、純子は入口に向かう。


「じゃあねー」

「失礼します」

「逃がすかっ!」


 去ろうとする純子とネコミミー博士の背後から、史愉が口から消化液を吐いて攻撃した。


 純子とネコミミー博士はそれぞれ左右に跳んで、史愉の不意打ちを避ける。消化液は入口の開いたドアの外に落ちる。


「ぐぴゅ、もう同盟は解除でいいし、ここで逃がすはずがないぞー。ケリつけてやるッス」

「君達三人まとめて相手をして、タダで済むと思うほど己惚れてないよ。特にチロンちゃんは、一対一でもどっちが勝つかわからないし」


 純子が言うと、ネコミミー博士の手を取り、姿を消した。転移したのだ。


「転移してすぐに空の道を使いましたね~」


 純子の転移後の行動も、透視で見た男治が報告した。


「あたし達も空の道で追うぞー」

 史愉が勇む。


「こら史愉、空の道を利用するのは危険という話じゃったろうに」

「空の道も敵に管理されているという話ですし、使わせておいて、遠くに吹っ飛ばされるかもしれませんよ」

「確かにそうだ。すっかり忘れていたぞ」


 チロンと男治に注意され、史愉は頭を掻いた。


***


 美咲はその日も朝から、転烙幻獣パークにいた。


「見て、こいつー。すげえぷよぷよしてるわ」

「この体つき面白いよねえ。肌ざわりいいし。あ、何この動きおもろー。じたばたしてるし」


 客の中年女性二人が、パークに放し飼いにされている、全身つるつるした肌の小さな四足獣を持ち上げて、逆さにしている。


(あんなに乱暴に扱いして……嫌がってるのがわからないのかな)


 小動物が明らかに脅えて拒絶している動きをしているのに、女性客二人はお構いなしだった。


「あの……そんなに乱暴な扱いしないでください。ポヨポンが嫌がっています」

「はあ?」


 見かねて注意する美咲であったが、中年女性は二人揃って険悪な表情になって、美咲を見る。


「あんたここの職員でもないのに……注意する権利も資格も無いでしょ」

「そうよ。ここの動物は自由に触れていいって書いてあるじゃない。大体何で怖がっているってわかるのよ。嬉しがってるかもしれないじゃない」


 自分達より遥かに年下の少女に注意された事も相まって、中年女性二人は頭にきていた。


「怖がっているから震えているんです。乱暴に扱ってはいけないと、注意書きもされています」


 正直怖かった美咲だが、声を震わせながらも注意を続ける。


「ははは、怖がっているのはあんたでしょ。手も声も震えてるし」

「失礼な子ね。親の顔が見たいわ。しかもこんな時間に動物園に一人でいるってどういうこと? 登校拒否?」


 女性客二人が嘲笑する。美咲は怒りと屈辱で唇を噛みしめ、顔を紅潮させる。


「うわ、顔真っ赤にしちゃってるし」

「涙ぐんでない? 嫌ねー。私達がいじめているみたいじゃない。もう行きましょ」


 女性客の一人が移動を促すと、もう一人が四足獣を雑に放り投げて、それに従った。


(ひどすぎる……)


 怒りに身を震わせながら、地面に落ちた四足獣の元へと向かう美咲。


 美咲が四足獣を抱き上げた直後、爆音が響いた。二人の女性客が爆発で吹き飛ばされていた。


「酷い人達だったね。でも美咲ちゃん、格好よかったよー」


 ホツミがやってきて笑顔で声をかけた。爆発がホツミの仕業であることは明白だ。


「途中で手や口を出すと邪魔になるかなと思って、美咲ちゃんに任せるン達で、少し様子見てたんだけど、失敗だったね。ちゃんと口出ししておけばよかった。すまんこ」

「いえ。お気遣いありがとうございます」


 ホツミの行為をありがたくも嬉しくも思う反面、美咲はふと思うことがあった。


「私にもホツミちゃんみたいな力があれば……。あんなにぶるぶる怖がって震えなくて済んだかも……」

「何言ってるのー。怖くてもさ、その怖い気持ちを押し殺して、注意する勇気があるって偉いよー。力なんか無くても、それが立派なことだと思うなー」

(でも……情けないことに変わりは無い)


 ホツミは笑顔で思う所を述べたが、美咲にはあまり励ましにならなかった。


(父さんもそんな風に情けなく思って、力を手にいれたのかな? 力が無いと、心まで弱くなる。でも力があれば……)


 そんな欲求が、どうしても美咲の中でちらつく。


「今日また勇気君と鈴音ちゃんが来る予定なんです」

 美咲が言う。


「そうなんだ。私は今日は用事があるから、早いけどお暇するね~」


 ホツミはそう言い残して立ち去った。


 ホツミがいなくなり、先程中年女二人に乱暴に扱われていたポヨポンという動物と戯れる美咲。


 しばらくして、その美咲の前に異様な者が姿を現した。


「え……? その……」


 すぐ目の前にいる、全身真っ黒な少年を見て、美咲は激しく動揺する。見た目も異様であるし、美咲の間近にまで迫り、美咲のことをじーっと見下ろしているのが怖い。

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