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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
94 ヒーローになるために遊ぼう
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6

 ヨブの報酬は現在、PO対策機構と協力して転烙市攻略を行う方針にある。


 赤猫電波発信管理塔がヨブの報酬の担当であり、すでに近辺に潜伏している状態だが、ヨブの報酬は配置完了の報告をPO対策機構に行っていない。

 理由は、転烙市に呼び寄せた援軍が到着していないからだ。現在、武闘派の大幹部であるネロ・クレーバーとブラウン、頭目のシスター、優秀なエージェントの杜風幸子と他数名がいるだけで、戦力としては若干心許ない。


「『ヤコブナックル』を全員呼びましたー」


 前日、シスターは転烙市内に潜入した同胞達にそう告げていた。


 ヤコブナックルはヨブの報酬の切り札とも言うべき精鋭部隊だ。全員が極めて強力な超常能力者で、戦闘に長けている。

 しかしそのヤコブナックルも、ヨーロッパ全域のサイキック・オフェンダー達との熾烈な抗争の果てに、かなり数を減らしてしまっている。


「わ、悪い報告だ……シスター」


 ホテルの一室にして、ネロが深刻な面持ちでシスターに声をかける。


「ヤコブナックルが……ほ、ほぼ壊滅との報が入った。ヤコブナックルを乗せた自家用ジェットが撃墜されてな。く空港で待ち伏せされていて、着地に入る寸前を、ね、狙われたそうだ」

「それだけじゃねーぞ……。本部と複数の支部が同時に襲撃を受けていやがる」


 さらにブラウンが青い顔で報告する。


 立て続けに最悪の報告を受け、シスターの目が大きく見開かれ、同室にいたヨブの報酬の構成員達は茫然自失となっていた。


「本部にはミサイルが撃ち込まれたという情報もありますが、その後通信が途絶えています。壊滅的な被害のようです」


 さらに幸子が震える声で報告する。


「糞が! 全部こっちの動き見透かされているうえで、一斉に仕掛けてきやがったわけだ……」

「私達の弱体化も知ったうえで……でしょうねー」


 ブラウンが歯噛みしながら拳で壁を叩き、シスターは俯き加減になって冷静に述べる。


「純子の仕業か?」

 と、ネロ。


「わかりませんねー。私達を敵視する者は無数にいまーす。規模から考えて、それらがひとまとめになって同時に襲撃してきたのでしょー」


 純子のやり方ではないように、シスターには思えた。自分達同様、純子にも無数に敵がいる。そして純子の当面の最大の敵はPO対策機構である。ヨブの報酬はPO対策機構に協力している一組織でしかない。いくら純子とヨブの報酬に、過去からの因縁があったとはいえ、今のタイミングで、ここまで全力で潰しにかかるのは、奇妙な気がする。


「敵の動きを全く察することが出来なかったのか? うちらの予知能力者や遠視能力者は何してやがったんだか……」

「それらを妨害できるほどの力のも持ち主ということですねー」


 苛立ちを露わにして言うブラウンに、シスターが冷静に告げた。


***


 純子は市庁舎に戻り、悶仁郎、ネコミミー博士、ミスター・マンジを前にして、区車亀三と勇気の件について話していた。


「偶然ではあるけど、美咲ちゃんのお父さん――区車亀三さんは、覚醒した能力によって、この転烙市の秘密に触れてしまったんだよ。祭りの正体も知っちゃった」


 覚醒した能力は、硝子人を操る能力であろう。そして硝子人の中には、祭りの準備を行う任務を帯びた者がいて、祭りの情報も知っている。祭りの際に用いる特殊な能力も与えられている。その硝子人経由で、それらの情報と力を亀三が得たのだ。


「故に――其処許に盾突いておるのか」

「多分ねー」


 伺う悶仁郎に、純子は顎に手を当ててうつむき加減になり、曖昧に答える。祭りの正体を知ったから妨害しているという事は、区車亀三は祭りに反対しているのだろうが、わざわざ命を賭してそのような行為に及ぶほど大事な事なのかと、純子は不思議に思う。


(祭りが嫌なら、美咲ちゃんを連れて転烙市から出ればいいだけの話だけど、亀三さんはそうはしなかった。ということは……)


 しばらく思案し、亀三の動機が純子にも見えてきた。


(ヒーローになるとか言ってたし、そういうことなんだろうねえ)


 純子からすると、それはとても好ましい動機だ。そういう人間を沢山改造し、そういう動機で動いた人間が、人として進歩する様を見たこともあれば、破滅を招く様を見たこともある。どちらを見るのも好きだった。しかし今の状況でそういう動機で自分の邪魔をしてくれるのは、好ましくない。


「で、硝子人を操る能力だけじゃない。他にも幾つの能力があって、その一つが凄い力をなんだ。欲望をエネルギーに転換する能力。欲望以外の感情でも出来るかもしれないけどさ」


 その力が勇気の癒しの効果も妨げた。勇気自身が口にしていた。精神が吸い取られるような感覚にあったと。それこそが、祭りの準備の任務を帯びていた硝子人から得た能力である。


「その力は十年前の怪獣化アルラウネ同じ? あと、祭りのアレと微妙に被ってるよね? 祭りの硝子人が使う方は、欲望を学習させる能力だけど。つまり硝子人経由でその力を手に入れて、アレンジしたのかな?」


 純子が語る前に、ネコミミー博士が推測を口にする。


「うん、私もそう思ったし、そう見ていいと思うよー。このままじゃ、怪物どころか、怪獣になっちゃうかもね。十年前に東京湾に現れた、怪獣化アルラウネのように」

「嫌だなー……」


 ネコミミー博士が顔をしかめる。


「ムッフッフッフッ、雪岡嬢を含め、世界中のマッドサイエンティストが対処に当たったという、あの怪獣化したアルラウネ。私も行ってみたかったものだ」

「僕も討伐チームの一員だったよ」


 ミスター・マンジが興味深そうに言うと、ネコミミー博士が額を押さえた。


「最悪の場合、祭りを起こすことも出来なくなっちゃうし、まずは区車亀三さんを何とかしないとね」


 純子が方針を決めた。


***


 勇気と鈴音は美咲の家を後にすると、滞在していたホテルへと戻った。


「純子の口振りと雰囲気からすると、あの怪物は純子にとってかなり都合の悪い代物みたいだな。その理由はわからないが」


 ベッドに腰掛けた勇気が腕組みポーズで話す。


「その怪物を助けるために、その怪物を邪魔に思っている純子と共闘って、如何にも勇気らしい」


 隣のベッドで勇気と向かい合って腰かけた鈴音が、足をぱたぱたと動かしながら、お菓子を次から次へと口の放り込みながら言った。


「馬鹿鈴音。俺らしいどうこう以前に、それが最善の選択だ。俺の性格の問題じゃないぞ」

「痛い、痛いよ勇気」


 勇気が足を伸ばして、鈴音の太股に何度も踵を落とす。


 そこに史愉、チロン、男治がやってきた。


「何で来るんだ。待機しておけ」

「いつまで経っても攻撃指令が来んじゃろうが。暇すぎてたまらんわい」


 勇気が三人を睨んで命じると、チロンが微笑みながら肩をすくめて言う。


「ぐぴゅう。純子と会ったんだってなー」

「純子に近付いて、真がどこにいるか探りを入れる」


 史愉の言葉に対し、勇気が端的に方針を述べる。亀三の件に関しては触れない。


「あ奴にさらわれた身でありながら、大胆な真似をするのう」

「ミイラ取りがミイラな未来が見えるッス。ぐっぴゅっびゅ」

「あのですねえ。いくら勇気君でも危険ですよ~。純子さんはきっと勇気君をまた捕まえて、実験台にしちゃいますよ~?」


 史愉が呆れ、チロンが揶揄し、男治が案ずる。


「俺を誰だと思っている。問題無く成し遂げる。余計な心配はするな」


 勇気は傲然たる物言いで突っぱねる。


「ワシは心配しとらんよ」

「あたしは心配だぞ。勇気が純子なんかに実験台として使われるような、そんな癪な展開は勘弁だぞ。それならあたしの実験台になるべきだぞ」


 チロンが微苦笑を零し、史愉は思っていることをストレートに口に出した。


「お前は耳がついていないのか? 頭が空っぽか? 俺がそんなことになるわけないと言った矢先に……」

「痛たたたたっ! 以前は純子に捕まったあげく、言いように操られていたぞー! んぎゃああぁぁ! 痛いってばーっ!」


 勇気が立ち上がり、史愉の頬をつまんで思いっきり捻りあげると、史愉が悲鳴をあげながら反論した。


「勇気がさっさと真を助けないと、ワシらも動けんのだぞ」


 チロンが溜息混じりに言う。


「いや、真を助けてから動くのではなく、真の居場所を見つけ出して、俺が助けるその時に作戦遂行しろ。そうすれば俺が動きやすくなる」

「なるほど~。勇気君は結構頭が働きますね」


 勇気が口にした作戦を聞いて、男治は感心した。


***


 夜。転烙市の裏通りの一角。硝子人達に囲まれて、区車亀三は身を丸くしていた。

 寝ている時も、遠視能力等に対する妨害能力を発動させている。加えて亀三は、この転烙市にある監視網も把握していた。


(変な色の植物に近付いたら駄目だ。こいつらは全て監視カメラみたいなもんだからな)


 それは亀三が支配下に置いた、特殊な硝子人経由で得た情報だ。


(俺がこんな怪物になった事も、俺がこの都市に隠された恐ろしい真実を知ってしまった事も、全ては運命の導きだと俺は受け取るぜ)


 そう意識することで、高揚感が湧いてくる。


「雪岡純子……お前の思い通りにはさせない。俺は……実験台では終わらないぞ。ふふふ……」


 亀三はビルの隙間から夜空を見上げ、声に出してうそぶいた。


「見てろよ……。美咲」

 声に力と熱を込めて、亀三は宣言する。


「俺は……お前の父親は、ヒーローになってこの世を救うんだからな。お前が生涯、俺のことを誇りに思う存在になってやる」

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