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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
94 ヒーローになるために遊ぼう
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5

 2メートル以上の藍色の筋肉質な巨体。顔は半分爛れ、額には黒い水晶のようなものがある。前髪はワカメのようで、前髪以外の髪は尖って後ろに向かって伸びている。口からは鋭利な牙が生えていた。そして体中からも、ワカメのようなものが生えている。


(鬼の泣き声だけじゃない。こいつはアルラウネも移植されている)


 怪物を見て勇気は思う。勇気の中のアルラウネが共鳴していた。


「あれが……お父さん……そんな……」


 この異形の怪物が父親であるなど、美咲には受け入れがたかったが、純子が言っている時点で間違いないのだろう。


「んー? 私が狙いなの? 美咲ちゃんを助けてあげたのに?」


 亀三の憎悪の視線が向けられている事に、純子は面白そうな声で言うと、家の外へと転移して、亀三の背後に現れた。家を壊されないよう配慮しての移動だ。


「むっがあァーっるッていこっくぅーっ!」


 おかしな咆哮をあげ、純子に飛びかかる亀三。


「本当にお父さんだ……」


 震える声で呟く美咲。今の叫び声は、亀三が怒った時によく吠えていたものだ。


 勇気と鈴音も窓の外へと出る。しかし亀三は二人に目もくれず、純子に攻撃し続ける。純子は危うげなくかわし続けている。


「正気を失っているのは確かだけど、それだけでもないみたいだねー。私ばかり執拗に狙う時点で、正常だった頃の意識や感情も反映されてるみたい」

「実験台にされて怪物にされたことを恨んでいるんじゃないか?」


 緊張感のない声で言う純子に、勇気が指摘する。


(お父さん、格好いい。いや、雄々しいっていうか……。弱々しくなる前のお父さんが、凄くいい感じになったような……)


 怪物にしか見えない姿と成り果てた父親を、うっとりとした眼差しで見る美咲。


(美咲さんの父さんが改造されて暴走しているってこと? 美咲さん、何かおかしな目であの化け物を見てるし。ああいうのが好きってこと?)


 鈴音はそんな美咲の様子に気付いていた。


 純子が庭の外へと移動する。亀三と勇気と鈴音も後を追う。


 道路には大量の硝子人達がいた。純子を取り囲む格好だ。


「何で硝子人達がこんなに沢山いるんだ?」

「硝子人を操る能力があるんだよ。それとね、こちらの遠視もGPS反応も、全て遮断して隠すことが出来るみたい。本人も、操った硝子人もね。だから潜伏先もわからず難儀していたんだ。硝子人は次から次へと操られていくしさ」


 勇気が疑問を口にすると、純子が解説する。もちろん操る数に限界はあるだろうと、純子は見ている。


「なるほど、それで鬼の泣き声も聞こえたり聞こえなかったりしたわけか。アルラウネの共鳴も感じなくなるんだな」


 そして転烙市の監視網からも逃れ続けていられたのだと、勇気は察した。


 硝子人達が一斉に純子めがけて殺到する。亀三は塀の上に立ち、体から生えている無数のワカメもどきを伸ばして純子に攻撃を仕掛ける。


 伸びてきたワカメを片っ端からキャッチして、ひとまとめにして握ってしまう純子。


 亀三のワカメのような触手は、相手の素肌と触れると、肌に無数の針を突き刺して、一気に体液を吸い上げることが出来る。しかし、純子相手にはそれが出来なかった。純子が掴んだ掌は、針を全て焼いてしまっている。


「硝子人はあまり壊したくないなあ」


 走ってくる硝子人達の集団を一瞥して呟くと、純子は塀の上にいる亀三に向かって駆ける。


「ごご……ごごごご……」

「KATAさん?」


 いきなり奇怪なうめき声を発したKATAに、美咲が怪訝な声をかける。


「ふんごーっ!」


 KATAが叫び、庭に踊り出た。そして家の外へと跳躍する。亀三に操られてしまったのだ。


「それは酷いよ。美咲さんの面倒を見ていたKATAさんを手駒にするなんて」


 鈴音が怒りを滲ませて、カッターの刃で自分の掌を切った。


「パラダイスペイン」


 純子に向かっていこうとするKATAの前に、鈴音は不可視の障壁を出現させた。


「ぶごっ!?」


 不可視の障壁に激突して、ずるずると崩れ落ちるKATA。


「手っ取り早く済ませてやる」


 勇気が巨大鬼をフルサイズで出現させた。


 純子が亀三に迫るが、直前で鬼の手が亀三の体をすくい取った。

 勇気が癒しの力を発動させて、亀三の錯乱した精神を落ち着かせようとする。


「はっ……はーっはっ……はぁ……。み、美咲……」


 鬼の手に掴まれた状態で、正気を取り戻した亀三が美咲の方を見て荒い息をつく。


「区車さん、元に戻ったみたいだね」


 これにて一件落着かと思った純子であったが、そうではなかった。


 巨大鬼が消滅し、亀三の体が庭に墜ちる。


「一時的に落ち着かせただけだ。こいつはただごとじゃない。こっちの力での干渉は激しく反発されて、今はこの程度が限界だ」


 勇気が疲労を滲ませた表情で告げる。


「こいつの力の正体はわからんが、迂闊に手を出さない方がいい。こっちの精神が吸い取られるというか……。そんな感覚があった。そして……俺は一気にクタクタになったぞ」


 膝をつく勇気。鈴音が側に寄っていたわる。


「欲望を吸い取ってエネルギー転換する力があるのは確認済みだよ。でも、それ以外の感情も、エネルギー転換して吸い取れるのかもしれない。そして際限なく成長し、強くなっていく。狙って作ったわけじゃなくて、完全に偶然の産物なんだけどねえ。十年前のあれと同じになっちゃったみたい。このままじゃ……」


 亀三の能力の一つを解説しつつ、悪い予感を抱く。


(欲望をエネルギー転換する能力は、祭り担当の硝子人の影響から得た力で間違いないね。祭り担当の硝子人は、『砲台』に欲望を学習させる手助けをする予定だし。そうなると亀三さんは、祭りの全貌も把握していそう。そしてこの能力を使い続けて、このまま行きつく所まで行くと、本格的に私の計画の妨げになっちゃうよー。この場で始末するのがベターなんだけどなあ。でも、美咲ちゃんの見ている前でお父さん殺すのも抵抗あるし……困ったなあ)


 頬を掻きながら思案する純子。硝子人達の動きは停まっている。


「ごめん、美咲。俺はやらなくてはならないことがあるんだ。お前のためにも……いや、俺のためにか……? ははは、つまらない意地のためにだな……」


 縁側にいる美咲に向かって、亀三が話しかける。


「お父さん? 何言ってるの?」

「わけがわからないだろうが、俺のやることを、見ていてくれ。覚えておいてくれ。いつまで経っても悪い父親で悪いな。でもな、俺は誓ったんだ。俺はお前のためにヒーローになってやるってな」


 涙ぐみながら戸惑う美咲に、亀三は自信に満ちた声で語った。


(お父さん、いつもそうだった。空元気ばかり。自慢ばかり。大口叩いてばかり。見た目は怪物だけど、私の知るいつものお父さんのままだ)


 父を父と意識して、喜びがこみ上げる美咲。


(鬼の泣き声が大分収まった。大鬼の癒しの力の作用もあるが、娘と出会ったことで、この男の気持ちが落ち着いた作用もありそうだ)


 塀越しに亀三の状態を見てとった勇気が思う。


「あの人? 死相が見えた……」

 鈴音が勇気に耳打ちした。


「美咲には言わないでおけよ」

「わかってるよ」


 勇気が囁くと、鈴音が神妙に頷く。


 亀三が美咲に背を向ける。


「父さんどこ行くのっ? 置いていかないでっ」

「美咲、俺は周期的に発作が起こって、正気を失って暴れてしまう。だから近付いたら駄目だ」


 そう言い残すと、亀三は跳躍して塀の外へと出た。


「おっさん、見ていてくれと言った矢先に近付くなってどういうことだよ。矛盾してるだろ」

「ははは……確かにそうだな。遠くから見守っていてくれ、だな」


 勇気が突っ込むと、亀三は笑い、猛ダッシュで駆けてその場から立ち去った。硝子人達もその後を追っていく。


「で、どういうことだ? 純子」


 勇気が眼鏡に手をかけながら純子を睨み、棘のある声で伺う。


「それは私が聞きたいことなんだけどね。あの区車亀三さんは、超常能力覚醒施設を脱走した人なんだよー。でも精神状態がおかしくなっちゃって、その度に見境なく暴れて人を殺すみたいなんだ」

「例のバーサーカー事件みたいなものか?」

「んー……それとはちょっと違うような気がするかな」


 顎に手を当て、小首を傾げる純子。


「私的にはあの人を止めたい所だけど、勇気君、協力してくれる?」

「俺が止めたい対象はお前も含まれるんだがな。まあいい。暫定的になら共闘してもいい」


 冗談めかした口調で問いかける純子に、勇気は真顔で了承した。


「勇気……純子に近付くのは危ないよ」

「大丈夫だ。半年前みたいにいいように操られたりはしない」


 鈴音が不安げに言うが、勇気は自信たっぷりに言い切る。


(それにこいつに接近することで、真が囚われている場所を知ることも出来そうだしな)


 勇気はもう一つの目的達成のための計算も働かせていた。

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