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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
93 マッドサイエンティストの箱庭で遊ぼう
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30

 監禁されて暇な真は、ずっと思案を巡らせていた。


(正直、慎重さには欠けていたけど、ツグミも伽耶も麻耶も僕の都合で引っ張ってきたし、少しは楽しませてやりかたったからな。あまりギスギスするのもどうかと思ったし)


 言い訳しているかのようだと、己の考えに対して思う真。

 そしてふと、ある人物のことを思いだす。


(サイモンはいつも温かい空気を作っていた。にこにこと穏やかに微笑んで、優しい言葉をかけ、ジョークを口にして、一人一人こまめに気遣って、場を和ませていた。僕とは正反対だ。いや、僕も気遣いくらいは……これでもしているつもりだけどさ)


 無愛想な自分は、サイモンのようにはなれないが、少しくらいなら真似してみようという気持ちもあった。


(あの時、サイモンに憧れつつ、とてもかなわない存在だと意識していた。ずっと高みにいると。遠い存在だと。でもいつか超えたいとも思っていた。サイモンを斃した葉山と、その直後に戦って……勝って、それで果たして追い抜いたか? そうだとも言えるし、違うような気もする。否定と肯定が同時にある。でもどちらかと言えば、僕とサイモン――比較するとまだ全然及ばないという感覚だな。サイモンにも新居にも雪岡にも、色々なことを学ばせて貰った。でも僕はまだ全然足りない。及ばない)


 そんな未熟な自分が未熟なままで、世界をひっくり返そうとしているマッドサイエンティストを相手どって、果たして勝てるものなのかと自問する。


 とりとめがないと感じて息を吐く真。これからのことと現状を考えることにした。


(あいつが何をしようとしているのか、まだわからない。この転烙市は雪岡の掌の上だし、調査するのも困難。出し抜くのは難しい。何をどうすればいい? 場当たり的に行動したらこの様だし……)


 自分の迂闊さが招いた結果を少し後悔する真。


(雪岡も皆も……僕に呆れているかな? 考え無しすぎた。しかし二つ、身をもってわかったことがある。雪岡はこの都市のオーバーテクノロジーを掌握し、コントロールできるということ。この都市の技術を利用した瞬間、都市内部での動きが知られてしまうということ。この二つの情報を、無事だったみどりが、転烙市に来た連中に伝えてくれる。絶望的な情報だけどな。それでも知らないよりはマシだろう)


 都市内部に侵入してからの動きが、本当に完全に把握されるかどうかは疑問だ。転烙市全域をくまなく監視するというのも、現実的ではない気がした。


(今は外からの助けを待つしかない。必ず来る。その時まで考えをしっかりまとめておかないと。ここまでの経緯を振り返って、シェムハザ……雪岡の考えを、読み取れるだけ読み取れ。可能性を探れ。僕になら出来るはずだ。僕がこの世で一番、純子に近いんだからな)


 自らを鼓舞するかのように心の中で言葉を紡ぎ、真は思索し続けた。


***


 転烙市市庁舎はつい二ヶ月前に改築が完了された。五十二階建ての超高層ビル。極めて短期間で、これだけのビルが建設されたことに、転烙市民は皆驚いていたが、それもまた、転烙市に持ち込まれた道のテクノロジーの成せる業なのであろうと、納得していた。

 市庁舎をここまで巨大化する意味は、多くの者が理解できなかったが、そこは市庁舎としての機能があるだけではない。サイキック・オフェンダー達の住居が有り、訓練場も有る。実験設備も整っている。大量のマッドサイエンティスト達を集め、彼等の住居も設けてある。


 どういうわけか建物内には、植物園が無数にあった。まるごと植物園になっている階層も複数ある。植物園が無数に存在する意味も、多くの者にはわからない。

 デビルはその市庁舎に忍び込んだ。ここがこの転烙市の中枢施設であり、転烙市の支配者である雪岡純子の居城であることは間違いない。


 市庁舎内をくまなく捜索するのは骨が折れるので、まず硝子山悶仁郎を尾行することで、雪岡純子と遭遇する可能性は高いと踏んだ。そして雪岡純子にくっついていれば、囚われている相沢真にも行き着くと踏んだ。

 気配を徹底的に殺し、平面化して悶仁郎の後をついていくデビル。


 悶仁郎は市長室で黙々と公務を行っている。デビルは気配を殺して平面化したまま、うたた寝をしていた。

 たまに市長室に訪問がある度に目が覚めるが、議員や職員との仕事のやり取りだけだ。


(こいつを見張るよりも、雪岡純子を見つけるよりも、単独でビル内を探しにいくか? それにしてはこのビルはあまりにも大きすぎる。そんな面倒なことをするよりかは、待ち構えていた方がいい。でもそれはそれで暇すぎる)


 こっそり溜息をつくデビル。


「はーあ……不毛な作業じゃて」


 ほぼ同時に、悶仁郎の溜息が重なった。机の上の文書を次々と目を通し、ハンコを押したりペンを走らせたりしては、たまに己の肩を叩いている。


(雪岡純子やこいつらの目指す所は、僕にとってそう悪いものではない。むしろ好感が持てる)


 悶仁郎を見て、デビルは思う。


 半年前の覚醒記念日。あれはデビルにとって好ましいものであった。世界が一気に変貌した。世界は混沌化した。デビルが楽しめる変化であった。デビルもそれに便乗して、数多くの人間に殺人衝動を植え付けていった。やりすぎたせいで、バーサーカー事件と称され、知れ渡るに至ったが、デビルは気にせず楽しんだ。


 半年前、デビルが真の影の中で純子の話をこっそり聞いた際は、心配もしていた。あの時は否定的だった。文明が崩壊した世界や、馬鹿げたディストピアになるのかもしれないと案じていた。しかしそれは杞憂で済んだ。雪岡純子はそこまで愚かではなかったと、今では思う。


 純子はさらに世界を大きく変えようとしている。それもまた、デビルからすれば楽しみである。停滞することなく、変革し続ける世界。燃やし続ける世界。焚き木に薪をくべ、油をいれ、火を絶やさず、さらに激しく燃焼させる、雪岡純子というマッドサイエンティストは素晴らしい存在に思える。


 にも関わらず、純子に最も近しい立場にいる相沢真という少年は、彼女の邪魔をしている。

 にも関わらず、デビルが好ましく思う純子の邪魔をする真を、デビルは助けようとしている。


 矛盾。いや、デビルは矛盾とは感じない。かつて真は、自分と雨岸百合に打ち勝った。大きな可能性の火種を感じる。彼の戦いの続きを見てみたい。


 逆に大丘には可能性を感じなかった。あれは燃え尽きた灰だった。灰は邪魔でしかないので片付けた。


(ここにいても無為だ)


 延々と作業を続ける悶仁郎に見切りをつけ、デビルは市長室から移動する。


 五十二階建てのビルをくまなく探すこと、二十分。

 デビルはついに怪しい区画を発見した。

 通路に『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた看板。


『立ち入り禁止って書かれているのはさ、逆に入って調べてくれって言ってるもんだと、俺は受け取っているぜ。あれ見るとわくわくしちゃうんだよなあ』


 犬飼が口にした台詞を思い出すデビル。犬飼のそういう性格は、デビルからすると非常に好感が持てる。


 犬飼を倣うわけではないが、デビルは立ち入り禁止の看板の先へと進んでいく。

 途中でデビルは動きを止めた。


(罠がある)


 廊下に置かれた観葉植物を意識するデビル。如何なる罠か、観葉植物を見て解析してみる。観葉植物の横を抜けると、マーキングされる罠だと判別する。


(横を通らなければいい)


 デビルは壁沿いに天井へと上がり、観葉植物を大きく避けて先に進む。


***


 市庁舎ビルの一室。純子と累と綾音とネコミミー博士が会話を交わしている。


「いい加減祭りの正式名称決めてみてはどうでしょうか?」


 累が純子に伺う。


「魂は縁で繋がれる。縁とは運命に連なる。いや、運命そのものと言ってもいい。つまり魂は、運命を操る……祭りの目的はそれだから、魂と運命の祭り……安直かなあ?」


 純子の提案した名に、三人共良い顔はしなかった。


「ストレートすぎていまいちですよ」

 と、累。


「それなら魂命祭の方がよろしいかと」

「いや、転烙市の名前を組み込んだ方がいいと思うんだ」


 綾音とネコミミー博士が意見する。


「ところでみどりちゃんはどうしているかな?」


 純子が累に伺うと、累がホログラフィー・ディスプレイを投影して、みどりの様子を探る。居る場所は補足済みだ。


「みどりは今、犬飼一、高田義久と一緒にいますね。裏通りのトップが堂々と侵入して、こちらも観光気分ですか」


 累が呆れ声で報告した。


「このまま泳がせるの?」

 ネコミミー博士が尋ねる。


「いえ、僕が行きます。綾音も来てください。みどりは手強いですけど、二人がかりなら流石にみどりにも勝てるでしょう」

「わかりました」


 累が促し、綾音と共に部屋を出た。


「誰かが監視装置に引っかかったみたいだね。監視が二段構えであったことに気付かなかったみたい」


 純子がホログラフィー・ディスプレイを投影して言った。画面には、観葉植物が置いてある通路が映し出されている。しかし一見して誰もいないように見える。


「こっちは私が行ってくるよー」

「気を付けてね」


 部屋を出る純子をネコミミー博士が見送り、部屋にはネコミミー博士だけが残された。

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