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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
93 マッドサイエンティストの箱庭で遊ぼう
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27

 累の突きをしっかりと見切って、真は突いてくる動作に合わせて身を捻って避ける。

 突きを繰り出した直後の伸びきった累の体に、真が膝蹴りを放つ。


 避けられた後のカウンターが来るとわかっていた累は、膝蹴りを転移して避ける。


 累の姿がその場から消えたのを見るや否や、真は振り返りながら、それまで累がいた場所へと素早く移動した。転移した場合、高確率で背後や頭上に回られる。そして同じ場所に転移するということはまず無いので、転移した相手が転移前にいた場所が、最も安全圏であると、真はわかっていた。


 累は、先程自分がいた場所のすぐ横に転移していた。つまり、真が安全圏と思って移動したすぐその横にだ。


 自分の行動が読まれていたと悟り、真は一瞬固まった。すぐに反応しなければならない。すぐに体を動かさなければならない。しかし虚を突かれてしまったが故に、相手に行動の先読みをされたと意識するが故に、理性ではわかっていても、心も体も準備が出来ていない状態だった。

 一方で累も、転移して真の隙を付く格好になったはいいが、すぐさま攻撃に移れるわけでも無かった。突きをした直後の格好から転移したので、ほんのわずかな時間ではあるが、態勢を立て直す猶予が必要だった。


 累が刀を振り上げる。上段から袈裟懸けに斬りつけんとする。


(殺す満々じゃないか)


 頭の中で苦笑する真。自分がそのまま何もしなければ、致命傷を負いかねない斬撃が来ると、見てとった。


(いちかばちかだ)


 真が勢いよく左腕を振る。斬りつけてきた刀を腕で横から払って防ぐという、危険な行為。運が良ければ剣を弾き飛ばせる。少し運が悪ければ腕は斬られるが勢いを多少殺せる。どうしょうもなく運が悪ければ、腕を切断されて致命傷も負う。危険極まりないとわかっているが、何もしなければ切られて終わる。やるしかない。


 累の体がぶれる。刀が手から抜けそうになったが、何とか食い止める。

 真の左腕はざっくりと切られていた。完全に切断こそされていないが、刃が深く広範囲に腕を斬りつけていた。防弾防刃繊維によってかなり勢いが殺され、この程度で済んだ。


 後方に跳び、距離を取る真。累は反撃を警戒して追撃しない。


(動かない……。骨や神経もやられたか? いや……少し動く)


 左腕を意識し、真は高速で頭を巡らせる。圧倒的不利に繋がるダメージを負ってしまった。

 だらりと下げた状態の左腕から、大量に血が滴る様を見て、累は目を細める。


「何が嬉しいんだ?」

 累の表情を見て、真が問う。


「嬉しいですよ。大好きな相手と殺し合い、傷つける。他の誰かが君を傷つけるのは許せませんが、僕がするのはいいんです。嬉しいに決まってます」


 微笑をたたえて喋りながら、刀を中断に構える累。


「僕はお前のそのにやけ面をぼこぼこにしても、ちっとも嬉しくないと思うが、一応試してみようか?」


 喋りながら時間を稼ぐ真。少しずつ後退して、距離を稼ぐ。


(いや、時間稼ぎなんてしていられないけどな。この出血は……不味い。すぐに止血しないと、失血死しかねない)


 とめどなく零れ落ちる血を意識し、真は焦燥感にも駆られていた。


 真の動きに、累は気が付いていたが、あえて気が付かない振りをして見逃す。距離を詰めようとはしない。


(見えてますよ。動かないと見せている左腕で、仕掛けをしていますね)


 累は気付いていた。真のだらりと下がって夥しい量の血を流している左腕の袖口から、超音波振動鋼線が伸びている。


 真の瞳が赤く光る。人工魔眼の力を発動させたのだ。

 累は真が如何なる力を用いているのかわからなかったが、時間稼ぎや鋼線と関係しているのではないかと感じた。


(何を企んでいるのか、興味があります)

 喜悦の念を抱く累。


「それは明らかに動脈が切れている出血量ですよ。早めに決着をつけましょう」


 言った直後、累の姿が消えた。


 真は人工魔眼の解析能力により、空間の歪みを見て取っていた。転移してくることは予想していた。先程とは違い、予め魔眼の力を発動していたので読み取れた。


(左手側に来る。つまり……僕の動きを見抜いているのか?)


 転移先に頭だけ向けて、注意を払う真。


 予測箇所に累がテレポートしてきた瞬間、真は血塗れの左腕を振り上げた。

 真の左腕の動きは途中で止まった。累が片手で真の左手首を取って押さえてきたのだ。超音波振動鋼線も押さえられてしまっている。


「鋼線での攻撃でした? それともそう見せかけて、以前の二番煎じで、血飛沫の目潰しでした?」


 累が真の間近に顔を寄せて伺う。目が笑っている。


(転移先はわかっていたのに、先を取られてしまった。対応を誤った? 逃げればよかったのか? 血飛沫を浴びせてやろうとしたけど、読まれていたからこの結果か?)


 臍を噛む真。あえて以前と同じ手を使うことで、裏をかくつもりの真であったが、それも読まれていた。


 真は腕を取られた格好のまま、体を大きく捻る。至近距離から回し蹴りを見舞って、その衝撃を利用して累を振り払おうという腹積もりであった。


 しかし累はいとも容易く蹴りを避けた。

 回避と同時に真と体を入れ替え、真のバックを取り、喉元に黒い刃を押し当てる。


「とても幸せな瞬間ですね。勝利したこの瞬間も。相手が真だということも。血塗れの真の体温を感じられることも」


 自分の体を真に密着させて、恍惚の表情で語る累。


(勃起して当たってるし……)


 しかもしきりに押し付けてくる累。真は頭の中で凄く嫌そうな自分の顔を思い浮かべる。


「負けを認めるから離れろよ」

「名残惜しいですけどね」


 真が言うと累は素直に離れた。


「手当を早くしないと」

 累が真の斬られた左腕の応急処置を始める。


「いい所無しで完敗だな……」


 出血により意識が遠のく感覚を実感しつつ、真が言った。


「今回だって、お互いに本気を出していないでしょう?」


 累が悪戯っぽく笑いながら言った直後、真の意識が途切れた。


***


 みどりと綾音が交戦してから、十分以上が経った。


 ばらばらに飛ばされた他の面々の前にも、自分と同様に敵が現れ、交戦状態になったのは間違いない。真の前に累が現れて戦闘になった事も把握している。そして敗北した事も。


 みどりは他の面々に連絡を取ろうとしたが、誰とも繋がらない。


(真兄も意識失ったままだなぁ。やばい状況だわさ)


 未だに交戦し続けている者がいるとは思えない。連絡がつかない時点で、ツグミも伽耶も麻耶も敗北したと見ていい。


「あたし以外全滅かーい。とほほ」

 ぼやきながら、みどりは電話をかけた。


***


 犬飼と義久は、硝子山悶仁郎と牛村姉妹の戦いを見届けてから、ぶち抜き転烙アリーナの外にある喫茶店へと入った。


「あの二つ頭の子は、真の仲間なんだろ? やられてしまったけど……」

「ああ。何でここに一人で……いや、二人で飛んできて、いきなり戦闘なんかしてたのやら」


 義久と犬飼が不思議がっていると、犬飼のバーチャフォンに、みどりから電話がかかってきた。


「おいおい、まじかよ……」


 みどりから聞いた話を聞いて、犬飼は口をあんぐりと開ける。


「何て?」


 電話を切った所で、義久が問う。犬飼の反応を見て、明らかにただごとではないように見えた。


「真達、全員分断されたうえに、みどり以外は皆敗北して捕獲された可能性があるってよ」

「それは……」


 犬飼の報告を聞き、絶句する義久。


(相沢真――睦月が好きだったあいつ。百合と戦った素晴らしいあの子。捕まってしまったのか)


 平面化して近くに潜んでいたデビルが、犬飼の話を聞いて思案する。


(犬飼に判断を仰ぐまでもない。これは放っておくより手を出した方がいい。いや、相沢真は捕まったままよりかは、解放しておいた方がいい)


 デビルは即座に判断し、その場から立ち去ろうとしたが、ある人物達の接近を見て、移動を留まった。

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