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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
93 マッドサイエンティストの箱庭で遊ぼう
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24

 累が真と対峙する数分前。

 累は純子に呼び出された。真達が空の道を使うようだから、彼等の行先を操作し、ばらばらにして各個撃破すると。


「たとえば累君と真君がガチで戦えばどっちが勝つと思うー?」


 純子は累の相手を告げる前に、そんな台詞を口にした。この台詞を聞いた時点で、累は自分の担当が誰かを悟り、嬉しく思う。


「それは……僕でしょう……」


 何故そんなわかりきったことを口にするのかと訝りながら、累は答えた。


「高確率でそうだよねー。じゃあ、知力精神力は別として、真君のスペックが累君と同じか、あるいはその逆で、対等の戦闘力で戦ったらどっちが勝つと思うー?」

「それは……」

「つまりそういうことなんだよ。累君は四百だか五百年の間、術師としての力と技をひたすら磨き続けてきた。一方で真君はこの数年の間に、殺し屋としての力量以外に、人としての強さを磨いていた。この違いがあるよねー」

「確かに僕は、長生きだけはしていますが……人としての成長具合はひどいものですしね」


 純子の話を聞いて、自虐的な笑みを浮かべる累。


「力で圧倒してあっけなく倒すんじゃなくてさ――」

「言わなくてもわかります」


 累が笑顔で純子の言葉を遮った。


「真をさらに引き上げるために、頑張ってみます。そして――」


 純子の意図としては、そういうことを望んでいるのだろうと、累は察した。


「熱くなって殺さないように努力します」


 自分の手でまた真を殺したいとは、累も思っていない。しかし戦いになったら加減出来ない性質の累には、これは中々面倒な話でもあった。


***


 涼やかな眼差しで自分と向かい合う真を見て、累は好ましく思う。真はいつものように獰猛な殺気は放っていない。非常に静かな佇まいだ。


(殺意で心を塗りつぶして戦ういつもの真よりも、こちらのテンションの方が手強そうな気がしますね)


 真を倣うようにして、累も刀を構えて闘志を抑える。神経を研ぎ澄ます。

 心を閉ざし続け、世界を呪い続けた累は、自分と真との違いを意識する。


「真――君は……貴方は、君――貴方はこの半年でどれだけ変わりました? どれだけ磨き、伸ばしました?」


 累が問いかけるが、真は答えない。


「純子がこの半年で行ったことは、何も半年でいきなり積み上げたものではありません。それ以前の途方も無い年月を生きてきた積み重ねが、土台としてあったのですよ。それらを解放した半年間とも言えます」


 真は答えないが、手を出そうともしない。累が何を言わんとしているか、聞き届けるつもりでいた。


「真。貴方――君には無理ですよ」


 冷たさと優しさが同居した声が、累の喉から発せられた。現実を口にして突き放すも、真への愛情がたっぶりと込められていた。


「例え離れていても、純子と僕の心は真への意識でいっぱいです。保護者視点で案じています。離れていても、貴方は純子の庇護下にいるのと変わりありません」


 数分前のやり取りを思いだしながら、累は言い放つ。


 挑発のつもりではない。事実を突きつけたうえで、反応を伺いたかった。真の考えを聞きたかった。


「いいな。それ」

 真は言った。


「いい――とは?」

「自分が圧倒的に上だと思い込んで、ペットか何かのようなつもりで、孫悟空を掌に這わせている釈迦の気分でいる奴が、豪快にひっくり返された時にどんな顔になるのか、楽しみだよ」

「そうですか。では、今ひっくり返してみてください」

「前に喧嘩した時は、言葉での対話は嫌いと言っていたくせに、今度はそっちから対話を仕掛けてくるんだな」

「言うことをコロコロ変えるのが僕ですから」


 以前の会話を思い出して、累は冗談めかす。


 前回、累が真と戦った際は徒手空拳であり、しかも運動不足の有様であった、今回は体のコンディションは万全であり、得物も術も使うつもりでいる。


 真が銃を抜き様に撃つ。


 銃口、予測される弾道、引き金を引く指の動き、全てを見切っていた累は、ダッキングして銃撃を避けると、そのまま身をかがめた姿勢で、剣を中段に構えて、真に向かって突っ込んだ。


 一気に間合いを詰め、突きを繰り出すことは、真もわかっていた。それが累の定石だ。


***


「ピヨピヨ」


 デカヒヨコが大きくジャンプして、空中にいるホツミに体当たりをかまそうとする。


 ホツミがデカヒヨコの体に掌を当てる。直後、ホツミの掌に吸い込まれるようにして、デカヒヨコの体が縮んでいった。


「ううう……な、何コレ? 違和感すごい。命であって命でないような……」

「え……えええ? 食べちゃったの?」


 デカヒヨコを吸収したホツミは顔をしかめ、そんなホツミを見てツグミは苦笑いを浮かべていた。


「土偶ママっ、フルーツサイチョウっ」


 さらに二体の怪異を呼び出すツグミ。どちらも空を飛べる。


「コスプレーコスプレーッ!」


 フルーツサイチョウがけたまましく鳴き叫びながら、ホツミの顔の周囲を飛び回る。


「うるさいなーっ。コスプレじゃないしっ」


 ホツミが怒ったような声をあげて杖を振るい、フルーツサイチョウにピンクの光線を何度も放つが、飛び回るフルーツサイチョウには当たらない。


 土偶ママが回転しながら、ホツミめがけて突っ込んでいく。ホツミの意識が土偶ママへと向けられる。


「手加減無し?」


 ホツミがぽつりと呟き、土偶ママに向けて掌をかざした。


 刹那、土偶ママが跡形も無く吹き飛び、ツグミは絶句する。


「危なーい。今の当たってたら、フツーの人間だったら死んでたよね? 当たっても私は死なないけどね。それでも、こんな乱暴な攻撃してくるのは頭に来るかな」

「足を失くすとか言ってきた子に、そんなこと言われる筋合いは無いってのー」


 ホツミの言葉を笑い飛ばすツグミ。


「ツグミもわかっているようだネー。あの子は相当危険だし、何をしてくるかわからないし、加減するわけにはいかないと思うヨー」


 悪魔のおじさんが呟き、杖を振り回す。


「わわっ!?」


 悪魔のおじさんの杖の動きに合わせて、ホツミの体が空中で回転する。


 その隙を付いて、塩にされて消滅したかと思われたビニール魔人が、回転するホツミの体に絡みついた。


 ビニール魔人の体は先程のビームによって所々破れた状態だが、それが功を成して、ホツミの手足を上手く拘束し、さらには顔にも巻き付いて口を覆う。


(呼吸できない……ひどいなー……)


 全身をビニール魔人に巻き付けられた状態でもがきながら、ホツミは苛立ちを覚える。しかし焦ってはいない。

 もがいたはずみに、ホツミの帽子が地面に落ちる。


「ツグミ、一気に決めた方がいいヨー。切り札を出すんダー」

「合点承知ーっ」


 悪魔のおじさんに促され、ツグミはスケッチブックを取り出し、ページを開く。


 直後、力の奔流が吹き荒れ、ホツミは思わず目を瞑る。


 目を瞑ったのは一瞬だけ。すぐに目を開き、ホツミは絶句した。周囲の風景が一変していた。そこら中で火が燃えている教室。火事の学校。そんな中で、ホツミは裸になって、液体がたっぷり入ったバケツを両手にそれぞれ持っている。両手だけではない。頭の上にもバケツを乗せている。


「はいはーい、ホツミちゃん、気を付けてねー。バケツの中身はガソリンだから、うっかり変な所にこぼすと、火達磨になっちゃうよー」


 ホツミの前方に立つツグミが、笑いながら告げる。


(そっか。これが純子ちゃんと累君から聞いた、ホツミちゃんの能力。絵の世界に引きずり込む力か、あるいは絵の世界を現実に被せる力のどちらか。累君に学んだんだっけ)


 一瞬驚いたホツミであったが、すぐに冷静になる。


「何をしてくるかわからなくて危険~? ふーん。それは私から見たツグミちゃんだってそうなんだけどなー」


 先程の悪魔のおじさんの台詞を思い出し、ホツミは微笑を浮かべて呟いた。


「こうさ……」


 降参を促すツグミの声は続かなかった。


 落ちていたホツミの帽子からピンクのビームが迸り、ツグミの両足に照射された。

 帽子の中から、目玉のついた骨のステッキが転がる。


 ツグミは絶句し、ホツミを見た。ホツミは哀れみの視線をツグミに向けている。

 ツグミの膝から下の感覚が無くなっていた。


 次の瞬間、ツグミの膝から下が塩と化して崩れ、ツグミは床に横向きに倒れた。


(足……やられちゃった……宣言通りに……)

 倒れて恐怖に震えるツグミ。


 悪魔のおじさんの姿が消える。ビニール魔人の姿も消えている。火事の教室も消えていた。ダメージとショックで、ツグミの能力が全て解除された。


「ううう……うぅ……」

「ただし、違いは幾つかあるよねー。不公平だよねー。私はツグミちゃんを殺さないように手加減しているのに、そっちは私を殺そうとしている。ま、死なないけどね。こっちは死なない。ツグミちゃんは死ぬ。それも不公平だっ」


 足を押さえて呻くツグミを見下ろし、不貞腐れた顔で主張するホツミ。


「その杖ね、私の体の一部なの。その気になれば頭だって撃てたよ? 今から撃っちゃおーかなー?」


 意地悪い笑みを浮かべて意地悪い声を発した後で、ホツミはまた表情を変えた。


「ツグミちゃん。降参しますって言って。もう抵抗しないで。お願い」

「降参……します……」


 真摯な顔になって頼みこむホツミを見上げて、ツグミは全身を小刻みに震わせながら目に涙を浮かべ、掠れ声で降参した。

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