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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
93 マッドサイエンティストの箱庭で遊ぼう
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23

 みどりの体が空の道から地面へと送られる。


「ふわぁ~、純姉の仕業なんだろうけど、その気になれば問答無用で地面に叩き落とす事もできただろうし、そうしなかっただけ温情かな」


 裏路地に降りたみどりが、すぐ近くに何者かが迫る気配を察知しながら、その者に聞かせるかのように言った。


「流石に純子は貴女達を殺すつもりはありません。しかし捕獲した後の扱いは、決して良いものではないでしょうね」


 聞き覚えのある声が響き、みどりは振り返った。


「久しぶりですね。みどり」

「綾音姉、そっちについたん?」


 現れた雫野綾音に向かって、みどりは意外そうに言った。


(いや、意外なことも無いかァ。確認はしてないけど、御先祖様が純姉サイドについたのは明白なんだし、そうなると娘である綾音姉も)


 質問してから、みどりは思う。


「ええ、そういうことになりますね。さて、また雫野流の術試しをお願いします」

「上っ等ッ。でもみどりの方が強いって知ってるべ~?」


 会釈して告げた綾音の言葉を聞いて、にかっと歯を見せて笑うみどり。


「あの時は私も本気は出していませんでしたよ。でも今回は本気を出させていただきます」


 穏やかな口調のままで話す綾音であったが、その身から立ち上る闘志を見て取り、みどりも臨戦態勢になった。


***


「あれ? ここって……」


 一人になったツグミが、目をぱちくりとさせる。あちこちにグラス・デュー産の動物がいて、客達と触れ合っている。見覚えのある場所――先程の転烙幻獣パークだ。


「私一人だけ? 何でこんな所に飛ばされてるの?」


 空の道の故障なのかと考え、他の面々と裸淫で連絡を取ろうとしたツグミだったが、その手を止めた。


 周囲にいった動物達が、一斉に散っていった。何か危険を感じ取ったかのように。

 それを見てツグミも警戒し、怪異を三体呼び出す。悪魔のおじさん、ビニール魔人、デカヒヨコ。


「昨日ぶりだね。ツグミちゃん」


 どこからか声が響く。その声をツグミは知っていた。


 ビニール魔人がツグミの上空へと移動する。悪魔のおじさんが転移して、ツグミの体を押し倒す。

 上からピンクのビームが降り注ぎ、ビニール魔人を貫いた。ビニールボディが塩粒へと変わる。


「避けられると逆に危ないかもー。今のだって、殺そうとはしてないし、足を狙ったんだよ? 足だけ失くしても、後で純子ちゃんに作ってもらえばいいし~」


 声は上から響いた。


 見上げると、白ずくめの魔女の格好をした少女が、空に浮かんでいた。柄が骨で、先端には目玉が大量についた不気味な杖を手にしている。自称魔法少女、白禍ホツミだ。


「なるほど~。ばらばらにしたうえで、タイマンするって展開か~。熱いっ」

「怪異を召喚して戦うツグミ相手にして、それをタイマンと呼んでいいのかネー?」


 ホツミを見上げて不敵に笑うツグミに、悪魔のおじさんが突っ込んだ。


***


 伽耶と麻耶はどよめきを聞く。


「見世物にされてる」「居心地最悪」


 周囲を見渡し、伽耶と麻耶は憮然とした顔になる。客席から何千という視線が自分に注がれている。

 姉妹が飛ばされた場所は、目的地であるぶち抜き転烙アリーナだった。だが居るのは客席ではない。コートの中央だ。


 コートのあちこちに血飛沫が飛んでいる。血だまりが出来ている。どちらも新しい。


「おやおや、懐かしいのー。と、言うても其処許らは拙者を知らんか。拙者はこっそり見ておったがのー」


 コートに立つ硝子山悶仁郎が、血に濡れた刀で己の方を叩いて笑う。彼自身も帰り血塗れだ。


「つい今しがたまで死民戦挙を行っておったところじゃ。さて……その二つの首、二つある故に、一つは切り飛ばしてもよいのかな?」

「二つ斬り飛ばしても実は平気」

「馬鹿麻耶、余計なこと言わないの」


 からかう悶仁郎に麻耶が答え、伽耶が麻耶を咎める。


女子おなごの脂は刀に良くないが、この名刀にして妖刀『柔肌破り』はどれだけ斬っても切れ味を損なわぬ……って、拙者が喋ってる最中なのに、電話するでない」


 電話をとる姉妹を見て、悶仁郎は苦笑する。


『伽耶、麻耶、お前達の力で全員を一ヵ所に集めろ』

「皆集まれ~」「まとめて召喚」


 真の指示に従い、魔術を行使する伽耶と麻耶であったが、何も起こらない。


「無理」「結界が張られている」

『お前達の力も織り込み済みか……』


 真が喋った直後、悶仁郎が姉妹めがけて一直線に駆け出した。


***


 伽耶と麻耶の電話が途中で切られ、真は頭の中で舌打ちする。


「なるほど。各個撃破する方針か」


 目の前に現れた少年を見据え、懐かしさを覚えながら話しかける真。


「しかし僕の相手がお前か。雪岡がよかったんだけどな」


 エメラルドの瞳を見据えて言う真に対し、相手は答えず、ただじっと真を見つめている。その右手には、漆黒の刀身の刀が握られている。


「で……それがお前の選択なんだな? 累。半年前もそうだったけど、僕にはつかず、雪岡を選ぶのか」

「僕は真のことも純子のことも大好きですよ。どちらも大事なんです。でも……この件に関しては、純子の力になりたいんです」


 真に確認され、ようやく累は口を開いた。


「真にも考えがあるのはわかりますが、真のしていることは、純子の気持ちを踏みにじる行いですよ。それも見過ごせません」

「あいつはそんな風に受け取っていない。楽しんでいるさ」


 非難気味に言う累に、真は微笑を浮かべて告げた。


「ネトゲの時……オススメ11の時も、お前とこうして敵対したな」

「少しわくわくしていません?」

「少しな」


 累に問われ、真は認めつつ銃を抜いた。


***


 飛ばされた先にて、熱次郎は固まっていた。


「久しぶりだねえ。ほら、こっちおいでー、熱次郎君。はぐはぐー」


 両腕を広げ、弾んだ声で、屈託の無い笑顔で、純子が熱次郎を招く。

 懐かしさと愛おしさと悔しさが入り混じった複雑な気分で、熱次郎は純子を見据える。その腕に飛び込んで思い切り抱きしめられたいという欲求に抗う。


「何で……俺は置いていったんだ? ホツミは良くて、俺は駄目だったんだ?」


 低く静かな声で問う熱次郎。


「君の頭は私のクローンだからだよ。でもね、君は私ではない。魂は別でも、脳は同じだから、感じることも考えることも似通ってる。私が君の立場だったら、絶対に真君の方を助けるからね。それがわかっていたから、置いていったんだ」

「ははは、それなのに俺は純子の考えがわからないぞ……」


 純子の話を聞いて、熱次郎は乾いた笑い声をあげる。


「正直になりなよ。熱次郎君」

「正直も糞も無い。俺はずっと混乱しているぞ。俺は……オリジナルである純子のことをずっと追い求めてきて、妄想の純子に縋っていて……やっと会えて感動して……それなのにさ……」


 そこまで喋った所で、熱次郎の目から涙が零れ落ちた。


「それなのに、今は……真の方に心が傾いている。それで……応援したい気分になっている。しかもそれをあっさり見抜かれて……」


 うなだれる熱次郎。


 純子は笑みを浮かべたまま、自分の方から熱次郎へと近づいていく。


「俺がそういう心境になると、純子は見越していたから、連れて行かなかったのか。例え純子に与しても、真が苦境に瀕したら、真の方を助けてしまうと……。何もかもお見通しか」

「言ったでしょー。頭は同じだから、感性と思考が似通ってるって」


 言いつつ純子は熱次郎を抱きしめた。しかし熱次郎は抱き返そうとはしない。


(そして俺が純子の足を引っ張るから、連れて行かなかったんじゃない。連れて行かないより連れて行った方が、俺がより苦しむと思って、純子は連れて行かなかった。そういうことなんだ。純子はそこまで思慮してくれていたんだ)


 それが嬉しくもあり、情けなくもある熱次郎だった。


「それで……どうするんだ?」

「それは熱次郎君が決めてよ。私が合わせるから」


 問いかける熱次郎の耳元で、純子は優しい声音で告げた。

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