表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
93 マッドサイエンティストの箱庭で遊ぼう
3167/3386

21

 シスター、ネロ、ブラウン、幸子他数名のヨブの報酬のメンバー達も、転烙市で一晩明かし、昨日今日と都市の調査を行っていた。

 そのシスターの元に電話がかかってくる。相手は純子だった。


『シスターも来てくれたんだねえ。ま、昔からシスターは、後ろでふんぞり返ったりせず、現場に直接乗り込んでくるタイプだったから、驚かないけど』

「純子がこれまで積み上げてきた全てをぶつけてくるなら、私が出ないわけにはいきませーん」

『そっかー。つまりシスターは全てお見通しなんだねえ』

「予感ですよー。しかしこの予感が外れることはないと思っていまーす。純子、貴女は最後の一線を踏み切り、行ける所まで行くつもりでしょー」


 シスターはいつもの間延びした喋り方だったが、それでもその声には真剣な響きがあり、表情もこいつになく強張っている。


「シスター、怒ってんのかね~?」

「こんなシスターはあまり御目にかかったことがありません」


 ブラウンと幸子が囁き合う。


「お、怒っているのではない。闘志を燃やしているだけだ。そして……」


 ネロが否定して、言葉を瞑業として途中で思い止まった。


「そして……? 何だよ?」

「いや……」


 ブラウンの問いに、ネロは名目して口を閉ざす。


(シスターも俺も、純子とは長い付き合い。二人して、予感しているのだ。互いの長きに渡る戦いの歴史に終止符を打つ程の、本気の戦いになると。それほどのものを、純子は仕掛けてきている)


 それを他の面々の前で、安易に口に出したくはないネロであった。この想いは口にした所で、どうせわからない。伝わらない。わかるのは自分とシスターだけであると。


『その例えは何だか微妙に違う気もするけどね。ま、スパートかけているのは事実だよ。全身全霊をかけて、全てを費やして、千年越しの私の目標を叶えるためにね』

「断じて叶えさせませーん。私達の歴史に終止符を打つつもりで、全身全霊で防がせて頂きまーす」

『そっかあ。楽しみにしてるねー。んじゃ』


 電話が切られる。


「援軍を呼んだ方がいいかもな」

 ブラウンがぽつりと呟く。


「確かに今の純子相手にこの都市で最終決戦するには、駒が少なすぎますねー」


 シスターはブラウンの意見に同意し、ヨブの報酬本部から援軍を派遣することに決めた。


「見、見ろ……。市役所が生配信で賭け事を行う予定だそうだ……。しかも真剣勝負で……」


 ネロがホログラフィー・ディスプレイを広げて、転烙市市役所の公式ページトップを見せる。


『今日からお前も市長だ! ルールはシンプル! 市長を殺せばお前が市長! 権力を我が手に! 第百二回死民戦挙開催!』

「酷い催しですねー」


 ロゴを見て眉根を寄せるシスター。


「直に行ってみねーか? 市長様とやらも只者じゃなさそうだしよ」

「そうですねー。行ってみましょー」


 ブラウンの意見に、シスターは頷いた。


***


 犬飼と義久も、第百二回死民戦挙の告知を見た。こちらは街中の広告で確認した。


「市長の座を殺し合いで勝ち取るのか……。何というか……」


 義久は呆れはてて、上手く言葉が出なかった。


「人の本質――原点に還ったとも言えるぞ。人間は本来野蛮なのさ」


 犬飼がにやつきながら持論を口にする。


「俺達も昔こういうことやったなー。人死に出すぎて、参加者も減っていってイマイチだったけど。しかし半年の間に百二回もやってるのは驚きだ」


 かつてホルマリン漬け大統領のボスを務めていた時、犬飼はデスゲームイベントを行ったことがあるが、口にした理由により、すぐにやめた。


「二日に一回以上のペースだな」

「こういうのは尊幻市でもよくやっていたな。あの辺をモデルにしたのかなー? ま、観に行ってみようぜ」

「正直気が乗らない。残酷ショーなんて見たくないし」

「おいおい、それでもジャーナリスト様かよ。しっかり見届けねーと」


 全く乗り気ではない義久の肩を、犬飼は軽く叩いた。


***


 真達六名も、襲撃に警戒しながら、転烙市のさらなる調査を行っていた。調査と言っても、何をしているかといえば、ただ街中をブラついているだけだが。

 六人が現在いるのは、工業地帯だった。ぱっと見は工場が立ち並んでいる、ありきたりの風景に見えるが、二つ、通常の工業地帯と大きく違う点がある。


「シュールな光景」

「でも面白い。これがそのうちこの町以外もスタンダードになるかも」


 多くの貨物が垂直に上下浮遊している様を見上げて、伽耶と麻耶が言う。空の道へと上がっていく荷物と、空の道から届けられる荷物だ。


「空を運ばれる荷物がさあ、うっかり空の道から外れる事故とか無いんかねえ」

「あったら大惨事だな。荷物だけでなく人もそうだが」


 みどりが半笑いで、真はいつも通り無表情に話す。


 そしてもう一つの、通常の工業地帯では見受けられないものがあった。

 先程から何回も、硝子人の集団とすれ違っている。この辺は特に多い。フォークリフトやトラックを運転している者もいれば、大きな荷物を直に運んでいる者もいる。


「キツい労働は皆あの硝子人にお任せか」

「細身なのに力持ち」「ガラスなのに力持ち」

「ロボットなのかゴーレムなのかわかんないね~」

「ありゃ人間だわさ……」


 熱次郎、伽耶、麻耶、ツグミが言うと、みどりが表情を暗くして、おそるべき発言をした。


「え?」

「嘘……」


 一斉にみどりの方を向く他五名。


「少なくとも人間の魂魄は宿っているよぉ~。精神波も人間のものだし、あれの中に魂魄を詰めたか、さもなきゃ人間をあんな風に変化させたかのどっちかなんだよね。物質に自然と魂が宿ることはあるけど、そういうのとは違うわ。あれは精神も知性も伴った人間の魂だよォ~」

「空の道の台座と同じ? それも純子の仕業?」

「ここ、裏でそんなおぞましいことしてるの?」

「雪岡先生……」


 みどりの話を聞いて、伽耶と麻耶は顔をしかめ、ツグミは青ざめた顔になっていた。


「何でそんなことするの?」

「おそらく、いちいちコンビューターを搭載したり疑似知性を作ったり術で動かしたりするより、人の知性をそのまま宿した方が、コスト的にいいと考えたんだろう」


 ツグミの疑問に、熱次郎が答える。


「問答無用で誰彼構わず、人の魂を入れたとか、そういうことは無いと思う。いや、そんなことは無いと思いたいな。あいつは目的のためになら非道も働くが、こんなロボットもどきを作るためだけに、そこまで滅茶苦茶なことはしないだろう。多分」


 真の台詞はどことなく自信が無さげに、他の五名には聞こえた。


「あの店は何だろー?」

 ツグミが小さな店を指す。


「硝子人の破片店?」

 看板を読む熱次郎。


「そんなの買う人がいるんだ」「店の中にお客さんいる」

「私達も行ってみよー」

「らじゃー」「行ってみよー」


 ツグミと伽耶と麻耶が見せに向かう。


 真に電話がかかってくる。相手は犬飼だ。


『お、かかった。やっぱり同じ市内であれば、情報を共有できるみてーだな。ま、それすら防がれたら面倒臭過ぎるしな』

「そっちも転烙市に来たのか」

『連絡遅れたが昨日からいるぜ。で、今、第百二回死民戦挙を開催する『ぶち抜き転烙アリーナ』にいるんだが。市長様と戦って、市長様に勝てば次の市長様だとよ。笑っちまうよなあ。現代の日本でこんなことやってんだぜ?』


 その催しは真達も知っていたし、市長を狙うつもりでもいたが、イベントのことは失念していた。


「僕達も向かう」

『急げよー。市長様の演説始まるぜ』

「電話パース。おひさー、犬飼さん」


 みどりが真からバーチャフォンを受け取り、声をかける。


『みどりもいたのかよ。ああ、義久の奴もいるぜ』

「ふぇ~……よっしー連れてきても、ここの情報は外に持ち出せないじゃんよォ~」


 義久は落ち込んでいるだろうと、みどりは察する。


「移動するぞ。って……伽耶と麻耶とツグミはショッピングか」


 真は少し思案する。


「演説すると言ってたから、少しくらい遅れてもいいかな。演説している所に襲撃するのもどうかと思うし。三人が戻ってきたら移動しよう」


 真の言葉を聞いて、つまりは遊び優先かと思った熱次郎であったが、口には出さないでおいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ