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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
93 マッドサイエンティストの箱庭で遊ぼう
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20

 硝子山悶仁郎は幕末に暗殺者として活躍していたが、惑星グラス・デューへと迷い込み、黒アルラウネを移植されて異形の存在へと成り果てる。

 現在は地球に帰還し、現代社会に何とか適応して生きていた。


 覚醒記念日以降、そんな悶仁郎の存在を知る純子が声をかけた。自分の遊びに付き合わないかと。転烙市を自分の都合の良いように改造するので、その統治をしてくれと。

 思ってもみない要請であったが、悶仁郎はこれを受けた。ずっと日陰者だった自分であるが、人生のうちに体験できる事はしてみたいという、そんな単純な好奇心が理由で。


「か~……難しいのー。演説の勉強。いや、面倒というのが本音じゃの」


 市長室にて、和紙に筆と墨を用いて演説の台本を書きながら、悶仁郎は頭を掻く。


「市長様も大変じゃて。いつの時代も、上に立つ立場は面倒であることは普遍にして不変か。よもや拙者が斯様な立場に就くとは思わなんだが」

「普通の都市の市長様じゃないしねー。サイキック・オフェンダーも集めているし、元々は暗黒都市だし、どうしても力による統治が必要になるよ。統治者としての説得力もいるし、それなりのパフォーマンスも必要かな」


 悶仁郎の前にいる純子が言う。


「そのぱふぉーまんすとやらが問題じゃ」


 悶仁郎は大きく息を吐き、筆を置いて休憩にした。


 支持率はそこそこ高い悶仁郎であるが、ズレた発言も多く、不安がられてもいる。その辺が課題でもある。


「より民草を納得させる良い弁舌……無いものかのー」

「言葉だけが立派でも、人の心には響かないよ。虚ろな空回りになっちゃうよ。心とか、背景が必要なんだ。その人物の存在感とか、安心感とか信頼感が必要なんだよ」

「ふーむ……」

「どんなに達者で正しいロジカルだろうと、ロジカルだけで心は動かないし、正論が必ずしも心に響くわけではないからね」

「ろじかる……のう。うむ。その理屈はわかるわい。同じ言葉でも、口にする者が違うだけで、全く印象が異なることもあるしの。言葉の重みが違ってくるわ。それによって説得力の有無が別れることもあろう」


 心に刺さらない論理は、いくら本人が正論のつもりでも、何の力も無い空疎で無価値なうわごとだと悶仁郎も理解している。


「とはいえ、その理屈がわからない人もいるけどね。言葉や理屈は誰が言っても同じはずなのに、発言する者によって異なる印象を抱くことが愚かだと、そういう考えの人ね。人の心に響く言葉、刺さる言葉を紡ぐことが出来る人達は、全て理解したうえで、どう訴えれば情緒に響くのか、自分の印象がどうであるか、状況や背景も計算したうえで、相手の心に刺さる言葉を口にできる。そして役を演じられる」

「拙者にも然様に演じろというか。荷が重いわい。この時代の生まれでもないしの」


 惑星グラス・デューから地球へ戻ってから、現代日本のことも学習した悶仁郎であるが、現代人の気質を理屈では理解していても、感性の部分では共感できない部分が多い。通じ合えない、わかり合えない相手に――しかも不特定多数を惹きつけるためのパフォーマンスを自分がするなど、土台無理があると悶仁郎は思う。


「でも背景と状況のお膳立てはしっかり整っているし、悶仁郎さんのキャラも受け入れられているよー。悶仁郎さんは立派にこなしているよ。演説の内容もちゃんと自分で考えているしさ。真面目だよねえ」

「ふふ、いい飯食わせて貰っている分、働かんとな」


 仕事に対しては誠実な悶仁郎であった。しかし忠実かと言えばそうではない。裏切ることもある。グラス・デューで百年以上も仕えてきた古王も裏切っている。

 今は悶仁郎も面白がって純子に協力しているが、何処かでズレが生じたら、あっさりと裏切るだろう。純子も悶仁郎のその性質を承知したうえで、自陣営に置いているし、悶仁郎が裏切った場合、あっさりと殺す。あるいは実験台に使う。よほど気に入った者でない限り、純子は基本的に、裏切り者に対して容赦しない。


「で、これからのことなんだけどさ。多分PO対策機構やらヨブの報酬やら、敵対勢力がわんさかここに押し寄せると思うんだよねえ。すでにヨブの報酬は来ているし」

「其処許のぱーとなーもな」


 悶仁郎が口を挟むと、純子は小さく微笑んだ。


「明日の死民戦挙しみんせんきょの際に、悶仁郎さんを狙ってくる可能性もあると思うんだよねえ」

の催しは、元より殺し合いが前提じゃろ。楽しみが増えるというものよ」

「油断は禁物だよー。ああ、それとね、真君とその仲間と戦闘になる可能性もあるけど、その子達は殺さないでね。特にこの子とこの子達。生かしたまま回収して実験台にしたいから」


 不敵に笑う悶仁郎の前に、純子がホログラフィー・ディスプレイで少女達の写真を投影してみせた。


「ふむ。努力してみよう。しかし其処許がそう望むのであれば、これらの娘が拙者の前に立つ前に、其処許自身が回収すればよかろうて」

「まあ、そうなんだけどねー。出来るだけそう努力するつもりではいるけど、何が起こるかわからないから、念のためね」

「なるほど。拙者より長生きしていることはある。用心深いの」


 悶仁郎の言葉は皮肉だった。本当に用心を重ねるなら、自分のような者を配下にしたあげく、要職には就けないだろうと、悶仁郎は思っている。


(あるいは拙者程度が何をしようと、制御しきれる自信があってこそか?)


 悶仁郎は純子を見て思う。たった半年で、一つの都市をここまで改造して発展させた純子の力を考えれば、自分一人が何をした所で、掌の上で踊らされるだけの結果になるのではないかと。


***


 真達が転烙市を訪れ、一日が経過した。

 市役所を訪れる予定で、宿泊したホテルを出た所で、真達六人はすぐさま襲撃を受けた。


「ぱおーん!」


 頭部が象になった巨漢が鳴き声をあげ、単身で襲いかかってくる。


「象頭?」「ガネーシャ?」

「これ、人が変身してるの?」

「何でこんな能力にしちゃったの? 象好きなの?」


 伽耶と麻耶が象頭の巨漢を見て、呟き合う。


 突進してきた象男に、真が銃を撃つ。


 銃弾は尽く弾かれた。象男はいささかもひるむことなく、真に体当たりを仕掛ける。


 真が避けると、今度は熱次郎に向かって体当たりを仕掛けるが、熱次郎も避ける。


(こいつ、殺気も無いし……それに、手加減している?)


 真の目から見て、象男が体当たりを本気でしているようにも見えなかった。


「皆っ、左っ」


 みどりが鋭い声をあげる。全員が左を向くと、筋肉質な中年男が、パイプでシャボン玉を飛ばしている姿が見えた。

 シャボン玉は男から離れるごとに巨大化していき、人がすっぽり入るほどの大きさになる。そしてシャボン玉のようにふわふわと飛ぶわけではなく、地面と水平に、真達めがけて高速で飛んでくる。


「象頭は囮か」


 熱次郎が呟き、地面から触手を数本生やして、シャボン玉の行く手を遮った。


 直後、数本の触手が地面から一気に引き抜かれて、一つのシャボン玉の中に丸まって収まる。


「わーお、触れるとシャボン玉の中に捕まっちゃうんだー」


 ツグミが歓声をあげる。


「何故か嬉しそう」「喜んでいる場合じゃない」

『シャボン玉らしく飛んでけ~』


 伽耶と麻耶が即興魔術を発動させると、水平に飛んできた巨大シャボン玉が全て、速度を急激に落とし、ふわふわとシャボン玉らしく漂い始めた。


「ぱ、ぱおっ……」

 象男が戸惑いの声をあげ、逃げ出した。


 シャボン玉男も、自分の能力が無力化されたうえに、象男が逃げ出す様を見て、さっさと退散する。


 真は象男もシャボン玉男も見逃した。また襲ってくる可能性もあるので、本当は殺した方がいいが、相手に全く殺気が無かったのでそれもやりにくい。


「殺気が一切無いから、二重の意味で面倒だ。葉山のせいで裏通りの戦闘は、殺さずの路線にシフトしたが、こいつらはそういうんじゃないな。元々殺す気が無い奴等だ」


 真が銃を収めながら言う。


「自分達が殺意を見せなければ、こっちも加減すると、予め雪岡から言われている可能性もあるな。そして……殺さないようにして襲ってくるということは、もう一つ狙いがある」

『狙い?』


 伽耶と麻耶が訝る。


「僕達を生きたまま捕獲したいんだろう」


 特にツグミと牛村姉妹は、純子にしてみても高い価値があり、純子が欲さないはずがないと真は見ている。


「さっさと市役所に向かって、硝子山悶仁郎を倒した方がいいな」

「殺すの?」「倒してどうするの?」


 伽耶と麻耶が問う。


「殺さなくても、PO対策機構が市長をやっつけたと宣伝するのは効果あるだろう」

「そんな宣伝できるのかな?」


 熱次郎は懐疑的だった。そんなに単純に話が進むだろうかと。そしてその宣伝にどれだけ意味があるのかもわからない。


「市内では平気なんじゃないか?」

「いや、宣伝が出来るかどうかのことじゃなくて、その宣伝に意味あるのかってこと」


 真の発言がズレていたので、熱次郎は眉をひそめる。


「市内でも、都合の悪い情報の拡散は、赤猫を使って防がれちゃうんじゃね?」

「えっとー、私達は偵察任務だったのに、そこまでやっていいの?」


 みどりとツグミが疑問を呈する。


「やってみる価値はある。どっちもな」


 一瞬ではあったが、無意識のうちに微笑を零して言い切る真。


「あるあるある。絶対ある。いいもの拝めたし。やるやるるやるやる」

「どうどう。落ち着け」


 いきなり興奮して張り切り出す麻耶を、伽耶がなだめた。

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