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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
93 マッドサイエンティストの箱庭で遊ぼう
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16

 電車で転烙市に入った犬飼と義久は、窓の外から見える転烙市の景色を見て、驚愕していた。


「こいつはたまげたなあ……」

「近未来都市って呼べばいいのかな? 凄い風景だ」

「近未来というより未来都市と断じていいかもな。近い未来じゃここまではならねーだろ」

「さもなきゃ半異世界都市とでも呼ぼうか? こんなに凄い変化が起きているのに、情報が外部に一切漏れていないのが不思議だ」

「植物の色が青っぽいのとか紫なのは何なんだ?」

「それよりオレンジの塔? あれ、空の上まで伸びてて、てっぺんが見えない。あんなものを作るテクノロジーが、現代の人類にあると思えない」


 犬飼と義久が並んで窓の外を見ながら喋り合う。


(この風景を撮ってアップしても、作り物と思われるかな?)


 義久がそう思いながら写真を撮ろうとしたその時――


「うっぐ……」

 頭を押さえて苦悶の表情になる義久。


「何だこれ……頭の中に……いや、目の前に変な映像が……」

「どした?」


 様子のおかしい義久を訝る犬飼。


「写真撮ってSNSにあげようとしたら……出来なかった。頭がくらくらして、気絶しそうになった。変なものが見えたし。全身真っ赤な猫が現れて……」

「俺もちょっと試してみるわ。いや、誰か知り合いに画像を送ってみよう」


 義久の話を聞いて、犬飼も同じことを試してみる。


 犬飼も途中で動きを止め、顔をしかめた。


「うわ……本当だ。真っ赤な猫見える。意識が途中で切れる」


 頭を押さえて作業を中断する犬飼。


「外に情報を発信しようとすると、こうなるのか。道理で情報が漏れないわけだけど、これって都市全域にこういう仕掛けがされているのかな?」


 義久が外の風景を見つつ、疑問を口にした。


(先に入ったデビルや真から、中の様子に関して一切報告されないのは、こういうことか……)


 連絡も報告も無いことが不思議であったが、犬飼は理解して納得した。


「一度外に出ても……おそらく駄目だろうな。それが出来るのなら皆とっくにやってる」


 と、犬飼。


「はあ……これじゃ俺は仕事出来ないって話になる……」


 義久が重い溜息と共に、大きな肩を落とす。


「諦めるには早いだろ。もしかしたらの可能性を考えようぜ。それともすごすごと帰るか?」

「いいや」


 犬飼に励まされ、義久は微笑を浮かべて顔を上げた。


「超常の力のことはよくわからねーけど、それでも確かにわかることがある。町の中に入った人間の頭に、問答無用でこんな作用をもたらすなんて、尋常じゃない力だってことだ」


 犬飼はそう言った後で、はっとした。


(待てよ。外とは連絡取れなくても、中同士でならいけるんじゃないか?)


 デビルにメールを送り、転烙市に入ったことを報告すると、すぐに返信が来た。


(お、いけるみたいだな)


 ほくそ笑む犬飼。中で連絡が取れるだけで、出来ることは広がる。


『大丘はもう見限る。監視は面倒だし、見届ける価値も無い。壊しておく』

(え……?)


 デビルから送られてきたメールを見て、犬飼は絶句した。全く予想しなかった展開ではないが、それにしても早い。


『おいおい、何があったんだよ?』

『何も無かった。あいつはつまらない男だった。くだらない男だった。雪岡純子に敵愾心を抱いていたが、心が折れてしまっていた。だから折れた心を壊して燃やしてみる』

『そうか』


 犬飼の方針としては、デビルを縛ることはせず、判断に任せているのだから、デビルが大丘の監視を辞め、破滅に導く結論に至った事も仕方ないとする。


(できれば、もう一捻り欲しかったけどなあ。あっさり壊して終わりか。何だかなあ)


 犬飼はそう思ったものの、デビルに注文することは無かった。


***


 超常能力覚醒施設に訪れた者には、幾つかのコースが提示される。楽なコースと激しいコースが段階的に有り、楽な方はほとんど代償が無いが、強い能力が覚醒する可能性は低い。激しいコースは、強い能力が覚醒し、あるいは今ある力がより強くなる可能性があるが、心身にかかる負担も大きい。障害が残る可能性もあれば、発狂や死亡に至る危険性もある。

 大丘は覚醒コースの中でも最も過酷な、超絶限界突破コースを選んだ。


 デビルによって精神を操作されている大丘であるが、完全に意思が奪われているわけではない。感情面で暴走しているだけだ。


 意識が混濁している大丘。しかし施設の係員達はお構いなしに、寝台に拘束した大丘の体にコードを繋げていき、薬品を次々に投与していく。

 麻酔のおかげで、肉体的な苦痛は無い。しかし精神の方には大きな異常をきたしていた。


 フラッシュバックする記憶の数々。犬飼の元を離れてから大丘は、術師達の元を巡り、様々な術を身に着けていった。術師になるには、幼少期からの訓練が適正であるというのが通説であるが、大丘には才能があった。子供でもないのに、数多くの流派の術を、どんどん取り込んでいった。

 あの修行の日々は楽しかった。自分が強くなっていく事を――特別になっていく事を実感できたから。


 しかしそれが大丘にとって、人生で一番楽しかった思い出というわけではない。一番楽しかった記憶は、犬飼と過ごした時間だ。あの時間がずっと長く続けばよかったのにと、何度も思う。

 その時間を終わらせたのは、他ならぬ大丘自身だ。だが大丘からすれば、それは犬飼のせいということになる。犬飼が自分を失望させたから悪いと。


「あー、こりゃ新記録いくかなー」


 担当研究者のチーフが、心電図他、モニター類をチェックしながらニヤニヤと笑う。


「これ、やりすぎじゃないですか?」

「でもこの人、凄く素質あるよ。こんなに耐えられる人、初めてだわ」

「すげーな。この極悪コースをここまで耐えた奴いないぞ。もうやめとく? 新記録いったし、それなりに強い力が目覚める可能性大だ」

「もうちょっといってみよー」

「おお、まだいくのか。でもさー、死んだら記録されないんだよねー。そろそろやめた方が……」

「あ……」


 大丘を覗き込んで楽しげに喋っていた研究員達だが、一斉に凍り付いた。大丘が憤怒の形相で拘束衣と拘束帯を一気に引きちぎったからだ。


「麻酔が効いてながべぼ!」

「嘘だろ……。その拘束をちぎっちまうなんて……って、おい、やめろっ! こっちに来ん……なば!」

「やめてええっ! 私にはむすごぶび!」


 悲鳴をあげている途中に、研究員達は次々と殺されていく。


(いい感じだ。命も魂も燃やし尽くしている。その炎で、世界を焼かんとする姿。とてもいい感じだ。何度見ても飽きない)


 大丘が研究員達を殺しまくる光景を見て、デビルは目を細めていた。


(私が……僕が力を求めた理由は……何だったか……)


 殺意の衝動に身を任せる一方で、大丘は漠然とそんなことを考えていた。


***


 超常能力覚醒施設へと訪れた、真、みどり、熱次郎、牛村姉妹、ツグミの六名。


「結構大きいね」

「人も多い」


 建物を見て伽耶と麻耶が言う。建物敷地の庭に、研究員が多く行き交うのが見えた。柵越しに敷地の庭は外から出も丸見えだ。


「庭に動物が沢山いるけど、これも実験台にされちゃうのかな?」


 建物敷地内の庭にいる動物を見て、ツグミが言った。


「雪岡は動物実験を嫌っていたはずだけど、もうそのルールも破っていそうだな。だからグラス・デュー産の動物が溢れている」


 と、真。


「能力の覚醒希望者ですか? 契約書に目を通してサインをお願いします」


 研究施設の中に入ろうとした所で、受付に声をかけられた。


「雪岡純子の知り合いだ。見学したい。許可は取ってあるはずだ」

「え……? 少々お待ちください」


 真が言うと、受付は不審げな顔になってホログラフィー・ディスプレイを投影する。


「真、実験台になるって嘘ついて入った方がよくなかった?」

「私もそう思う」


 麻耶が言い、伽耶が同意する。


「いいんだよ。ここは潰してしまおう」

「いや、どこからそんな話になったんだよ。滅茶苦茶だろ……」


 いきなり過激な方針を口にする真に、熱次郎が呆れて突っ込む。


 その時、轟音が響いた。さらにはサイレンも響く


『緊急事態発生! 緊急事態発生! 超絶限界突破コースを受けた被験者が暴走し、見境なく攻撃を行っています! 非戦闘員は速やかに避難を!』


 館内放送が流れ、受付の係員も、エントランスにいた施設の人間も、不安げな顔になっていた。


「ふぇ~、超絶限界突破コースって……?」

「あそこ。案内に書いてある。コースを選べるんだな。強い力を覚醒できるコースほど危険度が増すらしい」


 みどりが言うと、真がエンランスの柱の一つにある案内板を指した。


「じゃあ、美咲さんの父親もヤバいコースを自分で選んで、その結果死んじゃった?」

「そう考える方が自然だ」


 ツグミが不安げに最悪の想定を口にすると、真が即座に肯定した。


「雪岡先生が悪いことしたんじゃなかったんだ。よかったあ」

「いや、自分で選ばせる形式とはいえ、死に至る悪いコースも用意しているんだぞ。雪岡も間違いなく悪だ」


 笑顔で胸を撫でおろすツグミに、真が釘を刺すかのように言った直後、通路の一つを凝視した。


「殺気の塊が近づいて来る。皆気を付けろ」

 真が警戒を促し、懐から銃を抜く。


「うっひゃあ……殺気だけじゃない。物凄い怒りの塊だわさ」


 通路から、体をひきずるかのような足取りで、返り血塗れの男が現れる。


「あぐあぐあがあぐあがあぐあがががぐあぐぐぐ……」


 男は歯を剥き出しにして、血走った目を大きく見開き、口からは血の混じった涎を垂らし続け、おかしな唸り声を漏らしている。どう見ても正気ではない。


「大丘さん……」


 ツグミが少し脅えた表情になって、現れた人物の名を口にした。

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