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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
93 マッドサイエンティストの箱庭で遊ぼう
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10

 真、みどり、ツグミ、伽耶、麻耶、熱次郎の六人は、駅を降りて転烙市の繁華街を歩いていた。


「流石に繁華街の中で飛ぶ人はいないようだな」

「空にも道が決められていて、飛ぶコースが決まっているんだろう。透明の階段がその中継地点みたいだ」


 熱次郎が街中を見回し、真が空を見上げて話す。

 真の言う通り、空を駆ける人々は透明の階段に着地して、そこで速度を少し落としている。透明の階段はエスカレーターになっているようで、階段に着地した人を自動的に上昇下降してから、透明の階段から空へと射出されている。


「この植物、どうしてこんな色なの?」


 水色の幹に薄紫色の葉の街路樹を見て、ツグミが不思議がる。


「グラス・デューの植物だから」「別の星の植物だから」

『そこだと空も地面もこんな色』

「ふーん……」


 伽耶と麻耶が答えたが、ツグミはいまいちぴんとこない。


「頭にアクルを乗せている人もよく見かけるわ」


 歩道脇の椅子に腰かけた女性二人が、記録生物のアクルを頭に乗せて目を閉じている姿を見て、みどりが指差す。


「アクルが見たものを見て面白いのか?」


 熱次郎が疑問を口にする。普通にテレビかネットを視ていた方が面白い気がする。


「もうゲロ親父のアップは懲り懲り~」

 辟易した顔でツグミ。


「さっきの駅のアクルがいた場所に、説明文があった。アクルは自分が見たものを記録し、それを他人にも見せることができる生き物だから、どんな映像が見れるかお楽しみという、そういう遊びらしいな」


 真が解説した。真だけが駅で、アクルが置かれている場所にあった説明文を読んでいた。


「猛獣みたいなペット連れてる人もいる~」


 向かいの歩道で、頭部が人の高さほどもある巨大な四足獣が、首輪と紐で繋がれた状態で、老人と一緒に歩いている様を見て、ツグミが羨ましそうに表情を輝かす。全身はふさふさの青白い毛に覆われ、クマに近い体型だが、頭部はクマのそれとはかけ離れている。丸い顔にから嘴のようなものが生え、嘴の中には尖った牙がびっしりと生えていた。


「どう見ても肉食獣」「どう考えても日本では散歩が許されそうにない生き物」


 伽耶、麻耶が獣の散歩を見て言った。


「純姉的には、そういうルールは絶対設けないだろうね~」


 正に純子の性質を象徴した街であり、風景でもあると、その一場面を見ただけでも、みどりは感じる。


(あいつの嗜好もそのまま反映した箱庭か。この程度は僕も受け入れられるけど、きっと受け入れられない領域があるはずだ)


 それが何であるかわからないが、真は確信している。


「あれは何だろ?」


 ツグミが指した方を見ると、人垣が出来ていた。歓声もあがっている。


「ゲリラライブ?」

「それにしては妙」


 伽耶と麻耶が言う。


(殺気が漂ってくる。こちらに向けられたものではないが)


 警戒しつつ、人垣の方へと歩を進め、中に割って入る真。他の面々も続く。


 刃の部分がビームブレード化した巨大鋏を振りかざす肥満女と、下半身が緑色のカタツムリとなった少年が、激しく戦っている。


「うっひゃあ、能力者同士の喧嘩だよォ~」

「あそこ見ろよ。賭けにしているみたいだぜ」

「警察が来る気配も無いね」「公認バトル」

「犯罪取り締まらず」「ぽっくり市と一緒」

「でも未来都市面白い」

「確かに楽しい」


 みどり、熱次郎、伽耶と麻耶が戦いの様子を見ながら喋る。


「晃達も来ればよかったのにな」

「残念だよねー。晃先輩、絶対大はしゃぎしてたよ」


 真の言葉にツグミが同意した。ツグミ的には、晃と一緒にはしゃぎたかった。


「日本の中で、この都市だけが、全くの異文化になっている。そしてその情報は一切秘匿されて外に出ない、隔絶された世界か。尊幻市以上だな」

「異文化どころか異世界。半年の間に、こんなの創った純子凄い」

「これが純子の本気。ヤバい。計り知れない」


 真の言葉に、伽耶と麻耶が同意する。


「その半年の前にも、色々と積み重ねがあるはずだ」


 と、真。極端な話、純子の人生の積み重ね全てを出すとしたら、それこそ千年の積み重ねの放出ということになる。


「雪岡先生は、それを真先輩に見せたかったわけだ~」

「僕をここに呼んだのは、半年の成果であるこの転烙市を自慢するだけじゃないだろう。その先があるんだ」


 悪戯っぽく微笑みながらからかうツグミだが、真は無表情に述べた。


「その先って何だよ?」

「自分の目的を叶えるための――世界を変える準備が整っているから、それを止めてみろってことだ」


 熱次郎が問うと、真はどこか遠くを見る眼差しで答えた。


(今の真、凄く純子のことを意識している。そして……)

(今更だけど、先輩は雪岡先生と本気でやるつもりなんだ。闘志メラメラだ)


 静かに闘志を燃やしている真を見て、熱次郎とツグミは息を飲む。


「わざわざ真呼んだの?」「真に黙って勝手に進めればよかったのに」

「それじゃあ面白くないだろ」


 疑問を口にする伽耶と麻耶に、真が言った。


(それに、あいつの目的は――千年越しで叶えようとしている理想の起点は、僕にあるんだ。その僕が事もあろうに阻もうとしている。だから僕を呼ぶのも当然だ)


 口に出さずに真は思う。


「ふわぁ~、市が用意した、外から訪れた人向けの都市案内パンフとか、ガイドラインとか、そういうのは無いのかな?」


 と、みどり。


「雪岡がそういう手抜かりをしているとは思えないし、僕達が見落としているんだと思う。風景の方に気を取られ過ぎた」


 真が言いながら人垣から離れる。能力者同士の戦いを見ていても、あまり楽しいものではなかった。互いに決め手が無くて、泥沼の戦いになっていたからだ。


「そういうのがあるとしたら駅なんじゃないか?」

「だよね」「戻ってみよう」


 熱次郎が言い、伽耶が頷き、麻耶が促し、一行は駅に戻る。


 駅員に聞いて、案内パンフレットを見つける。置いてあったのは駅の隅の方だった。


「ふえぇぇ~……もうちょっとわかりやすい場所に置いてくれればいいのに」

「雪岡に言っておこう」


 みどりがぼやき、真が純子にメールを送る。


「真先輩、雪岡先生いなくなってから連絡取れないって言ってなかった? もう連絡取れるの?」


 ツグミが尋ねる。


「こっちから電話してもメール送っても無視されていた。でもメールは既読だったから、読んではいただろ。あいつも無視したくてしていたわけじゃないし、こっちが連絡取ろうとして無視するのも辛いだろうと思って、すぐに連絡取るのを辞めた。でも再会できたし、向こうからお呼びがかかったんだ。もう解禁してもいいだろ」

「何か切ない」「いじらしい二人」


 真の話を聞いて、伽耶は哀れみの表情になり、麻耶は何とも言えない複雑な顔になっていた。


 それぞれパンフレットを手に取る。


『ようこそ! 転烙市へ! 転烙市を初めて訪れた方、街の風景にきっと驚かれた事でしょう。簡単に転烙市の見所とルールについて記しておきます。


・空の道と、交通ルール

 転烙市では空での高速移動道路と転移装置『空の道』の試験を実施中です。事故防止のために、移動の目的地を予め定めれば、後は透明階段と転移装置と飛翔装置が、自動で運んでくれます。


・硝子人

 硝子人は大切な労働力で、市の財産です。無闇に傷つけた場合は、罰則の対象となります。


・賭け事

 転烙市では如何なる賭け事も許可されていますが、トラブルが起こった際は自己責任でお願いします。


・動物及びペット

 動物を無闇に傷つけることは禁止されております。ただし、ペットの躾に問題がある場合は、ペットと飼い主がその場で殺されても自己責任となります。


・身の安全

 自分の身は自分で守りましょう! ここでは力こそが正義です!


・超常の力の覚醒

 力を身につけたい方は是非、超常能力覚醒施設へ! 力を身に着けて、幸せな人生を送りましょう! 機会は誰にでも与えられます!


・情報を秘匿する赤猫システム

 転烙市内の全ての情報は、赤猫の暗示作用が働き、市外に発信することが出来ません。市内に入った者の精神は赤猫によって監視され、管理下に置かれます。


「自己責任ばっかり~」

「うっひゃあ、やっぱり修羅の町だべー」


 ツグミとみどりが苦笑する。


「ディストピアっぽい一面もあるにはあるけど、基本は自由を尊ぶ方針だな。その分、責任も強くつきまとう」


 と、熱次郎。


「空のあれってまだ試験段階なのか」


 空を行き交う人々と荷物を見て、不思議そうに言う熱次郎。どう見ても実用段階に入っているように見える。普通に利用されている。


「尊幻市は無法者や行き場のない奴ばかりを集めた都市だし、ぽっくり市もサイキック・オフェンダーが幅を利かせる都市だった。ここはその二つとは異なる性質があるな。一般市民もちゃんと恩恵を授かれるように出来ている」


 これこそ純子の理想を体現していると、真は感じた。


「ふぇ~、でも自分の身は自分で守れだよォ~?」


 これなら普通の社会の方がいいと、みどりは感じる。


 真の首筋の毛が、よく知る電磁波を感じ取る。みどりもほぼ同じタイミングで感じた。

 殺気は孕んでいない。しかし確かな敵意が感じられる。


「イェア。また敵だぜィ」

「今度はこちらに向けられているぞ」


 みどりと真が言った二秒後、空から無数の物体が飛来した。


「ばりあーっ」「でぃっふぇーんす」


 牛村姉妹が不可視の障壁を張る。六人全員を覆う半球状に張った。


 巨大なぶどうの実のようなものが幾つも降り注ぎ、障壁に当たって跳ね返り、地面へと落ちる。

 実の大きさは均一ではなく、個体差があったが、どれも1メートルを優に超える。最も大きいものは真の背丈ほどもあった。


「ぶどう?」


 ツグミが怪訝な声をあげたその時、ぶどうのようなものの皮がめくれ、中身が露出した。


 中身もぶどうそのものであるかのように見えたが、すぐに別のものへと変質した。ぶどう状の黄緑の物体が蠢き、形を変える。人型になるもの、四足獣になるもの、巨大な鳥になるものなど、様々だ。

 形を変えたぶどうクリーチャー達は、一斉に六人に襲いかかるが、未だ張られている障壁に遮られる。


「いつまでも張っていられない」「バリアー張り続けると消耗する」


 伽耶と麻耶が言う。


「出る」

「扉開け~」「出るだけの一方通行の扉あらわれー」


 真が宣言すると、姉妹が同時に呪文を唱え、障壁の一部を扉状に青く光らせる。 真が青井光を通って外に出て、ぶどうクリーチャーに向かって銃を撃ちまくった。


 ぶどうクリーチャーは、銃で撃っても全く効いた様子は無い。溶肉液も効いている気配が無い。


「ぶどうだもんねー」


 ツグミが言った。その言葉に、皆何となく納得してしまった。


「取り敢えず駅の外へ移動するぞ。ここでは巻き添えが多く出る」


 真が促し、全員駅の外に向かって走る。


 当然、ぶどうクリーチャー達は追ってくる。


「ここでいい」

 駅の外に出た所で立ち止まる真。


「駅の外も人いっぱいいいるぞ」

「中よりはましだろう。あっちは電車から降りた人間が、いきなり巻き込まれるかもしれないし、電車そのものが破損するかもしれないし、被害が甚大になる可能性がある。こっちはすぐに逃げられる」


 熱次郎の言葉に真が反論した。


「敵どこ?」「能力者本体どこ?」

「わからない……。精神波でチェックしてるけど……近くにいないみたいだわさ」


 伽耶と麻耶が周囲を見回し、みどりが言った。


「誰が何の目的で襲ってきてるの? 雪岡先生の刺客?」

「招待しておいて刺客放つんかーい」


 ツグミの言葉に、みどりが半笑いで突っ込む。


「何も不思議ではない話だろ。僕達を楽しませてくれるわけだ」


 真が言い、袖から超音波振動鋼線を伸ばした。

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