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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
93 マッドサイエンティストの箱庭で遊ぼう
3155/3386

9

 真達は新幹線に乗り換えて九州に入った後、新幹線から二つの電車を乗り継ぎ、転烙市へと入った。


「何だ、これ……」


 外の光景を見て、熱次郎が呻く。他の面々も電車の窓から市内の様子を見て、呆然としていた。


 ガラスの階段が都市上空のいたるところに浮かび、空を無数の川が流れている。

 空の川は、かつて九十九里海岸沖上空に発生したあれを思わせる。しかしその数は数えきれないほどだ。二度目にグラス・デューに行った者達は、グラス・デューのあちこちに流れていた空の川を思い出す。


 そして空のあちこちに人の姿がある。高さは決まっていない。はるか上空にいる者も、比較的低い場所にいる者もいる。都市の上空のあちこちで、人が、物が、地面とかなりの高速で飛んでいる。


 それだけではない。10数キロ間隔程度で、オレンジに光る塔が建っている。塔は文字通り天を衝く高さで、上方はかすんで見えなくなっている。空を突き抜けて宇宙にまで伸びているのではないかとすら思える。見方によっては、超巨大な柱と見えなくもない。この塔にも、真と牛村姉妹は見覚えがあった。いや、直接は見ていないが、純子が撮った写真を見せて貰った。


「うわーお……。これ……現実の光景なの?」

「異世界に迷い込んだ気分だが、見覚えのあるものが混じっているぞ」


 ツグミと熱次郎が窓の外を食い入るように眺めている。そんな二人に、他の上客は微笑ましげな視線を向けている。多くの乗客からすれば、初めてではない光景なのだろう。


「空の川、空の階段、人も空飛びまくってるし。ファンタジーな風景」

「空を飛んでるんじゃない。あれは駆けている」


 伽耶と麻耶が言った。空を駆け、跳ねている人々。しかも時折その姿が消えている。明らかに転移している。


 飛んでいるのは人だけではない。巨大なコンテナが、あるいはダンボール箱が、人とは別の高さで水平に飛行している。


「ふぇ~、荷物も飛んでるよォ……。あれは飛んでるって表現でいいよね」


 見えない空の道路を行きかうかのように、決められたルートを飛ぶ荷物や貨物を見て、みどりが言う。


「街中を見渡してみろよ。車もバイクもあまり見かけないぞ。道路を歩いている人間も少ない。空を高速で移動して目的地に着くのが、この都市の移動の主流になっているからだ。飛翔地点が空にあるってことかな」


 真の言葉を聞いて、下の方を見る一同。確かに道路に人通りは少ない。


「ふわぁ~、あのガラスの階段がその移動装置なのかな?」

「多分そう」

「階段に人が現れては消えている」


 みどりが階段を指すと、伽耶と麻耶が言った。


「何かロボットみたいなのいるぞ。いや……ロボというか人形が歩いている?」


 熱次郎が下の方を指すと、明らかに人ならざるものが集団で動いて、作業をしている様が見えた。ガラスのような材質出来た人型だ。


「ガラス人間?」「ガラスロボ?」


 ガラスのようなヒューマノイドを見て、伽耶と麻耶が同時に声を発する。


「作業用のロボットなんだろうな。それと……あの植物を見てみろ」

「植物多い。でもあの色……」

「寒色の葉っぱと木、見覚えある」


 真が指した樹々や草葉に、伽耶と麻耶は見覚えがあった。水色が特に多く、薄紫、青、紫といった色の植物。


『グラス・デューで観た』

「あの光る塔だか柱もそうだし、空を流れる川も、変な色の植物も、それっぽいな。もしかしなくてもこれは、転烙市とグラス・デューを繋げたのか? あるいはグラス・デューの物をこっちに持ち込んだか。それともグラス・デューを模しているだけなのか……」


 真が述べた憶測はかなり真実味があると、ツグミ以外の面々は思う。この六人の中で、ツグミだけがグラス・デューに行った事が無い。


「おおう、変な動物もいる~。あれも雪岡先生が作ったのかなあ?」


 道路を歩いているずんぐりむっくりの四足獣を見て、ツグミが声を弾ませる。


「けどさ、こんな不思議ワールドな状態になっちゃっているのに、どうして情報が外に伝わってないの?」

「それが一番不思議」「この有様が知れ渡っていないのがおかしい」


 ツグミがもっともな疑問を口にし、牛村姉妹も同意する。


「試してみよう」


 熱次郎が外の風景をカメラに撮りまくる。そしてネットにアップロードしようと試みた。


「おい、熱次郎」


 作業中にふらつき、倒れかけた熱次郎を、真が支える。


「駄目だった。意思が途中で……切れる」


 虚ろな表情で、起こった出来事を述べる熱次郎。


「それだけじゃない……意思が途切れる前に、変なものが見えた。頭の中で見えたっていうか……」

「ふえ~? 何が見えたん?」

「頭の中に真っ赤な猫が現れて、それで……僕の意思が強引に捻じ曲げられて、出来なくなった……」

「赤猫……」


 熱次郎の話を聞き、真とみどりは顔を見合わせた。


 頭の中に現れる赤い猫の存在を、真とみどりは知っている。殺意へと導く、ドリームバンドを経由して精神を蝕む、強力な暗示プログラム。


(あいつが赤猫のシステムを解き明かして、利用している? しかし僕達はドリームバンドなんて被っていない。町に入った人間は強制的に赤猫に冒されるのか?)


 そう考えるのが自然だと、真には思える。


「情報を流せないなら、先遣隊の意味も無いな。PO対策機構にさっさとこちらに来るよう伝える」

「そうでもないべ。中から外に流せないだけだぜィ。だったら先に色々と調べておけば、後から来た連中の役にも立てるってもんだよォ~」

「それもそうだな」


 みどりが真に異を立て、真は考えを改めた。


「電車の他の乗客達も、転烙市の外から入ってきているはずだ」


 熱次郎が乗客を見舞わす。


「でも驚いているのは私達だけ」「でも誰もがノーリアクション」

「転烙市のこの変貌を皆とっくに知っているわけか。そして外に情報を流せないことも」


 伽耶、麻耶、熱次郎がそれぞれ言った。


「でも驚いた~。町一つまるごと作り替えちゃってるよ。もう別モノ――別世界だよね」

「マジ凄い。夢見てるみたい」

「これが本気を出した純子の力ァァァ。くわっ」


 感心するツグミ、伽耶、麻耶。


「くわって何だ?」

 熱次郎が麻耶に尋ねる。


「目を見開いた時の効果音でしょー。漫画でよくある奴~」

「そうか……」


 ツグミに解説され、熱次郎は納得した。


「雪岡は世界そのものを作り替えるつもりだしな。町一つくらいで……と言いたい所だが、いざ文明を発展させて、作り替えられた都市を目の当たりにすると、脅威であることは認めざるを得ないよ」


 真の感情は複雑だった。脅威と感じると同時に、闘志も燃えている。そして素直に純子の力に感服もしている。称賛したい気分にもなっている。


「真先輩、また同じこと言っちゃうけど、雪岡先生に勝てるー? こんなすごいことできちゃう人だったなんて。うん、改めて勝てるヴィジョン見えない」


 ツグミが思う所を正直に述べた。


「純子に勝てるわけがないだろ。これを見ただけでわかりそうなもんだ。でも真は諦めないよ。こいつは絶対退かない奴だし」


 茶化すかのような口振りの熱次郎だが、実の所茶化している気は無い。真の強い意志には一目置いている。


「熱次郎の言う通りだ。正直驚いてはいるが、ますます闘志が燃えてくる」


 真が珍しく熱を帯びた声を発すると、電車が停まった。


『転烙~。転烙~』

 都市の中心物の駅で降りる一行。


 電車を降りた直後、駅構内に貼ってあったポスターを目の当たりにして、一行は固まった。


「こいつは――」


 それは転烙市の市長の顔が映されたポスターだった。その初老の人物を、ツグミ以外は知っていた。


硝子山悶仁郎がらすやまもんじろう市長に挑む強者よ来たれ! 市長を殺せばお前が次の市長だ! 第百二回死民戦挙開催!』


 ポスターにはそのようなコピーが書かれていた。


「真先輩の知ってる人?」

「直接は会っていない。話に聞いて、写真で見ただけだが、僕達がグラス・デューに行った時、勇気や政馬、美香やバイパー、それに雪岡が戦った奴だ」


 ツグミが問うと、真が答えた。


「ふぇ~、生きていたうえに、地球にやってきていて、ここで市長とか。これも純姉の手引き?」

「グラス・デューとも関連がある奴だし、そう考えた方が自然だ」


 みどりの言葉に頷く真。


「見ろよ、あれ」


 熱次郎が指した場所に、また見覚えのあるものがいた。

 駅の一角に、何匹ものアクルが飼育されている。


「イェア、アクルじゃーん」

「駅で飼われてるんだ」「自由に頭に乗せていいって」

「アクルまで作って量産しているのか」


 みどり、伽耶と麻耶、真が、接地された台の上にいる複数のアクルを見下ろす。


 真が説明文を手に取って開く。特に変わったことは書かれていない。アクルという動物の説明文だ。


「何じゃこりゃああああっ! 酔っ払い親父がゲロ吐いてるのがどあっぷーっ!」


 ツグミがアクルを頭に乗せて喚く。


「で、これからどうするんだよ?」

 熱次郎が尋ねる。


「せっかくだし……」

 真がポスターの方を振り返った。


「お前と似たような名前の奴と会いに行こう。戦いを望んでいるようだし、殺されたいようだから、そうしてやろう」

「マジで?」「いきなり市長襲撃」

「何かそれムカつく言い方だからやめてくれ」


 真の言葉を聞き、啞然とする伽耶と麻耶。熱次郎は憮然としている。


「あのさァ、真兄は頭沸いてるのォ~? 確かにこの爺が市長の時点で、純姉の手かかってるのは明白だけど、この都市のことなーんも知らない状態で、いきなり市長襲うとか、まともな発想じゃないぜィ」

「そもそもPO対策機構の先遣隊なのに、いきなりそんなことしていいのかって話だろ」

「いい。僕が許す」


 みどりと熱次郎が二人がかりでたしなめたが、真は聞く耳もたない。


「あのー……真先輩。私は馬鹿だから、こういうの意見するのも気が引けるけど、それでもみどりちゃんやネッ君の言うことの方が正しいと思うし、真先輩の方針はちょっと……」


 ツグミも恐る恐る反対する。


「ネッ君はやめろ。熱次郎でいいから」

「すまんこっこー」


 熱次郎に咎められ、謝罪するツグミ。


「伽耶と麻耶は?」

「反対」「賛成しがたい」


 真が伺うと、姉妹は即答した。


「ヘーイ、反対多数だぜィ、真兄」

「わかったよ。まず転烙市のことを色々と調べよう」


 みとりがにかっと歯を見せて笑い、真は心の中でぶーたれた自分の顔を思い浮かべて、引き下がった。


(純姉とラブラブした後に、純姉似の女買って、その女に執心するわ。いきなり市長襲撃すると言い出すわ。みどりの真兄への好感度と信頼度はダダ下がり中だよォ~)


 みどりがテレパシーで真を非難する。


(女を買うのなんて、昔からずっとやってることだし、今更どうこう言われてもな。僕には必要なことだ)

(買うだけならともかく、その前後がアレなんだわさ)

(心は自由だぞ。僕の心を読めるみどりに、僕がどう思ったかを非難されると、場合によっては辛い。それが完全に僕に非がある場合ならともかく、これは僕自身の性質や男のサガも関わっていることだぞ)

(そっか……。そうだったね。それはあたしが悪かったよォ~。すまんこ……)


 真に言い返され、みどりは謝った。

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