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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
93 マッドサイエンティストの箱庭で遊ぼう
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7

 PO対策機構の面々は、ぽっくり市内のホテルを一つ貸し切った。

 警戒は緩めていない。オキアミの反逆は降伏したが、油断したらまたすぐ襲ってくる可能性も考えている。ホテルの外にも、ロビーにも、見張りを立てている。


 ホテルの会議室では、新居、犬飼、史愉、男治、チロン、優、澤村、そしてシスターを加えた八人によって、今後について話し合いがされていた。


「ヨブの報酬としては、もう任務達成でいいんだろ? 苗床とやらのシステムはもう無くなったわけだしよ」


 新居がシスターに伺う。


「純子が関わっている事がわかったからには、このまま退けませーん。そのうえ純子は転烙市にいると、真君が言っていたのですからー」

「純子を殺しに行くのか?」

「何か大それたことを企んでいるようですし、それを食い止めまーす」


 新居の直接的な問いに、シスターはそう答えた。


「何を企んでいるかもわからないのに、大それたことを企んでいそうという理由だけで、潰す前提か」


 犬飼がにやにや笑いながら皮肉っぽい口調で言った。


「私達もこのまま転烙市に向かってはどうでしょうか?」


 澤村が提案する。


「賛成だぞー。純子の馬鹿をぼっこぼこにしてやるぞー。そしてあいつが何をやっているにしても、それなりの研究成果をあげているだろうから、そいつを根こそぎ頂くぞー」


 乗り気で応じる史愉。


「ま、言われるまでもなくその気だよ。澤村の方な。研究成果ネコハバ云々は知らね」


 新居が言ったその時、ノック無しに会議室の扉が開き、真が入ってきた。


「よう、功労者の遅刻者」


 新居が真の方を見て、微笑みながら声をかける。


(ヤってきたな……こいつ)


 新居はすぐにわかった。傭兵時代、女を買うことは何度もあった。その後の真の微妙な変化が、新居にはわかる。


「純子と会ったそうですねー」

 席に着いた真に、シスターが声をかける。


 真は無視した。シスターは怪訝な表情になる。悪意のある無視ではなく、こちらの言葉が聞こえてないかのようだったからだ。


(さっきの嬢はよかったな……。また抱きたい。しかしぽっくり市というのが難点だ。いや、安楽市から足を運んででも、買いに来る価値はある。それぐらいいい女だった)


 事実、真は聞こえていなかった。一旦冷めかけたが、また余韻が戻ってきた。


「純子とどんなやり取りしたんスかー? さっさと教えろ。ぐぴゅ」

「抱き合っていちゃついた」


 史愉が尋ねると、真は意識を現実に戻して、そのまま正直に答える。


「こいつ……おちょくってんスか?」

「あいつがお膳立てを整えたということ以外は、何もわからない。準備が整ったからこそ、僕の前にも現れたし、招待もしたんだろうと思う。そして僕の前でそれを披露するつもりだろう。多分な」


 憶測だけの曖昧な考えを述べる真。真実は真にもわからない。


「純子はワシらのことは眼中になく、真だけ意識しておるようじゃの。敵として」

「だとしたら舐められたもんだぞー」


 チロンと史愉が言う。それは正しいと真は思う。


「それなら引き続き、真君にまた先遣隊を務めて頂いた方が、良い結果が出そうではないですか~? えっへっへっ」


 男治が笑いながら言った。真が自分でそれを言い出すつもりであったが、先に言われた格好となった。


「いいだろう。許す。許可する」

「俺が裏通り中枢の大将なんだけどなー。その俺を無視して決定かよ」


 真が開く前に、新居が偉そうに許可を出し、犬飼が苦笑していた。


「PO対策機構の先遣隊とは別に、私達は私達独自で、転烙市に行かせていただきますよー」


 シスターが宣言する。


(みどり。そういう運びになった。だが晃達は事情が出来て来られない。お前が代わりに来てくれ)


 頭の中でみどりに呼び掛ける真。ほころびレジスタンスの三人は、お得意さんがピンチだからという理由で、安楽市に戻ることになった。

 しかしみどりの返事は無い。冷たい気持ちだけが伝わってくる。


(みどり、どうして応じないんだ?)

(ふえぇ~……真兄のことが信じられないよぉ~。純姉と会って、あんなにアツアツだったと思ったら、その矢先に女買って……しかもその女に入れ込んじゃっててさあ)


 真が再度呼びかけると、みどりの心底嫌そうな声が返ってきた。


(男はそういう生き物だ。人間は生物構造として一夫多妻の動物だ)

(わかっているけど、あたしも今は現代っ子だから、そういうの、受け入れがたいんだよね)


 みどりが大きな溜息をつく。


(ヘーイ、あと一つ心配なことがあるよ。真兄)

 みどりが真剣な声を発する。


(真兄があの記憶を見てから、真兄の精神、かなりおかしな変化が生じちまっているぜぃ。これ、何のことかわかるよね?)

(ああ。雪岡のことをシェムハザという名で呼ぶあれだろ)


 みどりの指摘を受け、真は認めた。精神がリンクしているので、誤魔化しは効かない。


(嘘鼠の魔法使いに心を浸蝕されている――という程でもない。影響程度だな)

(真兄が怖がってないことが怖いわ。受け入れてるっていうかさァ……)


 真が嘘鼠の魔法使い化していて、しかもその事を真が拒絶も恐怖もしていないことも、みどりは全てわかっている。


(以前の僕ならおぞましいと感じていた。恐怖したかもしれない。でも今はそう思わない。受け入れられる。僕の主導権は僕にあると信じているし、同じ自分だからという安心感もある。ただ、あいつを出した時はどうにもならないな。時間は限られているとはいえ、嘘鼠の魔法使いは何をしでかすかわからない)


 嘘鼠の魔法使いの経緯もその気持ちも、そして純子の過去も知ったからこそ、真は逆に安心感が生じてしまっている。人格も考えも違っても、同じ魂であるという意識が強くなってしまった。嘘鼠の魔法使いが自分と近しい者と感じられてしまった。


(でも大丈夫だ。世話ばかりかけて済まない。心配させてしまっているのも済まない)

(相棒ならアタリマエー)

(みどり、僕はお前のことを運命共同体だと思っているけど、相棒と思ったことはないよ)

(ふえ~、どこに違いがあるんよ)

(僕の相棒は後にも先にも一人だけなんだ。僕の聖域だ)


 真は俯き、微笑を零した。


(あいつと過ごした時間は、決して長くなかったけど、密度は濃かった。危なっかしくて、図体は大きくて強面の癖に繊細で……。でも僕はあいつのことが気に入っていたし、横にいるのが当たり前の存在だと思っていた)


***


 伽耶と麻耶とツグミも、PO対策機構が貸し切ったホテルに泊まっていた。しかし凛、十夜、晃はいない。安楽市に戻った。


「明日、転烙市に向かう。引き続き僕等がPO体躯機構の先遣隊だ」


 三人の少女を前にして、真は方針を伝える。


「雪岡先生、本当にサイキック・オフェンダー側についちゃっているんだね。心のどこかで、本当は違うって思いたかったのに」


 寂しそうな表情になって言うツグミ。


「全てはあいつの目的を達成させるためだ。サイキック・オフェンダー側についているどころか、そいつらを利用している悪の親玉だよ」


 落ち込み気味なツグミを斟酌することなく、真は事実を口にする。


「純子がそんなに悪いことするイメージ無いし、心配しなくていい」

「ちょい悪くらいじゃない?」


 伽耶と麻耶がツグミの肩に手を置いて、慰める。


「あいつは親切だし優しいけど、正真正銘のマッドサイエンティストだよ。研究欲や探究心に目が眩むと、倫理も道義も失う。ソシオパス化する。あいつの決めた自分ルールとやらも、あっさりと破る。それは今まで何度も見てきた。唯一守るのは、自陣営の人間を裏切らない程度だ。いや、それも場合によっては怪しい」


 斟酌しないどころかさらに追い打ちをかけるかのように、真は純子のダークな一面を口にする。


「あのさ……真。少しは言葉を選んでよ。ツグミは純子のこと信じていたから、わりとショック受けてるってのに」

「事実は受け止めた方がいい」


 いい加減腹が立ってきた伽耶が真を睨むが、真は気に留めない。


「雪岡先生、政馬先輩のことは裏切ったよね? スノーフレーク・ソサエティーについていたのにさ」


 ツグミが顔を上げて真を見ながら、半年前のことを持ちだす。


「スノーフレーク・ソサエティーに関しては、最初から仲間と思っていなかったからだろうな。利用できる部分を利用しただけだろう。政馬達のポリシーは雪岡の持つ性質とは真逆だし」

「真先輩、本当に雪岡先生に勝てるの? 私は……言っちゃ悪いけどさー、勝てるヴィジョンが見えないんだけどなー」


 ツグミが不安げに、しかしストレートに思っていることを口にする。


「だから面白いんじゃないか。ひっくり返してやるよ。そう思っている崖室にも、目にもの見せてやるさ」

「またー。苗字じゃなくて名前で呼んでってのー」


 うそぶく真に、ツグミはようやく笑みを浮かべた。


「私はちゃんと名前で呼ばれる」

「セットで呼ばれる事が多いけど」


 麻耶がドヤ顔になったが、伽耶が即座に突っ込んだ。

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