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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
93 マッドサイエンティストの箱庭で遊ぼう
3152/3386

6

 オキアミの反逆アジトの建物を覆い、毒を撒き散らしていた黒い巨大植物が、みるみるうちに萎んでいく。


「消えたの。いや、枯れたの」

「解析してみましたが、毒素も綺麗さっぱり消えてますね~」

「初めて見る毒だったし、回収したかったけど、分解してしまったぞ。おのれ~」


 チロン、男治が言い、史愉が悔しがる。


 建物の中から一人の男が恐る恐る出てくる。白旗を掲げて。


「はっ、ここにきて降伏かよ……」

 犬飼が肩を落とす。


「何のために来たって話だけど、こっちがそれなりの軍勢を出してきたから、それを見て降伏してきたって解釈でもいいか」


 犬飼の隣で、新居も少し力が抜けたような顔になっていた。


「大山鳴動して鼠一匹かな?」

 シャルルが肩をすくめる。


「ぽっくり連合とヨブの報酬との戦いの直後で、連戦は辛いと判断した可能性の方が高いな」

「他にも事情はあるかもしれないが」


 李磊の言葉を聞いた後、新居は喋りながら連絡を取った。


「真から連絡だ。転烙市に行くとかぬかしてやがる。そこが純子の今の活動拠点らしい」


 微笑を零して報告する新居。


(うちらのリーダー様はよく動いてくれるし、成果もちゃんとあげてくれる)


 報告しながら誇らしげな気分になり、褒めてやりたい気分にもなっている新居であった。


「転烙市……ここと同じくサイキック・オフェンダーが集まる無法都市か」


 犬飼が呟いてから、その場を離れて、誰にも会話を聞かれない位置に行って電話を取る。


「どうした? デビル」

『大丘を見失った。ビルの中に入っていったようだけど、その後が不明』

「そうか。一度こっちに戻ってきたらどうだ? 今から状況が複雑に動くみてーだし、そいつを見極めてから次の行動を決めてみるのがいいんじゃないか?」


 犬飼が言うと、デビルは無言で電話を切った。いつも通りの反応だ。ろくに返事もしない。不機嫌になったからというわけではなく、これがデビルの通常運転だ。


 白旗の男の後ろから、陽菜とエカが出てくる。


「そちらの代表は?」

「俺ってことにしておくわ」


 陽菜が呼びかけると、新居が進み出て声をあげる。


「見ての通り降伏よ。ただし、こちらを拘束したり、法の裁きにかけようとしたりする場合、抵抗させてもらう」


 凜然たる面持ちで言い切る陽菜。


「そいつは無い。東と同じく、PO対策機構の敷くルールに従ってもらえればそれでいい。これまでの行いは不問にしてやる。ただし今後はやりたい放題にはさせねーし、何かしでかしたその時には、制裁が待っていると思え」


 陽菜を見据えて、有無を言わせぬ口調で告げる新居。


(上手くいきそうやな)


 エカチェリーナがほくそ笑む。PO対策機構に与することを反対する者は、裏口からあらかた逃げ出した。彼等は転烙市へと向かう手筈だ。


「ところでお前達、転烙市と繋がりはあるのか?」


 新居の質問を受け、エカチェリーナは内心ぎくりとしつつも表情には出さなかったが、陽菜はあっさりと顔色を変えた。


「私達にその気は無い」

「その気は無い?」


 陽菜の言葉に訝る新居。


「言い間違えた……。いや、聞き間違えたみたい。PO体躯機構の傘下に降ることをよしとしない人は、転烙市に向かう可能性はあるってこと。でも私はしばらくここを離れないよ」

「繋がりがあるかどうかという質問には答えていないな」

(繋がりはあるよ。でも言わない。祭りには私達も参加するし。今は大人しく従うけど、このまま貴方達の言いなりになる気も無いから)


 新居が突っ込んだが、陽菜は答えることなく、心の中でせせら笑っていた。


***


「PO対策機構とオキアミの反逆、戦いにはならなかったみたいね」


 オキアミの反逆アジトビルの中から、ビル前での様子を見つつ、凛が言った。十夜、晃、ツグミ、伽耶、麻耶の五人も並んで、窓から外を見ている。


「陽菜さん降伏したんだ」「それでよいよい」

 伽耶が言い、麻耶が頷く。


「無益な戦いにならなかったと安心していいものかどうか、まだわからないわ。オキアミの反逆からしてみたら、今は戦いを避けたいでしょう。でもそれはあくまで今の話。力をつけて反逆する機会を伺っているかもしれないし」


 凛の目から見ると、オキアミの反逆の組織としての力と規模は、相当なものだと映る。現在アジト前に集まったPO対策機構の兵士達とも、十分に渡り合えるのではないかと思える。

 だが例えオキアミの反逆が今の戦いに勝っても、PO対策機構は全ての兵士を投入しているわけではない。一方で、ここで連戦した場合、オキアミの反逆は極めて弱体化するだろう。勝敗関係無く、オキアミの反逆は多大な犠牲を被り、余力を失くす結果となる。それを見越したうえで、意地を張らずに降伏という選択を取ったのだろうと、凛は見ていた。


「大丘さんはどこ行っちゃったんだろうなー」

「復讐は諦めてない?」


 ツグミの台詞を聞いて、晃が伺う。


「無い」


 ツグミは晃の方に顔を向けずに、どこか冷たい響きの声でい言い放つ。


「真先輩もどこ行っちゃったんだろー」

 しかしすぐに元のツグミの声音に戻る。


「無言でどっか行った」「野暮用とか言ってた」

「ここに来て単独行動する意味がわからないね」


 伽耶と麻耶と十夜が言った直後、晃が電話を取って顔色を変えた。


「谷中さんがピンチみたいだ。これは助けに行かないと不味いかも」

『誰?』


 知らない名を出され、姉妹が尋ねる。ツグミも知らなかった。しかし十夜と凛は知っている名だった。


***


「ショートヘアの若い子。足が綺麗で、髪は茶色がいい」


 ぽっくり市内にあるとある店に入り、真は受付で要求した。


「ショートカットの子は……と。ああ、ごめんなさいね。黒い髪の子しかいません」


 受付の痩せた中年男は、客が十代半ばか前半程度の少年相手でも、一切お構いなしに、客として丁寧に対応する。ここはぽっくり市では最も高い売春組織だ。なるべく標準語で話そうとしているようだが、若干関西弁が混じっていた。


「ショートだけ絞ってみましたよ。どの子にします?」


 ホログラフィー・ディスプレイを投影して、店の嬢の顔の一覧を見せる。


「じゃあこれで」

「ああ……この子なあ……」


 真が指名すると、店員が顔をしかめて、関西弁になった。


「口きけへん子ですけど、いいですか? うちとしてはこの子の指名は嬉しい限りやけど。声出せなくて中々客つかんのです」

「いいよ、それで」


 店員が申し訳なさそうに伺うと、真は了承した。


「ありがとうございます」


 口元を綻ばせて、店員がかしこまった口調に戻って頭を下げる。


 部屋に通され、そこで待っていた女性は、写真とはかなり違う、地味な容姿だった。いや、写真の加工がかなり酷いと言ってもいい。ぽっくり市で最も高い売春組織であるというのに、詐欺レベルの違いだった。

 しかし真はさほど気にしていない。常日頃から売春宿を利用して女を買っている真からすれば、いつものことだ。


 以前は留美という名の女性一人を買い続けていた真であるが、留美がいなくなり、その後付き合っていた女性とも死別してからは、同じ女性を指名するという事もなくなっている。


 前もって言われた通り、彼女は声が出ないようで、真に向かって嬉しそうな笑顔を向けると、床に膝をついて恭しく頭を垂れた。


(凄く熱が込もっている)


 彼女の所作は別に珍しいものではない。店の方針にもよりけりだが、このような所作はたまに見る。しかしこれは店の方針どうこうではなく、彼女の気持ちそのものであると、真は受け止めた。指名されたことへの喜びと感謝であると。


 行為に及んで、真はそれをさらに感じ取った。反応が非常に激しく、熱があった。女性の必死さが、サービス精神が伝わってくる


(喘ぎ声を出して客を楽しませられない分、こういう形で頑張っているわけだ)


 女性の気持ちを読み取り、真は彼女のことがいじらしく愛おしく感じる。そう意識することで、いつになく夢中になって入れ込む。存分に堪能する。


 行為が終わり、虚脱した状態で天井を見上げる。

 冷めた感覚は無い。ただの性欲の排出だけで終われば、ひどく冷めるが、精神的にも心底満たされれば、多少の間は、まどろみと満足感が入り混じった状態になる。


(何か……すごくよかったな……。これで中々客がつかないって、嘘だろう? いや、新規の客筋はともかくとして、絶対に固定客は多いはずだ)


 ぼんやりとそんなことを考えていたが、やがて心も体も冷えてくる。


 裸淫のメッセージを見て、現状を確かめる。オキアミの反逆がPO対策機構に降伏したという内容が、新居からもツグミからも麻耶からも晃からも伝えられていた。

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