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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
92 苗床を潰して遊ぼう
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30

 柚が呼び出した光り輝くリス二匹と、影子と悪魔のおじさんが肉弾戦で戦っている。


「リスのくせに強いぞ、これ」


 押され気味の影子が顔に焦燥の色を浮かべている。


「リスだけならまだしもあの女のがネー」


 喋りながら悪魔のおじさんは大きく跳躍した。柚がどんぐり爆弾を投げてきたのだ。悪魔のおじさんがいた空間が爆発する。


「ツグミは今かなりギリギリだし、私達が負けたら、後は無いよ」


 影子が焦っている理由はそれだった。ツグミにこれ以上怪異を出す力は残っていない。


 蟻広はハチジョウと対峙している。ハチジョウはスケッチブックと鉛筆を出して、絵を描こうとしたが、蟻広はさせなかった。妖魔銃を何発も撃ち、ハチジョウの動きを妨害し続けた。


「ハチジョウがどんな能力使うか、あの人は知ってるのかな? それともただ、危険な雰囲気を感じて防いでいるだけ?」


 ツグミが荒い息をつきながら、蟻広を見る。


(ツグミ、やっぱりかなり消耗している感じね)


 凛がツグミの側に寄り、腰に下げているみそ瓶の蓋を開けた。


「ツグミ、みそをあげるから食べて。少しは体力回復できるから」

「ええ~、直接食べるの? 舐める程度ならいいけど、食べるの?」


 顔をしかめるツグミ。


「我儘言ってる場合じゃないでしょ。食べて」

「こ、こんなにいっぱい……」


 手に山盛りのみそを取り出してみせる凛に、ツグミは引いていた。


「死にたいの? 今戦っている最中なのよ」

「うぐぐぐ……戦っている最中に、おみそを直食いする戦士なんて、ビッグバン以来、全宇宙で私が初めてなんじゃないかなー。うう……わかりましたあ。いただきまぁ~す……」


 ツグミが凛の手に盛られた味噌を貪りだす。


「しょっぱいぃぃ。日本人は塩分取り過ぎたって、昔ウイルスで一儲けしたどっかの組織が言ってたあ」

「何やってんだ、あいつら……」


 戦闘中に嫌そうに食事をとるツグミと、食事を与えているらしき凜を見て、蟻広が訝る。


「でも力戻ったでしょ。今のはとっておきのみそよ」

「うん。ありがとさまままー、凛さん。おかげで私もとっておきの奥義を披露できるよ。超喉乾いたけど」


 ツグミが言いつつ、ハチジョウと同じように、スケッチブックと鉛筆を鞄の中に取り出して構えた。


(危険な気配だ。あの娘から大きな力を感じる)


 影子と悪魔のおじさんとの交戦の傍ら、柚はツグミの力が漲っていることに気付いていた。


「え?」

「これは……」

「はあ?」


 突然周囲の景色が変わり、蟻広、柚、凛は呆気に取られ、怪訝な声を漏らしていた。

 四人がいる場所は学校の教室だった。そして蟻広、柚、凛、影子、ハチジョウ、悪魔のおじさん、二体の光り輝くリスは、それぞれ安楽二中の制服を着せられて、席に着いている。


「おっほんっ! それでは授業を始めるっ。先生に口答えしたら……! うらーっ! おらーっ!」


 ジャージ姿のツグミがサディスティックな笑みを広げて、竹刀をぶんぶんと振り回す。


「これ、どういうこと……?」

 凛が呆然とした顔で誰とはなしに問う。


「幻覚か……? いや、違うな」


 蟻広が席から立ち上がろうとしたが、立てなかった。


「ツグミの能力だネー。私も巻き込むとは……いやはやだヨー」


 悪魔のおじさんが息を吐く。こちらも席に座らされたまま動けない。


「ここは亜空間というわけでもないし……どうなってるの?」

「コラー! 私語厳禁! 凛さんも今は生徒だから、先生に従わないと!」


 みそによって生じた渇きを潤すため、ペットボトルの水をがぶ飲みしていたツグミが、凛に向かって竹刀を指して怒鳴る。


 ツグミはかつて累から、絵の中に世界を作る力を習っていた、これはその力の応用だ。絵の中の世界を現実世界へとかぶせたのだ。


「動けない。これはどうにもならない」

 ハチジョウが無表情に言う。


「そうでもない」


 柚がゆっくりと立ち上がる。他の面々はツグミの能力によって、『教室の絵』に従わせられていたために、席から動けなかったが、柚だけがその力に抗うことが出来た。


「ていっ」


 ツグミが柚の額めがけてチョークを投げつけるが、柚は片手でチョークを受け止める。


「くっ……反抗的な生徒だっ。おのれ~、こうなったら!」


 柚には自分の能力が通じないと見て、ツグミは顔を歪めると、その姿を消した。


 次の瞬間、ツグミは蟻広の真後ろにいた。そして背後から蟻広の喉元に竹刀を回して、竹刀で羽交い絞めにする格好を取る。


「席について大人しくしろ~。さもないとお~……この生徒がどうなるかわからないぞ~?」

「む……わかった」


 下衆顔で脅迫するツグミに、柚は眉間にしわを寄せて従った。


「どこにそんな教師がいるんだ。マイナス3しとく」

「もっと引いていいんじゃない?」


 蟻広のツッコミを聞いて、影子が言った。


***


 陽菜はこれまでに命をかけた戦闘経験もあるが、その回数は多いとは言えない。戦闘経験は、向かい合った四人に比べて文字通り桁違いに少ない。

 さらに言えば、陽菜の相手は大体サイキック・オフェンダーが相手であり、陽菜の能力によってあっさりと封じてしまい、一方的に勝利することが多かったため、真剣に身の危険を感じたこともあまり無い。


 しかし今回の相手は、四人中三人が、超常の力に頼る者ではない。

 加えて、陽菜はまだ心が揺れていた。先程真に言われたことが響いていた。


(こんな時に……動揺している場合じゃないっていうのに……。しっかりしてよっ)


 自身を叱咤する陽菜だが、どうしても集中できない。


(貴女は何者でもない。君の人気は作り物。お前がサイキック・オフェンダーのボスであることも、真の言う通り、純子に与えられただけの――)

(うるさいっ! 今戦っている最中だってのに!)


 自分をなじる自分の声が聞こえて、陽菜は声無き一喝を自分に浴びせる。


 その陽菜の脚を狙って、晃が撃つ。

 その陽菜の腕を掴んで、エカチェリーナが引っ張る。


「陽菜! ボサっとすなっ!」


 エカチェリーナの叱咤は、陽菜自身の叱咤よりよほど強く響いた。陽菜はようやく戦いに集中できるテンションになった。


 陽菜の部下の一人が、次から次へと蓋の閉まった掌サイズのガラス瓶を、次から次へと幾つも投げていく。


「カバディ?」


 一つがカバディマンめがけて飛んできたので、カバディマンは訝りながら、ひょいとかわす。


 直後、瓶が一瞬にして巨大化し、カバディマンは瓶の中に入った状態だった。


「カバディ!?」


 驚愕して、カバディマンは両手で瓶を殴りつける。しかし瓶はびくともしない。


 瓶に封じられたのはカバディマンだけだ。他の者の近くには、投げられた瓶が届いていない。


「まーた問答無用なヤバそうな能力だこと」

 晃が呟き、瓶投げ男を狙って撃つ。


 しかし銃弾は当たらなかった。瓶投げ男がかざした瓶の中に、銃弾が収まっていた。エネルギーも完全に殺された状態だ。


(どういう条件で瓶に入れられるかわからないと……対処できずに一巻の終わりだ)


 十夜が瓶詰め男を一瞥して思う。十夜は別の部下と近接戦闘を行っている最中だ。


 十夜と戦っている相手は、大柄な女性だった。エカチェリーナもかなり大柄だが、それより一回り大きい。身長も明らかに180センチを超えている。十夜より背が高い。腕も太い。ボクシングスタイルで、十夜とほぼ互角の戦いをしている。


「面白い力だけどなー」


 にやにやと笑うカシムが、壁から出てきて瓶詰め男に接近する。


 瓶詰め男が瓶を投げる。瓶が巨大化してカシムを瓶の中へと閉じ込める。

 次の瞬間、瓶詰め男の顔が引きつった。カシムがあっさりと瓶のガラスを通過してきたからだ。


「俺はお前の天敵だ」


 カシムが言った直後、瓶詰め男がもう一度瓶を投げた。投げる直前に、陽菜に目配せをしていた。


「無駄だって……え? 何だこりゃ!?」


 瓶の中から通り抜けようとして、出来ないことに気付き、愕然として叫ぶカシム。すり抜け能力が発動しない。


(ああ、しまった。失念していた。そういやここのボスは、超常の力を消す力の持ち主だったな。糞っ。そんなのありかよっ)


 陽菜の方を見て、仮面の下で悔しげに顔を歪めるカシム。陽菜は瓶詰の仮面花嫁に、冷ややかな視線を向けている。


 エカチェリーナが十夜に向かって黄緑の液体の塊を二つ放つ。スライムのようなそれは、一つが十夜の足に直撃し、そのままへばりついた。


 動きが鈍った十夜の隙をついて、女が側頭部に蹴りを入れる。メジロエメラルダーの防御力も突き抜けた強烈な衝撃を食らい、十夜は意識が飛びかける。

 しかし十夜はそのまま気絶することなく、蹴りを食らいながらも、女の足を掴むと、軸足の方に足払いをかけて、女を転倒させる。


(駄目だ……意識が……)


 しかし十夜がもったのはそこまでだった。目が開いているのに視界が暗くなる。意識が保てない。


(駄目だ……このまま気絶すれば……殺される……。二度と目覚めない……)


 恐怖に震えながらも、十夜の意識は闇に落ちていく。


「十夜!」

 晃が叫び、女に向かって銃を撃つ。


 女が後退してかわしたその時だった。


 晃も、十夜と戦っていた女も、瓶詰め男もエカチェリーナも陽菜も、カバディマンもカシムも、全員制服姿で教室に座っていた。


「え……?」

「何やこれ……? うち何でこんな格好……」

「お、おい俺の服は……?」


 陽菜とエカチェリーナが状況の変化に驚愕し、動揺する。カシムは花嫁衣装を着ていないことに動揺していた。十夜は机に突っ伏して気絶している。


「って、凛さん達もいるし。何してるの?」

「ようこそ……」


 晃が凜に声をかけると、凛は座ったまま半眼で言う。


「それでは授業を始めーる。先生に口答えしたら許さな~い」


 竹刀で黒板を叩きながら笑顔で告げる、ジャージ姿のツグミ。


「敵の能力みたいだけど……。駄目、私のキャンセル能力でも消せない……」


 陽菜がエカチェリーナの方を向いて首を横に振る。


「え~と……これ、どういう能力なのさー?」

「私達にもよくわからないけど、ここじゃツグミに逆らえないネー。ツグミ以上の力が出せない限りネー」


 晃が誰とはなしに問うと、悪魔のおじさんが、端的に状況を答えた。

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