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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
92 苗床を潰して遊ぼう
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27

 陽菜とエカチェリーナとその他数名の幹部達は、アジト前での戦闘をモニターで見て、目を剥いていた。


「次々とやられていってる。何なのあれ……。しかも敵は少数よ」

「翌日リヴェンジとか何でやねん思たけど、ソういうことカー。腕利き雇ったんやね」


 陽菜が戦慄を感じながら唸り、エカチェリーナは納得する。


「腕利きどころではありません。あれはヨブの報酬の大幹部ですよ」


 幹部の一人が報告した。


「ヨブの報酬やて……」

「何それ?」


 半年前まで一般人だった陽菜はヨブの報酬の名も知らなかった。


「世界七大地下組織の一つで、どえらイ組織や」

 エカチェリーナの説明はシンプルだった。


「まあ、よかったやないノ。こっちも頼もしい御方が丁度来てくレたことやし」

「そうね」


 特に慌てていない様子のエカチェリーナであったが、陽菜は胸を痛めていた。仲間達が次々と殺されている。そしてこの分では、その頼もしい御方が戦闘に加わる前に、さらに命が失われる。


***


 先頭の様子を遠巻きに見物している真、凛、十夜、晃、ツグミ、牛村姉妹の七名。


「ヨブの報酬の狙いは間違いなく苗床だろう。大丘からその存在を聞いて、雪岡の目論見を知ったからこそ、話に乗ったんだ」


 大丘とその横にいるシスターに視線を向け、真が言った。この二名も戦いには参加していない。


「普通に考えたら、苗床はもう別の場所に移動したんじゃない?」

「一度間近まで接近されて、狙われているってわかっているもんね」


 凛と十夜が言う。


「どうかな? 例え場所が割れても、あの場所はかなりの安全地帯だ。動かす方が危ういという判断もある」


 と、真。


「そうなんだー。私ならバレた時点で、絶対他所に移して隠すなー」

「同感」

「私は真に一票」


 ツグミの言葉に伽耶が頷くが、麻耶は真の方を支持した。


「で、僕等はどうするの?」

 晃が真の方を見て尋ねる。


「機を見て、もう少ししたらあいつらの前に出る」

 真が言った。


「それでどうなるのよ?」

 どういう意図があるのか計りかねて、凛が問う。


「シスターの真意を聞きたい。一応僕達の任務は偵察だし、知れるだけ知っておかないと」

「おやおや、真先輩、ちゃんと覚えてたんだー。雪岡先生のことだけで頭いっぱいかと思ったのに」


 真の言葉を聞き、ツグミがにやにや笑いながらからかった。


***


 青い肌の異形に変身した勤一が、金毛狼男のブラウンと激しい肉弾戦でぶつかっている。

 身体能力的にはブラウンの方が明らかに上だった。それは戦ってみて、両者がしっかりと肌で感じていた。しかし押されているのはブラウンの方だ。


「おいおい、流石にこの数はキツいぞ」


 ブラウンが防戦一方になりながらぼやく。ブラウンを攻撃しているのは、勤一だけではない。ビルの中から次から次に出てくるサイキック・オフェンダーが、あらゆる能力でブラウンを攻撃しているのだ。ブラウンの体内から湧き出る泥が、ブラウンの身を守り切れないほどの猛攻を受けてしまっている。


(こいつらモブ兵士ってわけじゃあねえ。全員能力者で何してくるかわからない。そんな奴等相手だと、いくら俺がパパとママに護られていても、限度ってもんがあるぜ……)


 事実、ブラウンは泥のガードを突き抜けて、体の何ヵ所かに攻撃を受けていた。幸いにも致命的になるような攻撃は無いが、能力次第では一発食らっただけでもアウトという事も有り得る。


 一方で、ネロも苦戦を強いられていた。

 凡美の手首から分離された棘付き鉄球が巨大化し、激しく回転しながら青獅子を追いまわしている。青獅子の出す炎も全て弾かれてしまっている。

 ネロは他に神獣を計三体呼び出していたが、敵の圧倒的な数の多さに翻弄されている格好だった。どうにか敵を引き付け、味方の被害を押さえている程度に留まっている。


 ヨブの報酬の他の戦士達も、ぽっくり連合のサイキック・オフェンダー達も戦闘に参加しているが、今はオキアミの反逆のサイキック・オフェンダーの数に押されていた。


(幸子の盲霊のおかげで助かっている部分が大きい。敵集団をまとめて無力化している。しかしそれも辛くなってきたか……)


 飛び交う盲霊を見て、ネロは思う。盲霊の数は次第に少なくなってきた。ストックが尽きかけているのだ。幸子の顔にも焦りが見える。


 勤一の体がくの字になって吹き飛ばされた。ブラウンの渾身の蹴りが、勤一の腹部を打ちぬいていた。


「勤一君っ」


 凡美が叫び、追撃させまいとして、倒れた勤一の前に巨大棘付き鉄球を移動させる。


「む……」


 神獣の一体の動きが止まる様を見て、ネロが唸る。次の瞬間、その神獣めがけて一斉に攻撃が降り注いで、神獣は消滅した。


「主の盟により来たれ。第二十の神獣、研固なる光兵!」


 ネロが叫ぶと、眩い光に包まれた、剣と盾を携えた白い石像の兵士が新たに現れる。

 しかしその白い石像兵士も、動きが止められた。そこでさらに集中攻撃が成される。


(力の原理がわからぬし、敵の数が多くて、誰が発動させている能力かもわからん。しかし、俺自身には効かないようだ)


 動きを止める能力は、ネロにも一度見舞われたが、ネロは抵抗レジストした。しかしネロが呼び出した神獣には効いてしまう。


「糞ったれ、何だこいつは!」


 ブラウンが怒声をあげる。勤一を蹴った直後、次から次へと大量のティッシュペーパーが飛来して、ブラウンの全身にまとわりついてきたのだ。ブラウンは大急ぎで腕を動かして、次から次へとひっぺがす。ブラウンの体を護る泥をもってしても、これはどうにもならない。ガードしきれない。

 そんなブラウンに対して、他のサイキック・オフェンダーも攻撃していく。泥がティッシュペーパーの方に反応して、それらの攻撃にまで防御が回らず、ブラウンのダメージが蓄積していく。


「くっくっくっくっ……我が人喰いティッシュペーパーの恐ろしさ、身をもって知れ……」


 小さな老人が、ティシュペーパーにまとわりつかれてもがくブラウンを見て、くぐもった笑い声を発する。

 次の瞬間、老人の額に穴が開いた。老人が笑顔のまま倒れ、ブラウンにまとわりついていたティッシュペーパーが全て、ひらひらと地面に落ちる。


「助かったぜ……幸子」


 ブラウンが銃を構えた幸子の方を見て、親指を立ててみせた。


「流れが止まりましたねー。いえ、流れが変わっていまーす」

「あの二人が出てきてからですね。そして建物の中から出てくる敵の数が増えています。こうなる前に突入したかった所ですが」


 戦いの様子を見て、シスターと大丘が言う。当初の無双状態はどこへやらという具合に、明らかに形勢不利であるにも関わらず、二人共特に慌てた様子は無い。


「主に背き者よ、宿れ。第五の魔獣、腐海統べし妖樹!」


 ネロが自身の体を変貌させる。ただでさえ大きな体がさらに巨大化し、全身が藍色の幹によって覆われていき、藍色の枝とツルが伸びていく。何十本も伸びたツルは、非常に長い。


 大量のツルが一斉に振り回される。それぞれが独立した器官であるかのような動きを見せ、異なる動きを見せている。


「ぎゃああっ!」

「何やこれぇ!? ぶぺっ!」


 ツルを直接身に受けたオキアミの反逆のサイキック・オフェンダーが、断末魔の悲鳴をあげたかと思うと、全身の体色がネロと同じ藍色へと変わり、体表が固く幹のように変化し、藍色の木へと変化して動かなくなった。


「ありゃヤバいぜ」

「誰か何とかせーよ」

「あれは避けた方がええな」


 藍色の樹木となったネロと、ネロに攻撃されて樹木化した者達を見て、オキアミの反逆の兵士達は慄いて距離を取った。


「俺達の出番はまだのようだが、この中に飛び込むのは躊躇するな。かつてない大乱戦だ」

「カバディ……」


 大丘とシスターのさらに後方にいるカシムが、戦闘の様子を見て言う。隣にいたカバディマンも、同意するかのような声を発する。


「む、これはいけませーん」

 シスターがある光景を見て、眉をひそめた。


 幸子が膝をついて、肩で息をしている。

 その幸子に向かって、オキアミの反逆のサイキック・オフェンダーの一人が攻撃を仕掛ける。幸子とは距離が離れた位置で、巨大な鉈を両手で振り回すと、振り回す軌道に合わせて鉈が伸びて、その先端が丁度幸子に届くまでに至った。


 しかし鉈は幸子の体に届かなかった。シスターが白い鞘から白い柄の刀を抜き、刃だけ空間を越えて飛ばし、鉈を切断したからだ。


「何っ!?」


 鉈男が驚きに目を見開いた直後、銃声が二つ響き、その喉と胸に穴が開いた。幸子が顔を上げ、鉈男に銃を撃っていた。


「助かりました……。シスター……」


 全身に脂汗をかき、荒い息をつきながら、幸子は礼を述べた。

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