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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
92 苗床を潰して遊ぼう
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26

 昼下がり。オキアミの反逆アジトビル前に、ぽっくり連合のサイキック・オフェンダー達が襲撃しに集結している。

 しかし彼等はすぐに動こうとしない。集まっただけで、多くが戸惑い気味だ。


「うちの親父がおらん……」

「私の所のボスもいないで」

「俺の組織のリーダーも会議から戻ってこない。

「うちはいるけど、何だか様子が変だ。青い顔してる」

「いないけど命令は来とるわ。ここに集合せい言うから集まったけど……何か妙やで」


 彼等が戸惑っている理由――それは、彼等が元々独立した組織だった頃のボスが揃って行方不明という、異常事態のせいだ。


「では皆さん、頼みますよ」


 大丘が現れて、ビルの中へと襲撃するよう促す。

 その時、ビルの扉が開いて、オキアミの反逆のサイキック・オフェンダー達が現れた。


「何や、昨日より大分少なくなっとるやないか」

「ははっ、わざわざ殺されにでもきたのかよっ」

「いてこましたれーっ!」


 オキアミの反逆の兵士達が血気盛んに襲いかかってきた――が……

 傷だらけの厳つい顔の大男が一人、堂々と前に進み出て、オキアミの反逆の兵士達の前に立ち塞がった。


「主の盟により来たれ。第十五の神獣、聖火の獅子王!」


 叫び声と共に、大男の全身から青白い炎が噴き出し、同時に、青白い炎をまとった青い獅子が出現した。

 突然現れた蒼炎の青獅子に、オキアミの反逆のサイキック・オフェンダー達の足が止まる。ぽっくり連合の者達もぎょっとしている。彼等は一目見て感じ取っていた。この青獅子が、そして青獅子を呼び出した男が、並々ならぬ力の持ち主であると。


 青獅子がオキアミの反逆の兵士達の横を駆け抜ける。ただ横を駆け抜けだけで、白湯に広がった青白い炎が二人の兵士を包み込み、凄まじい速度で全身を焼き付くし、あっという間に黒焦げの死体へと変えた。


「うおおおっ!」


 オキアミの反逆の兵士の一人が叫びながら、超常の力で反撃を試みたが、青獅子にも、大男にも、通じていない。傷一つつかない。そしてその男に青獅子が飛びかかり、全身炎で包まれ、また新たに黒焦げ死体が増える。


 神父の姿をした長髪の男が進み出る。歩きながら、手早く上着を脱いでいく。

 上半身露わになった男の肌が金色の体毛で覆われる。頭部の形が変形していく。口の端が大きく裂けて、口と鼻が伸び、耳が頭の上へ移動して伸びる。


「パパ、ママ、今日も頼む」


 金色の狼男と貸した男が呟き、オキアミの反逆の兵士達がいる方へとダッシュをかける。


「こいつ!」


 サイキック・オフェンダーの一人が、水色に光り輝く長いドリルのようなものを何本も射出して、金色の狼男に向けて放つ。

 水色のドリルは、全て金色の狼男に当たった。しかし、その体を貫くことはなかった。金毛に茶色の泥のようなものが浮き上がり、ドリルを受け止め、通さなかった。


 金色の狼男がドリル男に迫り、腕を振るう。ドリル男の恐怖に引きつった顔がめくられ、筋肉繊維が露わになる。目玉も皮と一緒にえぐり取られていた。


「な、何やっ!? 急に何も見えへんなったーっ!」

「真っ暗やんけー! これ、敵の能力か!?」

「誰か何とかしてーっ!」


 さらに悲鳴が幾つもあがる。目が開いたまま、視力を失った者が何人もいた。

 スーツ姿の女性が、視力を失った者達に銃を向けると、冷然と射殺していく。


 ぽっくり連合の者達は呆然と、それらの光景を見ていた。たった三人によって、無双されてしまっている。


(何でだろう。あいつらを見ると、とても嫌な気分になる。凄く嫌な気分と予感の正体はこいつらだった)


 その様子を見学していたデビルは、意味不明な不快感に襲われていた。


(僕はこいつらを知っている? 初見のはずだ……)


 しかしどこかで会ったような気がしてならないデビルである。

 彼等が何者か、知る者もいた。


(まさか……ヨブの報酬と手を組むなんてな……。どうやってこいつらを味方に引き入れやがったんだよ)


 カシムが大丘を見やる。大丘の横には、ウェーブのかかった赤髪の女性がいた。その人物もカシムは知っている。世界七大地下組織であるヨブの報酬のトップ、シスターと呼ばれる人物だ。


「来てくださったことに感謝します」

「貴方達のために来たわけではありませーん」


 大丘が礼を述べると、シスターはにべもなく言った。


「承知しています。しかし私達が助かったことに変わりはありません。そして私個人の目的も叶います」

「貴方個人の目的? それは聞いていませんねー」


 シスターは不審げに大丘を見る。


「苗床の件ですよ」

「それを聞いたからここに来ましたー。純子の企みを阻止するべくー」

「ええ、ですからそれが私の望みなのです」


 にっこり笑いながら告げる大丘から、シスターは何も言わずに視線を外し、ネロ・クレーバー、ブラウン、杜風幸子三人の戦う様子を見つめる。


 ネロ、ブラウン、幸子だけではなく、ヨブの報酬の他の戦士達も戦列に加わった。さらにはぽっくり連合のサイキック・オフェンダーも加わり、オキアミの反逆の兵達を次々と斃していく。


「うわ、随分とやられまくってるわね」

「また来た理由はこれか。強い助っ人を雇えたわけだ」


 凡美と勤一も出てくる。


(出てこない方がいいのに……。もう助けないぞ。こんな大勢の前で姿を晒したくも無いし)


 二人の姿を見て、デビルは苦々しく思う。


 と、そこに真達も到着した。遠巻きに戦闘の様子を見る。


「オキアミの反逆の方が負けてるじゃん」

 意外そうに言う十夜。


「あいつらはヨブの報酬だ」

「ええっ? 世界七大地下組織の一つで、キリスト教圏のフィクサーの?」

「何でそんな大物がぽっくり連合に加担してるんだろ」


 真の言葉を聞いて、晃が驚きの声をあげ、十夜が疑問を口にする。


「雪岡が絡んでいるからに決まっている。そもそもあいつらは、自分達以外が超常の力を持つことさえ悪とする教義を持っている。雪岡のやったことは、そしてこれからやろうとしていることは、それ真っ向から反するものだ」

「えー、その理屈だと、ぽっくり連合も敵じゃないの~?」


 真の話を聞いて、ツグミがもっともなことを言った。


「暫定的に組んだ」

「改宗した」

「どっちだろー。私は暫定的に一票」


 伽耶と麻耶が言うと、ツグミは伽耶に同意した。


「そんな……改宗して洗礼を受けた可能性だって……」

「いや、改宗はないでしょ」


 麻耶がなおも改宗説を訴えようとしたが、凜が否定した。


***


 裏通り中枢施設。真とエボニーを除く悦楽の十三階段が集まっている。


「真から報告があった。ヨブの報酬がぽっくり連合に加担して、オキアミの反逆を襲撃しているとのことだ」

「マジかよ~」


 新居に報告されて、犬飼は笑ってしまう。弦螺は顔をしかめて、沖田は仏頂面になる。


「頭目のシスター、ナンバー2のネロ・クレーバー、大幹部のブラウンなどが戦闘に臨んでいるとよ」

「この人達、元々日本にいたみたいだよう。日本支部にシスター達が出入りしているるる」


 新居に続いて、弦螺も知っていることをほうこくする。


「シスターと繋がった」

 沖田が電話をかけながら言った。


「どういう意図で攻撃しているから教えて頂きたい」

『言えませーん。ただ、日本にいたのは別の理由でしたし、これはたまたま見過ごせない問題があったからであると、そう言っておきまーす。貴方達に迷惑はかけませーん』


 沖田が問うと、シスターは素っ気ない口調で答える。


「日本に居た理由も言えないかな?」

『様々な業務がありましたが、日本支部の戦力も整えるために、スカウト活動を行うことがメインでしたー。能力の覚醒者が全てサイキック・オフェンダーになるわけでもないですし、そうした者の中には私達の意思に賛同してくれる者もいるはずでーす。欧州でもそのような活動はしていまーす』

「PO対策と共闘する意思は?」

『部分的になら有り得ますねー。私達にとってもサイキック・オフェンダーは敵でーす。しかーし、優先すべき目的がありまーす』

「そうか。答えてくれて感謝する。できれば事を構えたくない」

『それはお互い様でーす』


 電話を切る沖田。


「こちらにとって悪い事態ではなさそうに見える。今のところはな」

「どう転ぶかわからねーから、油断大敵って奴か」


 沖田が言うと、犬飼がにやにや笑いながら肩をすくめた。

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