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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
92 苗床を潰して遊ぼう
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25

「ふわ~……」

「おはよう、エカさん」


 寝ぼけ眼であくびをしながら現れたエカチェリーナに、陽菜が声をかける。

 早朝の真達の脱走劇の後、眠り足りないエカチェリーナはさらに二時間程寝ていた。


「嫌な夢見タわ~。あの糞ったれの祖国に帰る夢や。いちびっテばかりの亭主も出てきて、もう最悪やで」


 うんざりした顔で言うエカチェリーナ。


「私が見た一番嫌な夢は……誰も彼にも見捨てられ、裏切られ、エカさんにも見捨てられる夢かな」

「何言うとんねン。そんなことせエへんよー」


 陽菜の言葉を聞いて、エカチェリーナは笑顔になって否定する。


「陽菜は日頃からそないなこと考えてビビってるの~?」

「う、うん……私も色々と嫌な思い出あるしね……」


 ストレートに問われ、戸惑う陽菜。


「お互い様か。過去のしんどいの忘レるのも難しいなー。でも今は悪くない環境やし、今を肯定的に受け止めて楽しんどき」

「そうだね。わかってる」


 わかってはいるが、素直に受け止めきれない理由がある。


(エカさんの気遣いが、優しくて、温かくて、心地好くて、痛い)


 うつむき、拳を握る陽菜。


(だってこれ、フェイクなんだもん。私の能力で、そうあるようにと願って作った結果だもん)


 自分の能力で、エカチェリーナの自分に対する好意を無理矢理向けている。その意識が常にまとわりついているので今の心地好い環境を、エカチェリーナの言葉と想いの全てを、陽菜は素直に受け止められない。


 部屋の扉がノックされる。

 訪れたのは蟻広と柚だった。


「PO対策機構内部の草から連絡だ」

「草?」

「スパイのことな」


 蟻路の言葉の意味がわからない陽菜。エカチェリーナが意味を教えた。


「奴等、ぽっくり市に戦争仕掛けてくるつもりでいる。グリムペニスの人外や能力者、政府お抱えの霊的国防機関の術師達、殺人倶楽部、裏通りの腕利き達なんかをかき集めてやがるぜ。はっ、最後の障害だったミルメコレオの晩餐会を潰して、勢いづいていやがる」


 蟻広の報告を聞き、陽菜とエカチェリーナの表情が劇的に変化する。


「それだけちゃうやろ。ぽっくり市の事情も知られタんやろな」

「昨日、オキアミの反逆とそれ以外の連中が抗争して――今、共喰いしている最中だから、攻めるに絶好の機会と踏んだわけね」

「これまでぽっくり市の情報は洩れんようにしとっタ。そのおかげで迂闊に手出しせんかった部分もあるやろ。これまではちびちびと偵察送ル程度やったけど、うちらの遠視や予知能力者の網を抜けるほどのモン寄越して、向こうにあれこれ知られてもーたわ。で、PO対策機構はいけると踏んだ、と」

「つまり……私達より数も質もPO対策機構の方が上?」


 エカチェリーナと陽菜が話す。


「質まではわからないだろうが、数では上と判断したんじゃないか?」


 陽菜の言葉に対し、蟻広が言った。


「癪だけど……転烙市に応援頼むしかない?」


 陽菜がエカチェリーナの顔色を伺いながら、思ったことを口にする。エカチェリーナはあま

り転烙市に良いイメージを抱いていない。


「それは早計なンやない? いや……うん……ま、今のうちに手は打った方ガええな」


 渋々といった表情で、エカチェリーナが言った。


「ぽっくり連合とPO対策機構が手を組む可能性はないのか?」

「有り得るで。落ち武者がワンコロになってへりくだる展開や」


 柚が推測を口にすると、エカチェリーナがたっぷり毒を込めて吐き捨てた。


***


 ぽっくり連合アジトでは昼になってもう一度、幹部達が集まって、会議が行われていた。


「助っ人来る言うてはったけど、もうどーにもならへんやろー……」

「そーそー、降伏するのが現実的でがんす」

「いっそPO対策機構に護ってもらう手もあるな」

「いくらなんでもそれは屈辱的やわ」

「こっちのタマかかってるのに、屈辱がどーとか言って死にたいんかい」

「大丘はん、ずっと黙ってないで、何とか言いよ」


 幹部連中から悲観的な言葉ばかりが出る中で、一人が大丘の発言を促した。


「降伏するとまで仰る人がおられますが、私の方針は変わりませんよ。助っ人をあてにして、戦いに臨みます」

「何言うてんねん。その助っ人も、実際来てくれるかどうかわからんちゅう話やないかい」


 大丘が朗々とした声で告げると、幹部の一人が反感を剥き出しにして言った。


「もう付き合いきれんわ。ワイは抜けるで」

「助っ人に見込みがあれば……やけど、そうでなければ、うちも降ろさせてもらうわ」

「俺も……」


 とうとう離脱を口にした者が現れた時、大丘の中に黒い靄が現れた。


「ああ……またですか。またズレが生じるのですね。また丁度よく合致しないのですね。また調和が乱れるのですね。またスムーズにいかないのですね。また妨害されるのですね。家族も、犬飼さんも、中司君も、雪岡さんも、他の皆も、皆そうでした。どこかでズレる。私と合っていたはずなのに、どこかで外れる。どこかでズレる。どうしてでしょうね?」


 笑顔で告げると、大丘は銃を抜き、最初に抜けるといった幹部を撃った。


 銃声の後、会議室は静まり返った。頭を撃ち抜かれて果てた幹部と、笑顔で銃を構えたままの大丘を凝視し、全員固まっていた。迂闊に何か口にしようものなら、次は自分が殺されるという恐怖が、彼等の口を閉ざした。


「関西ではイラチとかイラッチというのでしたっけ? 私は多分それです」


 笑顔のまま、言葉を続ける大丘。銃も下ろさない。


「私とズレると、頭に来ますし、頭に来ると同時に殺意が湧いてしまって、気が付くと殺しちゃっているんですよ」


 喋りながら、大丘は思う。


(犬飼さんの時は、殺すのではなく、彼の大事なものを壊してがっかりさせてあげましたけどね。雪岡さんは……殺したくても殺せませんでした。でもこのままでは済ましません。準備は整えてあります。彼女の目的は何としても阻まないと。そのためにもこの人達には、私のプラン通りにズレることなく働いてもらわないと)


 そんな大丘に、恐怖や怒りではなく、呆れ、蔑む視線を向ける者がいた。


(いきなり壊しにかかる部分は、犬飼や僕と似ているかもしれない……と思ったこともあったが、勘違いだった。全然違う。壊す理由が違う。だから全然違う。似て非なる者)


 平面化した状態でずっと観察していたデビルは、大丘に対する結論を出した。


(こいつはつまらない)


 そしてわからない。犬飼はデビルにどうしてほしかったのかを。


(わからないけど、もう僕はこいつに飽きた。飽きた玩具は最後にどうするか――どう遊ぶか、それは決まっている)


 デビルがそこまで考えた所で、大丘がメールを受け取り、確認する。


「助っ人が到着したようです。彼等は私達と共闘してくれるでしょう。きっと勝てますよ」


 慄く幹部連中に向かって柔和な口調で告げると、大丘はようやく銃を下ろした。


「では、改めて攻め込むとしましょうか。頑張りましょうね、皆さん」


 そう言うと、大丘は幹部達に堂々と背を向け、部屋を出ていった。背を向けた自分を撃とうとする気概のある者も、逆らう度胸がある者も、この中にはもういないとわかっていた。


***


『PO対策機構はこれよりぽっくり市に攻め込む。到着次第、真達も加われ』


 真の元に、新居から連絡が入る。


「断る」

『はあ?』


 即座に拒絶する真に、新居は不機嫌そうな声をあげる。


「僕達は遊撃部隊として動く。その方がいいし、そういう役割がいた方がいい」

『こいつは許せ……なくもないな。まあお前等はその方がよさそうだ』


 真の話を聞いて、新居は納得した。


 電話を切ると、真は新居から聞いたことを一同に報告した。


「おおー、PO対策機構が本腰入れて攻めてくるのかー」

「わくわくー」


 表情を輝かす晃とツグミ。


「この二人は本当お気楽」

「緊張感無い」


 そんな二人を見て、伽耶と麻耶が言う。


「オキアミの反逆のアジト近くに移動して、潜んで様子を見よう」


 真が促し、一行は女子組と男子組二手に分かれて、タクシーで移動することにした。


「外見てよ。物々しい連中が同じ方に向かって走ってる」


 凛に言われ、伽耶、麻耶、ツグミが外を見ると、奇抜な格好をしたバイクの群れが、やかましいエンジン音を吹かして走っていた。


「時代錯誤でキツいバイク集団」「珍走団」

 揃って顔をしかめる牛村姉妹。


「元裏通りの住人のサイキック・オフェンダーね。昨日見た顔もいる。ぽっくり連合よ」

「大丘さんもいるかなあ」


 凛とツグミが言った。


「昨日ぼこぼこにされたくせに、昨日の今日でまた攻めていくの?」

「変な話だよね」


 十夜と晃もバイク集団を見て、不思議そうに言う。


「PO対策機構と組んだとか?」

「有り得る話だけど、それなら僕の方にも連絡を寄越すはずだ。そんな話はない」


 可能性を口にする十夜であったが、真は否定した。


「あいつら……」

 真が珍しく唸るような声を発する。


「どうしたの? 相沢先輩。ヤバい奴いたの?」

「ああ……とびきりヤバいのがいた」


 晃に問われ、真が認めた。


(そして昨日こっぴどくやられたぽっくり連合が、今日またリヴェンジに乗り出した理由がわかった。あいつらと組んでいたなんて……)


 バイク集団の中にいた者達を確認し、真は腑に落ちる。

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