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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
92 苗床を潰して遊ぼう
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21

 真達を探して、オキアミの反逆のアジト侵入した晃、凛、ツグミの三名。


「結構大きなビルだし探すの大変だ」

 歩きながら晃がぼやく。


「あ、悪魔のおじさんから連絡。伽耶さんと麻耶さんを見つけたそうだ。相沢先輩達は側にいないって」


 亜区間トンネルの中を歩きながら、ツグミが報告する。


「あとは相沢先輩だけかー。スムーズにいったね」

 笑みをこぼす晃。


「まだ見つけただけよ」

「全員無事脱出するまでが遠足でーす」


 凛が釘を刺すと、晃がおどける。


「一度に逃げ出さないように、三人離された状態で監禁されているんでしょ。悪魔のおじさんと十夜にも、今すぐには逃げないように伝えて。他の二人も見つけてから、同時に脱出がいいわ」

「了解」

「三人じゃなくて四人だろー。後で伽耶と麻耶に言いつけてやろっと」


 凜が方針を口にすると、ツグミが頷く一方で、晃は茶化していた。


 ふと、凛が足を止める。


「すぐ近くにかなり強い結界があるわ。空間操作も遮断する強力な代物よ。多分伽耶と麻耶がいるのね。あの二人の力の強さから考えると、抑えておくには相当な力が必要だし」

「薬品で寝かされている可能性もあるよね」


 凛とツグミが推測を口にする。


 しばらく亜空間トンネルを歩いていくと、伽耶と麻耶のいる部屋に辿り着いた。


「本当だ。伽耶と麻耶、いた」

「寝てる。それぞれそっぽ向いた横顔だ」

「寝顔も同じね。当たり前だけど」


 姉妹の寝顔を見て、ツグミ、晃、凛がそれぞれ言う。


 その後、凛が部屋と部屋の周囲を、次元が一つずれた亜空間トンネル内からくまなく調べる。


「結界の支柱は見つけたわ。これを破壊すれば結界は解けるでしょうけど、間違いなく結界を破壊したことも察知される」


 思案顔で告げる凛。


「救出するとなると、ここは絶対に強行突破するしかないから、他の二人を見つけた後ってわけだね」

「そういうことね。この二人を先に助けた方が、便利だし心強かったんだけど」


 晃が言い、凛が残念そうに言った。


「不味い。悪魔のおじさんが見つかった。しかも戦闘に入った」


 ツグミが眉をひそめて報告する。


「悪魔のおじさんは大抵の相手に負けないと思うけど、この敵は強い……」


 悪魔のおじさんの状態を確かめ、ツグミは影子に悪魔のおじさんのいる場所に向かうように指示を出した。


***


 時間は二分程前に戻る。


 姉妹がいる部屋の側で、悪魔のおじさんは亜空間トンネルの中で待機していたが、その亜空間トンネルの中に、空間を切り開いて外から無理矢理入ってくる者がいた。


「禍々しい気配につられて来てみたが、何者だ?」


 首から鏡を下げた寝間着姿の少女が、悪魔のおじさんに問う。木島柚だ。


「それはこちらの台詞だヨー。君もどう見ても人間には見えないよー。見た目はともかく、本質がネー」


 もじゃ髭をいじりながら、悪魔のおじさんは興味深そうに柚を見て、にやにやと笑う。


「珍妙な格好ね。あまり外で見かけたことがないぞ」


 シルクハットに燕尾服にステッキという出で立ちを見て、こちらも興味を抱く柚であった。


「ほほーウ。君は宇宙人か何かかナー?」


 からかう悪魔のおじさん。


「この時代からすると遺物――いや、時に取り残された者であることは確かだ。色々と目新しい発見は楽しいが、時に疲れることもあるかな」


 悪魔のおじさんは、自分がズレていると指摘しているのだと察し、柚は真面目に答えた。


「男と女の喋り方が微妙に混じっているのは面白いヨー。で、よくわからないけど、取り敢えず戦闘の流れかネー?」

「侵入者なのだろう? そうなるな。何者で、何の目的で入ってきたか、問いただす必要がある……と、思う」


 確認する悪魔のおじさんに、柚は心なしか躊躇いがちに言った。


「私からすれば君が侵入者なのだヨー。私の空間に無理矢理入ってきた時点でネー」


 悪魔のおじさんがステッキを激しく回転させる。

 柚の体に大きな力が加えられた。悪魔のおじさんの念動力によって、体がねじられるかのような痛みを覚えた柚だが、自らも念動力を用いて、悪魔のおじさんの力に抗い、力を力で押し返す。


「ふむ。そちらの方がパワーが上かナー?」


 力の押し合いは叶わないと見て、悪魔のおじさんは念動力で攻めることをやめる。


「初めて使った力よ。貴方を真似てみた」


 柚のその発言に、悪魔のおじさんはぽかんと口を開いた。


「いやいや、これはたまげたネー。想像以上に怪物のようだヨ。では、これも真似できるか、試して欲しいナー」


 悪魔のおじさんが自分の目に指を突っ込んで、眼球をえぐり出すと、柚に向かって放り投げた。


 空中を飛ぶ間に、二つの眼球がみるみるうちに巨大化したうえに、牙がびっしりと生えた口を開く。


「それは真似したくない」


 鼻白んで呟くと、柚は空間を捻じ曲げて亜空間トンネルを大きく歪める。飛んできた巨大な目玉は亜空間トンネルの中から飛び出し、それぞれ異なる方向へと飛んでいった。


「その防御は消費も多かろうニー。こちらの攻撃のコストに比べて、消費コスト大きすぎだヨー」


 双眸の無い状態のままで、悪魔のおじさんはステッキを弄びながら笑う。

 亜空間トンネルの外に出た目玉が消える。ほぼ同時に、悪魔のおじさんの目玉が元に戻る。


「奇妙な術だ。己の体を変形するのか」

「うんうん、それが私の得意技ダー」


 悪魔のおじさんが人差し指を指すと、人差し指が刀剣のような形状になって、柚めがけて真っすぐ伸びていく。


「防ぎ方に難がある? では――これならどう?」

 柚の鏡から光が放たれる。


 光の中から光り輝く巨大な昆虫が一匹現れた。狭い亜空間トンネルの中でつっかえた状態になっており、長い肢がほぼ折りたたまれているが、前肢の関節の先だけは動かせるようだ。巨大ではあるが、胴体も肢も全体的に細い。

 刀剣となった悪魔のおじさんの人差し指を、光り輝く昆虫が長い前肢で弾いて叩き折った。


「これは何かネー?」

「アメンボよ。出す場所が微妙だったが、それでも防いだ」

「ほほう……。これアメンボだったカー。言われてみれば確かにそうダー」


 通常、人がアメンボを見る時は、水の上を優雅に移動しているあのアメンボを上から見ている。足が通路につっかえて折りたたまれているその姿を、正面から、しかも光り輝く大サイズで見たため、言われるまでアメンボとはわからなかった。


 巨大アメンボが通路を窮屈そうに這い、悪魔のおじさんに向かっていく。


「ここなら――隔絶された空間故に、遠慮なく使えるな」


 自分にだけ理解できる言葉を呟く柚。


 迫ってくる巨大アメンボに対し、悪魔のおじさんがカウンターで攻撃しようとしたその時だった。

 巨大アメンボの口から、何かが飛ばされた。小さい塊のような物が複数。


「むむ?」


 足元に転がってきたそれらを見て、悪魔のおじさんが唸る。拳程度の大きさのそれは、日本人なら誰もが知るであろう物だ。しかし大きさだけが違う。通常の物よりずっと大きい。通常のそれは、指でつまむ程度の大きさだからだ。


「どんぐり?」


 転がっている巨大なドングリを見て、悪魔のおじさんが訝った直後、巨大どんぐりは一斉に爆発した。


 狭い亜空間内に爆風が吹き荒れる。細長い巨大アメンボの体を突き抜け、爆風は柚にも届いたが、ダメージになるほどではない。しかし間近で食らった悪魔のおじさんは、吹き飛んで倒れている。


「やられたネー。アメンボに爆弾を届けさせるなんてネー。しかもどんぐりだったから、それが爆弾とも思わなかったヨー」


 ゆっくりと身を起こす悪魔のおじさん。


「やはり人ではないな。あれを食らってまだ生きているとは」


 常人なら完全に致命傷の威力の爆発だった。それでいてなお生きている悪魔のおじさんを見て、柚は警戒の度合いを強める。

 神経を研ぎ澄ましていた柚は、背後に微かな殺気を感じて、その場を飛び退いた。


「惜しいっ」


 通常空間と亜空間の狭間を突き破り、柚がいた空間を手刀で切り裂いた影子が、悪戯っぽく笑う。


(援軍か。真っ黒な女の子とは。そしてこれも人とは違う気がする。そして二体一は流石に厳しいか? どちらも得体が知れない)


 柚が影子を見て、さらに警戒の度合いを増したが――


「影子、私の支援はしなくていいヨー。それよりも――」

「わーってるよ」


 悪魔のおじさんは影子の助力を拒み、別の行動を促した。


 影子は亜空間トンネルに入ろうとはせず、十夜の元へと向かった。

 隣の部屋では十夜が寝ている。


「おい、起きろよ先輩」

「ツグミ? いや、影子か……」


 体を乱暴に揺すられて十夜が、寝起きに黒いツグミを見てぎょっとする。


「とっとと逃げんぞ」

「あ、うん……」


 亜空間トンネルを開いた影子に促され、戸惑い気味についていく十夜。メジロエメラルダースーツを没収された状態で、取り返さずにそのまま逃げることを意識していた。


「さて、目的は果たしたし、私もお暇するヨー」


 悪魔のおじさんがシルクハットを脱いで一礼すると、亜空間トンネルの外へと抜ける。


 トンネルを出たかと思ったら、さらに新しい亜空間トンネルを作り、中へと入る悪魔のおじさんの後姿を見て、柚は息を吐いた。


(追うのも面倒だ)


 追跡しても多分逃げ切るだろうと見て、柚はあっさりと諦めた。

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