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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
92 苗床を潰して遊ぼう
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17

 大丘とその部下と、陽菜や真達との戦闘が再開される。


 大丘の部下が一人、真に足を撃たれて倒れた。さらにもう一人、エカチェリーナによって黄緑の液体を浴びせられ、体が硬直していた。


「辿り着けたはいいですが……どうにもできないですね……無念です。もういいですよ。降伏してください」


 状況が不利どころか、完全に勝ち目が無いと悟り、大丘は残る部下一人に戦闘をやめるよう告げた。その部下もすでに負傷している。


「大丘、貴方の目的は何なの? 純子の目的が気に入らないからって理由だけで、リスクを冒してこんなことするなんて……」


 いまいち釈然とせず、陽菜が尋ねる。


「気に入らないからという理由だけで、十分過ぎますよ。気に入らないという理由で、人は殺し合うものではないですか?」

「本当にそれだけ?」

「もう一つ付け加えるなら、現状維持ですよ。これは先程も言いましたね」

「サイキック・オフェンダーが世界中に発生して、暴れている世界がいいのか?」


 真が問う。


「そうです。私はね、半年前に変化した今の世界が、丁度いい塩梅と感じています。適度に能力者が生まれる世界。今が丁度いいですよ。しかし雪岡さんは違うようです。雪岡さんからすると、今の有様は中途半端でよろしくないようで、さらなる変化を望んでいるようです。それが私の中に黒い靄……いえ、私をイラッとさせたのです」


 喋りながら、大丘は負傷した部下の応急処置をしている。


「命懸けでこんなことするくらい気に入らないわけ? 聞いても理解できないわ」

「そうでしょうね」


 呆れ果てた様子の陽菜に、大丘は清々しい笑顔で認めた。


(苛立ちと共に現れるこの黒いモヤモヤの気持ち悪さに、私は耐えられないのです。いくら口で言ったところで、他人にはわかっていただけないでしょう)


 大丘はもう諦めている。誰かと心を通わせることは無理だと。


(唯一敬愛の念を抱いた犬飼さんでさえ駄目でした。私はそういう性質サガの元に生まれた者です)


 大丘が心の中で呟いた直後。


「ほんげええぇぇえぇぇえええぇぇえぇ!」


 大丘が治療していた部下が絶叫して立ち上がった。


 大丘の部下の体の身長が二倍以上に伸び上がり、大きな翅が生える。治療していると見せかけて、大丘は部下を虫人間へと変えたのだ。


「では、私はここで失礼します」


 巨大なトンボ人間になった部下へと飛び乗る大丘。


「空気の壁―」「虫取り網~」


 大丘とトンボ人間が逃げようとする前に、最も早く反応して防ごうとしたのは、伽耶と麻耶だった。魔術を発動させて逃がすまいとした。


 トンボ人間が飛翔する。出現した巨大な虫取り網もひらりとかわし、見えない空気の壁さえも感じ取って回避すると、そのまま超高速で通路をすっ飛んでいった。


「逃がした」

「私達だけに働かせてぼーっとしてたその他大勢」


 残念そうに息を吐く伽耶と、他の面々を半眼で見渡す麻耶。


「いきなりすぎたし、あいつが早過ぎたしさ」

「止める術なかったわ。堪忍」


 十夜が頭をかき、エカチェリーナが腰に手を当てて嘆息する。


「で、どうするの? 真」

「伽耶、どういう意味だ?」


 伽耶に問われ、問い返す真。


「この人達……このままにしていいの? 正直気分悪いんだけど……」

「純子ってこんなことするんだ……」


 伽耶がマジックミラーの先の苗床達を見て伺い、麻耶は少し怖そうな顔になって呟いた。


(解放するとか言いだすつもり? そうなれば雇用も終わり。この場で決裂。戦闘になる流れね)


 いつでも戦いに入れるよう、陽菜は身構える。


「こいつらならこのままでいいよ」

 しかし真は、陽菜を一瞥してあっさりと言った。


「洗脳されているのに?」

 さらに問う伽耶。


「洗脳ではなくマインドコントロールだな。こいつらはここでずっと祈り続けていれば幸せなんだから、放っておけばいい。現実に戻す方がきっと残酷だ」


 思ったことを口にする真。


「それでいいの?」「ずーっとこのままで幸せなの?」


 伽耶と麻耶はまだ納得いかない様子だ。


「それは俺達の価値観で、この人達とは価値観が違うんじゃないかな? まあ……何が正解かわからないけどさ」


 十夜もどちらかというと、真の言い分に賛成だった。異なる価値観で、救いを押し付けるなど、見当違いのエゴのように思える。


「マインドコントロールなのかな? 私達は指導とか教育とか呼んでいたけど。そもそも大丘一人が担っていた役割でもないし、大丘は東から送られてきた苗床担当よ。で、大丘達の指導に、誰も彼もが乗ったわけでもない。選択して拒絶した人もいるみたい」


 陽菜が苗床の実態を教える。


「つまりここにいるのは、本人達が選択した結果か」

 と、十夜。


「祈り続けると、あの生えている植物――アルラウネが育つ。それであの人達は満ち足りるようになっているんだって。それで幸せな気分になれるんだから、シンブルでいいんじゃない? 私も正直な所、凄く歪だとは思うけど、こっちの子も言った通り、それはあくまで私の価値観よ。あの人達にとっては、あの状態が一番いいみたいよ」


 陽菜は話している途中で十夜を見やり、それから伽耶と麻耶の方を見た。


「私には麻薬クサやって現実逃避しているようにも見えるし、納得できへんケどな」

「祈りは麻薬とは違うんじゃない?」


 エカチェリーナはまた意見が違うようだった。伽耶と麻耶寄りだ。そんなエカチェリーナの言葉を聞いて、陽菜がさらに異論を口にする。


「言っておくけど、今は危険だから出入りできないように隔離してあるけど、完全に自由を奪って閉じ込めているわけでもないのよ。アルラウネが育ちきって、体から摘出することが出来たら、外出も出来るようにしてあるし、わりと皆外にも出てる。すぐに戻ってきて、また新しいアルウラネを育ててるけどね」


 補足する陽菜。


「育ったアルラウネは雪岡に送っているのか?」

 真が陽菜に尋ねる。


「うん。祈りによって力が蓄積されきった状態になると、完全に体の外に出るから、それを純子に――」

「陽菜、喋りすぎやで」

「そうだった……つい……」


 エカチェリーナに注意され、陽菜は微苦笑を零す。


「というわけで、雪岡の思い通りにするのは癪だが、こいつらはこのままにしておこう」

「ぽっくり連合、引き上げよったわ。はんっ」


 真が言った後、エカチェリーナが部下からの報告を聞いて吐き捨てる。


「俺達はどうするの?」

「雇うと言われたけど、正直もう僕はこいつらに用はない。苗床の正体も見た。雪岡との関わりもわかった。敵対することもない――と言いたい所だけど、」


 十夜が真に問うと、真は陽菜とエカチェリーナを見た。


「ただし、それらは僕の個人的事情だけだ。僕等はPO対策機構の偵察任務も帯びている」


 真のその台詞を聞き、エカチェリーナは眉間にしわを寄せる。


「その任務を放棄せな、雇うわけにもいかンやろ。陽菜、さっきの話は無しにしとき」

「そうね」


 エカチェリーナに言われ、陽菜が頷く。二人が明確な敵意の眼差しを真に向け始めた。


「戦う?」「気が進まない」

「さっきまで味方っぽかったのに、ここで敵になるの?」

「陽菜さんもエカさんも悪い人じゃないし、争いたくない」


 伽耶と麻耶に言われ、陽菜は複雑な表情になり、エカチェリーナは苦笑した。


「んんん……うちも気進まんけどなー。あんたらと話してると、悪い奴ちゃうのはわかる。せやけどPO対策機構のパシリの時点でどうあっても敵やろ」

「僕からは手を出さない。でもそっちが手を出して来たら応じる」


 エカチェリーナが柔らかな口調で言うと、真はいつもの淡々とした口調で告げた。


「そう。じゃあ、応じて」


 陽菜が再び敵意を露わにし、闘気を放つ。


「殺しはしなくても、拘束くらいはさせてもらう。今うろちょろされて、私達にとってマイナスになることをされない保障は無いもの。殺すつもりはないけど、はずみで殺すことも有りうるから覚悟して」


 話ながら陽菜の周囲に、甲冑をまとった異形が二体、姿を現した。人型ではあるが、頭部が蛇のそれで、全身が白いきらきらとした鱗で覆われている。大きな瞳は真っ赤だ。手には槍を携えている。


(何だか可愛いな……)

 白蛇武者を見て十夜は思う。


「可愛い」

「こんなのと戦うの? 嫌だー」


 伽耶と麻耶も白蛇武者を見てその愛らしさに惹かれる。真っ白な体に、丸く大きな赤い目と、丸みを帯びた頭部が、十夜と牛村姉妹の琴線に触れた。


「戦わなくていいよ。黙って捕まればいいから」

 アンニュイな面持ちで告げる陽菜。


「逆に鎖で拘束ー」「蛇を縄攻めー」


 姉妹が魔術を発動させる。鎖と縄が出現し、二体の白蛇武者をがんじがらめにせんとしたが――

 鎖も縄も、一瞬で消滅してしまった。


「本当に消してきた」「問答無用すぎる」


 陽菜には超常の力を無力化する力があると、ぽっくり連合の下っ端が言っていたことを思いだしつつ、伽耶と麻耶は慄く。


「俺は超常の力使うわけじゃないから、多分何とも無いかな?」


 十夜が白蛇武者と向かい合い、臨戦態勢を取る。


「僕もな。そして、絶対的な力や不可侵の力なんて無い。力は数字に置き換えられる。相手の力が上回っているからこそ、消されるわけだ」


 伽耶と麻耶に言い聞かせるかのように発現すると、真が白蛇武者の一体めがけて銃を撃った。

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