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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
92 苗床を潰して遊ぼう
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15

 苗床と呼ばれる、各地から集められた少年少女若者達。彼等を隔離している部屋の前にて、陽菜、エカ、真、伽耶、麻耶、十夜の六人が、大丘と配下三人の計四人と向かい合う。


「何でこんなことをするか――ですか」


 大丘は陽菜を見据えて、珍しく皮肉げな笑みを浮かべた。


「陽菜さんとエカさんは当然、雪岡純子さんの目的を存じたうえで協力していたのですよね? 私は知らされていませんでした。しかしある時――直接尋ねて、教えてもらったのです。そして純子さんの目的は、私の個人的な好みに合わない代物でしたので、潰す事に決めたのです。正直あの話を聞いて、私はイラッとしましたね。黒いモヤモヤが胸の中で、お腹の中で、頭の中で、暴れるんです。それがとても耐えがたい。私はちょっとでもイラッとすると、黒いモヤモヤが発生すると、殺したくなり、壊したくなる性分なので」


 この話に一切の偽りは無い。大丘は正直に動機を語った。


 陽菜もエカも牛村姉妹も十夜も、完全に呆れきった目で大丘を見ている。その反応は大丘にとって想定の範囲内だった。誰も理解してくれないとわかっていた。ただ呆れるか見下げ果てるかだろうと予測済みだった。


「少しわかる」

「ほほう?」


 真が理解を示す言葉を口にしたので、大丘は興味深そうに真を見る。


(あいつのしていることが気に入らないという点では、僕も同じだ。だから止めたい。でも、共通しているのはそこだけ。こいつは雪岡の計画のどの点がどういう理屈で気に入らないのか、何も語っていない。でも別に知らなくてもいいことだ)


 真の方は、大丘に対して興味は一切湧かなかった。


「そんなあやふやな理由で……私達の計画を……理想の障害になるってわけ?」


 陽菜が憎々しげに大丘を睨む。


「そうそう、ボスは雪岡さんの計画に賛同しているんでしたね。私から見れば貴女達はくだらない夢を叶えようとしていますし、私はそれを望みません。現状維持が私の望みです。ということで、お喋りはもういいでしょう? それとも時間稼ぎですか?」


 大丘が札を抜く。札はすぐに消え、代わりに異形が出現する。


「紹介します。ポチです」


 人間の頭部が無数に重なり合い、その身のあちこちから長い虫の節足と、触覚のようなものが生えている。顔にも頭にも、無秩序に複眼がついている。


「親近感湧く」

「湧かないっ」


 ポチを見て麻耶が呟くと、伽耶が思いっきり顔をしかめて否定した。


「気を付けた方がいい。小さいけど危険だ。かなりの戦闘力があるぞ」


 真が注意を促す。ポチの存在はツグミから聞いていた。


 ポチが節足を大きく折り曲げると、一気に天井まで跳躍した。そして天井をまた脚で蹴り、陽菜とエカチェリーナに襲いかかる。


「キショいわ」


 エカチェリーナが毒づき、陽菜をかばうようにして前に立つと、上から飛びかかってきたポチに向けて片手をかざす。

 かざした掌から半透明の黄緑の液体が噴出して、空中のポチに浴びせられる。


 エカチェリーナが陽菜の頭を掴んで、無理矢理しゃがませる。エカチェリーナ自身も身をかがめる。液体を付着させたポチが、エカチェリーナの頭上を飛んでいき、床に落下した。


「うらーっ!」


 大丘の配下の男が壁に手を突いて叫ぶ。


 男は壁に手を突きながら叫ぶと、不可視の攻撃エネルギーを、視界内の対象近くの壁、床、天井から、放つことができるという、かなり強力な能力の持ち主であったが――


「え……?」

 しかし何も起こらなかった。


「渦畑陽菜の能力だろ」


 横にいる別の男が囁く。渦畑陽菜は超常の力を打ち消す力を持つと、事前に大丘から聞いていた。


「とはいえ、大丘が使う虫人間やあいつなんかには効かないのよね。あれは作られたキメラであって、超常の力が働き続けているわけじゃないから」


 陽菜がポチを見ながら言う。


「つまりこっちが対処するタイプってことだ」


 真が言い、ポチに向かって銃を撃つが、ポチは素早く足をしゃかしゃかと動かして避ける。


「空気重くなれ~」「足に泥まとわりつけー」


 伽耶と麻耶が呪文を唱えると、ポチの動きが目に見えて遅くなった。足には大量の泥が付着している。


 動きが鈍ったポチに真がまた銃を撃つ。今度は当たった。体に穴が開き、血が流れだす。

 ポチの二つの頭が大きく横に開いた。顎が外れて、口の端が裂ける。


 緑色の液体が噴射される。狙いは真だ。


 真は大きく後方に跳んでかわした。食らうと溶けると聞いている。


「田中さん、お願いします」

「了解」


 大丘が部下の女性に促す。女性は頷き、ポケットから何かを取り出し、苗床の部屋の扉に向かって投げつけた。


 投げられたのは石だった。軽く投げたようにしか見えなかったが、石は頑丈そうな扉と、コンクリートの壁にめりこむ。突き抜けてはいない。


(不味い)


 陽菜の意識が向く。しかし、打ち消しの力は使えなかった。陽菜の前に大丘の別の部下が立ちはだかり、陽菜の視線を遮ったのだ。陽菜は見えている対象しか、超常の力の打ち消しが出来ない。


 苗床に続く扉が爆発した。いや、めりこんだ石が扉と壁を破壊して吹き飛ばした。

 爆風は無かった。石がめり込んだものは爆破するが、それ以外には一切被害を与えないという能力だ。


 扉も壁も壊され、中の様子が明らかになる。

 そこに何があるのか予想していたにも関わらず、その光景を見て、真の顔が一瞬だけ険しくなる。


 破壊された壁と扉の向こうは、巨大な広間だ。

 白い服を着た十代から二十代の若い男女が何十人もいて、一心不乱に祈りを捧げている。あるいは百人以上いるかもしれない。

 広間は途中からガラス戸で仕切られていた。白い服の若者や少年少女が無反応なことから、防音仕様かつ、マジックミラーだと思われる。


 真、十夜、牛村姉妹、大丘が連れてきた部下達は、初めてその光景を見る。まず注目したのは、彼等の頭や肩や背中から生えている者だ。それは真がかつて何度も見たものだ。

 緑の葉っぱと赤い花のついた真っ白な小人が、白服の若者達の体から生えている。一人につき一体生えている。頭から、顔から、胸から、腕から、生える場所は全員異なる。小人の頭部だけ生えているものもあれば、胸、腹、足まで生えているものもいる。


「何か怖い」「大きな力が渦巻いてる」


 祈りを捧げる者達を見て、揃って臆した顔つきになる伽耶と麻耶。


「ふふふ……私もこの部屋に入るのは初めてですよ。ずっと彼等の教育を任されていたというのに……。ガードが固くて、私一人ではどうにも出来なかった所ですが、ようやくここまで辿り着けました」


 大丘が嬉しそうに微笑んだ。彼等と接するのはいつもモニター越しだった。


「よーやったなー。褒めてやるワ。けどな、辿り着イた所で、これ以上何もできへんで」


 エカチェリーナが大丘の方を向いて皮肉る。


「ああ、それト、あんたの姿、あの子らには見えてへんよ。声もこっちからは聞こえへん」

「マジックミラーと防音仕様。それくらいわかりますよ。さらには転移も防ぐ結界を張ってある。実に周到ですね」


 エカチェリーナの説明を受け、大丘が言った。


「あれって……体から生えているのは、アルラウネ……だよね?」


 十夜が息を飲み、真の方を見て伺う。


「アルラウネだ。しかしただのアルラウネではないだろうな。アルウラネは宿主になった生物の体内に収まる。外に生えている奴なんて見たことない」


 アルラウネらしきものを体から生やした状態で、一心不乱に祈りを捧げる者達を見て、真が言った。


「苗床はこの祈っている連中だ。こいつらが苗の床だ。じゃあ、床で育てられる苗とは何だ? 雪岡が人を使って育てる苗とは? そんなのアルラウネ以外にないだろう。何の捻りも無い直球のネーミングセンスだ」

『それさっきも言った』


 真が言い当てると、伽耶と麻耶が口を揃えて突っ込んだ。


「アルラウネって寄生植物で、宿主の願望に反応して、宿主を進化させるんでしょ?」


 十夜がさらに確認する。


「寄生植物だと思われていたが、共生だ。そして片利共生ではなく、相互共生だ。宿主に害をもたらさず、片方だけが利を得るわけでもなく、両者にとって利がある」


 真が解説する。


「話したいことを先に解説してくださってどうも――と、言いたいところですが、しかしこれは違いますよ」


 大丘が真の解説を否定した。


「わかるよ。これは違う。雪岡は、これまでと違うタイプのアルラウネを作ったんだろう? 大体予想出来ていた。これは片利共生か、もしくは寄生するタイプのアルラウネなんだろう? あるいはそういったものに近い何か――だ」

「なるほど、そこまで見抜いていましたか。流石に雪岡さんの直属の殺し屋。コンセプトとしては、苗床の祈りを、己の力として吸い取り続け、与えるはずの進化の力は与えることなく、お預けにしている状態のようです」


 今度は大丘が解説モードに入り、苗床の正体を明かす。


「そして私は彼等に教育を施しました。祈り続けよと。救われるために祈り続けよと。苦悩に打ちひしがれた、純粋な心の若者達を集めたのは、そういう理由です。彼等はひたむきで、疑うことなく信じたものを祈り続ける。カルト宗教などに引っかかるタイプですね。まあこれでも、カルト宗教に引っかかるよりはマシな人生を送っているのではないでしょうか? ほんの少しだけね」


 爽やかな笑みをたたえたまま、毒気に満ちた言葉を口にする大丘であった。

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