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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
92 苗床を潰して遊ぼう
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14

 オキアミの反逆のアジトに単身侵入した大丘は、アジト内のとある場所へと赴く。


 目的地に着くと、そこには六人の男女がいた。怪鳥経由で侵入した別働隊だ。この場所で合流する予定だった。

 怪鳥の口の中から建物の中へ入ってきた者達は、大丘が選んだぽっくり連合の中でも特に精鋭だ。この中にはカシムも加えるつもりであったが、侵入作戦より派手に暴れたいなどと言って、カシムは拒んだ。


「苗床のある場所に急ぎましょう」


 大丘が促し、精鋭達が頷く。どちらも建物の中の監視カメラで、動きは把握されている。


 やがて大丘達は苗床前に到着する。

 転移して入ることはできない部屋だということは、予め知っている。試してみたからだ。結界が張ってある。


 そして部屋の前にはオキアミの反逆のメンバーの中でも、これまた選りすぐり能力者達が主語している事も知っている。それだけここが重要な場所だという事だ。いくら大丘でも、単身でここを切り抜けることは出来ない。故にぽっくり連合を組織し、精鋭を選りすぐって連れてきた次第である。


 突然、一人の頭部が、握りつぶされるようにして小さく縮んでいき、消滅した。

 大丘と三人は避け、二人は攻撃に反応できなかった。反応ができない一人が即死した。


 もう一人は反応が遅れたものの、敵の攻撃の正体を見切っていた。極限まで殺気を抑えた状態で、不可視の手が伸びてきて、体に触れようとしてきたのがわかった。


 能力者の場所を突き止め、自らも能力を発動させる。無数の紙飛行機が出現して、周囲を飛び交う。


 紙飛行機の一つが握り潰されて消し飛ぶ。


「うがーっ!」


 悲鳴があがる。何も無かった空間に、一人の男が現れる。その片目には、紙飛行機の先端が突き刺さっている。


 他の能力者達が一斉に攻撃を仕掛けて、片目を潰された男は果てた。


「姿を隠す能力者の力で、その辺りに潜伏しているようですね」

「自分が突き止められます」


 大丘が言うと、紙飛行機使いの男が申し出て、さらに紙飛行機の数を増やした。


***


「現れたわね、大丘」

「敵さンも強者連れてきトんな」


 苗床のいる部屋前のモニターを見て、険しい顔になる陽菜とエカチェリーナ。


「あそこのガードは強者やけど、黙って見てルわけにもいかんわ」

「そうね。私達も向かいましょう」

「僕達も行く」


 陽菜、エカチェリーナ、真、十夜、牛村姉妹の六人で、アジト内を移動する。


「これでなし崩し的に苗床の正体がわかりそうだ」

「正体と言われてもね。今見てもあまり大して面白いものは見られないと思うけど」


 歩きながら十夜が言うと、陽菜が微苦笑をこぼした。


「まあどんなものか見当はついている。何の捻りも無い直球のネーミングセンスだ」


 と、真。


 六人が苗床前の廊下に行くと、十人以上の死体が転がっていた。頭を失くしていたり、体が縦半分に切断されて片方は肉片と化していたり、上半身がどろどろに溶けていたり、虫人間に内臓を貪られている最中だったりと、その死に方は様々だ。

 生存者は、虫人間達を覗けば、大丘含めて三人だけだ。


「全滅しとるで。ま、ある意味丁度ええタイミングやっタのー」


 渋い顔で言うエカチェリーナ。苗床前のガードは全員殺され、大丘側は半数が殺されていた。


「御無沙汰しています。ボス」


 顔に返り血を浴びた大丘が陽菜の方を向いて、清々しい笑顔で挨拶をする。

 陽菜はたじろぎ、思わず一歩後退してしまった。


「しっかりし」


 陽菜が臆した様子を見てとって、エカチェリーナが陽菜の肩に手を置き、耳元で厳しい声で囁く。陽菜は生唾を飲み、気を引き締め、大丘を睨みつける。


「何でこんなことをするかくらい、聞いてもいい?」


 自分でも驚くほど冷たい声が、陽菜の喉から発せられる。


「ええ、私もボスには是非聞いて欲しかった所ですよ。そんな私の前にボスを遣わせてくれるなど、運命の粋な計らいですかね」


 笑みを張り付かせたまま、大丘はぬけぬけと言ってのけた。


***


 晃と蟻広で撃ち合いを開始する。凛は黒鎌を構えたまま、様子を見ている。


 ツグミは柚を見据えたまま、デカヒヨコの他に影子を呼び出した。


「本っ当、最近出動率多いよね。そんなに私って頼りになる?」

「うん、近接タイプとして凄く優秀だからね」


 影子が上機嫌に問うと、ツグミは笑顔で答えた。


「ああ……肉壁役って意味ね」

「そういう受け取り方はよくないよ。僕自身は戦えないし。僕が狙われたらひとたまりもないんだから」


 皮肉っぽく笑う影子に、ツグミは爽やかに微笑む。


「ピヨピヨピヨ」

 デカヒヨコが鳴きながら柚に迫っていく。


「魂がちゃんと宿っている」

 デカヒヨコを見て、柚が呟く。そしてツグミを見る。


「私と同じ力の持ち主。魂を呼び込み、魂を使役する力を持つ者。稀有なる力の者同士で、唐突に巡り合うとはね……。そして相対するとは」

「運命を感じる? 僕はそうでもないよ。君は前にも見ている。そっちはその時意識していなかったじゃないか」


 感慨深そうな柚であったが、ツグミはどこか挑発的な言い様だった。


「それは悪かったと謝ればいいのかな? 何か気に入らなかったのかな?」


 問いかける柚の鏡から、光が溢れた。


 光の中から発光する大きなリスが六匹現れると、すぐさまデカヒヨコに襲いかかる。光るリスの大きさは大型犬程で、サイズ的には、人の身長を超えるデカヒヨコの方がずっと大きいが、機敏さではどう見てもリスが勝っているうえに、数が違う。


「ピヨッ! ピィ!」


 複数のリスに体のあちこちを噛みつかれたデカヒヨコが、体を激しく揺すって抵抗する。


 そこに影子が迫り、手刀で瞬く間に二匹のリスの体を切り裂く。


 リス達はデカヒヨコから影子へと攻撃の矛先を変えたが、影子の方が速い。そしてデカヒヨコが隙をついて、一匹のリスを嘴で突き潰す。

 攻撃を受けたリスは、その体が一人と共に消滅していった。


「もう少し強いのを出してもよかったか。見誤ったね」


 光るリスが次々と数を減らしていく様を見て、柚は呟いた。


(とっておきのアレを使おうかな? いや、でも今はまだいいかな?)


 ツグミは柚が相当な強敵と見なし、二つの奥の手を意識する。絵の世界へと引きずり込む力と。絵の世界を現実に被せる力を。


「痛たたたっ! 凛さんやられちゃったよっ! 早く味噌!」


 一方で晃は妖魔銃から飛び出た臓腑に、右脚を浸蝕されて、びっこを引きながら悲鳴をあげる。


「後でね。もうあんたは引っ込んでて」


 晃に代わるようにして、黒鎌を携えた凛が蟻広の前に進み出る。


「二人がかりでくればいいものを、一人ずつとはどういうつもりなのやら。マイナス2ポイント」

「様子見とか遊びとかそんな感じ? 晃とツグミ、不利になった方にサポートに回ろうと思ってたしね」


 つまらなさそうに言う蟻広に、凛は無表情に告げた。


***


 勤一も凡美もすでに大分疲労していた。


「カバディカバディカバディカバディカバディカバディッカバディカバディカバディカバディ、カバディカバディカバディカバディーカバディカバディ」


 カバディマンが勤一に対し、続け様に銃撃を続けている。


 勤一は両腕で頭部を防ぐ。カバディマンは勤一の顔ばかり狙ってきていた。いや、顔というより、目を狙っている。再生能力を備えている勤一だが、すぐさま回復できる超再生というほどではないし、目を潰されようものなら、しばらく動きが取れなくなってしまう。

 防戦一方でもどかしさを覚える勤一。カバディマンは勤一に反撃のチャンスを中々与えてくれない。


「もどかしいな……」


 床の中に沈んだ状態で、カシムが呟いた。カバディマンとは逆に、カシムは攻めあぐねていた。


 物質をすり抜けさせる力を持つカシムに、物理攻撃はかなり効きづらい。しかし効かないわけではない。攻撃するタイミング、体が接地する部位だけは、物質透過が不可能だ。そんなカシムの弱点を見切ってきた者もこれまで何人かいた。

 凡美の手が変形した棘付き鉄球は、それがまるで独立した生き物であるかのように動き、攻撃してくる瞬間を正確に狙って飛来してくる。故にカシムは攻めあぐねている。しかも鉄球の棘がかすめて、右肩に傷を負ってしまっていた。


 思わぬ苦戦。明らかな劣勢。癇癪持ちのカシムは苛立ちを必死に堪え、冷静になろうと努める。


(こうなったらあれだ……)


 鈎爪をはめた左手に銃を持つカシム。これはある意味で、カシムの奥の手だ。近接攻撃オンリーと思わせておいて、不意打ちの銃撃。単純な手であるが、これまで幾度もこの手で強敵を屠っている。


(だがあの女の手首から出ている鉄球、自動的に動いているようにも見える。そうなると銃弾も自動的に防いじまう可能性もあるな)


 すぐに攻撃せずに、カシムは思案する。


(もう一つ、手を捻っておきたい。何かいい手は……)

「勤一君!」


 カシムの思案中、凡美が勤一の方を向いて叫んだ。


 勤一は両膝にそれぞれ銃弾を受けていた。再生はしない。それどころか両膝が溶けていっている。溶肉液入りの銃弾を受けたのだ。


(散々顔ばかり狙って、注意を上に引き付けて、足を……。しかも溶肉液入りの銃弾に切り替えるなんて……)


 カバディマンの目論見にはまったことを意識しつつ、痛みと悔しさに顔を歪めながら、崩れ落ちる勤一。


 完全に隙を晒した勤一の頭部を狙い、カバディマンがとどめの一撃を食らわせんとする。もちろん今度も溶肉液入りの銃弾だ。


 しかしカバディマンは銃を撃てなかった。凡美が口からビームを吐いてカバディマンを攻撃したからだ。慌てて回避するカバディマン。


(いちかばちか!)


 凡美の注意が逸れたその瞬間を狙って、カシムが床から左腕だけを出して、銃を撃つ。


 凡美の鉄球が反応したが、僅かに遅かった。鉄球は銃による攻撃までは警戒していなかった。

 銃弾が凡美の脇腹を貫く。凡美は蒼白な顔になって、震えながら蹲る。鉄球を戻し、撃たれた場所に付ける。


「形勢逆転だな」


 カシムが呟くが、油断はしない。鉄球を戻した意味もわからないし、凡美がカウンターを狙っている可能性もある。床の中から慎重に接近する。

 凡美の背後に回ったカシムが、床から現れたその時、二つの事が同時に起こった。


「カバディ!?」


 床から伸びあがるようにして現れたそれの不意打ちを、カバディマンは驚きながらも危うい所で避ける。


 カシムもぎょっとした。自分が床から出てくるのと全く同じ動きで、自分のすぐ隣で、真っ黒な人型が床からぬーっと出てきたのだ。

 現れた黒い人型は、顔の隆起や鼻と口もわからないほど真っ黒だったが、目だけはしっかりと大きく開いていた。カシムの方に顔を向けて、驚いているカシムに向かって無言で手をかざす。


 衝撃波がカシムの体を吹き飛ばした。この攻撃は突然すぎたうえに、カシムの全身に攻撃が及んだため、すり抜けによって無効化が出来なかった。接地面に衝撃が及び、そこから全身に伝わってしまい、すり抜けが解除された。


「貴方……」


 凡美は苦しげな表情で、自分のすぐ側に現れた黒い人型と、カバディマンに攻撃を続けているもう一体の黒い人型を、交互に見やった。


「デビル……」

「何度世話を焼かせるのか」


 凡美が名を口にすると、デビルは心なしかうんざりしたような響きの声を発した。

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