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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
92 苗床を潰して遊ぼう
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11

 真、牛村姉妹、十夜の四名は、安いビジネスホテルで一晩を明かした。


「先輩、俺達の役目って偵察なんだし、ぽっくり市内の実状の把握は、昨日の時点で結構出来たと思うんだけど、他に調べる場所ってあるの?」


 ファミレスで朝食をとりながら、十夜が問う。


「雪岡を探す」

「あ……はい……」


 場所を問うたら目的を答えられ、十夜はそれ以上聞かなくていいという結論に至る。


「真はそのために来たから」

「ぽっくり市偵察はただの口実」


 麻耶と伽耶が言う。


「まあ、ぽっくり市を支配していたオキアミの反逆と、それに反対する勢力であるぽっくり連合との抗争も、見極めておこう。苗床とやらがどういう意味を持つのかも知りたい。ツグミが大丘から聞いた話によれば、雪岡の意思でそいつらが集められたようだしな」


 純子の意図は何となくだが、真には見えている。苗床が何であるか、大体の見当がついている。


「オキアミの反逆を裏切って、ぽっくり連合なんてのを作ってけしかけようとしている、大丘って人の思惑も気になるね」

「見極めるってことは、見物しておくってこと?」


 十夜と麻耶が言った。


「ぽっくり連合に入りこんだ凛さん達は、見物だけでは済まない」


 麻耶の言葉を受け、ツグミや凛達を案じる伽耶。


「ただ見ているだけにはいかない理由があったな。大丘は今日、苗床を刈り取ると言っているし」


 苗床はオキアミの反逆のアジトにいるのだろうし、つまりぽっくり連合は、今日中に大規模な襲撃をかけるのだろうと、真は見なしている。


「苗を刈り取るならわかるけど、苗床を刈り取るって変な言い回し」


 と、麻耶。


「どんな言い回しだと正しい?」

「苗床を潰す? 荒らす?」

「潰すがいいかな」


 伽耶に問われ、麻耶と十夜が言った。


「苗床とやらの調査も済まないうちに潰されたくはないし、何より雪岡への手がかりが失われるのは不味い。このまま見過ごせないな。できれば防ぎたい」

「先輩、完全に私事優先してるね……」


 真の言葉を聞いて、十夜は苦笑いを浮かべる。


「昨日衝突してしまったから難しくはあるが、オキアミの反逆と接触して、苗床襲撃の件を伝えるとしよう。出来ればそこで苗床の正体を掴みたいし、何より雪岡の行方を知りたい。あいつが今、何をしているかもな。オキアミの反逆と繋がっていることはわかったし」


 そして真にはもう一つ狙いがある。純子にとっても重要な存在である、苗床が狙われているとわかれば、純子自身も介入してくる可能性があると。


『御馳走様』


 伽耶と麻耶が食事を終える。真と十夜は食べ終え、姉妹が最後だった。


「では……真と三人のヤ族、出撃」

「ヤ族?」

「何言ってるの? 麻耶」


 麻耶の台詞を訝る伽耶と十夜。


「カヤ、マヤ、トオヤで三人のヤ族」

「ああ……」

「嫌族」


 麻耶の答えに十夜は納得し、伽耶はぽつりと呟いてから後悔した。


***


 ぽっくり連合のアジトでは、朝からミーティングが行われる予定だった。


 ツグミ、凛、晃の三名は、廃棄されたデパートの一室に臨む。すでに何十人も集まっているが、まだミーティングは始まってはいない。


「お、今日のツグミは男の子か」


 寝坊して一人だけ遅れてきた晃が、男装しているツグミに声をかける。


「うん。修羅場になりそうだし、こっちの方がいいと意識していたら、自然にこっちになったよ」

「危険を意識すると男になるの?」


 ツグミの言葉を聞き、晃が問う。


「必ずしもそうなるわけじゃないけど、男になる可能性が高くなるね」


 と、ツグミ。


「それはそうと、寝ている際に襲われることはなく済んだね」


 と、晃。


「自分の命を狙う敵だと承知のうえで迎え入れるとはね。監視下に置いた方がいいという面も確かにあるけど、大した度胸よ」


 凛は部屋を見渡し、ぽっくり連合の者達を見た。集まっているのはぽっくり連合のメンバーだけではなく、凛達のように雇われた者も多い。


「よう……。一人服装が違うな。以前その格好で見かけたこともあったな……」


 カシムが近づいてきて、疲れ気味の顔で声をかけてきた。


「おはよう。元気無いね」

 ツグミが挨拶を交わす。


「昨夜はあまり眠れなくて、今になって眠いわ」

 目をこするカシム。


「僕と同じかー。襲撃は夕方らしいから寝ておいたら?」

 と、晃。


「いや、時刻の変更もあるらしい。オキアミの反逆のスパイが混じっていることを警戒して、情報は小出しにしているとよ。味方に嘘情報流すこともあるらしいぜ。敵を混乱させるためにな」

「大丘さん、色々と考えるね」


 カシムの話を聞いて、ツグミは感心する。


「カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカ~バディ、カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディッ、カバディカバディカバディ」

「あ、カバディマンさんだ」


 カバディマンを見つけてツグミが言った。


「知り合いかよ……。あいつキモくてたまらねーよ。意味不明な言葉繰り返してよ」


 嫌そうな顔で言うカシム。


「安楽市じゃ有名なフリーの始末屋だぜー」

「知り合いという程でもないよ。以前敵だったことがあったかな。戦ってはいないけど」


 晃とツグミが言う。


「ていうかお前、口調も男になってるのか。お前、ひょっとして心が男と女が入れ替わるのか?」


 段々頭が冴えてきたカシムは、ツグミに興味を抱いて尋ねた。


「悪い? 僕もキモい?」

「いいや……。その……そういうことは……いや、何でもねーよ……」


 複雑な表情になって言葉を濁すカシム。


(羨ましいと思っちまってる。自分でもわかんねーけどよ……)


 カシムは女性の服に憧れ、女の服を自分で着てみたい欲求が強くある。自分の心は女だとさえ思っている。しかし女に成りきる事も出来ない。中途半端に男性的な部分が残っている。頭の中だけでも男女を入れ替えることが出来るツグミの性質に、羨望を抱いてしまった。


 その後、サイキック・オフェンダー組織のボス達によって、ミーティングが開始された。主に部隊分けと、部隊ごとの配置や動きについて指示が出される。しかし肝心の大丘は姿を見せない。

 部隊ごとに、サイキック・オフェンダーの組織のボス達が部隊長になり、指揮を執る流れであると告げられ、ミーティングは終わった。


「大丘さんは来なかったね」

 ツグミが言う。


「大丘は全員の前に姿を出すわけじゃねーぞ。まだオキアミの反逆には、大丘がぽっくり連合の黒幕だと知られていないし、知られたくもないらしい。情報漏れを警戒して、サイキック・オフェンダー組織のボス達の前にしか姿を見せない。たまに昨日みたいに、それ以外の奴等の前に姿を見せることもある。特に気に入った強者とは、直接会話すると言っていたな」


 カシムが解説する。


「カシムさんも気に入られた強者なんだ」

「へっ、お前達もだろ」


 ツグミが言うと、カシムはにやりと笑った。


「崖室ツグミ。政馬のオキニだったって聞いたな。まあ何となくわかるわ。いかにもあいつが気に入りそうだ」

「そう。僕は政馬先輩に気に入られて、いい迷惑だったけどな」

「ああ、それも何となくわかるわ。政馬は人を振り回すし」


 溜息をつくツグミを見て、カシムは肩をすくめる。


「カシムさんはスノーフレーク・ソサエティーから離脱したって聞いたけど、それから何してたんだい?」

「見ての通り、ずっとフリーでやっているよ。金と刺激のため。いや……あるいは、何か大きなことを求めているのかな」

「大きなこと。今回がそれになるのかな?」

「そんな気配は感じている。何か大きな動きがあれば、その側にいれば、スノーフレーク・ソサエティーにとってプラスになるかもしれねー」

「組織を抜けたのに、組織にプラスになることを考えているんだ」


 ツグミの指摘を受け、カシムは一瞬だけだが寂しそうな表情を見せた。


「はっ。抜けたくて抜けたんじゃねーし。追い出された身だからよ。でも俺はまだあの組織に未練たらたらさ。ま、奴等が俺を敵視して、例え俺を殺そうとしていても、それでもいいんだ。それでも俺は、外からスノーフレーク・ソサエティーを支援しようと、勝手に決めてる」

「へー、何かそれいいね。上手く言えないけど格好いい」


 晃がカシムの話に好感を抱き、ストレートに感想を口にする。


「そうかー? 俺は自分が馬鹿だと思っているぜ」

「馬鹿かもしれないけど、クールな馬鹿だよ」

「意味わかんねーけど、けなされているわけじゃねーことはわかった」


 晃の言葉を聞いて、カシムは屈託の無い笑みを広げてみせた。


***


 昨日のぽっくり連合襲撃から、オキアミの反逆アジトはずっとぴりぴりしている。夜間の襲撃に備え、かつてないほどの厳戒態勢が敷かれていた。


「こうなることもわかっててやっとンのやろ。敵も中々頭回りヨる」


 寝ぼけ眼のエカチェリーナが、あくびを噛み殺しながら言う。


「苗床の収穫と輸送が控えている大事な時期だっていうのに……。もちろんそれ以外のことも色々あるけど」


 忌々しげにぼやく陽菜。


「覚醒促進剤は相当バラまいとるし、頭打ちなんちゃう? もうそレは任務達成ってことでええやろ」

「そうね。純子に伝えておくわ」


 エカチェリーナと陽菜が話していると、部下から報告が入った。


『雪岡純子の殺人人形こと相沢真と他二名? 三名? が、アジトの前に現れました。ボスと話がしたいと申していますが』


 報告を聞いて、陽菜とエカチェリーナは顔を見合わせる。


「追い返すにしては気になるわね。相手が相手だし、このタイミングで堂々と話がしたいって、何それって感じで、それも気になる」

「せやけどそいつら、うちらに盾突きよったシのー。話すンなら用心せな」

「わかってる。会うわ。中に通して」


 二人して神妙な顔で言葉を交わすと、陽菜は部下に命じた。

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