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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
92 苗床を潰して遊ぼう
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10

「単純なサイキック・オフェンダーの数だけなら、オキアミの反逆の半分にも満たないんでしょう?」

「油断せンとき。今のぽっくり連合の規模がヨーわからんからな。外からも人雇いくさっとル」


 オキアミの反逆アジト。陽菜の事務室にて、陽菜とエカチェリーナの二人が、現状について話し合っている。


「それはこちらのスパイの情報?」

「向こうの末端に、情報提供してくれる者も何人かおルよ。せやけど末端しかおらんから、詳しいことはわからんな。情報の食い違いもあルから、ガセネタ流しとる奴もいそうや」


 エカチェリーナが肩をすくめて息を吐いた。


「勝機も無いのに勢いだけで仕掛けてくるつもりなのか、それとも……」


 喋りかけて、陽菜はふとある可能性を思い浮かべる。


「PO対策機構とぽっくり連合が繋がっている可能性は?」

「おお、それはあるな。陽菜天才やな。PO対策機構が、うちらに所属せんサイキック・オフェンダーの奴等を焚きつけたんかもな。使い捨ての駒やろケど。うちがPO対策機構の立場なら、その手も使うかもな」


 おちゃらけ気味な喋り方で、しかし真剣に、陽菜の口にした可能性も考慮するエカチェリーナ。


「PO対策機構の間者が入ってきているって言ってたよね。そいつらがやったのかしら?」


 陽菜が真達のことを思いだす。


「それは……微妙やな。あいつらここニ来たばかりみたいで、うちの組織の者にガイドさせとったし……。うーん……何ちゅーか、えげつない真似するタイプに見えんかったけど……」


 エカチェリーナは懐疑的だった。


「純子を探してると言ってたのよね?」

「そうや。それも気にかかルわ」

「純子の手下だった子なんでしょ? 何か事情ありそう」

「うちにもそう見えたわ。うちはああいう子――」


 ノックがして、二人の会話が中断する。


「誰や」

「金剛です。直に報告と御相談が」

「入り」


 エカチェリーナが許可をすると、ドアが開き、隈取大男の幹部、金剛悠魔が現れて部屋に入る。


 金剛は真達と交戦したことを報告した。交戦するに至った理由も全て話した。


「やっぱそういうタイプなんやな。そんな気してた。たまにおルねん。裏通りの住人の中には、妙におせっかい焼きな奴」

「それはエカさんもでしょ」


 エカチェリーナの台詞に、微笑をこぼす陽菜。


「そんなおせっかいな餓鬼に、俺の一ヶ月に一度のお楽しみが! 正当に崇高なるレイプが邪魔されたのです! どう考えても、俺のレイプの邪魔をした時点で、オキアミの反逆に盾突いたと見なしていい! しかもあれはどうやらPO対策機構のようでもあります。相沢真は安楽市の裏通りでは名の通った少年。あちらの裏通りの住人の多くは、PO対策機構に協力的だと聞きます。今のタイミングでこのぽっくり市に訪れたということは、間違いないでしょう。早めに潰すべきです。組織のためにも、俺のレイプを邪魔した報いのためにもっ!」

「金剛さん、私の前でレイプレイプ連呼しないでくれない? 聞いててあまり気分よくない」

「し、失礼しましたっ」

「ほんま失礼なやっちゃ。もう帰リ」

「し、失礼しますっ」


 陽菜とエカチェリーナに半眼で睨まれ、金剛はそそくさと退室した。


「正直、金剛が報告した件は、相沢真という子の方に好感持てるわ」

「ははっ、うちもや」


 陽菜が言うと、エカチェリーナも笑って同意する。


「純子の直属の殺し屋なのに、純子を探しているって、何だかワケ有りなんだろうけど、純子に報せた方がいいのかな?」

「あ、報告忘れとっタ。一応うちの方から連絡入れといタで」


 陽菜が伺うと、エカチェリーナが言った。


「そっか。ありがと」

「無粋や思たが、相沢真と離れ離れになっとること、純子にどういうことか聞いたンよ。純子は言いづらそうにして、笑って誤魔化しとったわ。ま、痴情のもつれかもしれんし、うちらはあンま考えん方がええ問題かモな」

「だよね」


 そんな問題に首を突っ込むのは馬鹿馬鹿しいと、陽菜は心底思う。陽菜にとっては一番関わりたくない類の話だ。


***


 真、牛村姉妹、十夜の四人は、凛から送られてきた、大丘との会話の録音を聞いた。


「雪岡の手がかりが掴めたと言ってもいいな。しかも思わぬ所から」


 凛達が純子の手紙がかりを積極的に追及しようとしなかった事に、真はもどかしさを感じる。自分があの場にいたら、もう少し揺さぶりをかけていた。


「しかし大丘に知られてしまっている状況でなお、奴に雇われている立場を維持しながら調査というのは、少々リスキーだ」

「少々どころじゃなくない? 常識的に考えたら有り得ない」


 真の言葉を聞いて、十夜が微苦笑を零す。


「僕等は常識の外側で生きているだろ」

「そりゃそうだけどね」


 真の台詞を聞いて、十夜は再び微苦笑を零して納得する。


「互いの手の内を晒し合いながら、その実、狐と狸の化かし合いだ。大丘という男は計り知れないが、向こうには凛も晃もいる」

「凛さんはしっかりお姉さんて感じだけど……」

「晃はちょっと微妙」


 伽耶も麻耶も、凛のことは信じているが、晃に対しては懐疑的だった。お調子者タイプに見えて信用できない。


「そうでもない。あいつは行動力もあるし機転も利く」

「危なっかしいことも多いんだけど、突破力あるし悪運も強いよ」


 真と十夜二人がかりでフォローする。


「ただのお調子者では役に立たないし早死にする。あいつはしぶとく生き残るタイプだ」

「そうなのかな?」「そうは見えない」


 真は晃を立てているが、姉妹には信じられなかった。


***


 ぽっくり連合アジトにて、カシム・ファルキは苛立っていた。


「カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ」


 苛立つ理由はこれだった。


「こういうわけのわからねえ奴が一番嫌だ。殺してえ……」


 ぽっくり連合アジト内にあるレストランで夕食を取ることにしたカシムだが、そこで相席になったのが、おかしな男だった。延々と同じ言葉を繰り返しながら食事を取っている。それがカシムの神経を逆撫でした。

 この男もぽっくり連合に雇われた男だとのことだ。安楽市では有名な始末屋だったと聞いた。


「何かあったら真っ先に殺してやる」


 そう呟くも、それが容易くはないであろうことは、カシムもわかっている。


「んん?」

 カシムが食事を止めて、立ち上がって振り返る。


「今確かに……」

 怪訝な顔で座り直す。


(気配を感じたんだがな。俺みたいに壁や床をすける力の持ち主か? それとも亜空間トンネル使いか?)


 気のせいではない。確かにカシムは気配という名の、生物が発する電磁波を感じ取った。


(隠れている時点で、ぽっくり連合にとってはよからぬ奴である可能性が高い。まあいいか。俺には関係ねー)


 そう思い、食事を再開するカシム。


(鋭い感覚の持ち主は最も好かない。殺す時は真っ先に殺さないと)


 食事をとるカシムを見ながら、二次元化した状態で物陰に潜んでいるデビルは思った。


***


 オキアミの反逆のアジトの通路。


「キナ臭いな。ポイント1引いておく」

「それは誰から引くポイントなの?」


 歩きながら呟く蟻広に、柚が問う。


「現状そのものかな。キナ臭い現状そのものだ。スムーズにいかなくなりそうな気配がある。あるいはしくじるか」

「苗床はもう十分に働いたのだろう?」


 さらに問う柚。


「まだ収穫が残っているし、収穫は多い方がいい。ていうか、苗床が働くって、変な表現だ」


 言いつつ蟻広はガムを吐き出して紙にくるみ、また新しいガムを口に入れる。


「大丘と連絡が取れないのが気になる。トラブルに巻き込まれている最中か、とっくに殺されたか、あるいは裏切ったか」


 蟻広がそこまで話した所で、通路の前方から、男女二人組が現れてこちらに向かってくる。蟻広と柚とは違い、相手は年齢に差がある組み合わせだ。


「確か東から来たサイキック・オフェンダーか」


 向かってくる男女が近づいた所で柚が呟くと、相手が足を止めた。


「何か問題でも?」

 年上の女の方――山駄凡美が声をかける。


「別に」

 柚は凡美を見てあっさりと返す。


「お前達、ミルメコレオの晩餐会と取引していたらしいな」

 年下の男の方――原山勤一が言う。


「監視も兼ねていた。俺達の役割がそれだ。管理と監視。場合によっては介入もある。それより一波乱ありそうだから、しっかり働いてくれよ」

「ぽっくり連合とやらか」

「PO対策機構も介入してくるかもな」


 蟻広が言うと、勤一の表情が若干険しくなる。PO対策機構にはもううんざりしている。


 歩を再開し、すれ違う両者。


「中々の強者のようね」

「お前には及ばないし、お前が言うと嫌味になるぞ」


 柚の台詞を聞いて、皮肉っぽく微笑む蟻広。


「嫌味なのか。そんなつもりは無かったが」

「そんなつもりがあったらポイント引くわ。それと、中途半端に男の口調と女の口調混ざるのがいつまで経っても治らないから、ポイントマイナス1な」


 釈然としない様子の柚に、蟻広が言った。

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