表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
92 苗床を潰して遊ぼう
3122/3386

8

 半年前、スノーフレーク・ソサエティーのティム・フォモールによって破壊された、グリムペニス日本支部ビルの改築が、今日ようやく終わった。


 グリムペニスはこの半年間、政界、財界、メディア、司法に至るまで、妖怪に改造した者を送り込み、その地盤はさらに強化されている。

 そんなグリムペニスの最高幹部クラス達が集い、会議を行っていた。


「順調で何よりです。サイキック・オフェンダーの討伐も、いい具合に運んでいますしね」


 宮国比呂みやくにひろが言う。彼は真祖の吸血鬼である。


「東の制圧は苦労したが上手くいったのー。しかし西はどうなることやら」


 と、化け狐の一族の長であるチロン。


「ぐぴゅう……しかし気に入らないぞ。スノーフレーク・ソサエティーは協力を要請しても一切応じず、あたし達だけ働かせて、自分達は力を蓄えてやがるんだぞー」


 グリムペニス所属のマッドサイエンティストである音木史愉が、不満顔で言った。


『勇気の要請でも応じなかったからな。もううちらとはとことん敵対関係にあると見ていいですよ』


 その発現をした者は、この場にいない。大抵彼女は、ネットで繋いで姿を見せない。マッドサイエンティスト三狂の一人草露ミルクだ。


「政馬はミルクのことが特に気に入らないみたいだぞ。あたしはあいつらが気に入らないぞ。サイキック・オフェンダー共を制圧したら、あいつらをぶっ殺してやりたいぞ。ぐぴゅっ」


 史愉が物騒なことを口走る。


「ヨブの報酬や貸切油田屋の動きも気になります」

 と、宮国。


『あいつらは自分の領土内のサイキック・オフェンダーの対処に忙殺されているみたいだ。その一方で何か企んでいる可能性も、もちろんあるがな』

「いえ、ヨブの報酬の幹部や頭目のシスターは今、日本にいるのです。彼等に関しては、サイキック・オフェンダーの対処がひと段落したようですよ」


 ミルクの考えを打ち消す報告を行う宮国。


『何しに来やがったんだか……』

「どうも勧誘活動をしているようです。超常の能力の覚醒者が増えているので、その取り込みですね。シスターや直属の部下がそれらを行うとなれば、人選はかなり厳選するのでしょうな」

『なるほどなー』


 宮国の話を聞いてミルクは納得した。


「ぐぴゅう。真達が今偵察に行ってるし、その報告待ちッス」

「真はよく働くのー」


 史愉が言い、チロンが感心する。


(純子を探しに行ったんだろうな……)

 ミルクは見抜いていた。


***


 腕組みして仁王立ちする金剛を注視する真。


(殺気があれば反応できる。しかし昨今の裏通りの戦闘の傾向と同様に、殺気が全く無いから、足踏みを見て反応するかない。行動阻害の能力だから当然と言えば当然だが)


 極めて単純明快な行動阻害支援系能力。しかし決して軽視できない力だと真は見ていた。


 金剛が足を動かす。真は即座に反応してその場を飛び退き、銃口を金剛に向ける。


 動きかけた金剛の足が止まった。


(やられた……)


 真は舌打ちしたい気分になった。フェイントだった。


 金剛が足踏みする、回避しながら銃撃を行おうとした真の上から、巨大な金ダライが降ってきて、真の頭部を直撃した。


「昔のコントで見た」「痛そう」

「それはともかくばりあー」「一応でぃっふぇーんす」


 ひるんだ真に向かって、金剛の部下のサイキック・オフェンダー達がまた一斉に飛び道具で攻撃しだしたので、伽耶と麻耶が護る。


「あの二つ頭が防御しているのか。こいつらの力を完全に防ぐとは、中々……」


 金剛も少し焦れていた。こちらの攻撃が尽く通じていない。


「伽耶、麻耶。あいつの足踏みで出てくるものは防げないか?」


 頭部への痛打を受けて少しよろけながら、真が尋ねる。


「普通の防御では突き抜けてくるから、防御の仕方を考えて」

「おまけに発動が速い」


 伽耶と麻耶が揃って難しい顔になって答える。


「うわっ」


 十夜が接近しようとした所に、また金剛が足踏みして、動きを止めた。今度は巨大なイソギンチャクが現れて、十夜をすっぽり包み込んだ。


 金剛が能力を発動した瞬間を狙い、真が銃を撃つ。


「無駄だっての」


 しかしまた痩せぎすにやつき男の力によって、銃弾が空中で止められた。停止した銃弾は空中で少しずつ押し戻されてから、地面へと落された。


 動きを止められた十夜には、また複数の能力者から遠距離攻撃が飛ぶが、伽耶と麻耶が防ぐ。


(中々いいチームだな。連携も手早い。戦い慣れている)


 金剛達を見て真は、その実力を認める。


「兄貴、あいつらの防御も固いで。このままじゃ持久戦だ。手を変えてみーへん?」


 部下の一人が金剛に進言する。


「そのようだ。このまま同じ攻防をしても無意味。綻びを作ってやろう。しかし敵もまた同じことを考えているぞ。あいつのあの顔は、そういう顔だ」


 無表情な真を見て、にやりと笑う金剛。


「同じ顔に見えるけどなー、兄貴には違う顔に見えるんか」

「まあな。見えてしまったと言った方がいいか」


 真を見て頬をかく部下に、金剛は言った。


「伽耶、麻耶、テレパシーで僕の心を読み取れ」


 作戦を耳打ちしに行こうものなら、また行動を阻害されると見て、真が要求した。


「ほいきた。真の頭の中りーでぃんぐ」「真のエロエロ性癖全部スケスケー」


 伽耶と麻耶が呪文を唱える。


「テレパシーも使えるのか、あの二つ頭」

 真の台詞を聞いて、金剛の部下の一人が唸る。


「十夜に心の囁き~」

 麻耶が小声で呪文を唱える。


(十夜、あーやるからこーやる感じで)


 麻耶の念話が、イソギンチャクから解放された十夜の頭の中に響く。


(了解)

 心の中で応じ、十夜は金剛を見た。


「やれ!」


 真が叫び、ジャケットの裏から手榴弾を抜き取ってみせる。


 金剛が足踏みする。標的は真だ。真の足元に巨大バナナが出現したかと思うと、勢いよく地面を滑り、真もバナナの動きにつられて転倒する。


「てれぽーとしろー」「わーぷわーぷ」

 一方で牛村姉妹が呪文を唱えていた。


 金剛とその手下達ははっとする。十夜の姿が消えたのだ。


 消えたと思った刹那、十夜が金剛のすぐ背後に現れる光景を、部下の二名ほどが目撃した。しかし何も対処できなかった。十夜は予め、姉妹が何をするか、自分が何をしたらいいか、真の指示を伽耶と麻耶の念話経由で伝えられていたからだ。


 十夜が金剛の太い胴に両腕を回し、後からがっちりと掴む。


「なっ!?」


 金剛は胴を掴まれた時点で、十夜の存在に気付いた。


「メジロぶっこ抜き高角度ジャーマン!」


 十夜が叫び、弾みをつけて勢いよく己の胴をそらすと、金剛の体を高々と持ち上げ、綺麗にブリッジを描く格好で後方に投げて、アスファルトに金剛の頭部を叩きつけた。


「やった!」

「綺麗。正に人間橋。別名原爆固めだけど」


 伽耶か歓声をあげ、麻耶がうっとりとする。


「兄貴ぃっ!」

「うわっ、凄い血だ。これヤバいんじゃ……」


 部下の一人が叫び、別の一人は頭部から激しく出血する金剛を見て慄く。

 十夜が側にいる部下に襲いかかろうとする。


「待て待て! 降参だ!」


 その十夜に向かって、痩せぎす男が手をかざして叫んだ。


 十夜は無視して攻撃しようとしたが、体が動かなかった。いや、前方に体が進まなかった。痩せぎす男は手を大きく開いて、十夜に向かってかざしたままだ。この男の力によって、それ以上前に進めなくなっているのだと察する。


 痩せぎす男の力が十夜に向いていると見て、真が痩せぎす男に向かって銃を撃つ。

 しかし痩せぎす男に銃弾は届かない。また空中に固定されている。


「やるな、あいつ。能力の対象は一つだけじゃないのか」


 十夜と銃弾の双方を止めた痩せぎす男を見て、真は称賛する。


「急いで兄貴をアジトに運ぶぞ! 回復能力ある奴に治してもらう!」

「お、応!」

「金剛兄ぃ~、しっかりし~」


 部下達が金剛を担いでそそくさと退散する。痩せぎす男は手をかざしたままの格好で殿を務めて退散した。


「逃げ出した」

「でも一応勝ち」

「結構手強かった」


 伽耶、麻耶、真が言う。


「これでオキアミの反逆とは不仲が決定的になっちゃったね」


 戻ってきた十夜が言う。


「良いチームだった。伽耶と麻耶がいなかったら、どうなったかわからないな」

「えっへん」「称えよ崇めよ御礼に彼女にせよ」


 伽耶と麻耶が胸を張り、揃って得意満面になる。


「ボスは話がわかるタイプかもしれないと期待したが、あいつが口にしていた、一ヶ月に一度犯罪オッケールールを聞いて、やっぱり駄目そうな気がしている」


 金剛達の立ち去った方向を見ながら、真は心の中で溜息をつく自分を思い浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ