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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
92 苗床を潰して遊ぼう
3119/3386

5

 真達は、引き続き壁村にガイドされる形で、ぽっくり市の繁華街を歩いている。


「しかし随分と平和だね。ここに来る前に抱いていた印象とは全然違うよ。犯罪が起こりまくりなヒャッハーだという噂は嘘だったのかな?」


 街の様子を見て晃が言う。


「今から三ヵ月より前は酷かったよ。オキアミの反逆があれこれルール敷いて、マシになったんや」


 と、壁村。


「サイキック・オフェンダーは皆、そのルールに大人しく従ったの?」


 そうなるとサイキック・オフェンダーとも言えないのではないかと思いつつ、十夜が尋ねる。


「ま、オキアミの反逆に所属する組織の者は――大人しく、な。他の組織の連中も、あるいは組織に入らん奴も、オキアミの反逆にびびって従ってたわ」


 壁村が嘲笑混じりに答えた。


「良識あるボスのようだが、PO対策機構とは対立する構えか」

「そりゃそうやろ。話聞いてる限りでも、俺もあんなもん好かんわ」


 真が言うと、壁村は吐き捨てる。


「統治はあくまで自分達で行うという構えなんでしょうね。自分達が今、王様であるのに、その権利を抱かれに侵害されたくはないと」

「そういうことだけど、ちょっとそれ言い方棘あんなー」


 凛の言葉を聞き、壁村は眉間にしわを寄せた。


「でもボスの渦畑って人がいい人なら、話し合いで争わずに解決できる路線にしたいよねえ」


 ツグミが言った。他の者達もその意見には同意だが、そうスムーズにはいかないだろうと思っている。


「能力覚醒させる薬で増やしたサイキック・オフェンダーも、組織に引き込んでいるの?」


 晃が問う。


「ああ、結構うちに来るなー。望みかなえてそれっきりって人もおるけど」

「何の目的でバラまいてるの?」


 続けて尋ねる晃。


「ちゃんとした売り物やで。安値やけど」

 と、壁村。


「ただの商売だとは考えられない」

「きっと狙いがある」


 伽耶と麻耶が言う。


『でも下っ端だから理由は知らない』

「ハモらせて下っ端言うな。ハモらせた分、ムカつくわ。下っ端やけど」


 伽耶と麻耶の方を向いて苦笑する壁村。


「サイキック・オフェンダーを増やしたい理由か。単純に勢力を増やしたいのかもしれないな。あるいは、同胞を増やしたいという意識か」


 話しながら、真は純子のことを意識していた。純子からすれば、世界中の人間を全て超常の能力者にしたいのだから、地道な手であろうと、少しでも増やす方法があるのであれば、それを行わない手は無い。


 真達の足が止まる。

 真達八人が、前後左右取り囲まれていた。相手の数は十一人。いずれも人相が悪い。


「さっき見た顔が一人いるな」


 取り囲む者達を見渡し、真が言った。先程の襲撃の際にいた、大声をあげた男がいる。真が喉を撃ち抜いたが、喉にその痕は無い。再生能力持ちだったのだろうと判断できる。


「覚えてくれておーきに」

 大声男がにやにやと笑う。


「何やお前等、またボコられに来たんかい」

「三下は黙っとれ。しばき合いに来たんちゃう。取引しに来たんや」


 せせら笑う壁村を睨むと、大声男は真を再び見た。


『私達を勧誘?』

 伽耶と麻耶が怪訝な声をあげる。


「せや。ワレら、PO対策機構の偵察やろ。よくオキアミの反逆の目くぐって侵入してこれたな。あいつらPO対策機構のネズミを片っ端から見つけ出してたのに」

「で、PO対策機構とわかっていながら、僕達を引き込んで、オキアミの反逆と戦わせるつもりか」


 真が確認する。


「ああ。PO対策機構より、ワイらはオキアミの反逆の方がよほど好かん。ほんの三ヵ月前に流れてきよったあの東京モンの小娘が、今じゃぽっくり市の頭気取りになっとるんよ。ほんまいけすかんわ」


 忌々しげに吐き捨てる大声男。


「何より気になったことある。ワレらは銃で戦うんやなー。しかも大した腕前やないの。マッドサイエンティストのマウスやから、超常の力で戦うんかと思うたら……。ワレらならいけるんちゃうか?」

「どういう話? 銃だと利点あるの?」


 晃が尋ねた。


「オキアミの反逆のボスが、何でたちまちぽっくり市の頂点に立った思う? あの女はな、複数の能力持ってるんよ。そのうちの一つが、超常の力を無力化してしまう力や」

『それは凄い』

「ついに出たーっ、能力無力化能力~」


 大声男の話を聞き、牛村姉妹が感心したような声をあげ、ツグミが茶化すかのように声をあげた。


「他にも噂あるで。人をたらしこむ力もあるとか。それでぽっくり市の組織のボス達も、あの女の言いなりになってもーたっちゅー話や」

「誰に対しても効く力では無いらしいけどね」


 大声男の隣にいた女が付け加える。


「報酬は十分に支払うで。腕の立つ奴をあちこちからかき集めてる最中や。あんたらが来てくれると心強いわ」

「断る」


 即座に突っぱねる真。


「何でや? 金のためには動かん正義の味方かい」

「やっぱ断ると思ったで。私の言うた通りやん。PO対策機構なんやから、私らに協力するはずないて」

「へへっ、いい断りっぷりやったで」


 顔をしかめる大声男とせせら笑う女。上機嫌になって笑う壁村。


「PO対策機構云々以前に、お前達が気に入らないからだよ。嫌な奴の臭いがする。仮にオキアミの反逆を潰した後、お前達はどうするつもりだ? いや、言わなくてもわかる。無法の状態に戻して後先考えず滅茶苦茶したいだけだろ? そんな奴等に与したくない」


 真が思ったままを口にして、指摘する。


「ふん。正義の味方気取りかい。けったくそ悪い」

「その言い方、まるで私ら悪党やん」

「悪党やろー」


 隣の女が突っ込むと、他の男がさらに突っ込んだ。


「で、ここでやるのか?」

「ふんっ。今は手出さんといてやる。次会った時には後悔させたるわ」


 真が伺うと、大声男が吐き捨てて背を向ける。


「その台詞はどうかと思う」「格好悪い捨て台詞」

 揃って半眼になって言う牛村姉妹。


「ちょっと待ったー。僕はそっちに乗るよ」

「はあ?」「何?」


 晃が挙手して宣言し、伽耶と麻耶が驚いて晃を見る。


「凛さんと十夜もこっち来るよね?」

「え……そっちに……?」

「わかったわ」


 確認する晃の意図を、十夜も凜もすぐにわかったものの、十夜は躊躇っていた。


「ほほう、話乗ってくれる者もおったか。相沢真が来てくれたら心強かったが、まあええか」


 大声男は疑問無く受け入れる構えだった。


「私もそっち行くー」

 ツグミも元気よく挙手する。


「俺はこっちに残るよ」

 十夜は申し訳なさそうに拒む。


「えー、十夜来ないのかよ。ま、いっか」


 意外そうな顔をしかけた晃だが、晃も十夜が拒んだ理由を理解した。大して難しい理由でもない。


 サイキック・オフェンダー達と共に、晃、凛、ツグミが立ち去る。


「行かせてよかったんかい。仲間やろ?」


 壁村がその後ろ姿を見ながら伺う。


「いいんだよ。あいつらの内部に取り入って様子を探るつもりなんだ。十夜が残ったのは、数字的なバランス取りだ」


 真が言った。


「それはおかしい」「私達を二人として見てないの?」

「ご、ごめん……」


 伽耶と麻耶が十夜を睨み、十夜は申し訳なさそうに謝る。


「そこで十夜を睨むことないだろ。それと、近接戦闘タイプの振り分けでもある」


 真がフォローする。


『私達はこれからどうするの?』

「お、またハモったな。おもろー」


 姉妹を見て笑う壁村。


「オキアミの反逆のことをもっとよく知りたいが、さっきの幹部の様子からすると難しそうだ」


 エカチェリーナのことを思いだして真が言った。


「晃達が独自調査してくれるんだから、しばらくは様子見と成り行き任せ、そして地道に足を使って調査かな」


***


 晃、凛、ツグミは、オキアミの反逆に属さないサイキック・オフェンダー組織の者に連れられて、彼等のアジトへと向かった。


 アジトは廃線になった地下鉄の構内にあった。明かりはついている。


「話は聞いとるで。ようこそ、ぽっくり連合へ」


 ボス格と思われる、丸っこい体型の髭面中年男が笑顔で出迎える。


「ぽっくり連合っていうんだー。可愛い名前」


 反オキアミの反逆組織の名を聞いて、ツグミは気を良くした。


「いや、ダサいよ」

 しかし晃は否定的だ。


「えー、可愛いよー」

「そっちの嬢ちゃんは見込みあるな。そっちの餓鬼は早よ帰れ」


 髭面男がしっしっと晃を追い払う仕草をする。


「で、どうすればいいの?」

「つい今しがた、襲撃作戦が成功した所や。こっから畳みかける……ちゅうわけでもなく、一日空けてまた攻める事にしとる」


 凛が尋ねると、髭面男が状況を伝えた。


「なるほど。一日の猶予の間、向こうに緊張状態を強いるわけだ」


 納得する晃。


「それだけじゃないでしょ。向こうに動かせて、その様子を観察も出来るわ」

「よーわかってまんなー。東の裏通りの奴も中々やるな」


 凛の台詞を聞いて、髭面男は感心する。この髭面男も、元々は裏通りの住人である。互いに体面した時点でわかっていた。


「あ、うちらのボスがお呼びや。紹介するわ。ボスもお前等に興味抱いて、会いたい言うとるしの」

「連合をまとめているボス?」


 髭面男の台詞を聞いて、晃が問う。この髭面男がボスかと思ったが、幹部クラスだったようだ。


「せや。うちらに声かけてひとまとめにしてくれて、色々と作戦も考えてくれはったお方や」


 髭面男が言い、アジトの中を歩きだす。


 地下鉄の構内は、デパートの地下食材売り場に直結していた。こちらもすでに廃墟だ。


「ボスー、連れてきましたわ」


 食材売り場の事務室の扉を開け、髭面男が声をかける。


 机に向かって詐欺用していた男が立ち上がり、振り返る。

 その男の顔を見て、ツグミは顔色を失って硬直した。


「あれま。これはまたとんだ偶然の再会ですねえ」


 自分の顔を見て固まっているツグミを見て、大丘越智雄は爽やかな笑みを広げ、おどけた口調で言った。

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