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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
91 超常犯罪組織と遊ぼう
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29

 ルーシーは何カ月ぶりかに、まともな衣服を着ることが出来た。しかし未だ自由の身にはなっていない。

 目の前に新居と真の二人がいる。新居が裏通り中枢最高幹部である悦楽の十三階段の一人であり、PO対策機構のトップの一人でもあるということは、ルーシーも聞かされた。真に関しては聞かされていない。


「あんたはミルメコレオの晩餐会の幹部でもあったようだし、西とどういう取引をしていたかは知っているだろう? 知っている限りを教えて欲しい」


 新居がストレートに要求する。


「申し訳ありませんが、全てを知っているわけではありません。直接関わっていたのは、汚山と大丘でした。西とのやり取りは、幹部に対しても秘匿されていたほどです」


 真摯な口調で答えるルーシー。


「まず、幾つかの条件をつけられた人身売買を行っていたことは知っています。その条件は、十代二十代の若者であること、社会から抑圧を受けている、もしくは受けていたと意識する者であること、純粋かつ従順な性格であること等です。それらをある程度手懐けたうえで、本人達にも納得させたうえで、西に送って欲しいという、わりと手数のかかる取引でした」

「性格的かつ精神的な部分に依る所が多いな」


 ルーシーの話を聞いて、真が言った。


「そして汚山も大丘も、金銭だけが目当てでこの取引をしていたわけではないようです。ぽっくり市のサイキック・オフェンダーのトップ――もしくトップ格の一人と、思想や目的の面でも一致していたようなきらいがあります。それが何であるかは詳しく知りませんが、たまにそのようなことを口にしていました」

「雪岡純子の名を口にしていたことはあるか?」


 真がストレートに尋ねる。


「その名は……汚山と大丘は一切口にしていません。しかし――たまに組織に訪れていた西のエージェント――神産巣蟻広かみむすびありひろと木島柚の二人が、純子という名を何度か口にしたことは覚えています。電話もしているようでした」

「ビンゴか」


 新居が真を一瞥してにやりと笑う。


「西に調査に行くことは決めていた。しかし明確な目的地までは決まっていなかったが、これで決まったな。ぽっくり市だ」


 真は相変わらず無表情であるが、その瞳はぎらぎらと光っているように、新居には見えた。


「もう一つ伝えておくことがあります。リコピーアルラウネバクテリアを意図的に覚醒する薬を御存知ですか?」


 ルーシーが伺う。


「西で配布されている薬だな。このおかげで、西では能力者が激増しているとの話だ」

「最近東でも出回り始めた奴だな。ミルメコレオの晩餐会が無料でバラまいていると、史愉が言ってた薬か」


 新居と真が言う。


「はい。これも西の同じ組織による依頼でした」

「そいつも純子が作ったと考えていいか」

「多分な」


 ルーシーの話を聞き、新居と真はそう判断した。


「こちらからも質問してよいですか? ほんの好奇心程度の質問ですが」

「いいぜ。答えられるかどうかはわからねーけど」


 ルーシーが確認すると、新居が肩をすくめる。


「PO対策機構はこれまで、西に全く踏みこんでいなかったのですか?」

「西と東で完全に断絶されたわけじゃねーし、多少の情報は入ってくる。町の様子とか発生した事件とか、そういう情報がな。公共のメディアはかつての裏通り扱いのようにだんまりだから、ネット経由のあやふやな情報ばかりだけどな。しかしぽっくり市と転烙市は、タブーになっているようだな。何も情報が無い。調査員を何度か派遣したが、全員消息を絶っちまったし、中途半端に手出しはよそうって話になっていた。まず東をどうにかすることに注力しようってな」


 新居が教えても問題無い範囲内で答えた。


「そしていよいよ西に乗り出すということですか」

「ああ。最後の厄介モンだったミルメコレオの晩餐会も、監視下に置く事が出来たしな」


 少し皮肉げな口調で言う新居。


「組織の乗っ取りをしてすぐさま組織の放棄も心苦しいのですが、どうか後のことはよろしくお願い致します」

「ああ。わかった。あんたも大変だったな」


 頭を下げるルーシーを、新居が笑顔で労った。


***


 大丘は蟻広と柚と共に車でぽっくり市へと向かい、難なく関所を突破して近畿地方まで入った。


「多くのサイキック・オフェンダーが東西の行き来に難儀しているというのに、いとも簡単に突破しましたね」

「間抜けな質問だ。ポイント2引くぞ。行き来でなければ東西での取引だって出来ない。しかも人身売買なんてリスキーなことが出来るわけがない」


 後部座席の大丘の台詞を聞き、運転している蟻広がつまらなそうに言った。


「具体的にどのように監視装置の目をごまかしているのですか?」

「詳しいことはわからないが、純子が監視装置の一つを見つけ出して解析だか分析だかして、生体情報に反応しない仕掛けを作ったらしい」


 大丘の問いに、柚が答える。


「ミルメコレオの晩餐会はもう西に協力は出来なくなりましたが、私がこのまま西へおめおめと逃げおおせたとして、西は受け入れてくれるでしょうか? そこが心配です」

「その質問も馬鹿らし過ぎてポイントマイナス1相当。西の取引相手が、お前が仕えていた無能ボスのような奴なら、身の安全のためにも西には行かない方がいい。しかし幸いにもお前はそういう奴じゃない」

「そうですか。それを聞いて安心しました」


 蟻広が嫌味を込めて答えると、大丘はにっこりと笑った。


***


 安楽二中。昼休みの中庭の一角。


「すまんこっこ、洋司君。逃がしちゃった。御兄さんの仇はお預けで」


 ツグミは洋司を前にして、両手を合わせて謝罪した。上美、アンジェリーナ、スビカ、鶴賀も側にいる。


「ずっとお預けのままでいいです。仇討ちなんてしてくれなくても……。それに仇討ちをしにいくわけじゃないって、あの時は言ってたじゃないですか」


 複雑な表情で言う洋司。


「それじゃ殺され損ていうことになっちゃうし、あんな人は許しておけないよ。それにあれは男の子の時の私だから、微妙に今の私と違うしー」

「それでお前が危険な目に合うことを、中司は案じているのだ。中司からすれば、仇を討てなかったかどうかなど、問題にしていない」


 ツグミが言うと、腕組みした鶴賀が神妙な顔で諭す。


「ジャップ~、ジャプジャップ」


 アンジェリーナが腰(?)に両手を当てて、何かを訴える。


「崖室さんならきっと大丈夫だってさ。信じて待っていいって」

「画伯が凄いのはわかるけど、それでも心配しちゃうよ。西に行くなんてさ」


 上美が通訳すると、スピカが珍しく消沈気味に言った。すでにツグミが西に行く話は聞いている。


「教師としては止めたい所だが、どうせ言っても聞かんだろう。気を付けて行ってこいとしか言えん」

「心配かけてすまんこっこ、鶴賀先生」


 苦渋の顔になる鶴賀にも、ツグミは両手を合わせて謝罪する。


「私も行きたい気持ちはあるけど、流石に家族に心配かけちゃうし、学校休むのもね……。崖室さんはお母さんには何て言うの?」


 上美がツグミに尋ねる。


「世界を救うために西に行くって言うつもりだよー。世界を救うためなら、お母さんも許してくれると思うんだ」


 自信に満ちた笑みを広げるツグミに、一同呆れる。


「嘘をつくのはよくないな。それに、お前の母親はそれで信じてくれるのか? 余計に反対するか、根掘り葉掘り聞いてくるのではないか?」


 鶴賀がツグミに問う。


「ううう……理由を知ったらお母さんの命も危ないとか何とか言って、どうにか信じさせるっ」

「つまり、嘘に嘘を塗りたくるのね」


 ツグミの言葉を聞いて、スピカがジト目になって指摘した。

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