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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
91 超常犯罪組織と遊ぼう
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(これは中々凄いショットが撮れそうだ)


 降伏宣言するルーシーと、愕然としている汚山をビデオカメラで撮りながら、興奮する義久。PO対策機構とサイキック・オフェンダーの戦闘シーンも、ビデオカメラで撮り続けていたが、こちらのシーンの方が衝撃的なシーンになりそうな予感がしていた。


「わかった。降伏を受け入れる。だが……そいつはどうするんだ?」


 新居が倒れたままの汚山に視線を向ける。


「ふざけんな! ミルメコレオの晩餐会のボスは俺だ! お前達! 戦え!」


 汚山が部下達に向かって命じるが、誰も動こうとはしない。


「残念ですが汚山、もう誰も貴方をボスだと思っていません。根回しはとっくに済ましてあります。今日、貴方が敗北することで、その姿を見せることで、彼等は私の下につきましたし、私達は反社会的な組織ではなくなります」


 ルーシーが淡々と告げると、汚山は蒼白な顔になる。


「汚山。貴方は人間に上下をつける価値観に凝り固まっているようですが、人はただこの世に存在しているだけで、生きているだけでも、私は良いことだと思っています」


 汚山に語りかけるルーシーの声が、柔らかいものに変わる。


「例えば園芸が趣味の人がいれば、その人が例えどんなに地位が低かろうと、その人の育てている植物は、その人のおかげで生きています。同じ趣味の人達で、楽しい時間を共有することだってできます。たったそれだけでも、世の中に影響を与えていますし、それだけでも素晴らしいことだというのが、私の考えです。そしてそれは、貴方のような下衆も同じことです。貴方という存在がいてくれたことで、私はこの組織を手に入れることが出来ますから」

「俺に嬲られながら……俺の部下をしていたのも、そのための根回しをするためだったのか」


 黙ってルーシーの話を聞いていた汚山が、静かに口を開く。


「今更気付きましたか。その可能性に気付かないほど、貴方は抜けていましたね。でも私は嘲ることも見下すこともしません。貴方が私を疑わなかったおかげで、私はさほど苦労することなく、組織を掌中に収められます。御存知の通り、感覚は遮断していましたから、貴方にどのように嬲られても何も感じませんでしたし、大して辛くはありませんでした。そして貴方との会話も、私は嫌いではなかったのですよ」


 ルーシーの話を聞く汚山の表情は、いつしか穏やかなものに変わっていた。怒りも悔しさも無く、不貞腐れているわけでもなく、今の状況を認めて受け入れているかのようであった。


「貴方は最低の人間ですが、私は貴方を蔑む気にもなれません。可哀想だと思ってはいますけどね」

「おい……俺を哀れむなと言っただろう」

「哀れみの感情を抱いてしまうのは仕方ないことです。貴方は可哀想な人間です。人としての大事な心が欠落し、人の痛みがわからず、人を上か下かのランク付けして、それを全てだと思っている。それはとても可哀想な人間です」

「おい……ルーシー……いや、わかったよ。俺の負けだ。負けだから、お前が俺を殺せ」


 反論しかけた汚山であったが、諦めたかのように大きく息を吐き、敗北を認めたうえで要求する。


「お断りします。私は人殺しなどしたくありません。例え貴方のような悪党でも、人ですし、命を持っています」


 拒絶するにルーシーに、汚山は一瞬表情を歪める。


「ルーシー……俺の考えは変わらねーんだよ。負け犬は価値が無いから死ぬべきだ。死んだ奴は全て負け犬で価値が無い。俺の価値も消えた。もう負け犬だ。つまり……もう俺の命なんて無価値なんだよ。糞っ、つくづくお前とは合わないな……つくづくお前は俺をムカつかせてくれる……」

「貴方はどうしょうもない下衆ですが、約束は守る人です。私の家族にも教団にも、一切手出しをしませんでしたからね。貴方に恨みを持つ他の人はともかく、私は、貴方を殺す気にはなれません。殺して欲しいなら、他の人にお願いします」


 ルーシーがそこまで言った所で、汚山は諦めたように名目した。


「はあ……しゃーねーな……」


 汚山が最後の力を振り絞って立ち上がり、ハンマーを出現させて両手で持つ。


「お前と喋っている時な、楽しかったわ。お前は俺と考えがまるっきり違うから、お前がすげえムカつく奴だから……何でだろうなあ。逆に楽しかった」


 ルーシーの方を向いて力無く笑いながら言うと、汚山は自分の頭部に向けて、両手で持ったハンマーを思い切り振り下ろした。

 ハンマーより生じる衝撃波によって、汚山の頭部はトマトが潰れるかのように破裂した。その光景をルーシーはしっかりと見届けた。


(今言ったことは本当です。私も……貴方の話を聞いている時だけは、まんざらでもなかったんですよ)


 頭部を失って崩れ落ちた汚山の亡骸を見下ろし、ルーシーは声に出さず語りかける。


「負け犬は無価値、死者は負け犬で無価値か……ぐぴゅ……」


 汚山の口にした台詞を聞いて、史愉は苛立ちを覚えていた。


(ハリー……ルカ……あいつらは負け犬だったの? 無価値? いや、違う……。断じて違う)


 胸の痛みと共に、史愉は二人の男のことを思いだす。


(ハリー、ルカ……。会いたい。いなくなってから、凄く会いたい……)


 可能であれば、二人を生き返したいと史愉は真剣に考えている。


『出来ないなんてことはない。不可侵なんて存在しないなんて思っていたけど、死人の蘇生とタイムトラベルだけは無理なんじゃないかなーと、私は思うんだ』


 その台詞を口にしたのは、純子だった。史愉はさらに苛立ちを覚える。


「純子、君は科学者失格だぞ……。人間が想像できる事は必ず実現できる。あたしはジュール・ヴェルヌの言葉を信じるぞ」


 反感を込めた史愉の呟きは、隣にいた男治にも聞こえていた。


「これで終わりか」

「でも崖室さんは目的果たせてないね。あの大丘って奴は逃げちゃったし」


 真と上美が言い、ツグミを気遣うように見やる。


「まあいいさ。機会は巡ってくる」


 ツグミは特に気にしていなかった。その機会は、そう遠くないうちに訪れると予感している。西と取引していた大丘は、西に逃げる可能性が高い。そしてツグミは真と共に西へ向かう予定なのだから。


「あんた、組織を乗っ取ったと言っていたが、命だけは見逃すとしても、あんたの好き放題にはさせられないぜ。この組織の管理は俺達裏通り中枢が引き受ける」


 新居がルーシーに向かって告げる。


「私が組織を抜けることもいけませんか?」

「組織を乗っ取ってすぐ、組織をやめるってのか?」


 尋ねるルーシーに、新居は目を丸くして問い返した。


「私は元々宗教団体の教祖を務めていましたが、汚山に無理矢理連れて来られた身です。家族を人質に取られていたので、従っていました。組織は乗っ取りましたが、正直な所、私は元の教団に帰り、家族や教団の皆を安心させてあげたいと思っています」

「いや、それは構わない。事情はわかった。その方がいいぜ」


 ルーシーの事情と希望を聞き、新居は微笑みながら受け入れた。


「ありがとうございます」

 深々と頭を下げるルーシー。


「お前等、何人もサイキック・オフェンダーを回収していたみたいだが、そいつらも全員引き渡せよ」

「待て待て待てーっ! 管理はあたし達グリムペニスがやるぞー! それに引き渡せってどういうことッスかーっ! こいつらは罰として全員実験台だぞ!」


 新居の言葉を聞き、史愉が血相を変えて喚きたてる。


「この小娘は馬鹿なのか? そんなことしたら、こいつらだって抵抗するし、まだ戦いが続いちまうじゃねーか……」


 史愉を見てうんざりした顔になる新居。


「ふざけんな! あたしはそのために来たんだぞーっ! おい、男治も何とか言ってやれッス!」

「流石にそれは酷いですよ~。何のために私達来たんですか~。約束が違いますよ」


 史愉と男治の二人がかりで抗議され、新居は溜息をついた。


「しょうがないな。お前達が捕まえた分は好きにしろ。ただし殺すなよ」

「それだけじゃ納得できないぞーっ! おかしな話だぞ! 何でサイキック・オフェンダー共の管理をあたし達グリムペニスにやらせないんだ! 中枢がでしゃっばって勝手に決めることじゃないぞ!」


 新居が折れたが、史愉はそれでも納得いかずに噛みつき続ける。


「何だ、あの見苦しいのは……」

「見ての通り見苦しい奴だ」


 輝明が呆れて呟くと、真がさくっと答えた。

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