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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
91 超常犯罪組織と遊ぼう
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27

 フルフェイスヘルムに覆われているため、汚山の表情は外からはわからない。しかし怒りに歪んでいることは、容易に察せられる。


「チビの貧乏人かもしれないが、能力はあると認めてやる。だがな……だからこそ許せない。ある意味一番許せない。力を持つ奴が力の無い者をかばって甘やかして無駄に生き永らえさせる。俺はこれが一番許せねーんだ」


 輝明の方を向いて、汚山は荒い息をつきながら話す。


「てめーの糞みてーな安っぽい価値観なんか知らねーよ。議論する気もねーし、頭の片隅に置く価値もねーわ。おら、さっさと来いよ。てめーがとっととくたばれば、それで皆帰ってゆっくり寝られるし、ハッピーエンドなんだよ。それがてめーの価値だ」

「ぶっ殺す!」


 輝明の悪罵を受け、激昂して正面から突っ込む汚山。


 修が木刀を振る。狙いはハンマーを振りかぶる汚山の手首だった。


「ぎっ!?」


 手首に鋭い打撃が走る。汚山が纏う鎧は、汚山を襲うあらゆるエネルギーを拡散して、ダメージを最小限に抑える力を持つが、無敵というわけでもない。


 ハンマーの軌道が逸れる。振っただけでハンマーより強い衝撃波が生じて、床を激しく砕き、修と輝明を吹き飛ばす。


 輝明が数枚の呪符を放つ。凍結符だ。


「げっ……何だ……こりゃ……」


 凍結符が鎧のあちこちにつくと、汚山の胸までが床と繋ぎ合わされるようにして、氷の塊の中に封じられる格好になった。鎧の力があったために、汚山そのものは凍りつかずに済んだが、これでまたダメージは蓄積している。


「ふざけんなっ!」


 ハンマーで氷を割る汚山。しかしその衝撃はさらに汚山自身がダメージを食らう格好となる。


「おいおーい、肩で息してるのが鎧の上からでも見えるぜ? もうおつかれさまままですか~?」


 輝明がいやらしい口調で挑発する。


「負けてたまるかよ……。こんな所で敗れてたまるか……」


 汚山に火が付いた。


「牢獄の中に……十二年も入れられていた。俺は何も間違ったことしちゃいねーのにさ……弱者を殺した罪で、優れた俺を牢に入れる。こんな馬鹿げたこと……こんな狂った構図あるか?」


 屈辱の記憶を思い起こして、火に油を注いで燃え上がらせる。


「世界が腐っているし狂っている。だから俺を牢にぶちこみやがった。俺はそんな世界をぶち壊してやるのさ。弱者を護る馬鹿な社会を許さねえ」

「はははは、盗人にも三分の理って奴か。いや、三分の理もありゃしねーか」


 汚山の言い分を聞いて、嘲り笑う輝明。


「グダグダ言ってねーで、さっさと来いよ。口だけ野郎。どうせ日頃からそんな風に、手下の前でも威張り散らしていたんだろーが、てめーの正体が、こ~んな程度の低い、ひがみ根性だけで凝り固まったスネちゃまだって知ったら、どう思うんだろうねえ? あ、類は友を呼ぶって言うし、お前の部下もお前と同じ程度のレベルのカスばかりだから、問題無いのか」

「うるせえええっ!」


 汚山が叫び、力を振り絞って飛びかかる。


 修がカウンターで突きを見舞い、汚山は喉を突かれ、のけぞって倒れた。


 倒れた瞬間、汚山が手にしたハンマーが消え、汚山の全身を包んでいた鮮やかな青の甲冑も消失する。


「決着がついたね」

「向こうはそうみたいだ。こっちは目的達成ならず」


 通路から様子を見守っていた上美とツグミが言った。


 と、その時、建物の正面扉が開き、正面の戦闘を終えたPO対策機構の部隊が、エントランスに突入してきた。


「退こう。潮時だ。数が多いだけではなく、手強い奴もいる」


 柚が撤退を促す。柚の視線の先には、男治と史愉の姿があった。


「ま、俺達はこいつらに与する気は失せていたし」


 倒れた汚山に侮蔑の視線を向けて吐き捨てると、蟻広は奥の通路へと足早に去る。柚も続く。


「あいつらは追わなくてもいいよね。本当は追った方がいいんだろうけど」

「正直戦いたくねーな。ふくもやられてたし」

「悪かったわね。ていうか私、ちょっと戦っただけだし」


 蟻広と柚の後姿を見やりつつ、修、輝明、ふくが言う。


「ぐぴゅ、終わらせていたか。おい、死んでいる奴多いなー。死体は嬉しくないぞー」


 エントランス内を見て史愉が文句を口にする。


「こっちで生体幾つも確保できたからいいじゃないですか~」

 と、男治。


「私が相手した人達は殺さずにおいたけど……」


 ふくが申し出る。汚山が連れてきた部下のうち、遠隔攻撃をしていた者達は、全てふくが倒していた。


「よくやったぞー。男治、回収改修っ」

「はいは~い。やっぱりふくは偉いですね~。自慢の愛娘ですよ~」


 大喜びで、亜空間トンネルの中へサイキック・オフェンダーを入れる史愉と男治。


「余計なこと言っちゃったかな……」

 少し引き気味になるふく。


「おー、ボスの汚山をやったのか。よくやった。褒めてやるぞ。修、輝坊」


 新居が倒れている汚山を見て、弾んだ声をあげた。


「ケッ、大したことなかったぜ」

「大したことない……だと……? 口だけ野郎……だと……? 糞餓鬼が……。とことん……舐めやがって……」


 輝明の言葉を聞き、汚山が再び怒りの炎を燃やし、身を起こそうとする。


「おい、まだやる気か? 状況見ろよ。お前にもう残された手はねーだろ」


 輝明が汚山に向かって言ったその時だった。エントランスの中央汚奥にある複数のエレベーターが、一斉に動き出し、上の階から降りてくる。


「敵かな?」


 ツグミが警戒する。すでに悪魔のおじさんも影子も他の怪異も引っ込めていた。


「多分大丈夫だと思うが、一応気を付けろ」


 真が言った。もし戦意がある者が降りてくるのであれば、堂々とエレベーターでは降りてこないのではないかと思う。相当自信のある者でも無い限り。しかし複数のエレベーターが同時に下に来たことが気にかかる。

 エレベーターの扉が一斉に開く。中からぞろぞろと人が現れる。


「まだあんなにいたんですねえ」


 優がいつでも消滅視線の発動を意識するが、すぐに警戒を解いた。


「気合い入れてかからねーと……って……戦意は無さそうだな」


 輝明も一瞬身構えたが、現れた者達が襲ってくる気配は全く無いように見える。全員どこか不安げで、臆したような顔つきだ。ミルメコレオの晩餐会のサイキック・オフェンダーではないのかもしれないとさえ、考えた。


「何、あのエロい格好のお姉さん」


 冴子が真っ先に目を引いたのは、半裸姿の金髪の美人――ルーシーだった。


「ルーシー……?」


 汚山が怪訝な視線でルーシーを見た直後、エレベーターから降りてきた全員が、一斉に白旗を振り出した。


「お、お前ら何してやがんだ……」

 その光景を見て啞然とする汚山。


「PO対策機構の皆さん、私はミルメコレオの晩餐会の新たなリーダーとなった、ルーシー中島と申す者です」

「な、何だと!?」


 さらにルーシーが口にした台詞を聞いて、汚山は仰天した。


「私達はPO対策機構に降伏します。戦闘も放棄します。ここにはサイキック・オフェンダーだけではなく、事務員も多くおります。どうか何卒、寛大な処置をお願い致します」

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